タラナムに連れられ、私たちは生態観測所のスクリーンに囲まれた部屋へとやってきた。 彼女がコンソールを素早くタッチすると、周囲のスクリーンが一斉に光った。 | |||
タラナム | ……開いた。 | ||
エントロピーに破壊し尽くされたコプリーセクターが、私たちの目の前に現れた。 | |||
アントニーナ | ここにもモニタールームがあったんですね。 | ||
タラナム | 地底はエントロピーの監視用。地上は…… | ||
タラナムは急に口を閉ざした、言葉に詰まったようだ。 | |||
アントニーナ | ここは以前、生態実験を行っていた時の名残でしょう。彼女にリライトプログラムが埋め込まれてからは、セキュリティカメラも単なる飾りと化したようですけれど。 | ||
アントニーナ | こんな形で役に立つなんて、まったくもって皮肉ですね。 | ||
ソル | うっわぁ……怪物どもがすごい数になってる……ブニョブニョで、ドロドロで気持ちわる……うぉえ…… | ||
ソル | ダ、ダメだ、ソル、我慢だ……ウッ、うげぇぇ……み、みんな、先に確認しといて!ちょ、ちょっと休憩…… | ||
ペルシカ | 教授、何かわかりましたか? | ||
{教授} | ああ。このエントロピーたちの分布、やっぱり規則性があるね。 | ||
{教授} | 一部は奴らが出てきた洞穴の付近に集まってる。 おそらく、障壁の裂け目を広げようとしてるんだ。 | ||
{教授} | でもほとんどのエントロピーは、上陸後に同じ方角へ向かってる…… | ||
ペルシカ | あの場所は――先ほどまで私たちのいたアドミンセンターです! | ||
{教授} | アドミンセンターに何があるんだ? | ||
タラナム | 障壁のコンソール…… | ||
タラナム | コンソールが破壊されたら、障壁は消える。 | ||
アントニーナ | なるほど、それが目的ですか。 | ||
アントニーナ | 障壁が消えれば、デミウルゴスは自由の身。そうなったらセクターは……いえ、災難が外へと広がる可能性すらあります! | ||
{教授} | 外か……そういえば、浄化者の警報システムが鳴ってないな…… | ||
ふいに、扉を押し開ける音が私の思考を遮った。 | |||
ドレーシー | 教授!大変です! | ||
ドレーシー | 観測所の入り口が、今にもエントロピーで埋め尽くされそうです! | ||
ドレーシー | 早くどこかに移らないと、ここから出られなくなっちゃいますよ! | ||
アントニーナ | もう?早いな、地底ではかなり動きが鈍かったのに…… | ||
そうしている間に、エントロピーが観測所のゲートに体当たりする音が背後から響いた。 | |||
{教授} | 屋上にエントロピーは? | ||
ドレーシー | 今はいません、登るのは苦手なようですね。 | ||
{教授} | よし。みんな、屋上に避難するんだ! | ||
{教授} | それと、こういう時は通信で教えてくれればいいから! | ||
ドレーシー | えっ?で、でもわたし、教授の通信コードを知らな…… | ||
ペルシカ | 話は後です!急ぎましょう! | ||
屋上から見下ろすと、観測所の入り口付近に無数のエントロピーが群がっていた。 周囲の地面はエントロピー液によって、すでに黒紫色に染まっている。 | |||
ソル | じ、地面まで汚染されてる……正面からは出れないね、こりゃ…… | ||
ソル | こんなに早く集まってくるなんて……ごめん、もっと早くここから撤退するべきだった。 | ||
アントニーナ | いえ、あなたのせいじゃありません。このエントロピーたち、作戦効率が少なくとも30%は上昇しています。 | ||
アントニーナ | どう見ても地底のものと同じなのに、なぜ地上に上がったとたん強く…… | ||
{教授} | これは推測だけど、私たちが地底にいる間はペルシカたちと連絡が取れなかった。 でも地上に戻ったとたん、通信が回復した。 | ||
アントニーナ | それはあの岩を装った障壁が、通信を遮っていたからですよ。 | ||
{教授} | ああ、でもなぜエントロピーの実験場から信号を遮断する必要があったのか。 答えはひとつ…… | ||
アントニーナ | ――そうか!通信ジャミングは単なる副作用で、エントロピーの弱体化が本来の目的だったんだ! | ||
アントニーナはすぐさま端末を開いて、スクリーン上にデータを呼び出した。 | |||
アントニーナ | やっぱり……地底と比べて、エントロピーの電気信号が強まってますね。 | ||
アントニーナ | エントロピーは電気信号を通じて、上下の樹状ネットワーク構造を維持しています。上位の信号を見失うと、下位エントロピーの機動力は大幅に低下する。 | ||
ソル | え、待って、なにネットワーク?……ジョジョー? | ||
アントニーナ | つまり障壁は、電気信号を遮ることでエントロピー同士の連携を弱め、エントロピーの動きを抑えるためにあったわけか。 | ||
{教授} | 合ってるかな、タラナム? | ||
タラナム | ……優先レベルを判断、エントロピー制圧命令は研究機密保持より高位に位置する。最低限の情報を明示可能。 | ||
タラナム | その推測で間違いない。障壁の信号ジャミング機能は、エントロピーの制圧を目的としたもの。 | ||
タラナム | だがセクター内の施設が破壊されたためにオペランドは不足……障壁の効率は大きく低下…… | ||
{教授} | 逆に言うと、アドミンセンターの障壁コンソールが直りさえすれば、 セクターのオペランドを使って障壁の効率を上げられるわけだね。 | ||
タラナム | お前たちにそれが可能なら。 | ||
ソル | 「お前たち」ってね……オペランドを動かすのはそっちなんだからね!しっかり働いてもらうよ! | ||
タラナム | ……論理上は可能、試す価値はある。 | ||
ソル | よし!よくわかんないけど、ここを出てアドミンセンターで障壁を強化すれば、エントロピーどもを倒せるってことだね? | ||
ソル | これで次の目標が決まったね!さっすが教授とアンナ! | ||
ペルシカ | そうとわかれば急ぎましょう。観測所付近のエントロピーが増え続けています。しかも、エントロピー液に汚染された地面からはダメージを受けてしまう。 | ||
ペルシカ | ここを素早く突破する方法を考えないと! | ||
タラナム | それなら手伝える、津波を使う。 | ||
ソル | おおっ!けっこー積極的なんじゃん! | ||
タラナム | ……今はオペランドが足りない、30秒が限界。 | ||
ソル | 30秒? | ||
ソルは鞘から剣を抜いた。刃の炎が燃え上がる。 | |||
ソル | それだけあれば、楽勝楽勝!だよね、教授? | ||
(選択) | 1.そうだね。成功するかどうかは君にかかってるよ、ソル。 | A | |
2.もちろん!すべて私の計画通りだ! | B | ||
3.ああ。 | C | ||
A | ソル | よっしゃッ!あたしにどーんとまかせて!どうすればいい、教授? | C |
B | ソル | あっはは、やっぱりね!そうだろうと思ったよ! | C |
C | {教授} | ソル、道を切り開けるのは君だけだ。まず津波でエントロピーを押し流す。 エントロピー液が再び充満する前に、敵の包囲を突破するんだ。 | |
ソル | あっは!めっちゃカッコいいじゃ~ん! | ||
アントニーナ | 本気ですか、教授? | ||
アントニーナ | まぁ、それしかなさそうですね……エントロピーがこれ以上増える前に…… | ||
ドレーシー | 心配いりませんよ、アンアン!教授がついてるんですから! | ||
アントニーナ | ア、アンアン……? | ||
ソル | そうそう、ドレレンの言う通り!あたしたちを信じなよ、アンナ! | ||
{教授} | 準備はいいか? | ||
タラナム | 許可は下りた、10秒後に津波が発動する。 | ||
ソルは屋上の端に立ち、二振りの剣を握りしめた。 他のメンバーも彼女に続いて、戦いの準備を整える。 | |||
タラナム | 9、8、7…… | ||
ソルは足元に群がる、おびただしい数のエントロピーに目を向けた。 彼女が一瞬目を閉じたのを私は見過さなかった。 やがてソルは目を背けたい衝動を抑え、前方の敵を見据えた。 | |||
タラナム | ……3、2、1。起動。 | ||
刹那、巨大な波と化した海水が襲来し、 完全に無防備だったエントロピーたちをてんでんばらばらに押し流した。 地表を覆っていたエントロピー液も一掃され、一時的に安全地帯が出来上がる。 | |||
ソル | 行くよッ!! | ||
ソルは大声で叫ぶと、屋上から颯爽と飛び降りた。 二つの刃が大地へと振り下ろされ、凄まじい火花がほとばしる。 荒波に翻弄されるエントロピーたちが吹き飛ばされたことで、一面に広い空間が生じた。 | |||
アントニーナ | やりました!私たちも早く! | ||
アントニーナがオペランドで地面にバッファリング障壁を構築すると、 私たちは屋上から次々と飛び降りていった。 | |||
ソルは二本の剣を振り回し、立ち塞がるエントロピーたちをことごとく斬り伏せてゆく。 ペルシカはオペランドでソルを援護。 ドレーシーの尻尾から放たれる眩しい光が、シールドとなって私たちを包み込んだ。 | |||
ペルシカ | いい調子です!エントロピーのいない高所を目指しましょう! | ||
タラナム | そろそろ時間だ。 | ||
タラナムは津波でエントロピーとその液体を押し流したあと、 敵の援軍を岸に近づけないよう、波の方向をコントロールし続けた。 30秒はもはや目前となった。潮が退けば、さらに多くのエントロピーが押し寄せてくる。 | |||
ソル | イケる!あと少しで感染エリアを抜けるよ! | ||
私たちはソルに続いて波の上を進んだ。安全地帯は目と鼻の先にある。 弱々しく息を切らしたタラナムが、列から何度もはぐれてしまいそうになる。 | |||
ソルは前方にいた最後のエントロピーを真っ二つにすると、 剣を素早く収め、部隊の最後尾にいたタラナムのもとへ駆けつけた。 | |||
タラナム | お前…… | ||
ソル | 何やってんだ、早く走れ! | ||
タラナム | …… | ||
タラナムは何も言わずにソルの手を握った。 二人は潮が完全に退ききる直前に、私たちと合流した。 | |||
ソル | はぁ、はぁ……ほ、本当に成功した……! | ||
アントニーナ | さっきまで自信満々だったくせに…… | ||
ソル | 始まる前にしょげてどーすんのさ、そりゃ虚勢も張るよ。 | ||
ソル | さてと、アドミンセンターに向かおう!ついて来て! | ||
アントニーナ | 待ってください。アドミンセンターのエントロピーの数は生態観測所よりも多いはず。事前に準備を整えるべきです。 | ||
アントニーナ | さっきは津波が使えましたが、今度ばかりは…… | ||
タラナム | 気象ステーションに向かう。 | ||
ソル | 気象ステーション? | ||
ペルシカ | オアシスの天候シミュレーターに似た施設でしょうか。 | ||
タラナム | そう。そこにある天候シミュレーターなら、天災を自在に生み出せる。それも無限に。 | ||
ソル | うっは……無限に!?すごいじゃん! | ||
ペルシカ | 場所はどこです?エントロピーに囲まれてないといいのですが。 | ||
タラナム | (α 46.32、β 65.91、γ 24.35)。先ほどのセキュリティ映像によれば、エントロピーは少ない。 | ||
ペルシカ | ……教授、私に行かせてください。 | ||
ペルシカ | 天候シミュレーターの操作方法は熟知しています。私なら、そこから皆さんをサポート可能です。 | ||
アントニーナ | アドミンセンターで戦うチームと、天候シミュレーターを操作するチーム……二手に分かれるのは良い考えですね。 | ||
アントニーナ | でもあなた独りじゃ危険です。せめてソルさんを…… | ||
ペルシカ | ソルさんは作戦に欠かせない戦力、皆さんとアドミンセンターに向かうべきです。今のところ天候シミュレーターはターゲットにされていません。私の事なら心配いらないですよ。 | ||
{教授} | ドレーシーさん、ペルシカに同行してくれないか? | ||
ペルシカ | 教授…… | ||
ペルシカは私に目配せした。 | |||
ペルシカ | ……信じてくださって、ありがとうございます。 | ||
ドレーシー | こんなに早く教授とお別れだなんて……心残りですけれど、仕方ありませんね。きっと教授なりのお考えがあるのでしょう。 | ||
ドレーシー | 必ず任務を遂行してみせます。教授、あなた方もお気をつけて。 | ||
{教授} | ソル、私とアドミンセンターに向かおう。それとアントニーナとタラナムも。 君たちにはコンソールの操作を手伝ってもらいたい。 | ||
ソル | まっかせて! | ||
アントニーナ | でも本当にいいんですか?もし二手に分かれてる間に、デミウルゴスが障壁を突破したら…… | ||
{教授} | 心配するな。たとえそうなっても、切り札は残してある。 | ||
{教授} | 行っておいで、ペルシカ。何かあったら連絡を。 | ||
ドレーシー | あ、教授!待ってください! | ||
ドレーシー | あの、その、きょ、教授の……わ、わたしにも、教授の連絡先を教えて頂けませんか? | ||
ドレーシー | そうすれば、いつでも教授にご連絡できますし!つまりその、二手に分かれた時に…… | ||
{教授} | え?い、いいけど…… | ||
ドレーシー | ありがとうございます!わたし、大切にしますね! | ||
ドレーシーは私の通信コードを素早く記録すると、 まるで宝物を抱える子どものように、ほくそ笑みながらペルシカのもとへ走っていった。 私たちを見るペルシカの顔に、複雑な表情が浮かんでいる。 | |||
{教授} | ……ちゃんと任務に当たってくれると良いんだけど。 | ||
ソル | 教授、あたしたちも出発しよう! | ||
{教授} | ああ。前方の様子は? | ||
ソル | この道、前に通ったことあるよ。上り坂だから、ビーチのエントロピーはまだ登ってきてない。 | ||
ソル | でも津波の前に大勢のエントロピーがあっちに向かってた、戦いは避けられないと思う…… | ||
{教授} | さっきと同じように一気に駆け抜けよう。ペルシカたちがサポートしてくれる。 | ||
{教授} | ソルは引き続き前を頼む。アントニーナと私でタラナムを守るよ。 | ||
アントニーナ | ……わかりました。 | ||
簡単に陣形を定めたあと、私たちは淡い紫色の山路を進んだ。 もう後戻りはできない。 |