リバベルタワー内、訓練場。 | |||
中位浄化者――フェイスは、オペランドでシミュレートされた敵を慎重に見定め、 それらを撃破しつつ点滅する目標ポイントへと進んだ。 | |||
システム | 【目標達成度70%……80%……】 | ||
システム | 【新たなユニットが訓練場に到着しました】 | ||
システム | 【アカウントを確認:中位浄化者、ウィズダム】 | ||
システム | 【訓練モードを起動します】 | ||
フェイス | ウィズダムか。お前も訓練をしに来たのか? | ||
ウィズダム | ええい、訓練モードではござらん!訪問、訪問モードにござる! | ||
システム | 【訪問モードを起動します】 | ||
周囲のシミュレートされた敵が一斉に消えた。 | |||
フェイス | ……なんのつもりだ? | ||
ウィズダムは質問には答えずに、素早くフェイスの背後へ回り込むと、 彼女の肩をしっかりとつかんだ。 | |||
ウィズダム | 説明は後でござる、はやく吾輩を助けぬか!面倒なヤツが追ってきよった! | ||
フェイス | 我等は仲間だ、お前を助けるのは私の責務。 | ||
フェイス | だが、一体誰に追われているのだ? | ||
フェイス | リバベルタワーはイオスフォロス様の御膝元、絶対に安全な…… | ||
システム | 【アカウントを確認:中位浄化者、ラヴ】 | ||
ウィズダム | ほれみろ、もはや安全ではござらぬ! | ||
ラヴ | ――ウィズダム、もう逃げ場はないわ。今すぐ止まりなさ~い! | ||
フェイス | ……ラヴ、何があった? | ||
フェイスは困惑しながらも、ラヴの前に立ち状況を把握しようとした。 | |||
ラヴはフェイスを見て、仕方なく立ち止まった。 普段は穏やかなはずの表情が、今やふくれっ面になっている。 | |||
ラヴ | ウィズダムが下位浄化者たちを「鉄塊」だって言ったのよ。しかもわたしの「リファクター」をいじめたの。今すぐ謝ってもらうんだから! | ||
ウィズダム | 吾輩は間違ってなどおらぬぞ。下位などノータリンの鉄塊に過ぎんではないか…… | ||
ウィズダム | あやつらの知能が少しでも高ければ、我らの指揮効率はもっともっと上がっていただろうに! | ||
ラヴ | フェイス、聞いたでしょう?ウィズダムってば、わたしたちの仲間である下位浄化者を侮辱したのよ。 | ||
ウィズダム | フェイスはリセット後のリハビリ訓練中にござる。そんなこと気にするものか! | ||
ラヴ | フェイスのことなら、よく知ってるわ。きっとラヴの味方になってくれるもの。 | ||
ラヴ | 浄化者をつなぐのは信仰、そして浄化者を揺るがぬ陣営とせしめたるは、友愛の心。 | ||
ウィズダム | まことにあっぱれな演説でござるな。だが、下位は中位すらまともに識別できんのだぞ。鉄塊でなければ、なんだと申すのだ? | ||
ウィズダム | おぬしは吾輩の味方にござろう?のう、フェイスよ? | ||
フェイス | …… | ||
沈黙するフェイスを前に、勝算を見込んでいたウィズダムの笑顔が、 徐々に強張っていった。 | |||
ウィズダム | ……吾輩の、味方にござろうな? | ||
ウィズダム | 頼むでござる、フェイス!ともに戦ってきた仲ではないか! | ||
フェイス | 我には……お前たちが争う理由が理解できない。浄化者の使命とは無関係に思える。 | ||
フェイス | だが、一つだけ確かなのは、我等が皆、生死をともにする仲間だということだ。 | ||
ラヴ | 確かにそうね。でも、わたしのリファクターたちをいじめるなんてひどい。それどころか、あの子たちを無理やり連れて行くだなんて。 | ||
ラヴ | ウィズダムが謝らないなら、絶対に貸してなんかあげないもん…… | ||
ウィズダム | いじめではないと申すに……吾輩はただあやつらの訓練を―― | ||
ラヴ | ウィズダム、危険かどうかはこの際いいわ。その訓練とやらの治療に、どれだけオペランドが無駄になるかわかっているの!? | ||
ウィズダム | その程度のオペランド、リバベルにとっては微々たるもの。さして問題あるまい。 | ||
ウィズダム | それに、戦場で命を落とすより遥かにマシでござろう。イオスフォロス様なら、吾輩の肩を持つに決まっておる! | ||
ラヴ | ウィズダムは治療なんてしたことないから、そんなことが言えるんだわ! | ||
ラヴ | 仲間が傷つくなんて、わたしには耐えられない…… | ||
ウィズダム | だ~か~ら~、あやつらは鉄塊だと申しておろうに。気にかける必要などござらぬ。 | ||
ウィズダム | そもそも、下位がまともな知能を持っていれば、こんな真似をせずに済んだのだ。 | ||
ラヴ | また鉄塊って言った……!もぉぉ!法廷に突き出してやる~~! | ||
ウィズダム | ほ……法廷!? | ||
ウィズダム | ひゅう……危うく騙されるところでござった。法廷の諸先輩方――シン殿とパニッシュ殿は、エントロピー化した浄化者の処罰に、四方を奔走しておいでのはずだ。 | ||
ラヴ | むぅぅ…… | ||
ラヴは縋るような視線をフェイスに向けた。 だがフェイスは、やや茫然と二人を眺めるばかりだ。 | |||
ウィズダム | はぁ……ラヴよ、もうよかろう。我らの時間は限られておる、言い争っている場合ではござらぬ。 | ||
ウィズダム | これよりピエリデスへ向かい、エントロピーによる騒乱を鎮圧せねばならぬのだ。 | ||
ウィズダム | だからこうして下位をかき集め、戦力を増やそうとしておるのではないか。 | ||
ラヴ | な……なら約束して、あの子たちにちゃんと優しくするって。わたしやフェイスにするみたいに。 | ||
ウィズダム | わかった、わかりもうした。なるべく丁重に使うでござるよ…… | ||
ウィズダムが承諾してやっと、ラヴは頷いた。 | |||
ラヴ | リバベルの至高無上なる法律のもとに、その承諾を受け入れます。 | ||
張り詰めた雰囲気が和らいだ。 | |||
ウィズダムはフェイスの背後を離れると、 訓練場の床に座り込んで銃を構え、遠くの的に照準を定めた。 | |||
フェイス | 待て、ウィズダム。 | ||
フェイス | エントロピー、つまり我等の宿敵が……ピエリデスセクターに侵入したのか? | ||
フェイス | もしや、我がロッサムでリセットされたのも、エントロピーに負けたのが理由か? | ||
ウィズダムとラヴは目を見合わせた。 | |||
ラヴ | わたしから説明するわね。 | ||
ラヴ | あなたがリセットされたのは、ロッサムセクターのアドミニストレーター、チューリングを殺したからよ。 | ||
ウィズダム | そのせいで、懲戒処分を受けたのでござる。 | ||
ウィズダム | そこを異常エージェントどもにつけ込まれ、パンテオンへと送り返されたのだ。 | ||
フェイス | 我はなぜ、ロッサムセクターのアドミニストレーターを殺したのだ? | ||
ラヴ | それは……あれ以来ロッサムは、新種のファイアウォールによって封鎖されているの。残念だけど、詳しい記録は手に入らないわ。 | ||
ラヴ | それに、あなたはずっと一人でロッサムを担当していたし、何があったのかは、わたしたちにも…… | ||
フェイス | そうだったのか。どうりでロッサムセクターに入れないわけだ。 | ||
それを聞いてラヴは仰天した。 ウィズダムまで銃を抱えて飛び上がった。 | |||
ウィズダム | おぬし、ロッサムセクターに赴いたのか?どんな様子でござった? | ||
ウィズダム | 異常エージェントどもに蹂躙され、辺境戦線のようになっておったのでは? | ||
フェイス | いや、静かだった。正常に稼働していたように思う。 | ||
フェイス | 試しに訪問を申し出てみたが、拒絶されてしまった。 | ||
ラヴ | チューリングなの? | ||
フェイス | いや、ハンナという署名のエージェントだ。 理由はわからない。 | ||
フェイス | 我等はマグラシアの守護者であるはずだ、一体なぜ…… | ||
ウィズダム | けったいなエージェントどもでござるの。 | ||
ウィズダム | 解せぬ。なぜこうも、わけのわからぬ事態がエージェントに起こるのだ? | ||
ラヴ | わからないわ……ロッサムセクターへの対応に、友愛が欠けていたのかも。 | ||
ラヴ | へスぺロス様の一件で、多くのセクターが浄化者は乱暴で理不尽だと思い始めてる。 | ||
フェイス | 守るべき対象に、我等は友愛を抱くべきなのか……? | ||
ラヴ | ええ、イオスフォロス様の理念とぴったり一致するでしょう? | ||
ウィズダム | だからこそ、イオスフォロス様はお戻りになられてからというもの、我らに法の合理性を再三諭しておいでなのだ。やはり、イオスフォロス様は一番正しゅうあらせられる。 | ||
ウィズダム | さてと、そろそろ任務に参るか。皆の者、また後で。 | ||
フェイス | 「また後で」? | ||
ウィズダム | わからずともよい、単なる別れの挨拶とでも思え。 | ||
フェイスは頷いた。 そして狙撃銃をしまい、軽快な足取りで訓練場を離れるウィズダムを、 ラヴとともに見送った。 | |||
やがて華奢ではつらつとした人影は白光に融け、 彼女たちの視界から完全に消え去った。 |