ガシャンッ。 | |||
?? | ……いってぇ……落ちてる時に、触覚センサー弱めといて正解だったな。 | ||
?? | ここは…… | ||
?? | 真っ暗だ、それに不規則なデータブロックがあちこちに…… このセクター、地底にこんな空間があったのか? | ||
末宵 | こちら末宵、アルカディア、応答せよ―― | ||
末宵 | 繰り返す、アルカディア、応答せよ。 | ||
末宵 | ……チッ、信号がジャミングされてる。 | ||
???? | ……タベ、ル……! | ||
突如、触手が末宵に襲いかかる。彼はとっさにそれを躱した。 | |||
末宵 | な……!? | ||
末宵はとっさに転がると、長槍を地面に突き立て、素早く地中へと潜った。 | |||
デミウルゴス | ……■■? | ||
デミウルゴスは周囲を見渡した。 彼女からしてみれば、末宵は急に消えたも同然だった。 | |||
末宵は静かに地中を進んでいる。 | |||
末宵 | (まさか潜地機能がここで役立つとはな) | ||
末宵 | (あれは知性を持ったエントロピーだ、組織の判断は正しかったってことか) | ||
末宵 | (死んだ魚みたいなアドミニストレーターに騙されたか……「ターゲット」の条件に見合うものは、ここにはなさそうだ) | ||
末宵 | (けど、この状況はかなりマズいな……あ~、あいつに連絡するのマジでダルい……) | ||
末宵が通信の準備をしていると、 ふいに腕から地中の岩とは異なる柔らかい触感が伝わった。 | |||
末宵 | なんだ……? | ||
見れば、脈動する触手のような物体が彼の腕にまとわりついている。 次の瞬間、触手の表面が裂け、その隙間から鋭い牙が現れた。 | |||
末宵 | 潜伏状態のエージェントまで識別できるのか!? | ||
末宵は即座に反応し、武器をふるい触手を断ち切った。 だが触手から生えた牙に腕を傷つけられてしまう。 | |||
デミウルゴスの声 | ……ジユウ。 | ||
デミウルゴスの声 | タベモノ……コレノ、モノ。 | ||
末宵 | エントロピーの電気信号……直接脳に語りかけてくる……!? | ||
末宵 | ……メンタルが感染された。くそっ、迷ってる暇はないな…… | ||
末宵 | (他に突破口は……) | ||
末宵は長槍で攻撃を防ぎつつ、頭上を仰ぎ見た。 | |||
エントロピー | ギガッ―― | ||
末宵 | (くッ……どうりでオレを阻まないわけだ) | ||
末宵 | (上の空間にもエントロピーがいる……何匹怪物を囲えば気が済むんだ!?) | ||
末宵 | (救援信号に反応はなし……) | ||
末宵 | (畜生……こんなところで倒れてたまるかよ!) | ||
追走劇は続いた。 感染が重症化するとともに、時間の流れを直感的に感じ取れなくなってゆく。 | |||
ドォン! 地中の空洞から響いた爆発音が、混沌とし始めていた彼の意識を引き戻した。 | |||
行く手を阻む岩は砕かれ、その隙間から暗い紫色の光が溢れ出す。 | |||
エントロピー | ! | ||
初塵 | 動かないで、末宵。 | ||
初塵は襲い来るエントロピーを突き刺した。 長槍のブレードが回転し、道を塞いでいた敵は岩石もろとも一気に砕け散った。 | |||
空気中にあった二種類のノイズが瞬時に同化し、そして完全に消え去った。 残されたのは、途切れ途切れの叫び声だけだ。 | |||
末宵 | 礼は言わない。 | ||
初塵 | あなたが生きてただけで十分。 | ||
末宵 | 撤退ルートは? | ||
初塵 | ついてきて。 | ||
末宵は初塵に続いて、再び地中へと潜った。 | |||
初塵 | エントロピーを避けるために、少し遠回りするよ。体は大丈夫? | ||
末宵 | お前の同情は必要ない。 | ||
初塵 | どうとでも言って。私に助けられた事実は変わらないから。 | ||
末宵 | チッ…… | ||
初塵 | 末宵、怪我してる。オペランドはいる? | ||
末宵 | 白々しいな、オレに感染されたいのか? | ||
初塵は末宵の手をつかみ、彼にオペランドを送った。 | |||
初塵 | これでしばらくは足りるはず。 | ||
末宵 | 礼は言わないからな。 | ||
初塵 | 二回の否定、イコール肯定だね。 | ||
末宵 | お前な……ドレーシーはどうした? | ||
初塵 | 地上でトラブルがあったみたい、厄介なことになってる。 | ||
初塵 | それと言っておくけど……私がいなかったら、そんな無駄口を叩く元気もなかったはずだよ。 | ||
末宵 | ……お前の勝ちってことにしてやるよ。 | ||
初塵 | 任務はどう? | ||
末宵 | アドミニストレーターに騙された、地下に「ターゲット」はいない。 | ||
初塵 | 疑り深いあなたが騙されるなんて、向こうはなんて言ってたの? | ||
末宵 | 実験、エージェント。 | ||
初塵 | それだけ?他にはないの? | ||
末宵 | 今は長話できる情況じゃないだろ。 | ||
末宵は頭上を指さした。 | |||
岩窟の頂上では、黒紫色のエントロピーがひしめき合っている。 一部はまだドロドロした初期状態のままだ。 他の形態に進化したものも少なくないだろう。 | |||
末宵 | ピッチ上げてくぞ。 | ||
初塵 | 待って、オアシスから通信。 | ||
末宵 | オアシス?お前、あいつらと接触したのか? | ||
初塵 | …… | ||
初塵 | 末宵、武器を持って。戦闘準備。 | ||
末宵 | ……後で質問に答えてもらうからな。 | ||
エントロピーとの戦いは難なく終了した。 | |||
末宵 | 妙だな。ここのエントロピー、奥のヤツらより随分と弱い。 | ||
末宵 | ……オアシスからの連絡と関係してんだろ? | ||
初塵 | {教授}だよ、知ってるでしょ。 | ||
末宵 | オアシスの教授か。あいつの動向が耳に入らないほうがおかしいぜ。 | ||
初塵 | 教授が障壁を起動したから、エントロピーの動きが弱まったの。 | ||
末宵 | 障壁を起動できるってことは、アドミニストレーター権限がオアシスに渡ったってことか。 | ||
初塵 | そう。 | ||
初塵 | 連絡によれば、地上はエントロピーで埋め尽くされてるって。セクターを離れるのもひどく困難みたい。 | ||
末宵 | フン……オレたちに、その教授とやらを手伝えって? | ||
初塵 | 他に手段はないもの。私たちは時間を稼ぐだけでいい。 | ||
末宵 | なんで?自分たちの身だけ守ってりゃいいだろ。 | ||
初塵 | それは、あなたが感染してるから。 | ||
末宵 | …… | ||
初塵 | 上位エントロピー――デミウルゴスを倒すのを手伝って、ソースコードを手に入れなくちゃ。 | ||
末宵 | 大げさだな。オレを見捨てれば済む話だろ。 | ||
初塵 | …… | ||
末宵 | どうってことねーよな?お前の常套手段なんだし。 | ||
初塵 | ……オアシスを手伝うほうが賢明。任務を達成するには、あなたの力がいる。 | ||
末宵 | ふーん、勝手にすれば。 | ||
初塵 | 今から教授の作戦通りに動くよ、地底のエントロピーは迂回する。 | ||
末宵 | わかったよ、さっさと行こうぜ。 | ||
初塵 | それから、気をつけてね。もう怪我はしないで。 | ||
初塵は末宵の感染した傷口を指さした。 | |||
末宵 | チッ……わーってるよ。 |