ソル | 逃がしてたまるかッ!! | ||
---|---|---|---|
アントニーナ | ソルさん、戻ってください!深追いは危険です! | ||
ソル | ダメだ!今捕まえないと、次のチャンスがいつ―― | ||
……いつ巡ってくるかもわからない。そう言いかけたソルの目の前では、 エントロピーの波が浄化者に襲いかかろうとしていた。 | |||
ゲートを狙撃した後、エントロピーに逆襲されたウィズダムの姿が、 ソルの脳裏によぎる―― | |||
柄を握りしめていたソルは、ゆっくりと剣を下ろした。 | |||
ソル | そう、だね……アントニーナの言う通り、戻ろうか。 | ||
ソル | 今追うのは危険過ぎる。 | ||
{教授} | (ソル……) | ||
ラヴ | エントロピーがコプリーセクターより撤退。哨戒タワー、追跡を。 | ||
命令を下すと、ラヴはこちらに向き直った。 | |||
ラヴ | 浄化者の使命は果たしたわ、教授。約束通り、コプリーセクターのアドミニストレーター権限を渡しなさい。 | ||
ソル | えっ?約束?権限を、渡すって…… | ||
{教授} | 始めましょう。 | ||
ソル | ま、待って、教授!?アドミニストレーター権限を渡しちゃうの!?これはタラナムがあたしたちに…… | ||
ソル | ア、アンナ!なんとか言ってよ! | ||
アントニーナ | …… | ||
ソル | ……アンナ、知ってたの……? | ||
{教授} | アントニーナ、アドミンセンターの通信装置は使えそう? | ||
アントニーナ | 通信装置……?壊れてはいますが、修復に時間はかからないかと。 | ||
アントニーナ | 待ってください、まさか……浄化者に救援の要請を……? | ||
アントニーナ | 修復は終わりました……一つだけ聞かせてください。 | ||
アントニーナ | もし浄化者が我々異常エージェントを敵とみなし、殲滅してきたらどうするつもりです? | ||
アントニーナ | 私たちは確かに「ウィズダム」と協力していましたが、彼女は明らかにイオスフォロス一派です。 | ||
アントニーナ | もし今回、「フェイス」のような話の通じない中位浄化者が現れたら―― | ||
{教授} | アントニーナ、これは保険なの。 | ||
アントニーナ | …… | ||
アントニーナはそれ以上何も言わず、顔を背けた。 | |||
私はアドミニストレーター権限を使い、 浄化者の根城――リバベルタワーのチャンネルに接続した。 | |||
{教授} | こちらはコプリーセクターのアドミンセンター。 セクター内に大量のエントロピーが出現、支援を要請する。 | ||
??? | おろろ~~?この声、それにこの識別信号は…… | ||
??? | 久しぶりでおじゃるのぉ、オアシスの{教授}教授。 | ||
アントニーナ | お前は……ユーカリスト? | ||
ユーカリスト | いかにも、みんな大好きユーカリスト様でおじゃる。 | ||
ユーカリスト | そちはアンナでおじゃるな?噂は聞いておるぞ。 | ||
アントニーナ | 浄化者の戦闘報告から?ありえなくはない。 | ||
ユーカリスト | うきゃきゃきゃ……冗談はさておき。教授殿、先ほど何と?まろの支援が欲しいとな? | ||
ユーカリスト | ふ~む、手伝いたいのは山々でおじゃるが…… | ||
ユーカリスト | この情況をどう解釈したものか……陸に上がった河童かの?それとも、木から落ちた猿か? | ||
ユーカリスト | 見ての通り、まろの権限は奪われてしもうた。出来ることと言えば、オペレーター程度のものでおじゃる。 | ||
アントニーナ | 想像に難しくないな。 | ||
ユーカリスト | ぬぬぬぬ……なんとゆーヒドイ言い草!それもこれもエニグマでそちらを助けたせいでおじゃると申すに! | ||
ユーカリスト | あまつさえ恩を仇で返す始末……まろは悲しゅうおじゃる。それがチョコの大事なトモダチへの態度でおじゃるか!?おッよよよよ…… | ||
(選択) | 1.エントロピーの殲滅が浄化者の使命なんでしょ? | A | |
2.事が終わったら、あなたを助けにいくから。 | B | ||
A | ユーカリスト | 冷たい、冷たいでおじゃるぞ、教授!!! | C |
B | ユーカリスト | むほッ!ま、まことにおじゃるか!? | |
ユーカリスト | なーんての。噓は良くないでおじゃるぞ、噓は。教授の信用ポイントが1減ったでおじゃ~る~ | C | |
C | ユーカリスト | さてと、話を戻すでおじゃ。浄化者の敵はエントロピーのみにあらず……意味はわかるな? | |
{教授} | 取り引きをしましょう。 | ||
ユーカリスト | 取り引きィ?浄化者はそちらを獲物としか見ておらぬのじゃぞ。そんな相手と取り引きとな? | ||
{教授} | あなたに連絡が取れた、即ち――私たちにはコプリーのアドミニストレーター権限がある。 | ||
{教授} | この権限を浄化者に渡してもいい。 | ||
アントニーナ | なんですって!? | ||
ユーカリスト | ほほぉ。浄化者がその権限を欲しがると? | ||
{教授} | アンジェラスの私たちへの態度からして、そうだと思うな。 | ||
{教授} | あなたが責任を負いたくなければ、この権限を匿名メッセージにして送り出すつもり。 いずれ誰かが応じるでしょ。 | ||
ユーカリスト | なーるへそ、用意周到でおじゃるの。さすがは教授殿、下位浄化者をイジめるのが日課なだけはある! | ||
ユーカリスト | くふふふ……かまわぬ、要請には応じてやろうぞ。浄化者が到着するまで、せいぜい持ちこたえるがよい。 | ||
ラヴ | それでは、約束通り―― | ||
ラヴ | 【権限移譲プロセス開始、休戦命令有効化】 | ||
ラヴ | 【異常エージェントは1800秒以内に、速やかにコプリーセクターを離脱せよ】 | ||
ラヴ | 【その間、浄化者による異常エージェントへの攻撃は禁じられる】 | ||
(選択) | 1.【取り引き開始】 | D | |
D | ラヴ | ……あなた方の、マグラシアへの貢献に感謝するわ。 | |
ラヴは私たちにお辞儀をした。 | |||
ソル | まさか中位浄化者が来るとはね。 | ||
アントニーナ | 彼女はユーカリストの命令に従ったまででしょうね。 | ||
アントニーナ | 与えられた情報以外は、何も話そうとしませんし。 | ||
ラヴ | 浄化者の決断を忖度しないでもらえる? | ||
ソル | 教授もダイタンすぎるよ、協力するのはヤブサカじゃないけどさ……ウィズダムの事もあったし…… | ||
{教授} | これは保険の一つよ。 | ||
アントニーナ | ええ、それも全滅するリスクを伴った、ね。 | ||
{教授} | 自信があったの、ユーカリストが間にいるからね。 | ||
{教授} | 通信を受け取ったのがユーカリストでなければ、 イオスフォロスの部下を呼ぶよう誘導するつもりだった。 | ||
アントニーナ | ……たとえ理解はできても、浄化者内部の派閥を利用した、その行為を認めるわけにはいきません。 | ||
アントニーナ | 人間の手段、人間の考えは、あまりにも複雑で混沌としすぎる。 | ||
アントニーナ | まさに綱渡りですよ。一歩間違えれば、我々全員の生命はありません…… | ||
ソル | あはは、だからさっきから教授にそっけなかったんだ。 | ||
ソル | でも、教授の判断はいつだって正しかったじゃん。細かいことは気にしない! | ||
アントニーナ | もとより教授。なぜ浄化者との連絡に私を居合わせたんです? | ||
E | (選択) | 1.通信設備を修理してほしかったの。 | F |
2.あなたに信頼してほしかったから。 | G | ||
F | アントニーナ | よしてください。アドミニストレーター権限があれば、通信なんてあなた一人でも十分可能でしょう。 | E |
G | {教授} | 反対されるだろうとは思ってた、だからあなたを欺きたくなかったの。 | |
アントニーナ | なるほど?私のほうが感謝するべきでしたね? | ||
{教授} | 道はまだ長いのよ、一致団結しないでどうするの。 | ||
アントニーナ | チッ…… | ||
ラヴ | オアシスの皆さん、速やかにここを立ち去りなさい。 | ||
ラヴ | じきに本セクターは封鎖され、データの削除を…… | ||
ソル | おい、浄化者!ウィズダムはどうした? | ||
ラヴ | 繰り返すわ。オアシスの皆さん、速やかにここを立ち去りなさい。 | ||
ラヴ | 1650秒以内に立ち去らなければ、強硬手段に出るわよ。 | ||
ソル | はん?仲間の情況すら教えられないってのか? | ||
アントニーナ | 行きましょう、ソルさん。方法は他にあるはずです。 | ||
ソル | ……わかったよ、行こう。 | ||
海水の逆流が止まった。しばらくして、二つの人影が海面から顔を出した。 | |||
末宵 | 待った、エントロピーの信号がまだある。気をつけろ。 | ||
初塵 | デミウルゴスは死んだってドレーシーが言ってた。 エントロピー液の影響がまだ残ってるんだよ、きっと。 | ||
初塵 | ……それと、彼女のデータも。 | ||
初塵の言う通り、デミウルゴスのデータは依然としてセクター内に漂っていた。 生き物の亡骸のように、音もなく浜辺に座礁している。 | |||
初塵 | 空はニセモノだけど、こうして見ると、今にも夕陽に燃やされてしまいそう。 | ||
初塵 | 彼女は、夢にまで見た光を手に入れた。 稼働停止する前に、欲しかった自由は得られたのかな? | ||
末宵 | 死んじまったら、自由なんて何の意味もないだろ。 | ||
初塵 | 返事してくれるなんて、珍しいね。 | ||
末宵 | こっちは行動モジュールがピンチなんだぞ、モンスターを哀れんでる場合か。 | ||
初塵 | 浜辺まで少し距離があるね。私が連れてってあげようか? | ||
末宵 | いい、自分でできる。 | ||
ドレーシーとペルシカは気候ステーションを離れ、ビーチで私たちと合流した。 | |||
ドレーシー | 教授!またご一緒できて嬉しいです! | ||
ドレーシーが近づいてこようとする横で、ふいにペルシカがよろめいた。 とっさに彼女を支えたソルの行動が、図らずもドレーシーを阻んだ。 | |||
ソル | 大丈夫、ペルシカ?フラフラじゃん! | ||
ペルシカ | オペランドを消費しすぎたせいです。皆さんがご無事で本当に良かった…… | ||
アントニーナ | ドレーシーさん、仲間の初塵さんと末宵さんがまだ戻っていないようです。探すのを手伝いましょうか? | ||
ドレーシー | それでしたら、初ちゃんとは連絡がつきました。もう浮上してるみたいですよ、すぐに合流できるかと。 | ||
ソル | あっ!海から誰か来る! | ||
ドレーシー | 初ちゃんと末くんだ!あぁ……末くんの様子が……迎えてあげなくちゃ。 | ||
ソル | あたしも手伝うよ! | ||
初塵の傍にはもう一人の人形がいた。痩せていて顔色は悪いが、背筋はまっすぐだ。 | |||
末宵 | あんたが教授か。初めまして、オレは末宵。 | ||
末宵 | 握手は遠慮しとくよ、今のオレには触れないほうがいいからね。 | ||
彼は腕を出し、エントロピー化の著しい傷跡を見せた。 | |||
アントニーナ | 中程度までエントロピー化が進んでいますね。オアシスでなら治療できますよ、いかがです? | ||
末宵 | …… | ||
ドレーシー | あ、ありがとうございます、アンアン!でも、そろそろ戻らなくちゃ。 | ||
ドレーシー | その……デミウルゴスのソースコードを手に入れたんですよね?よかったら、コピーを頂けませんか?そうすれば、わたしたちでも治療ができます。 | ||
ドレーシーは尻尾を揺らしながら私を見た。どうにもこの視線には抗えない。 | |||
{教授} | もちろん。 | ||
ソル | 末宵……だっけ?あんた、本当に大丈夫なの?顔、真っ青だよ? | ||
末宵 | 平気だ、心配いらない…… | ||
末宵 | ……!? | ||
? | キッ! | ||
ふいに末宵がよろめく。とっさに初塵が支えたことで、彼は完全に倒れずに済んだ。 | |||
初塵 | 無理しないで、もうずいぶんと弱ってる。 | ||
末宵 | 違う、勝手に決めるな。何かがぶつかったんだ。 | ||
ソル | あっ……海の中に何かいる! | ||
ソルが剣を抜いた瞬間、海中から何かが飛び出し、 電光石火の勢いでアントニーナに襲いかかった―― | |||
アントニーナ | ……うっ!避けきれない…… | ||
小さなエントロピー | キキーーッ! | ||
メンバーの見つめる中、難を逃れたエントロピーはアントニーナに接近し―― | |||
その触手という触手を使って、彼女の足にまとわりついた。 | |||
アントニーナ | え……えっ!? | ||
ソル | アンナから離れろ! | ||
アントニーナ | ま、待ってください……この子……私のオペランドを奪う気はないようです。 | ||
ソル | えっ?靴下のせいで吸い取れないのかな? | ||
アントニーナ | くだらない冗談は結構。 | ||
アントニーナは小さなエントロピーを足から引っ剥がした。 エントロピーはまるで抵抗せずに、今度は触手を使ってアントニーナの腕にくっついた。 | |||
アントニーナ | この状態でも、オペランドを吸収しませんね。 | ||
ソル | なにそれ、冗談とか言って試してるじゃん…… | ||
ペルシカ | これは……デミウルゴスがずっと抱いていた、エントロピーの幼体では? | ||
ドレーシー | あっ、言われてみれば確かに!しっかりと守られてたおかげで、浄化者の目をごまかせたのかも。 | ||
初塵 | デミウルゴスは、自分の子どもだと思ってたのかもね。 | ||
末宵 | また妄想か。いちいち人間の感情に当てはめるな、こいつはエントロピーだぞ。 | ||
ペルシカ | 研究サンプルとして、この子を引き取ってもいいかもしれませんね。 | ||
ペルシカ | さしあたってはアントニーナさんに懐いているようですし。教授、どう思われます? | ||
(選択) | 1.危険過ぎる。 | H | |
2.いいね。 | I | ||
H | アントニーナ | 一時的に保護するのには賛成です。変化のないソースコードよりも、成長し続ける生体サンプルのほうが研究には役立ちますから。 | |
アントニーナ | 教授、連れて帰りましょう。 | ||
ソル | ほら、専門家のアンナがそう言ってるんだよ。こいつを持って帰れば早く研究が済んで、すぐにクロックたちを元に戻せるかもしれない! | ||
断る余地はなさそうだ。 | I | ||
I | 末宵は黙っている。ドレーシーは初塵と素早く視線を交わした。 | ||
ドレーシー | オアシスに託すのも、悪くないですね。 | ||
初塵 | よく見ると、結構かわいい…… | ||
ソル | 攻撃できるのかな。つついてみてもいい? | ||
小さなエントロピー | キッ!! | ||
ソル | え、アンナしかダメなの……?エントロピーまで差別すんの!? | ||
アントニーナ | 腕がネバネバのベタベタになってもいいなら……お譲りしますよ? | ||
末宵はふざけた討論には加わらず、まっすぐ私の傍へとやってきた。 | |||
末宵 | どっからツッコめばいいやら…… | ||
末宵 | 教授、あんた、こんなこと許していいのかよ? | ||
{教授} | オアシスでは多くのエージェントがエントロピーに感染している。 ソースコードを手に入れはしたけど、生体サンプルがあればより心強いはずよ。 | ||
末宵 | 仲間のためにね……ふーん。 | ||
末宵 | ……教授、一つ聞かせてくれ。 | ||
末宵 | オアシスとはなんだ?あんたらは、何のために戦ってる? | ||
(選択) | 1.この災いの禍根を探し出すためよ。 | J | |
2.マグラシアからエージェントたちを助け出すためよ。 | K | ||
3.あなたには教えられない。 | L | ||
J | 末宵 | なるほどな、幸運を祈るよ。 | M |
K | 末宵 | 現実のほうがいいっての?賛同しかねるな。 | M |
L | 末宵 | 言いたくないなら、別にいいさ。 | M |
M | 末宵 | オアシスと庇護者の目指すものは違うけど…… | |
末宵 | オレの目的は……少しだけあんたと似てる。 | ||
末宵 | 時が来れば、また協力し合うこともあるだろう。 | ||
(選択) | 1.期待してる。 | N | |
2.そうは思わない。 | N | ||
N | 末宵 | そんじゃ、ここでお別れだ。 | |
追放者たちの背中を見送った後で、末宵たちもその場を離れた。 | |||
クラウドにシュミレートされた日光はひときわ眩しく、 末宵は無意識に手のひらで光を遮った。 そしてふりかえり、追放者たちの去っていった方を見つめる。 | |||
ドレーシー | デミウルゴスを見てるんですか、末くん? | ||
末宵は視線を逸した。 | |||
末宵 | 別に。この先のルートを見てただけ。 | ||
末宵 | 合流したからには作戦を続けるぞ。最優先命令を―― | ||
そこまで言うと、末宵は急に倒れた。 | |||
ドレーシー | 末くん!? | ||
初塵 | 今は休ませてあげよう。 | ||
初塵は末宵を支え、傍にあった木に寄りかからせた。 | |||
末宵 | 10分もあれば十分だ、すぐに出発するぞ。 | ||
初塵 | うん。庇護者の任務はまだ終わってない。 でもその前に、ソースコードを持って帰って一旦休憩しよう。 | ||
末宵 | ……わかった。 | ||
末宵は視線を再び遠くに向けて、自嘲するかのように笑った。 | |||
末宵 | ……すべては、【アルカディアのために】、か。 |