リバベルタワー内。 | |||
アンジェラスの軽快な足音が、石畳に響いた。 普段の歩調よりも、幾分か急いている。 | |||
浄化者 | アンジェラス様、お待ちください! | ||
アンジェラス | 事は急を要しますのよ、すぐにでも支援に向かわなければ。 | ||
アンジェラス | わたくしに付いて来れずともかまいませんわ。医療班を携え、後から向かえばよろしい。 | ||
ユーカリスト | これはこれは、アンジェラス姉上ではおじゃらぬか。 | ||
浄化者 | ユ、ユーカリスト様…… | ||
アンジェラス | ユーカリスト。こうも無様な姿で、よくぞ人前に出てこられたものですわね? | ||
アンジェラス | わたくしがあなたなら、深く恥じ入り、自身のあるべき場所に収まっているものを。 | ||
アンジェラスの言葉の通り、彼女の前に現れたユーカリストからは、 かつての余裕が完全に失われていた。 | |||
装備を剥がされ、機械翼をもぎ取られ、 上位浄化者のみに許された気高さは、もはや微塵も感じられない。 | |||
ユーカリスト | ……おろろ、アンジェラス姉上はイジワルじゃのぉ! | ||
ユーカリスト | 上位浄化者は、好きに出かけてかまわんのでおじゃる。あまりにつまらぬから、その辺を散歩しておったのじゃ。 | ||
アンジェラス | お言葉ですけれど、今のあなたは懲戒処分および禁足に処する身。そのような権限など持つべきではございませんわ。 | ||
ユーカリスト | おやおやぁ?リバベルの中なら自由にしていいと、そう申したのはイオスフォロス殿におじゃる。まろはしかと耳にしたでおじゃるぞ。 | ||
アンジェラス | ま、まとわりつかないでくださいまし。人前で戯れるなどみっともない。 | ||
ユーカリスト | 何を申すか、まろはアンジェラス姉上とお近づきになりたいだけでおじゃ。まろと姉上は、一心同体におじゃ~る~ | ||
アンジェラス | ……いい加減になさい、ユーカリスト! | ||
アンジェラス | へスぺロス様が辺境戦線を死守なさるのも、ひとえにエントロピーどもの侵入を防ぎ、かの混沌としたイレギュラーどもから、マグラシアを守るため。 | ||
アンジェラス | そのエントロピーがピエリデスに出現するなど、極めて由々しき事態ですのよ。 | ||
ユーカリスト | そんなことは百も承知でおじゃ、まろとてウツケ者にはおじゃらぬ。 | ||
ユーカリスト | ここへ参ったのは、姉上に後悔してほしくないからでおじゃ! | ||
アンジェラスは足を止めた。 | |||
アンジェラス | 後悔ですって? | ||
アンジェラス | ……ユーカリスト。まさかピエリデスの他にも、緊急事態に陥ったセクターが存在すると言いたいの? | ||
ユーカリスト | ほれみたことか、姉上。あちこち支援に赴いてばかりで、リバベルタワーのことには、とんと無頓着ではおじゃらぬか。 | ||
ユーカリスト | 辺境戦線ではエントロピーが大暴れ、へスぺロス殿は増援を要請しておじゃる。 | ||
ユーカリスト | レイヴンが遣われはしたが、姉上も知っておろ。あやつはちょーーっとばかし血の気が多くてのぉ。 | ||
ユーカリスト | 辺境戦線はおおいに心配じゃが、なにせまろは禁足の身。仕方なくアンジェラス姉上にお願いに参ったのでおじゃる。 | ||
アンジェラス | あら?普段はあれだけ身勝手なくせに、今回は一体どんな風の吹き回し? | ||
ユーカリスト | 御法度に背いた罰は、とんでもなくツライのでおじゃるぞ!まろだって、オメイをヘンジョーしたいに決まっておろ! | ||
ユーカリスト | ハァ……へスぺロス殿が増援要請を発したとなると、事態は極めて深刻なようでおじゃるのぉ。 | ||
ユーカリスト | 果たして、レイヴンはへスぺロス殿のお役に立てるのかのぉ?まろは辺境戦線の上位浄化者らが心配で心配で…… | ||
アンジェラス | 彼女は向こう見ずに過ぎますわ。エントロピーとの戦いは、破壊だけではどうにもならなくてよ。 | ||
アンジェラス | ……けれど、ピエリデスの状況も同様に危うい。どちらも疎かにはできませんわ。 | ||
ユーカリスト | まろの審判が下されていれば、姉上に力添えできたものを。じゃが、法廷を担うシンとパニッシュが戻らぬとあっては、リバベルを離れるわけにもゆかぬでおじゃる。 | ||
ユーカリスト | はて、どうしたものかのぉ、アンジェラス姉上や? | ||
アンジェラス | 下らぬ算段はおよしなさい、ユーカリスト。その程度の脅し、わたくしには無意味ですわ。 | ||
アンジェラス | わたくしたちにとっては、マグラシアの安危が最も重要でしてよ。かたや、レイヴンは曲がりなりにも上位浄化者の末輩、戦闘力は保証されていますわ。 | ||
イオスフォロス | 辺境戦線の方が大事だよ。 | ||
アンジェラス | ……イオスフォロス様。 | ||
アンジェラス | おいでになられたのにも気づかず、大変ご無礼を。 | ||
イオスフォロス | 気にすることはないさ、君も事態を慮ってのことだろう。 | ||
アンジェラス | 周辺の防備が疎かとなったのは、わたくしの責任にございます。誠に慚愧に堪えません。 | ||
アンジェラス | どうかピエリデスセクターへ赴くことをお許しください。 | ||
イオスフォロス | アンジェラス。君は誰よりも秩序と平穏を重んじている。焦る気持ちはわかるよ。 | ||
イオスフォロス | ピエリデスからの報告によれば、中位浄化者だけで十分対処可能だそうだ。すでにウィズダムの部隊を向かわせてある。 | ||
アンジェラス | かつてイオスフォロス様は、辺境戦線における対エントロピーの要であられましたわ。貴方様の御判断を疑うなど、恐れ多いことでございます。 | ||
アンジェラス | ですが、あれだけ混乱を極めたエントロピーの渦に、中位浄化者だけを向かわせるのは…… | ||
アンジェラス | エントロピーがひとたび変異すれば、ウィズダムの能力を以てしても、適切な対処は不可能かと。 | ||
イオスフォロス | 必要なら、僕が対処に向かおう。 | ||
イオスフォロス | へスぺロスの防衛線が突破されてしまえば、マグラシアは終わりだ。 | ||
アンジェラス | ……仰る通りでございますわ。 | ||
イオスフォロス | 辺境戦線の状況はひどく緊迫している。君にぜひとも協力してもらいたい。 | ||
イオスフォロス | エントロピーがどうやってマグラシアへ潜入したかについては、シンに調査を委ねよう。 | ||
アンジェラス | 貴方様のお考えはごもっともですわ、容喙のしようもございません。 | ||
アンジェラス | すぐにでも辺境戦線へと赴き、へスぺロス様を助け戦況を抑えてご覧にいれましょう。 | ||
浄化者 | イオスフォロス様、ユーカリスト様。 我々も部隊を集結させ、アンジェラス様に同行いたします。 | ||
イオスフォロスは頷いた。 | |||
アンジェラスは双翼を広げ、リバベルタワーの頂上から飛び立っていった。 | |||
ユーカリスト | さらばでおじゃる、アンジェラス姉上!気を付けてたもれ~! | ||
ユーカリスト | あっちで完全にエントロピー化してしもうたら、パンテオンは助けてやれぬからのぉーー! | ||
イオスフォロス | うぬぼれるな、君は依然として裁かれる身だ。 | ||
ユーカリスト | おろろん……わ、わかったでおじゃる。 | ||
ユーカリスト | して、イオスフォロス殿。シンとパニッシュが戻っておらぬというに、まろはどーしてもここに居なくてはならぬのかえ? | ||
イオスフォロス | これは君の自分勝手な振る舞いへの戒めだ。それ以上わがままを言うようなら、君を部屋に閉じ込めてもいいんだよ。 | ||
ユーカリスト | なら、マグラシアのイザコザはどうなるでおじゃ? | ||
ユーカリスト | オアシスの追放者の他に、おかしなエージェントどもがセクターに紛れ込んでおるのじゃぞ。 | ||
イオスフォロス | 調査しに行くつもりかい? | ||
ユーカリスト | そやつらも、追放者に負けず劣らず面白かったらどうする? | ||
イオスフォロスはユーカリストを見下ろした。 | |||
茶色い髪の少女は、潤んだ瞳を瞬いてみせた。 その表情は無垢そのものだ。 | |||
イオスフォロス | 君は、その未知なるエージェントに接触したいのか、他の場所を探検したいのか、どちらなんだ? | ||
ユーカリスト | どっちもでおじゃる! | ||
イオスフォロス | そうか。 | ||
ユーカリスト | おじゃ、おじゃ! | ||
イオスフォロス | どうやら、躾が足りないらしいね。 | ||
イオスフォロス | 部屋に戻りたまえ、ユーカリスト。 審判が下されるまで、誰とも面会は許されない。 | ||
ユーカリスト | おろーーー!? | ||
>> CHAPTER 5 // E N D . . . |