コプリー 標準 PART.19 合流

Last-modified: 2024-11-30 (土) 18:33:35

 ガシャンッ。
??……いってぇ……落ちてる時に、触覚センサー弱めといて正解だったな。
??ここは……
??真っ暗だ、それに不規則なデータブロックがあちこちに……
このセクター、地底にこんな空間があったのか?
末宵こちら末宵、アルカディア、応答せよ――
末宵繰り返す、アルカディア、応答せよ。
末宵……チッ、信号がジャミングされてる。
????……タベ、ル……!
 突如、触手が末宵に襲いかかる。彼はとっさにそれを躱した。
末宵な……!?
 末宵はとっさに転がると、長槍を地面に突き立て、素早く地中へと潜った。
デミウルゴス……■■?
 デミウルゴスは周囲を見渡した。
彼女からしてみれば、末宵は急に消えたも同然だった。
 末宵は静かに地中を進んでいる。
末宵(まさか潜地機能がここで役立つとはな)
末宵(あれは知性を持ったエントロピーだ、組織の判断は正しかったってことか)
末宵(死んだ魚みたいなアドミニストレーターに騙されたか……「ターゲット」の条件に見合うものは、ここにはなさそうだ)
末宵(けど、この状況はかなりマズいな……あ~、あいつに連絡するのマジでダルい……)
 末宵が通信の準備をしていると、
ふいに腕から地中の岩とは異なる柔らかい触感が伝わった。
末宵なんだ……?
 見れば、脈動する触手のような物体が彼の腕にまとわりついている。
次の瞬間、触手の表面が裂け、その隙間から鋭い牙が現れた。
末宵潜伏状態のエージェントまで識別できるのか!?
 末宵は即座に反応し、武器をふるい触手を断ち切った。
だが触手から生えた牙に腕を傷つけられてしまう。
 
デミウルゴスの声……ジユウ。
デミウルゴスの声タベモノ……コレノ、モノ。
末宵エントロピーの電気信号……直接脳に語りかけてくる……!?
末宵……メンタルが感染された。くそっ、迷ってる暇はないな……
末宵(他に突破口は……)
 末宵は長槍で攻撃を防ぎつつ、頭上を仰ぎ見た。
エントロピーギガッ――
末宵(くッ……どうりでオレを阻まないわけだ)
末宵(上の空間にもエントロピーがいる……何匹怪物を囲えば気が済むんだ!?)
末宵(救援信号に反応はなし……)
末宵(畜生……こんなところで倒れてたまるかよ!)
 追走劇は続いた。
感染が重症化するとともに、時間の流れを直感的に感じ取れなくなってゆく。
 ドォン!
地中の空洞から響いた爆発音が、混沌とし始めていた彼の意識を引き戻した。
 行く手を阻む岩は砕かれ、その隙間から暗い紫色の光が溢れ出す。
エントロピー
初塵動かないで、末宵。
 初塵は襲い来るエントロピーを突き刺した。
長槍のブレードが回転し、道を塞いでいた敵は岩石もろとも一気に砕け散った。
 空気中にあった二種類のノイズが瞬時に同化し、そして完全に消え去った。
残されたのは、途切れ途切れの叫び声だけだ。
末宵礼は言わない。
初塵あなたが生きてただけで十分。
末宵撤退ルートは?
初塵ついてきて。
 末宵は初塵に続いて、再び地中へと潜った。
 
初塵エントロピーを避けるために、少し遠回りするよ。体は大丈夫?
末宵お前の同情は必要ない。
初塵どうとでも言って。私に助けられた事実は変わらないから。
末宵チッ……
初塵末宵、怪我してる。オペランドはいる?
末宵白々しいな、オレに感染されたいのか?
 初塵は末宵の手をつかみ、彼にオペランドを送った。
初塵これでしばらくは足りるはず。
末宵礼は言わないからな。
初塵二回の否定、イコール肯定だね。
末宵お前な……ドレーシーはどうした?
初塵地上でトラブルがあったみたい、厄介なことになってる。
初塵それと言っておくけど……私がいなかったら、そんな無駄口を叩く元気もなかったはずだよ。
末宵……お前の勝ちってことにしてやるよ。
初塵任務はどう?
末宵アドミニストレーターに騙された、地下に「ターゲット」はいない。
初塵疑り深いあなたが騙されるなんて、向こうはなんて言ってたの?
末宵実験、エージェント。
初塵それだけ?他にはないの?
末宵今は長話できる情況じゃないだろ。
 末宵は頭上を指さした。
 岩窟の頂上では、黒紫色のエントロピーがひしめき合っている。
一部はまだドロドロした初期状態のままだ。
他の形態に進化したものも少なくないだろう。
末宵ピッチ上げてくぞ。
初塵待って、オアシスから通信。
末宵オアシス?お前、あいつらと接触したのか?
初塵……
初塵末宵、武器を持って。戦闘準備。
末宵……後で質問に答えてもらうからな。
 
 エントロピーとの戦いは難なく終了した。
末宵妙だな。ここのエントロピー、奥のヤツらより随分と弱い。
末宵……オアシスからの連絡と関係してんだろ?
初塵{教授}だよ、知ってるでしょ。
末宵オアシスの教授か。あいつの動向が耳に入らないほうがおかしいぜ。
初塵教授が障壁を起動したから、エントロピーの動きが弱まったの。
末宵障壁を起動できるってことは、アドミニストレーター権限がオアシスに渡ったってことか。
初塵そう。
初塵連絡によれば、地上はエントロピーで埋め尽くされてるって。セクターを離れるのもひどく困難みたい。
末宵フン……オレたちに、その教授とやらを手伝えって?
初塵他に手段はないもの。私たちは時間を稼ぐだけでいい。
末宵なんで?自分たちの身だけ守ってりゃいいだろ。
初塵それは、あなたが感染してるから。
末宵……
初塵上位エントロピー――デミウルゴスを倒すのを手伝って、ソースコードを手に入れなくちゃ。
末宵大げさだな。オレを見捨てれば済む話だろ。
初塵……
末宵どうってことねーよな?お前の常套手段なんだし。
初塵……オアシスを手伝うほうが賢明。任務を達成するには、あなたの力がいる。
末宵ふーん、勝手にすれば。
初塵今から教授の作戦通りに動くよ、地底のエントロピーは迂回する。
末宵わかったよ、さっさと行こうぜ。
初塵それから、気をつけてね。もう怪我はしないで。
 初塵は末宵の感染した傷口を指さした。
末宵チッ……わーってるよ。