コプリー 標準 PART.15 対策

Last-modified: 2024-11-30 (土) 18:19:10

 タラナムに連れられ、私たちは生態観測所のスクリーンに囲まれた部屋へとやってきた。
彼女がコンソールを素早くタッチすると、周囲のスクリーンが一斉に光った。
タラナム……開いた。
 エントロピーに破壊し尽くされたコプリーセクターが、私たちの目の前に現れた。
アントニーナここにもモニタールームがあったんですね。
タラナム地底はエントロピーの監視用。地上は……
 タラナムは急に口を閉ざした、言葉に詰まったようだ。
アントニーナここは以前、生態実験を行っていた時の名残でしょう。彼女にリライトプログラムが埋め込まれてからは、セキュリティカメラも単なる飾りと化したようですけれど。
アントニーナこんな形で役に立つなんて、まったくもって皮肉ですね。
ソルうっわぁ……怪物どもがすごい数になってる……ブニョブニョで、ドロドロで気持ちわる……うぉえ……
ソルダ、ダメだ、ソル、我慢だ……ウッ、うげぇぇ……み、みんな、先に確認しといて!ちょ、ちょっと休憩……
ペルシカ教授、何かわかりましたか?
{教授}ああ。このエントロピーたちの分布、やっぱり規則性があるね。
{教授}一部は奴らが出てきた洞穴の付近に集まってる。
おそらく、障壁の裂け目を広げようとしてるんだ。
{教授}でもほとんどのエントロピーは、上陸後に同じ方角へ向かってる……
ペルシカあの場所は――先ほどまで私たちのいたアドミンセンターです!
{教授}アドミンセンターに何があるんだ?
タラナム障壁のコンソール……
タラナムコンソールが破壊されたら、障壁は消える。
アントニーナなるほど、それが目的ですか。
アントニーナ障壁が消えれば、デミウルゴスは自由の身。そうなったらセクターは……いえ、災難が外へと広がる可能性すらあります!
{教授}外か……そういえば、浄化者の警報システムが鳴ってないな……
 ふいに、扉を押し開ける音が私の思考を遮った。
ドレーシー教授!大変です!
ドレーシー観測所の入り口が、今にもエントロピーで埋め尽くされそうです!
ドレーシー早くどこかに移らないと、ここから出られなくなっちゃいますよ!
アントニーナもう?早いな、地底ではかなり動きが鈍かったのに……
 そうしている間に、エントロピーが観測所のゲートに体当たりする音が背後から響いた。
{教授}屋上にエントロピーは?
ドレーシー今はいません、登るのは苦手なようですね。
{教授}よし。みんな、屋上に避難するんだ!
{教授}それと、こういう時は通信で教えてくれればいいから!
ドレーシーえっ?で、でもわたし、教授の通信コードを知らな……
ペルシカ話は後です!急ぎましょう!
 
 屋上から見下ろすと、観測所の入り口付近に無数のエントロピーが群がっていた。
周囲の地面はエントロピー液によって、すでに黒紫色に染まっている。
ソルじ、地面まで汚染されてる……正面からは出れないね、こりゃ……
ソルこんなに早く集まってくるなんて……ごめん、もっと早くここから撤退するべきだった。
アントニーナいえ、あなたのせいじゃありません。このエントロピーたち、作戦効率が少なくとも30%は上昇しています。
アントニーナどう見ても地底のものと同じなのに、なぜ地上に上がったとたん強く……
{教授}これは推測だけど、私たちが地底にいる間はペルシカたちと連絡が取れなかった。
でも地上に戻ったとたん、通信が回復した。
アントニーナそれはあの岩を装った障壁が、通信を遮っていたからですよ。
{教授}ああ、でもなぜエントロピーの実験場から信号を遮断する必要があったのか。
答えはひとつ……
アントニーナ――そうか!通信ジャミングは単なる副作用で、エントロピーの弱体化が本来の目的だったんだ!
 アントニーナはすぐさま端末を開いて、スクリーン上にデータを呼び出した。
アントニーナやっぱり……地底と比べて、エントロピーの電気信号が強まってますね。
アントニーナエントロピーは電気信号を通じて、上下の樹状ネットワーク構造を維持しています。上位の信号を見失うと、下位エントロピーの機動力は大幅に低下する。
ソルえ、待って、なにネットワーク?……ジョジョー?
アントニーナつまり障壁は、電気信号を遮ることでエントロピー同士の連携を弱め、エントロピーの動きを抑えるためにあったわけか。
{教授}合ってるかな、タラナム?
タラナム……優先レベルを判断、エントロピー制圧命令は研究機密保持より高位に位置する。最低限の情報を明示可能。
タラナムその推測で間違いない。障壁の信号ジャミング機能は、エントロピーの制圧を目的としたもの。
タラナムだがセクター内の施設が破壊されたためにオペランドは不足……障壁の効率は大きく低下……
{教授}逆に言うと、アドミンセンターの障壁コンソールが直りさえすれば、
セクターのオペランドを使って障壁の効率を上げられるわけだね。
タラナムお前たちにそれが可能なら。
ソル「お前たち」ってね……オペランドを動かすのはそっちなんだからね!しっかり働いてもらうよ!
タラナム……論理上は可能、試す価値はある。
ソルよし!よくわかんないけど、ここを出てアドミンセンターで障壁を強化すれば、エントロピーどもを倒せるってことだね?
ソルこれで次の目標が決まったね!さっすが教授とアンナ!
ペルシカそうとわかれば急ぎましょう。観測所付近のエントロピーが増え続けています。しかも、エントロピー液に汚染された地面からはダメージを受けてしまう。
ペルシカここを素早く突破する方法を考えないと!
タラナムそれなら手伝える、津波を使う。
ソルおおっ!けっこー積極的なんじゃん!
タラナム……今はオペランドが足りない、30秒が限界。
ソル30秒?
 ソルは鞘から剣を抜いた。刃の炎が燃え上がる。
ソルそれだけあれば、楽勝楽勝!だよね、教授?
(選択)1.そうだね。成功するかどうかは君にかかってるよ、ソル。A
2.もちろん!すべて私の計画通りだ!B
3.ああ。C
Aソルよっしゃッ!あたしにどーんとまかせて!どうすればいい、教授?C
Bソルあっはは、やっぱりね!そうだろうと思ったよ!C
C{教授}ソル、道を切り開けるのは君だけだ。まず津波でエントロピーを押し流す。
エントロピー液が再び充満する前に、敵の包囲を突破するんだ。
ソルあっは!めっちゃカッコいいじゃ~ん!
アントニーナ本気ですか、教授?
アントニーナまぁ、それしかなさそうですね……エントロピーがこれ以上増える前に……
ドレーシー心配いりませんよ、アンアン!教授がついてるんですから!
アントニーナア、アンアン……?
ソルそうそう、ドレレンの言う通り!あたしたちを信じなよ、アンナ!
 
{教授}準備はいいか?
タラナム許可は下りた、10秒後に津波が発動する。
 ソルは屋上の端に立ち、二振りの剣を握りしめた。
他のメンバーも彼女に続いて、戦いの準備を整える。
タラナム9、8、7……
 ソルは足元に群がる、おびただしい数のエントロピーに目を向けた。
彼女が一瞬目を閉じたのを私は見過さなかった。
やがてソルは目を背けたい衝動を抑え、前方の敵を見据えた。
タラナム……3、2、1。起動。
 刹那、巨大な波と化した海水が襲来し、
完全に無防備だったエントロピーたちをてんでんばらばらに押し流した。
地表を覆っていたエントロピー液も一掃され、一時的に安全地帯が出来上がる。
ソル行くよッ!!
 ソルは大声で叫ぶと、屋上から颯爽と飛び降りた。
二つの刃が大地へと振り下ろされ、凄まじい火花がほとばしる。
荒波に翻弄されるエントロピーたちが吹き飛ばされたことで、一面に広い空間が生じた。
アントニーナやりました!私たちも早く!
 アントニーナがオペランドで地面にバッファリング障壁を構築すると、
私たちは屋上から次々と飛び降りていった。
 ソルは二本の剣を振り回し、立ち塞がるエントロピーたちをことごとく斬り伏せてゆく。
ペルシカはオペランドでソルを援護。
ドレーシーの尻尾から放たれる眩しい光が、シールドとなって私たちを包み込んだ。
ペルシカいい調子です!エントロピーのいない高所を目指しましょう!
タラナムそろそろ時間だ。
 タラナムは津波でエントロピーとその液体を押し流したあと、
敵の援軍を岸に近づけないよう、波の方向をコントロールし続けた。
30秒はもはや目前となった。潮が退けば、さらに多くのエントロピーが押し寄せてくる。
ソルイケる!あと少しで感染エリアを抜けるよ!
 私たちはソルに続いて波の上を進んだ。安全地帯は目と鼻の先にある。
弱々しく息を切らしたタラナムが、列から何度もはぐれてしまいそうになる。
 ソルは前方にいた最後のエントロピーを真っ二つにすると、
剣を素早く収め、部隊の最後尾にいたタラナムのもとへ駆けつけた。
タラナムお前……
ソル何やってんだ、早く走れ!
タラナム……
 タラナムは何も言わずにソルの手を握った。
二人は潮が完全に退ききる直前に、私たちと合流した。
ソルはぁ、はぁ……ほ、本当に成功した……!
アントニーナさっきまで自信満々だったくせに……
ソル始まる前にしょげてどーすんのさ、そりゃ虚勢も張るよ。
ソルさてと、アドミンセンターに向かおう!ついて来て!
アントニーナ待ってください。アドミンセンターのエントロピーの数は生態観測所よりも多いはず。事前に準備を整えるべきです。
アントニーナさっきは津波が使えましたが、今度ばかりは……
タラナム気象ステーションに向かう。
ソル気象ステーション?
ペルシカオアシスの天候シミュレーターに似た施設でしょうか。
タラナムそう。そこにある天候シミュレーターなら、天災を自在に生み出せる。それも無限に。
ソルうっは……無限に!?すごいじゃん!
ペルシカ場所はどこです?エントロピーに囲まれてないといいのですが。
タラナム(α 46.32、β 65.91、γ 24.35)。先ほどのセキュリティ映像によれば、エントロピーは少ない。
ペルシカ……教授、私に行かせてください。
ペルシカ天候シミュレーターの操作方法は熟知しています。私なら、そこから皆さんをサポート可能です。
アントニーナアドミンセンターで戦うチームと、天候シミュレーターを操作するチーム……二手に分かれるのは良い考えですね。
アントニーナでもあなた独りじゃ危険です。せめてソルさんを……
ペルシカソルさんは作戦に欠かせない戦力、皆さんとアドミンセンターに向かうべきです。今のところ天候シミュレーターはターゲットにされていません。私の事なら心配いらないですよ。
{教授}ドレーシーさん、ペルシカに同行してくれないか?
ペルシカ教授……
 ペルシカは私に目配せした。
ペルシカ……信じてくださって、ありがとうございます。
ドレーシーこんなに早く教授とお別れだなんて……心残りですけれど、仕方ありませんね。きっと教授なりのお考えがあるのでしょう。
ドレーシー必ず任務を遂行してみせます。教授、あなた方もお気をつけて。
{教授}ソル、私とアドミンセンターに向かおう。それとアントニーナとタラナムも。
君たちにはコンソールの操作を手伝ってもらいたい。
ソルまっかせて!
アントニーナでも本当にいいんですか?もし二手に分かれてる間に、デミウルゴスが障壁を突破したら……
{教授}心配するな。たとえそうなっても、切り札は残してある。
{教授}行っておいで、ペルシカ。何かあったら連絡を。
ドレーシーあ、教授!待ってください!
ドレーシーあの、その、きょ、教授の……わ、わたしにも、教授の連絡先を教えて頂けませんか?
ドレーシーそうすれば、いつでも教授にご連絡できますし!つまりその、二手に分かれた時に……
{教授}え?い、いいけど……
ドレーシーありがとうございます!わたし、大切にしますね!
 ドレーシーは私の通信コードを素早く記録すると、
まるで宝物を抱える子どものように、ほくそ笑みながらペルシカのもとへ走っていった。
私たちを見るペルシカの顔に、複雑な表情が浮かんでいる。
{教授}……ちゃんと任務に当たってくれると良いんだけど。
ソル教授、あたしたちも出発しよう!
{教授}ああ。前方の様子は?
ソルこの道、前に通ったことあるよ。上り坂だから、ビーチのエントロピーはまだ登ってきてない。
ソルでも津波の前に大勢のエントロピーがあっちに向かってた、戦いは避けられないと思う……
{教授}さっきと同じように一気に駆け抜けよう。ペルシカたちがサポートしてくれる。
{教授}ソルは引き続き前を頼む。アントニーナと私でタラナムを守るよ。
アントニーナ……わかりました。
 簡単に陣形を定めたあと、私たちは淡い紫色の山路を進んだ。
もう後戻りはできない。