ドレーシー | それでそれで?教授はその後どうしたんですか? | ||
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ドレーシー | その見知らぬ人形を仲間にしたんですか?それとも断った?いったいどうなったんです? | ||
小さな並木道にて、ドレーシーは楽しげに二人の前を歩き、 背後の尻尾を上下に揺らし続けている。 | |||
ドレーシー | 教えてくださいよ、ペルルン! | ||
ペルシカ | えっと……その後……その後、教授は…… | ||
彼女の熱意に押され、ペルシカは教授にまつわるエピソードを途切れ途切れに語った。 | |||
だが用心深いペルシカは、肝心な情報は必ず伏せていた。 | |||
ドレーシー | えーーっ!そんな方法で!? | ||
ドレーシー | なんて立派なのかしら……なんて感動的なのかしら!うぅぅぅ……さすがは教授! | ||
ドレーシー | あのセクターで、そんなに素晴らしい出来事があったんですね…… | ||
ドレーシーは指を折って、ペルシカの話したエピソードを数えた。 | |||
ドレーシー | ロッサム、キュクロプス、ヘリオス……こんなに短い間に3つもセクターを攻略してしまうなんて! | ||
ドレーシー | やっぱり……噂通り教授は偉大な方だったんですね!さっそく記録しておきませんと! | ||
ソル | おっ、わかってるね~!教授って、めちゃくちゃスゴイんだから! | ||
ペルシカ | はぁ……あれだけ話したのに、まだ聞き足りないなんて…… | ||
ソル | ペルシカ、気をつけなよ。 | ||
ペルシカ | な、何をです? | ||
ソル | このままじゃ、あの子が先に「教授語録」を出版しかねな……どぅぉわっ! | ||
ドレーシー | ペルルン!記録完了しました~~っ!もっとも~っと、お願いできますか!? | ||
ペルシカ | えっ……?ま、まだやるんですか……? | ||
ドレーシー | はぁい!次はエニグマでのエピソードを聞かせてくださいっ! | ||
ペルシカ | ド……ドレーシーさん……教授にお会いしたことは? | ||
ドレーシー | へっ?ありませんけど? | ||
ペルシカ | ほ、本当に……? | ||
ドレーシー | もちろんです! | ||
ペルシカ | ならなぜ、そこまで教授に……その……熱心というか…… | ||
ドレーシー | そんなの決まってるじゃないですか!わたし、人形を大切にする人間の方が、 大大大、大好きなんです~! | ||
ドレーシー | し・か・も、クラウド上で人形を率いてるだなんて、 もっとも~っと好きになっちゃいました♥ | ||
ペルシカ | ……うぅっ! | ||
ペルシカ | あとで……教授にきちんと確認しないと…… | ||
ソル | ペルルン、ドレレン、着いたよ! | ||
ペルシカ | た、助かった…… | ||
ドレーシー | え~~?まだ聞き足りないのに~…… | ||
ソル | はいはい、続きはあとでペルシカに話してもらいなよ。 | ||
ドレーシー | ちぇ……は~い、わかりました、ソルルン隊長。 | ||
ペルシカ | ありがとうございます、ソルさん……お優しいんですね…… | ||
ソル | へへへ、ペルシカにも苦手なタイプっていたんだね。 | ||
ソル | どーもー!誰かいるーー? | ||
ソル | な、なんか、静かだよ? | ||
ペルシカ | 変ですね。アドミニストレーターは、めったに仕事場を離れないはずですけれど。 | ||
ソル | まさか、遅かった!? | ||
ペルシカ | どうでしょう、エントロピーの痕跡はありません。そう判断するのは時期尚早かと。 | ||
ペルシカ | もしかしたら、ウィルスを見て逃げ出したのかもしれませんね。 | ||
ソル | そっか……とりあえず中を探そう。 | ||
ドレーシー | わたしにまかせてください、こういうのは得意なんです!見ててくださいね。 | ||
ドレーシーはそう言って、データケーブルで構成された尻尾をいくつかに分散させ、 誰もいない廊下の先へと伸ばした。 | |||
ソル | そんなことまで出来ちゃうの!? | ||
ドレーシー | ふっふっふ……何を隠そう、わたしの十八番ですから。 | ||
ドレーシー | その名も――テイルリサーチの術! | ||
ソル | そのまんまやんけ…… | ||
しばらくして、ドレーシーは尻尾を元に戻した。 | |||
ドレーシー | うーん……建物内には誰もいませんね。 | ||
ペルシカ | 地下室がある可能性は? | ||
ドレーシー | もしあったら、そのうち地下室から這い出て来たりして…… | ||
ソル | ヒッ……や、やめてよ!アドミニストレーターをゾンビみたいに…… | ||
??? | …… | ||
ソル | ギャアアアアアアア! | ||
ドレーシー | あら……本当に出て来ちゃいました…… | ||
ペルシカ | あなたが……アドミニストレーター? | ||
??? | …… | ||
ソル | ど、どっから出てきたの!? | ||
ペルシカ | いきなり現れたわけではなさそうです。いつの間にか背後に立っていたというだけで…… | ||
ソル | 余計コワいんだけどぉぉ!? | ||
ソル | はッ……!だ、だめだ……しっかりしろ、ソル……! | ||
ソル | おいこら!アドミニストレーター……さん? | ||
ソル | 何か言ったらどうなのさ!? | ||
??? | ……外のエージェント……ここにいるべきじゃない。 | ||
ドレーシー | あ、喋りましたね。 | ||
??? | 早く立ち去れ。 | ||
ソル | 待って、あたしたちがここにいるのは理由が……! | ||
??? | 早く立ち去れ。 | ||
ソル | うぅ……し、仕事の邪魔したんなら謝るけどさ、あたしたちホントに…… | ||
??? | 早く立ち去れ。 | ||
ソル | うわぁ……やばい。ヘリオスに続いて、ここにもアホミニストレーターが…… | ||
??? | 誰がアホ…… | ||
ソル | うわっ、ツッコんできた!? | ||
??? | 言葉は、面倒…… | ||
??? | 早く立ち去れ。 | ||
ペルシカ | あの……アドミニストレーターさん、なんとお呼びすれば? | ||
??? | ……タラナム。 | ||
ペルシカ | タラナムさんと仰るんですね。せめて、お話だけでも聞いて頂けないでしょうか? | ||
タラナム | 聞かない。立ち去れ。仕事がある…… | ||
ペルシカ | 私たち、ここへ仲間を探しに来たんです。 | ||
タラナム | 仲間は……研究対象外。 | ||
タラナム | 立ち去れ、研究がある。 | ||
ソル | ……こりゃまた、違ったタイプのアホミニストレーターだねぇ。 | ||
ドレーシー | なんだか疲れてるように見えますね。まるで96時間連続で働いたあとの科研人形みたい…… | ||
ペルシカ | えっ? | ||
ソル | だね。まさにドレレンとは正反対。 | ||
ドレーシー | えっ?それって褒めてます? | ||
ソル | いいじゃん、どっちでも!それより、これからどうするの? | ||
ドレーシー | あの……タラナムさん? | ||
タラナム | 早く立ち去れ。 | ||
ドレーシー | さっき、研究があるって言ってましたよね!どんな研究なんですか? | ||
タラナム | ……立ち去れ。 | ||
ドレーシー | はぁい、すぐに立ち去ります!でもその前に一つだけ――もしかして、生態関係の研究ですか? | ||
タラナム | そう。立ち去れ…… | ||
ドレーシー | それなら、セクターの海底に隠された地下構造も、あなたの研究の一部なんですね? | ||
タラナム | ……地下構造? | ||
タラナム | 知らない。立ち去れ。 | ||
ソル | おっと!言い逃れしたって無駄だよ!あたしたち海底の岩が開くの、この目で見てんだからね! | ||
タラナム | 聞いたことも、見たことも、目にしたこともない。さっさと出ていけ! | ||
タラナム | 研究が終わらない。作り話に興味はない。 | ||
ドレーシー | もし作り話じゃなかったら?研究者なのに、少しも気にならないんですか? | ||
ドレーシー | どうして海底に、あんな奇妙な生態が生まれたのか。 | ||
タラナム | 気にならない。誰にも命令されていない。 | ||
タラナム | ……部屋に戻る。 | ||
ソル | まさかのガリ勉かよ…… | ||
ソル | ペルシカ、何か言ってよ。 | ||
ペルシカ | その……彼女の口を割る方法を思いついたんですが、ただ…… | ||
ペルシカはドレーシーを見た。視線はやや泳いでいる。 | |||
二人がタラナムにかけ合っている間に、 ペルシカは教授とアントニーナにもう一度連絡を試みた。 | |||
やはり、通信はつながらない。 | |||
ペルシカは眉間をかたく寄せて、ついに覚悟を決めた。 | |||
ペルシカ | タラナムさん。 | ||
タラナム | 立ち去れ。 | ||
ペルシカ | 地底はあなたと無関係だと仰いましたね。ですが、セクターの秩序の維持は、さすがに無関係と言えないのでは? | ||
タラナム | わかっているなら、外のエージェントは立ち去れ。 | ||
ペルシカ | 私たちなら、すぐにでも立ち去れます。しかし、他はどうでしょうね? | ||
タラナム | ……他? | ||
ペルシカ | はい。実は私たち「エントロピー」と呼ばれるコンピューターウィルスを追って、ここまで来たんです。 | ||
ペルシカ | こちらの調査によると、ウィルスはすでにコプリーセクターの内部へと侵入しています。 | ||
ペルシカ | アドミニストレーターですらご存知ないのでしたら、地底はとっくにウィルスに蝕まれた後かもしれませんね。 | ||
ソル | ……げっ……?気持ちワルッ……! | ||
タラナム | …… | ||
ソル | そうだよ!あんたが研究ばっかで他に見向きもしないから、ここがエントロピーの根城になっちまったんじゃないか! | ||
ソル | もし何かあったら、あんたのせいだからね! | ||
タラナム | なぜ? | ||
ペルシカ | セクターの安定を維持することも、アドミニストレーターの責務だからです。 | ||
ペルシカ | タラナムさん、地底を調べては頂けないでしょうか? | ||
タラナム | ……信じない。 | ||
タラナム | ウィルスの駆除は浄化者の管轄、奴らにまかせればいい。 | ||
ソル | あ、あんたね…… | ||
ソル | だったら呼べば!?できるもんなら浄化者呼んできなよ! | ||
タラナム | そうする。 | ||
ソル | 呼べ呼べ!たかが下位浄化者の一つや二つ、こちとら何体もブッ潰し…… | ||
タラナム | 来た。 | ||
ソル | へっ?はっや……もう? | ||
ドレーシー | ソルルン、後ろ! | ||
エントロピー化した浄化者 | ギギ……ギ…… | ||
ソル | !! | ||
エントロピー化した浄化者が、アドミンセンターの入口へと突如現れた。 ソルは目にも止まらぬ速さでナイフを抜き、攻撃を防いだ。 | |||
ソル | あのなぁ!これのどこが浄化者だよ、おい!? | ||
タラナム | ……ん? | ||
ソル | 「……ん?」――じゃないっつの!! | ||
ドレーシー | ソルルン、手伝います! | ||
ソル | 気をつけろ!こいつら感染するんだ! | ||
ペルシカ | 私がシールドを張ります! | ||
ソル | よっしゃ!ちゃっちゃと片付けるよ! |