コプリー 標準 PART.1 窮地

Last-modified: 2024-12-03 (火) 20:11:20

 コプリーセクター、海辺。
 どこからか現れた二名の招かれざる客は、
白紙に滴る墨のように、波打ち際で異彩を放っていた。
??……
???どうしたんですか、初ちゃん?急に立ち止まったりして。
???あ、もしかして暑かったですか?荷物、持ちましょうか?
??……大丈夫、ありがとう。
??オペランドで模した太陽光なんて、地底のマグマに比べれば大したことないよ。
???ごめんなさい、わたしのせいです……
生態研究用のセクターとしか聞いてなかったから、何も準備してなくて。
???こんなにリアルな環境だと知ってたら、着替えを持ってきたのに……
??防護服は潜るのに必須だから。それに、もう慣れっこだし。
??はやく出発しよう、任務に遅れちゃう。
???初ちゃんが焦るだなんて……やっぱり、末くんが心配なんですね?
???あの子はしっかりしてますから、きっと大丈夫ですよ。
??うん……
???とにかく……いってらっしゃい、初ちゃん!
地上での調査はわたしにまかせて。
??わかった、ありがとう。
??そっちも気をつけて。アドミニストレーターや浄化者とケンカしないようにね。
??それから……もし、できたらだけど――
???可能であれば、現れるであろう「ターゲット」に気を配ること。
ちゃんと覚えてますよ。
??こういう場所は初めてだから。
私たちの探してる「ターゲット」がここにいるかもしれない。
???安心してください、わたしたちの使命を忘れたりはしません。
???& ??【アルカディアのために!】
>> CHAPTER 6 // 神導異論 . . .
アントニーナ……着きました。
アントニーナここがコプリーセクターです。
アントニーナ改めて確認してみましたが、信号は確かにここから来ています。
ソルオディール――あいつがここに?
アントニーナ間違なさそうですね。今すぐファイアウォールをハックして……
ペルシカ待ってください、アントニーナさん!ここは慎重に行くべきです。
ペルシカ前のピエリデスでは、ファイアウォールをハッキングしたとたん、エントロピーに襲われました。
アントニーナですが時間がありません。オディールを追ってきたのは、なにも復讐のためではないんですよ。
 
ペルシカクロックさんの状況は、以前の私たちよりも遥かに深刻です。ターシャリレベルに潜るだけで解決できるとは思えません。
ペルシカエントロピーによる感染症を治療するには、敵のソースコードが必要不可欠です。
 
アントニーナピエリデスからオアシスに戻った時、クロックさんの容体はさらに悪化していました。
アントニーナ医療部門が全力で治療に当たっていますが、あれでは感染を抑えることしかできません。
アントニーナエントロピーのソースコードが手に入らなかったら、お終いなんです!すぐにでも上位のエントロピーを捕らえなければ、生死は問いません。
ソルアンナ、でも……ペルシカにも一理あると思うよ。
ソルこんな時だからこそ、ミスするわけにはいかないし……
(選択)1.アントニーナ、焦るなんてあなたらしくもない。A
2.ソルもだいぶ成長したね。B
Aアントニーナ……
アントニーナチッ……教授にそう言われると、死ぬほどムカつきますね。
アントニーナご心配なく、そこまで無鉄砲じゃありませんよ。
アントニーナエントロピーどもの思い通りにさせたくないだけです。なにせ、私はコンピューターウィルスの専門家ですから。C
Bソル成長……えっ、これって成長なの?
ソルあたしはただ、自分のせいでみんなに迷惑かけたくないだけ。
ソルだって、クロックたちは……
ソルあぁ、やめやめ!とにかく、その「ソースコード」を探し出して、みんなでオアシスに戻ろう!
ペルシカソルさん……
アントニーナ……はいはい、わかりましたよ。なんか、ソルとの立場が入れ替わってる気が……C
Cアントニーナ別に、なんの準備もなしにファイアウォールに触れようってんじゃないですよ。
アントニーナこのところ、ずっとエントロピーのコード構成を研究していたんです。少なくともハッキングと並行して、エントロピーが擬態してるかどうかは調べられます。
アントニーナ同じ轍は踏みません。
ソルそうだったんだ……さっすがアンナ!
 ソルは安心して壁に寄りかかった。
ソルそれじゃ、早いとこ壁をハッキングして――って、うぉわぁぁっ!
ペルシカソルさん!?
 ファイアウォールに寄りかかっていたソルが急にバランスを崩した。
彼女はとっさに地面を転がることで、無様なポーズを取らずに済んだ。
ペルシカ大丈夫ですか?
ソルい……いきなり何すんのさ!
アントニーナ早いとこ壁をハッキングしろとは、あなたの言葉でしょう?
 アントニーナは軽快にキーボードをタップした。
見れば、先ほどまでソルを支えていたファイアウォールが、いつの間にか消えている。
ソルそ、それはそうだけど……さすがに速すぎない!?
(選択)1.アントニーナ、えらい!よくやったね!D
2.いったいどうやったの?E
Dアントニーナ教授、バカにしてますね……?F
E{教授}アントニーナ、また技術が上がったの?
アントニーナ教授にお褒め頂けるとは、光栄ですね。F
Fアントニーナま、ピッチを上げたのは確かですけど……私だけの手柄じゃないですよ。
アントニーナここのファイアウォールはあまりにも薄すぎて、オペランドの気配すら感じ取れません……
ペルシカコプリーセクターが、プライベートセクターだからでしょうか?
ペルシカ個人ユーザーによって賄われるセクター容量は、大企業とは比べ物になりませんから。
アントニーナんー……かもしれませんね。
アントニーナでも、セクターの中は、とてもオペランド不足のようには見えませんけど。
アントニーナソルさん、起き上がったら、髪の毛を整えておいたほうがいいですよ。
ソルへっ?あれっ、首になにか……
ソル……これって、砂……?
 
 ファイアウォールが消えると、
そこには現実と見紛うばかりの光景が広がっていた。
 アザーブルーの空と紺碧の海が遥か遠くで交わり、淡い水平線を織りなしている。
ビーチを燦々と照らす眩しい太陽の光。夏の活気と情熱を象徴する爽やかな暑さ。
パラソルの下に吹く涼しい風は、まるで旅人の心を焚きつけているかのようだ。
ソルす……すごい……!
ペルシカこれ全部がオペランドによるシミュレーションなんですか?し、信じられない……
アントニーナお待ちを……ログインデータを見つけました。
アントニーナセクターの用途は――「海洋生態研究」とされてますね。
ペルシカここで生態研究が行われているんですか?
アントニーナ笑えるでしょう?現実の海を汚染しておきながら、クラウド上で過去に浸ってるんです、人間は。
アントニーナこのセクターの所有者は、先の時代の海洋学者のようですね。
ペルシカでも……オディールさんはいったいどこに……
ペルシカビーチにエントロピー液の痕跡は見られません。まさか、波にさらわれたのでしょうか?
アントニーナご心配なく、発信機は作動しています、行きましょう。
ソルぃよっしゃ!道案内はあたしにまかせて!
ソルこんな景色が見れるだなんて、なんだかワクワクしてきた!!
アントニーナ!いきなり大声出さないでください。
ソルあっ、ごめんごめん。でもさ、なんかドキドキしない!?ねぇ教授、ペルシカ、アンナ!?
ソル目の前に海があるんだよ!大自然だよ!
ペルシカええ……海ですね……
ソルああ~~!や~っとくたびれた発電所で草食べたり、漏電してる柱にくっつかなくて済むよ!
ペルシカ……
ソルみんな忘れたの?あたしは観測隊専門のガイド用人形なんだよ。
ソル大自然こそが、あたしのメインステージだ!ここでの引率はまかせて!いいでしょ、教授?
(選択)1.それじゃ、リーダーは頼むね、ソル。G
2.それじゃ、盾役は頼むね、ソル。H
Gソルやったぁ!今回は……絶対にヘマはしないから!I
Hソルた、盾役……?
ソルえーっと……クロックのイージスほど頑丈じゃないけど……が、頑張るよ……!I
I 
ソルアンナ、信号はこっちから来てんだよね?
アントニーナアントニーナです。こちらの方向で正しいはずですよ。
ソルオッケー。エントロピーと浄化者に警戒しながら道を探すよ。みんな、あたしについてきて。
ペルシカ……
アントニーナペルシカさん、大丈夫ですか?
ペルシカあっ!わかりました!
ペルシカソルさんの言っていた「草」というのは、ヘリオスセクターで食べたエナジーハーブのことで……漏電する柱は、エニグマセクターのデータ配列なのでは……
アントニーナペルシカさん、あなた、そろそろ休んだ方がいいですよ……
 
ソル気をつけて!10時の方向に巡回中の下位浄化者がいる。身体を低くしたまま、教授とあたしのほうへ。
ペルシカ了解です。
アントニーナ了解……
アントニーナ……待ってください、発信機の信号が……!?
下位浄化者【異常を検出!ルート変更!】
下位浄化者【警戒モードへ移行!】
アントニーナ!!
アントニーナ戦闘モードに……
ソルストップ、奴らには見つからないよ。
アントニーナでも、こっちに近づいてますよ……!
ソル大丈夫、そこなら安全だから!あたしの指示通りに、低い地形に沿って移動して!
ソルあたしを信じて。
 アントニーナはソルの揺るぎない眼差しを受けて、端末を閉じた。
そして、ゆっくりとソルのいる場所へ近づいてゆく。
ソルそう、身体を低くして、高低差を利用するの……
 私たちは音を立てないよう、細心の注意を払った。
 浄化者が移動する際の機械音が、徐々に近づいて来る。
 ザァーー……
ソルアンナ、こっち!
 ふいに一陣の風が吹き、浄化者の傍にあった木の枝が大きく騒めいた。
 浄化者が音のする方を向いた隙に、ソルはアントニーナの手をつかんで引き寄せた。
下位浄化者【環境分析中……】
下位浄化者【セクターの正常な稼働メカニズムと断定】
ソル&アントニーナ……
下位浄化者【報告作成完了、既定巡回ルートに戻ります】
 浄化者との安全距離を保ってようやく、私たちは胸を撫で下ろした。
ソルふぅ~……びっくりしたぁ……
アントニーナ……助かりました、ソルさん。
ソルへへ、どってことないよ!バレても倒しちゃえばいいだけだしね!
ソルあの程度の下位浄化者、今のあたしらにとっちゃチョロイチョロイ。
アントニーナ倒したところで、セクターのセキュリティシステムを刺激するだけですよ。面倒は目に見えています。
アントニーナあなたが風を読んでいなかったら……
アントニーナ……確かに、少々焦っていました。謝ります。
ソルい、いいよそんな……
ペルシカそれにしても、アントニーナさんが焦るだなんて……なにかあったんですか?
アントニーナ……ええ、面倒なことになりました。オディールです。
 その名を口にした瞬間、アントニーナの表情が険しくなる。
彼女は端末をもう一度開くと、緑色のスクリーンを私たちに向けた。
アントニーナオディールへと近づいていたはずが、たった今、信号が途絶えました。
ペルシカ信号が途絶えた!?
アントニーナ原因はわかりません……もう一度追跡してみます、時間はかかりますが。
ペルシカそれなら、ひとまず休みましょうか。この先、激しい戦いが待ち受けているかもしれませんし。
ソルそうそうそう!野外活動では適切な休憩がすごく大事なんだ!
ソルみんな、あたしの視界から離れないでね。気温が高いから、熱中症に気をつけて。
{教授}ソル、なかなか様になってるね。
ペルシカそうですね。浄化者との戦いは避けられないと思っていましたから。ソルさんのおかげです。
ペルシカ地形を利用して相手の視野を遮る……こんな方法があっただなんて。
ソルえっへへ、それほどでも~
ペルシカさっきもです。浄化者を前にしてあれだけ落ち着いていたのは、風が起きると知っていたからですね。
ソルそうそう。まぁ、長年の経験ってヤツかな……はーい、褒めるのはそこまでね!調子に乗っちゃうじゃん!
ソルそれに、ここには下位浄化者がまばらにいるだけだし。大したことないない。
ペルシカ言われてみれば確かに……中位浄化者の姿が見当たりません。
ペルシカ下位浄化者の行動もワンパターンです。誰かが率いてるようには思えませんね。
ソルえっ……まさか、またピエリデスみたいな……
アントニーナそれはないと思いますよ。遭遇した下位浄化者はエントロピー化していませんでした。感染があったとしても、ピエリデスの規模には遠く及ばないはずです。
ペルシカいずれにせよ、中位浄化者に感づかれる前に事を済ませましょう。
ペルシカアントニーナさん、信号はたどれましたか?
アントニーナいえ……アクセスしようにも、完全に見失いました。
ソルそんな!?まさか、発信機が壊されたんじゃ……
ペルシカオディールさんに気づかれたんでしょうか?
アントニーナ信号の途絶え方からして、破壊のセンは薄そうです。どちらかといえば、信号の届かない場所に移動したかのような……
アントニーナでも信号が届かないなんて……この近くにそんな場所あるわけ……
ペルシカアントニーナさん、落ち着いて。ここの環境のせいで信号が途絶えた可能性は?
ペルシカ海の方から、わずかにノイズが聴こえます。信号が消えたのと、何か関係があるかもしれません。
アントニーナ海から……?
ソル待って。ペルシカの耳には確か、ノイズフィルター機能がついてたよね?あたしらよりもクリアに聞こえるはずだ。
ソルどういうノイズなの?説明できそう?
ペルシカそうですね……「ドン、ドン」というような、太鼓の音に少し似ています。
ソル海から……太鼓の音……
ソル!まさか!
 ビーチを見るソルの表情が変わった。
 見れば、私たちから3メートルほど先にあった波打ち際が、
10メートル以上も後退している。
ソル引き潮……津波だ!
 ソルがそう言い放ったとたん、大地の奥から細かい震動が伝わってくるのを感じた。
揺れはますます強くなってゆく。
ソル走れ!!!
 ソルの叫びとほぼ同時に、予想だにしない衝撃が私たちを翻弄した。
 冷たい海水が巨大な波となって、私たちのいる岸へと襲いかかった。