ソル | くっそ~、好き勝手飛び回りやがって……ペルシカ、あたしはあいつを追う! | ||
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ペルシカ | なんだか変です……ソルさん、戻ってください! | ||
ソル | へっ?わ、わかった! | ||
ソルは目の前のエントロピーを一刀両断し、颯爽とペルシカのもとへ戻った。 | |||
ドレーシー | ペルルン、どうかしたんですか? | ||
ペルシカ | ええ、なんだか順調すぎる気がして…… | ||
ペルシカ | ソルさん、先ほどの戦闘記録を同期して頂けますか? | ||
ソル | 待って、地形情報を整理するね……よし、送ったよ! | ||
ペルシカ | ありがとうございます…… | ||
ペルシカ | ……やっぱり。 | ||
ドレーシー | 何か見つけたんですか? | ||
ペルシカ | 下位エントロピーの足止めとオディールさんの機動力を以てすれば、私たちを簡単に引き離せたはずです。そうしないのは、何か目的があるとしか…… | ||
ソル | あ、バックトラッキングだね、あたしにまかせて。 | ||
ソル | ……ペルシカの言う通りだ。これまで通ったルートと現在の地形から推測するに、あいつ、このポイントにあたしたちを誘き出すつもりだよ…… | ||
タラナム | ここは……生態観測所。 | ||
ソル | へぇ、教えてくれるんだ? | ||
タラナム | まずい……彼女を行かせるな。 | ||
ペルシカ | 「まずい」?そこには何があるんです? | ||
タラナム | …… | ||
ソル | まただんまりか。さっきの、まさか自動応答とかじゃないよね? | ||
ペルシカ | 少なくとも目的地はわかりました。 | ||
ペルシカ | 生態観測所に向かいましょう。 | ||
ソル | えっ、罠だったらどうするの?それか、ここで二手に分かれるのは?あたしはこのままオディールを追うよ。 | ||
ドレーシー | 大丈夫。お二人の判断が正しければ、オディールが向かう先は一つ。 | ||
ドレーシー | 生態観測所に先回りして、彼女を止めればいいんです! | ||
ペルシカ | その通りです。ドレーシーさん、オペランドを少々お借りしても? | ||
ドレーシー | えっ……オ、オペランドをですか? | ||
ペルシカ | あっ、ご、ごめんなさい。一時的に協力し合ってるだけなのに、オペランドをねだるのは失礼でしたね…… | ||
ドレーシー | いえ、そんな。ただ、わたしのやり方は少~し……乱暴でして。 | ||
ドレーシーはそう言って、尻尾を軽く動かした。 | |||
ペルシカ | かまいません、こんな状況ですし。この際、細かいことは気にしませんよ。 | ||
ドレーシー | うふふ、それなら遠慮なく…… | ||
…… | |||
ペルシカ | えっ……こ、こんなやり方で?ほ、本気ですか!? | ||
ドレーシー | オペランドが欲しいのでしょう? でしたら我慢してください、すぐに終わりますから♥ | ||
ソル | おおおっ!?尻尾をこんなふうにねぇ、さすがは人形整備士! | ||
…… | |||
準備を整え、ペルシカたちは生態観測所へと向かった。 | |||
ソル | 着いた、あの建物がそうだと思う…… | ||
ソル | んっ!?あれは……オディール! | ||
生態観測所からそう離れていない海面上に、黒い人影が浮かんでいる。 | |||
オディールは成熟しつつある黒い翼を羽ばたかせながら、 冷ややかな視線で一行の訪れを待っていた。 | |||
オディール | またお会いしたわね、竜殺しへ赴く勇者様方。 | ||
オディール | シナリオの方向性に気づくだなんて、役者の素質があるわ。 | ||
オディール | けれど、舞台裏を覗くのは感心しないわね。正しい観客の在り方とは言えなくてよ。 | ||
ソル | お前なぁ、少しはわかるように喋ったらどうなのさ! | ||
ソル | 海底の穴と津波はお前の仕業か? | ||
オディール | 主には温床が必要よ。彼女のために次なる舞台を探し出す、それが我らの使命。 | ||
オディール | ここならすべての条件が揃っている、ただそれだけのこと。 | ||
ペルシカ | やっぱり、地底はエントロピーに蝕まれていた……なら、教授たちは…… | ||
ソル | ペルシカ、あいつが何言ってるかわかるの!? | ||
ソル | おい、教授とアンナはどうした!地底で会ったんだろ!? | ||
オディール | ふふふ……前途洋々たる新星には、それにふさわしき舞台があって当然。より素晴らしい悲劇が、彼らを出迎えるでしょう…… | ||
オディール | あなた方に至っては……ここで退場なさい! | ||
刹那、オディールが一筋の黒い影となって、ソルに襲いかかった。 | |||
ソル | はぁッ! | ||
ソルもすぐさま剣を抜き、ためらうことなく前方へと斬りかかる。 鋭い刃と爪がぶつかり会い、軽快な音を立てた。 | |||
ソル | ふっ……エントロピー化してその程度か? | ||
オディールの攻撃はソルの刀によって完全に抑えつけられた。 これ以上はびくともしない。ソルは刀柄を握ったまま姿勢を調整し、 腰の右側に掛けてあるナイフへと両手を近づけた。 | |||
オディールが一歩でも後退すれば、即座にナイフを抜き相手を切り裂ける。 だがオディールが姿勢を変えなければ、 彼女の背後はがら空きになり、他の攻撃を防げない。 | |||
ソル | 残念だったな、お前の負けだ。 | ||
オディール | この躯体は戦いに不慣れ、主の改造も未完成…… | ||
オディール | 愚者のように力を張り合う気はないわ。 | ||
次の瞬間、オディールは翼の下から成長しきっていない触手を伸ばし、 エントロピー液をあたりにまき散らした。 | |||
ソル | !? | ||
ソルは不利とみて、瞬時にオディールを蹴とばした。 その勢いに乗じて後方へ宙返りし、エントロピー液を避ける。 | |||
それでも、彼女の腹部には数滴のエントロピー液が付着していた。 | |||
ふいに、エントロピー液の触れた箇所が緑色に輝き始めた。 オペランドでできた薄い膜がエントロピー液を相殺し、 白いオペランドとなって剥がれ落ちてゆく。 | |||
ソル | サンキュー、ペルシカ! | ||
ペルシカ | 気をつけて!相手は海に逃げました! | ||
見れば、攻撃に失敗したオディールが海上を飛び回っている。 まるで大海原を自然のシールドに見立てたかのように。 誰も水面上では動けない。メンバーは攻撃手段を失った。 | |||
ソル | あたしの剣じゃ届かない。ペルシカ、遠隔攻撃できる? | ||
ペルシカ | ダメです!動きが素早くて、うまく狙えません! | ||
ソル | くっそぉ……こうなるとわかってたら、教授にバズーカを用意させたのに…… | ||
ドレーシー | ソルルン!こっちへ来ます! | ||
ソル | だぁりゃっ! | ||
ソルは迫りくるオディールに向かって剣を振った。 双方の攻撃がまたしても空を切る。 | |||
オディール | ふぅん……殺陣はなかなかね。 | ||
オディール | そろそろ変化がなくちゃ―― | ||
オディールが急に空中を一回転したかと思うと、 今度はソルにシールドを提供するペルシカへと牙をむいた。 | |||
ペルシカ | あっ――! | ||
ペルシカ | ソ、ソルさん! | ||
ソル | お前の相手は、このあたしだ! | ||
ソルがペルシカの前へと飛んで来て、再びオディールの攻撃を防いだ。 | |||
ソル | ペルシカ、ドレレン、あたしの近くに来て!オペランドで支援を! | ||
ソル | あのアホミニストレーターもだ!奴に狙われちゃ困る! | ||
ドレーシー | わかりました! | ||
タラナム | …… | ||
ソル | こちとら野生動物との勝負じゃ負け知らずなんだ! | ||
ソル | この距離なら、みんなを守れる! | ||
ソル | 奴の体力を削って隙をつくよ! | ||
ペルシカ | はい! | ||
オディールはダイブ攻撃を何度か繰り返したが、どれもソルによって弾かれた。 | |||
だが予想に反して、オディールに疲れは見られない。 それどころか、ますます勢いづいている。 執拗な攻撃の嵐に、ソルが先に息を切らした。 | |||
ソル | なんでだ……ずっと飛び回ってるのに、少しも速度が落ちてない……? | ||
ソル | こいつ、バケモノか?……って、バケモノだったわ…… | ||
オディール | どこを見ているの?役者がよそ見するなんて! | ||
ソル | はぁッ! | ||
ソル | お前なんざ、よそ見してたって余裕だね! | ||
オディール | ふふふ……盛大なパフォーマンスの幕開けよ。 | ||
オディール | あなた方は観客でありながら、役者でもある―― | ||
ソル | うぉわっ! | ||
ソル | くっ……しつこいな…… | ||
ペルシカ | このままじゃ、こちらが先に消耗してしまいます。 | ||
ソル | あああああもぉぉぉ! | ||
ソル | あたしも飛べたらなんとかなるのに! | ||
ペルシカ | 飛ぶ…… | ||
ペルシカ | ソルさん!考えがあります! | ||
ソル | おぉっ!さすがはペルシカ! | ||
ペルシカ | ドレーシーさん! | ||
ドレーシー | はい、ここに! | ||
ソル | へっ?なんでドレレン―― | ||
ソル | あ……待って、もしかして……!? | ||
ドレーシーは一瞬呆然としていたが、すぐに意を察して得意げな笑顔を浮かべた。 | |||
ドレーシー | プッ……なるほど、わかりました!ソルルン、準備はいいですか? | ||
オディール | 上演中は私語を慎みなさい! | ||
オディールには三人の会話が聞こえていないか、もしくは興味がないようだった。 | |||
それでも、ひとしきり攻撃を終えると、オディールは警戒して上空へと羽ばたいた。 | |||
ソル | ドレレン、今だ!思いっきりやって! | ||
ドレーシー | 了解です! | ||
次の瞬間、ドレーシーは突如180度回転し、自身の尻尾をソルに向かって投げ出した。 | |||
ソル | うぉぉぉぉぉぉおおお!! | ||
ゴムでできたケーブルがソルの両足に絡みついた。 ドレーシーはソルを捉えたまま、その場でもう一度大きく回転した。 巨大な遠心力が働き、ソルは宙へと投げ出され空に綺麗なカーブを描いた。 | |||
ソル | おぉぁあああぁぁぁああっだはッ!! | ||
ソルの速度が極限に達した瞬間、ドレーシーは尻尾を放した―― | |||
ドレーシー | ソルルンミサイル、発射~~! | ||
オディール | なっ……!? | ||
弓から放たれた矢じりのように、ソルはオディールへと急接近した。 | |||
ソルを避けようとしたオディールだったが、今度は片翼が言うことを聞かない。 ――ペルシカの演算攻撃が、彼女を捉えたのだ。 | |||
ペルシカ | ワイヤーアクションも大変でしたでしょう。 ご苦労様でした、オディールさん。 | ||
オディール | 貴様―― | ||
ソル | 疾 焔 獅 子 斬 ! | ||
炎を宿したソルの二振りの剣が、オディールへと容赦なく振り下ろされる。 | |||
オディール | ぐぅッ……ああああああッ! | ||
三日月のような火焔が宙を舞い、オディールの翼がたちまち燃え上がった。 | |||
ソルが華麗な着地を決めると同時に、 支えを失ったオディールが地表へと叩きつけられる。 | |||
ソル | やーっと地に堕ちたか。 | ||
オディール | ふふふふふ……あーはははははは! | ||
オディール | お見それしたわ、あなた方の技量は認めましょう。 | ||
オディール | でも今は駄目、フィナーレはまだ準備中なの。さしあたっては、主の眷属とともに一曲踊って頂こうかしら! | ||
ペルシカ | ソルさん、気をつけて!周囲のエントロピーを盾に逃げる気です! | ||
ソル | そうはさせるかッ! |