コプリー 標準 PART.3 障壁

Last-modified: 2024-12-03 (火) 17:08:54

 いくつもの奔流が激しく入り乱れ、くぐもった耳鳴りが聴こえる。
体勢を整えようとしたが上手くいかず、暗流に捕らわれたまま、
暗闇へと引きずり込まれてゆく。堕ちる……堕ちる。明るい海面がいよいよ遠のく。
 
 洞穴の下は巨大な空洞となっていた。冷たい空気が皮膚に触れる。
とっさのことに反応できず、私は地底の水溜りへと落ちた。
 一縷の光を呑み込むようにして、頭上の岩が重たい音を立てて閉じる。
 
{教授}……
 水溜りは深くない、顔を水面に出した状態でも足がつく。
 ひとしきり模索した後で、私は水溜りの淵へとたどり着いた。
 仄暗い環境に、だんだんと目が慣れて来る。
やがて私の前に、巨大な地底洞窟がはっきりと姿を現した。
私は周囲を見渡した。アントニーナの姿はない。
 
(選択)1.名前を呼んでみる。A
2.あたりを探してみる。B
A{教授}アントニーナ!どこにいるの、アントニーナ――
 声は洞窟の中を駆け抜け、何層ものこだまとなって返って来た。
 数秒後、彼女の声が聞こえた。
アントニーナ……教授、どうしてここに……
 声をたどると、すこし離れた場所の岩の上に、小さな影を見つけた。
アントニーナこの障壁をハッキング中です。教授、ご自分で上がって来てください。
{教授}障壁?ここに障壁があるの?
{教授}……見えた、数分だけ待って。C
B 地底の情況はわかっていない。
私はむやみに声を出さずに、アントニーナを目で探した。
 洞窟内はがらんとしている。
ほんの少し視線を巡らせただけで、少し離れた場所の岩の上に人影を見つけた。
周囲をたゆたう緑色のスクリーンからして、アントニーナに違いない。
{教授}アントニーナ?あなたなの?
アントニーナ……教授?私です。
{教授}どうしてそんな場所に?上に何かあるの?
アントニーナここには障壁が張られています。今、ハッキングを試しているところです。
{教授}そっちに行く、数分だけ待って。C
C 
 数分後。
 アントニーナのいる岩は、そう高くはないように思えた。
しかし実際に登ってみると、下とはかなりの高低差がある。
{教授}結構険しいね……どうやって登ってきたの?
アントニーナちょっとしたコツがあるんですよ。
アントニーナ本当に数分で登ってこれるとは意外ですね。てっきり見栄を張っていたのかと。
(選択)1.私なんて、か弱い研究員に過ぎないよ。D
2.学術研究に身体トレーニングは欠かせないよ。教授になれたのも、そのおかげ。D
Dアントニーナ……話が過ぎました。
アントニーナそれで、どうして来たんです?
(選択)1.あなたを放っておけなくて。E
2.誤って落ちて来ちゃったの。F
Eアントニーナこの際、綺麗ごとは結構です。G
Fアントニーナあなたがそんなミスを?ありえない。G
Gアントニーナまったく……でまかせのプロに訊いた私がバカでした。
アントニーナこれを見てください、教授。
 私はアントニーナに近づいた。ふと、緑色のスクリーンに照らされる彼女の身体から、
ゆっくりとオペランドが零れているのに気づく。
{教授}待って、怪我してるの?
{教授}何かに襲われたんじゃ……
アントニーナま、そんな所ですね。口で言うのは面倒です、この岩を攻撃してみてください。
(選択)1.戦術スキルを使う。H
2.アントニーナに攻撃させる。I
3.……J
H 戦術スキルの光が瞬き、上の岩から小さな音が聞こえた。
 次の瞬間、攻撃を当てた岩が微かに発光し、
私の腕にナイフで切りつけられたかのような痛みが走った。
{教授}……この岩、反撃するの?
アントニーナそう、私たちの攻撃を反射するんです。それもごく短時間で。
{教授}なんで教えてくれなかったの?
アントニーナ何事も試したほうが早いでしょう?K
I{教授}アントニーナ、やっぱりお願い。
アントニーナ仕方ありませんね……
 そう言って、彼女は小走りに私から遠ざかった。
{教授}なぜそんな遠くに?
アントニーナすぐにわかりますよ。
アントニーナDDoS攻撃、開始!
 
 アントニーナの攻撃が闇へと吸い込まれた。岩は動かない。
 だが次の瞬間、攻撃が当たった岩が微かに発光し、
オペランドが私へと襲いかかって来た。ふいに目の前が暗くなる……
 
アントニーナ……授……教授?大丈夫ですか?
目を覚まさないようなら、物理的に叩き起こしますよ。
{教授}ま、待って!起きたから……さっきのはなに?
アントニーナ岩が私の攻撃を反射して、あなたに命中したんです。
アントニーナどうです?私がなぜ怪我したのか、おわかり頂けましたか?
{教授}アントニーナ……わざとじゃないよね?
アントニーナそんなまさか~!アントニーナはぁ、世界でいっちばん信頼できるネットワークエンジニアなんだからね~?K
Jアントニーナどうしました、教授?試してみないんですか?
{教授}怪我をしてるあなたが、私にあれを攻撃させるなんて……
あなたのことだもの、おおかた攻撃を跳ね返しでもするんでしょう。
アントニーナチッ、騙されなかったか。
アントニーナええ、そういうことです。K
Kアントニーナこのセクターの海底岩は、特殊なオペランドで構成されていて、恐ろしく高密度なんです。
アントニーナペルシカさんとの通信を試みましたが、失敗しました。おそらく、ここの緻密な構造が信号を遮断しているんでしょう。
{教授}つまり、この障壁の脆い箇所を見つければ、
ペルシカたちと連絡できるようになるの?
アントニーナ理解が早くて助かります。当然、そんな箇所があればの話ですけど。もし見つけられたら、すぐにでもここから出してあげますよ。
アントニーナ外と通信するには二つに一つ。脆弱性を見つけるか、岩が再び開くのを待つか……
アントニーナ通信を試みてきましたが、脆弱性は一向に見つかりません。そこで、障壁に穴を開けようと思ったら、このザマです。
{教授}地底は何度か訪れてるけど、こんなこと初めて。
{教授}このセクター特有の機能なのかな?
アントニーナまさか。セクターの機能だったら、岩に偽装させる理由がありません。
アントニーナ本来、セクターは目的や用途に応じてデザインされます。信号をジャミングし反撃する機能を持つセクター、これはまるで……
{教授}まるで、閉じ込めた何かを逃がさないようにしているみたい。
アントニーナその通りです。まぁ、ハッキングを通じて私たち二人分の通り道は確保できそうですが、今はそんな時間もありませんし。
アントニーナそれと、もう一つ。
{教授}オディールの信号ね?
アントニーナわかってるのなら話は早い、説明は不要ですね?
{教授}だったらなんでオディールを追わずに、こんな所で壁を研究してたの?
アントニーナマジでムカつくな、こいつ……
アントニーナオディールの信号に強力なジャミングがかかってるんです。
アントニーナ今のままじゃ、相手との距離はぼんやりとしかわかりません。
アントニーナまぁ、収穫がないと言えば嘘になりますけど。
 私は海底で見た、おぼろげな紫色の液体を思い出していた。
{教授}エントロピーだね?
アントニーナなるほど、私は猫なで声でその賢さを称えるべきですかね?
(選択)1.悪い気はしないな。L
2.うん、と言いたいところだけど、そんなことをしてる場合じゃない。M
Lアントニーナよしましょう、今はそんなことしてる場合じゃありません。N
Mアントニーナよくわかってるじゃないですか。N
N アントニーナは端末を素早く操作した。
スクリーンにあるいくつもの赤い点が、ゆっくりと集束し始める。
アントニーナ来ました。
 アントニーナの言葉を裏づけるかのように、あたりに奇妙な音が響いた。
べたついた柔らかな物体が岩を這うかのような。あるいは濡れそぼった生き物が、
足を引きずって近づいてくるかのような、そんな音だった。
 地底のわずかな光を頼りに、私たちは近づいて来るものに目を凝らした。
特定の形を持たないそれは、殻を失った軟体動物のようにも見える。
アントニーナコードからして、エントロピーの一種ですね。
 1匹、2匹、3匹……何体ものエントロピーが暗闇に隠れている。数はわからない。
アントニーナ捕えることができれば、ここのエントロピーの情報が手に入ります。
アントニーナですが、敵の増援によっては、私たちに逃げ場はないでしょうね……
アントニーナどうします、教授?
{教授}作戦準備。