コプリーセクター、海辺。 | |||
どこからか現れた二名の招かれざる客は、 白紙に滴る墨のように、波打ち際で異彩を放っていた。 | |||
?? | …… | ||
??? | どうしたんですか、初ちゃん?急に立ち止まったりして。 | ||
??? | あ、もしかして暑かったですか?荷物、持ちましょうか? | ||
?? | ……大丈夫、ありがとう。 | ||
?? | オペランドで模した太陽光なんて、地底のマグマに比べれば大したことないよ。 | ||
??? | ごめんなさい、わたしのせいです…… 生態研究用のセクターとしか聞いてなかったから、何も準備してなくて。 | ||
??? | こんなにリアルな環境だと知ってたら、着替えを持ってきたのに…… | ||
?? | 防護服は潜るのに必須だから。それに、もう慣れっこだし。 | ||
?? | はやく出発しよう、任務に遅れちゃう。 | ||
??? | 初ちゃんが焦るだなんて……やっぱり、末くんが心配なんですね? | ||
??? | あの子はしっかりしてますから、きっと大丈夫ですよ。 | ||
?? | うん…… | ||
??? | とにかく……いってらっしゃい、初ちゃん! 地上での調査はわたしにまかせて。 | ||
?? | わかった、ありがとう。 | ||
?? | そっちも気をつけて。アドミニストレーターや浄化者とケンカしないようにね。 | ||
?? | それから……もし、できたらだけど―― | ||
??? | 可能であれば、現れるであろう「ターゲット」に気を配ること。 ちゃんと覚えてますよ。 | ||
?? | こういう場所は初めてだから。 私たちの探してる「ターゲット」がここにいるかもしれない。 | ||
??? | 安心してください、わたしたちの使命を忘れたりはしません。 | ||
???& ?? | 【アルカディアのために!】 | ||
>> CHAPTER 6 // 神導異論 . . . | |||
アントニーナ | ……着きました。 | ||
アントニーナ | ここがコプリーセクターです。 | ||
アントニーナ | 改めて確認してみましたが、信号は確かにここから来ています。 | ||
ソル | オディール――あいつがここに? | ||
アントニーナ | 間違なさそうですね。今すぐファイアウォールをハックして…… | ||
ペルシカ | 待ってください、アントニーナさん!ここは慎重に行くべきです。 | ||
ペルシカ | 前のピエリデスでは、ファイアウォールをハッキングしたとたん、エントロピーに襲われました。 | ||
アントニーナ | ですが時間がありません。オディールを追ってきたのは、なにも復讐のためではないんですよ。 | ||
ペルシカ | クロックさんの状況は、以前の私たちよりも遥かに深刻です。ターシャリレベルに潜るだけで解決できるとは思えません。 | ||
ペルシカ | エントロピーによる感染症を治療するには、敵のソースコードが必要不可欠です。 | ||
アントニーナ | ピエリデスからオアシスに戻った時、クロックさんの容体はさらに悪化していました。 | ||
アントニーナ | 医療部門が全力で治療に当たっていますが、あれでは感染を抑えることしかできません。 | ||
アントニーナ | エントロピーのソースコードが手に入らなかったら、お終いなんです!すぐにでも上位のエントロピーを捕らえなければ、生死は問いません。 | ||
ソル | アンナ、でも……ペルシカにも一理あると思うよ。 | ||
ソル | こんな時だからこそ、ミスするわけにはいかないし…… | ||
(選択) | 1.アントニーナ、焦るなんて君らしくないな。 | A | |
2.ソルもだいぶ成長したな。 | B | ||
A | アントニーナ | …… | |
アントニーナ | チッ……教授にそう言われると、死ぬほどムカつきますね。 | ||
アントニーナ | ご心配なく、そこまで無鉄砲じゃありませんよ。 | ||
アントニーナ | エントロピーどもの思い通りにさせたくないだけです。なにせ、私はコンピューターウィルスの専門家ですから。 | C | |
B | ソル | 成長……えっ、これって成長なの? | |
ソル | あたしはただ、自分のせいでみんなに迷惑かけたくないだけ。 | ||
ソル | だって、クロックたちは…… | ||
ソル | あぁ、やめやめ!とにかく、その「ソースコード」を探し出して、みんなでオアシスに戻ろう! | ||
ペルシカ | ソルさん…… | ||
アントニーナ | ……はいはい、わかりましたよ。なんか、ソルとの立場が入れ替わってる気が…… | C | |
C | アントニーナ | 別に、なんの準備もなしにファイアウォールに触れようってんじゃないですよ。 | |
アントニーナ | このところ、ずっとエントロピーのコード構成を研究していたんです。少なくともハッキングと並行して、エントロピーが擬態してるかどうかは調べられます。 | ||
アントニーナ | 同じ轍は踏みません。 | ||
ソル | そうだったんだ……さっすがアンナ! | ||
ソルは安心して壁に寄りかかった。 | |||
ソル | それじゃ、早いとこ壁をハッキングして――って、うぉわぁぁっ! | ||
ペルシカ | ソルさん!? | ||
ファイアウォールに寄りかかっていたソルが急にバランスを崩した。 彼女はとっさに地面を転がることで、無様なポーズを取らずに済んだ。 | |||
ペルシカ | 大丈夫ですか? | ||
ソル | い……いきなり何すんのさ! | ||
アントニーナ | 早いとこ壁をハッキングしろとは、あなたの言葉でしょう? | ||
アントニーナは軽快にキーボードをタップした。 見れば、先ほどまでソルを支えていたファイアウォールが、いつの間にか消えている。 | |||
ソル | そ、それはそうだけど……さすがに速すぎない!? | ||
(選択) | 1.よくやったぞ、アントニーナ! | D | |
2.いったいどうやったんだ? | E | ||
D | アントニーナ | 教授、バカにしてますね……? | F |
E | {教授} | アントニーナ、また技術が上がったのか? | |
アントニーナ | 教授にお褒め頂けるとは、光栄ですね。 | F | |
F | アントニーナ | ま、ピッチを上げたのは確かですけど……私だけの手柄じゃないですよ。 | |
アントニーナ | ここのファイアウォールはあまりにも薄すぎて、オペランドの気配すら感じ取れません…… | ||
ペルシカ | コプリーセクターが、プライベートセクターだからでしょうか? | ||
ペルシカ | 個人ユーザーによって賄われるセクター容量は、大企業とは比べ物になりませんから。 | ||
アントニーナ | んー……かもしれませんね。 | ||
アントニーナ | でも、セクターの中は、とてもオペランド不足のようには見えませんけど。 | ||
アントニーナ | ソルさん、起き上がったら、髪の毛を整えておいたほうがいいですよ。 | ||
ソル | へっ?あれっ、首になにか…… | ||
ソル | ……これって、砂……? | ||
ファイアウォールが消えると、 そこには現実と見紛うばかりの光景が広がっていた。 | |||
アザーブルーの空と紺碧の海が遥か遠くで交わり、淡い水平線を織りなしている。 ビーチを燦々と照らす眩しい太陽の光。夏の活気と情熱を象徴する爽やかな暑さ。 パラソルの下に吹く涼しい風は、まるで旅人の心を焚きつけているかのようだ。 | |||
ソル | す……すごい……! | ||
ペルシカ | これ全部がオペランドによるシミュレーションなんですか?し、信じられない…… | ||
アントニーナ | お待ちを……ログインデータを見つけました。 | ||
アントニーナ | セクターの用途は――「海洋生態研究」とされてますね。 | ||
ペルシカ | ここで生態研究が行われているんですか? | ||
アントニーナ | 笑えるでしょう?現実の海を汚染しておきながら、クラウド上で過去に浸ってるんです、人間は。 | ||
アントニーナ | このセクターの所有者は、先の時代の海洋学者のようですね。 | ||
ペルシカ | でも……オディールさんはいったいどこに…… | ||
ペルシカ | ビーチにエントロピー液の痕跡は見られません。まさか、波にさらわれたのでしょうか? | ||
アントニーナ | ご心配なく、発信機は作動しています、行きましょう。 | ||
ソル | ぃよっしゃ!道案内はあたしにまかせて! | ||
ソル | こんな景色が見れるだなんて、なんだかワクワクしてきた!! | ||
アントニーナ | !いきなり大声出さないでください。 | ||
ソル | あっ、ごめんごめん。でもさ、なんかドキドキしない!?ねぇ教授、ペルシカ、アンナ!? | ||
ソル | 目の前に海があるんだよ!大自然だよ! | ||
ペルシカ | ええ……海ですね…… | ||
ソル | ああ~~!や~っとくたびれた発電所で草食べたり、漏電してる柱にくっつかなくて済むよ! | ||
ペルシカ | …… | ||
ソル | みんな忘れたの?あたしは観測隊専門のガイド用人形なんだよ。 | ||
ソル | 大自然こそが、あたしのメインステージだ!ここでの引率はまかせて!いいでしょ、教授? | ||
(選択) | 1.それじゃ、リーダーは頼んだよ、ソル。 | G | |
2.それじゃ、盾役は頼んだよ、ソル。 | H | ||
G | ソル | やったぁ!今回は……絶対にヘマはしないから! | I |
H | ソル | た、盾役……? | |
ソル | えーっと……クロックのイージスほど頑丈じゃないけど……が、頑張るよ……! | I | |
I | |||
ソル | アンナ、信号はこっちから来てんだよね? | ||
アントニーナ | アントニーナです。こちらの方向で正しいはずですよ。 | ||
ソル | オッケー。エントロピーと浄化者に警戒しながら道を探すよ。みんな、あたしについてきて。 | ||
ペルシカ | …… | ||
アントニーナ | ペルシカさん、大丈夫ですか? | ||
ペルシカ | あっ!わかりました! | ||
ペルシカ | ソルさんの言っていた「草」というのは、ヘリオスセクターで食べたエナジーハーブのことで……漏電する柱は、エニグマセクターのデータ配列なのでは…… | ||
アントニーナ | ペルシカさん、あなた、そろそろ休んだ方がいいですよ…… | ||
ソル | 気をつけて!10時の方向に巡回中の下位浄化者がいる。身体を低くしたまま、教授とあたしのほうへ。 | ||
ペルシカ | 了解です。 | ||
アントニーナ | 了解…… | ||
アントニーナ | ……待ってください、発信機の信号が……!? | ||
下位浄化者 | 【異常を検出!ルート変更!】 | ||
下位浄化者 | 【警戒モードへ移行!】 | ||
アントニーナ | !! | ||
アントニーナ | 戦闘モードに…… | ||
ソル | ストップ、奴らには見つからないよ。 | ||
アントニーナ | でも、こっちに近づいてますよ……! | ||
ソル | 大丈夫、そこなら安全だから!あたしの指示通りに、低い地形に沿って移動して! | ||
ソル | あたしを信じて。 | ||
アントニーナはソルの揺るぎない眼差しを受けて、端末を閉じた。 そして、ゆっくりとソルのいる場所へ近づいてゆく。 | |||
ソル | そう、身体を低くして、高低差を利用するの…… | ||
私たちは音を立てないよう、細心の注意を払った。 | |||
浄化者が移動する際の機械音が、徐々に近づいて来る。 | |||
ザァーー…… | |||
ソル | アンナ、こっち! | ||
ふいに一陣の風が吹き、浄化者の傍にあった木の枝が大きく騒めいた。 | |||
浄化者が音のする方を向いた隙に、ソルはアントニーナの手をつかんで引き寄せた。 | |||
下位浄化者 | 【環境分析中……】 | ||
下位浄化者 | 【セクターの正常な稼働メカニズムと断定】 | ||
ソル&アントニーナ | …… | ||
下位浄化者 | 【報告作成完了、既定巡回ルートに戻ります】 | ||
浄化者との安全距離を保ってようやく、私たちは胸を撫で下ろした。 | |||
ソル | ふぅ~……びっくりしたぁ…… | ||
アントニーナ | ……助かりました、ソルさん。 | ||
ソル | へへ、どってことないよ!バレても倒しちゃえばいいだけだしね! | ||
ソル | あの程度の下位浄化者、今のあたしらにとっちゃチョロイチョロイ。 | ||
アントニーナ | 倒したところで、セクターのセキュリティシステムを刺激するだけですよ。面倒は目に見えています。 | ||
アントニーナ | あなたが風を読んでいなかったら…… | ||
アントニーナ | ……確かに、少々焦っていました。謝ります。 | ||
ソル | い、いいよそんな…… | ||
ペルシカ | それにしても、アントニーナさんが焦るだなんて……なにかあったんですか? | ||
アントニーナ | ……ええ、面倒なことになりました。オディールです。 | ||
その名を口にした瞬間、アントニーナの表情が険しくなる。 彼女は端末をもう一度開くと、緑色のスクリーンを私たちに向けた。 | |||
アントニーナ | オディールへと近づいていたはずが、たった今、信号が途絶えました。 | ||
ペルシカ | 信号が途絶えた!? | ||
アントニーナ | 原因はわかりません……もう一度追跡してみます、時間はかかりますが。 | ||
ペルシカ | それなら、ひとまず休みましょうか。この先、激しい戦いが待ち受けているかもしれませんし。 | ||
ソル | そうそうそう!野外活動では適切な休憩がすごく大事なんだ! | ||
ソル | みんな、あたしの視界から離れないでね。気温が高いから、熱中症に気をつけて。 | ||
{教授} | ソル、なかなか様になってるな。 | ||
ペルシカ | そうですね。浄化者との戦いは避けられないと思っていましたから。ソルさんのおかげです。 | ||
ペルシカ | 地形を利用して相手の視野を遮る……こんな方法があっただなんて。 | ||
ソル | えっへへ、それほどでも~ | ||
ペルシカ | さっきもです。浄化者を前にしてあれだけ落ち着いていたのは、風が起きると知っていたからですね。 | ||
ソル | そうそう。まぁ、長年の経験ってヤツかな……はーい、褒めるのはそこまでね!調子に乗っちゃうじゃん! | ||
ソル | それに、ここには下位浄化者がまばらにいるだけだし。大したことないない。 | ||
ペルシカ | 言われてみれば確かに……中位浄化者の姿が見当たりません。 | ||
ペルシカ | 下位浄化者の行動もワンパターンです。誰かが率いてるようには思えませんね。 | ||
ソル | えっ……まさか、またピエリデスみたいな…… | ||
アントニーナ | それはないと思いますよ。遭遇した下位浄化者はエントロピー化していませんでした。感染があったとしても、ピエリデスの規模には遠く及ばないはずです。 | ||
ペルシカ | いずれにせよ、中位浄化者に感づかれる前に事を済ませましょう。 | ||
ペルシカ | アントニーナさん、信号はたどれましたか? | ||
アントニーナ | いえ……アクセスしようにも、完全に見失いました。 | ||
ソル | そんな!?まさか、発信機が壊されたんじゃ…… | ||
ペルシカ | オディールさんに気づかれたんでしょうか? | ||
アントニーナ | 信号の途絶え方からして、破壊のセンは薄そうです。どちらかといえば、信号の届かない場所に移動したかのような…… | ||
アントニーナ | でも信号が届かないなんて……この近くにそんな場所あるわけ…… | ||
ペルシカ | アントニーナさん、落ち着いて。ここの環境のせいで信号が途絶えた可能性は? | ||
ペルシカ | 海の方から、わずかにノイズが聴こえます。信号が消えたのと、何か関係があるかもしれません。 | ||
アントニーナ | 海から……? | ||
ソル | 待って。ペルシカの耳には確か、ノイズフィルター機能がついてたよね?あたしらよりもクリアに聞こえるはずだ。 | ||
ソル | どういうノイズなの?説明できそう? | ||
ペルシカ | そうですね……「ドン、ドン」というような、太鼓の音に少し似ています。 | ||
ソル | 海から……太鼓の音…… | ||
ソル | !まさか! | ||
ビーチを見るソルの表情が変わった。 | |||
見れば、私たちから3メートルほど先にあった波打ち際が、 10メートル以上も後退している。 | |||
ソル | 引き潮……津波だ! | ||
ソルがそう言い放ったとたん、大地の奥から細かい震動が伝わってくるのを感じた。 揺れはますます強くなってゆく。 | |||
ソル | 走れ!!! | ||
ソルの叫びとほぼ同時に、予想だにしない衝撃が私たちを翻弄した。 | |||
冷たい海水が巨大な波となって、私たちのいる岸へと襲いかかった。 |