ラヴの姿を装ったエントロピーは倒れ、灰となって散っていった。 | |||
ひとしきり眩暈を覚えた後、気付けば私たちは現実へと戻っていた。 | |||
ペルシカ | 教授!オディールさんもご無事でしたか、良かった…… | ||
ソル | だから言ったじゃん、教授なら大丈夫だって。 | ||
ウィズダム | はぁ……はぁ……危のうござった。 | ||
(選択) | 1.【武装制圧準備】 | A | |
2.具合はどう? | B | ||
A | ウィズダム | ……ぬぁぁっ!? | |
ウィズダム | おいこら、吾輩の台詞でからかうのは止さぬか! | C | |
B | ウィズダム | だいぶ良い。少なくとも、メンタルの制御権は取り戻したでござる。 | C |
C | ウィズダム | 浄化者とエントロピーは相容れぬが、もし…… | |
ウィズダムはしばらく黙った。 表情には憎悪と恐怖が混じる。 | |||
{教授} | もし? | ||
ウィズダム | いいや、そうはさせぬ! | ||
ウィズダム | 奴らなんぞに吾輩のメンタルを占拠されてたまるか…… | ||
オディール | すべての努力が報われた、これほど喜ばしいことはないわ。おかえりなさい。 | ||
ウィズダム | ……よもや、ターシャリレベルでおぬしらに助けられるとは。以前、おぬしを見捨てようとしたことを、謝らねばならんな。 | ||
オディール | いいの。みんな無事で戻って来れた、それだけで十分よ。 | ||
オディール | そろそろ、終幕へと向かう頃ね……うぅっ。 | ||
オディールが歩み出そうとしたとたん、彼女の身体がよろめいた。 ウィズダムがそれを支える。 | |||
ウィズダム | 大丈夫でござるか? | ||
オディール | ええ、もちろん……芸術で最も重要かつ最も美しいとされるのは、「強さ」と「勇気」だもの。 | ||
オディール | 私なら平気よ、心配しないで……花園に行きましょう。 | ||
オディールは疲れているようだった。 だがその笑顔は変わらず美しい。 | |||
ウィズダムは何も言わずにオディールを支えている。 しばらくして、アントニーナがオディールのもう一方の腕を支えた。 | |||
オディール | 私たちの花園へようこそ。 | ||
美しい花園が、私たちの前へと現れた。 それはまるでエントロピー液の海に漂う、孤島のようだった。 | |||
ソル | わぁ~~、きれい! | ||
アントニーナ | 感染される前のピエリデスは……こんなに美しかったんですか? | ||
オディール | これは私たち姉妹の単なる余興よ…… | ||
オディール | 感染が広がるにつれ、いずれはここもオペランドが尽きて、廃墟となってしまうのでしょうね…… | ||
{教授} | そうなる日が来る前に、早く何とかしなくちゃね。 | ||
オディール | ふふふ。頼りになるわ、教授さん。 | ||
オディール | これがデータの裂け目よ。 | ||
花園の空中には、一筋の紫色の裂け目が横たわっていた。 周囲には黒紫色をした触手のような生き物が、小さく身をうねらせている。 今にも大量のエントロピーが湧き出し、この土地を呑み込んでしまいそうだ。 | |||
オディール | あとは、これを閉じるだけ…… | ||
オディール | どうすればいいかはわかっているの。でも、私だけの力では成し遂げられない…… | ||
ソル | うっわぁ……き、気持ち悪すぎる…… | ||
ウィズダム | フフン、足手まといにならないと申していたのは、どこの誰でござったか。 | ||
ソル | あ、足手まといになんかなるもんか!どきな、あたしがオディールを手伝う! | ||
ウィズダム | やめておけ、エントロピーへの耐性もないくせに! | ||
ウィズダム | さっさとどかぬか、こんなところにいては邪魔でござる。 | ||
ウィズダムは、オディールを支えていたアントニーナとソルを遠くへと押しやった。 裂け目の傍には、ウィズダムとオディールだけが残った。 | |||
オディールは手を伸ばし、手のひらから流れるオペランドを使って、 裂け目の周囲を封鎖した。 | |||
オディール | 裂け目は私が出来る限り制御するわ……後は……お願い…… | ||
ウィズダムが手を振ると、下位浄化者たちが四方へ展開し、周囲を警戒し始めた。 次に、ウィズダムは紫色の裂け目へと片手を伸ばした。 清らかな光が、彼女の手から発せられる。 | |||
オディール | これで……やっと…… | ||
オペランドが流れ出るにつれ、オディールの顔色がいよいよ青白くなった。 | |||
白い光に照らされる彼女は、まるで透き通って見える。 | |||
アントニーナ | いけない、このままオペランドを放出していては、身体がもちません! | ||
ペルシカ | 皆さん、オペランドを私に!私からオディールさんへ渡します! | ||
ソル | はいよッ! | ||
オペランドのサポートを受けた事で、オディールの顔色が若干良くなった。 | |||
ウィズダムが彼女を一瞥して、なだめるように言った。 | |||
ウィズダム | 安心いたせ、すぐに元通りでござる。 | ||
ウィズダム | 【浄化開始】 【吾等は暗闇で刃を鍛え、混沌より秩序を守り、長夜に光明を灯す……】 | ||
ウィズダムの手から放たれた白い光が裂け目へと流れ込み、 底なしの切れ目を徐々に満たしていった。 やがて一瞬のうちに、裂け目の周囲から強烈な光がほとばしり、世界を覆い尽くした。 | |||
烈日に融ける雪のように、黒紫色の裂け目が純白の光によって溶解してゆく。 | |||
裂け目から這い出て必死に足掻いていた触手も、 オディールのオペランドによって縛り付けられ、なすがままにされている。 | |||
ペルシカ | オペランドが、尽きてしまいそうです…… | ||
ソル | くッ……あたしも…… | ||
アントニーナ | こちらにはまだ残ってます、これも彼女に。 | ||
ウィズダム | まだ耐えられそうか、オディール? | ||
オディール | なんとか……ね…… | ||
口ではそう言いつつも、オディールの輪郭は明らかに先ほどより薄くなっている。 | |||
私の心臓は喉元にまで来ていた。 もはや成功を祈るしか術はない。 | |||
まるで1日が過ぎ去ったかのように感じられ――実際にはたったの数秒だったが―― 白い光は収まっていった。 | |||
裂け目はすでに消えていた。 そこには、消失しつつあるエントロピー液だけが残されていた。 | |||
オディール | はぁ……はぁ……成功した……? | ||
オディール | ピエリデスは……助かった……の……? | ||
ウィズダム | 心配いらぬ、すべて終わったでござる。 | ||
身体が極限にまで薄まったオディールが、屈託のない笑顔を浮かべた。 そんな彼女を見て、ウィズダムも笑い出した。 | |||
オディール | ありがとう、皆さん…… | ||
ウィズダム | なに、これも浄化者の責務にござる。待っておれ、おぬしにオペランドを…… | ||
ウィズダムの背後で何かが光った。 | |||
ソル | どいて、ウィズダム!! | ||
ウィズダム | ……!? | ||
極めて薄かったオディールの姿が、完全に消失した。 | |||
ウィズダムの背後にあったエントロピー液から数本の触手が現れ、 ウィズダムの身体を貫いた。 | |||
ソル | そんな…… | ||
アントニーナ | オディール、一体何をした!? | ||
アントニーナの怒号に伴い、背後にあった液体がゆるりと立ち上がり、 漆黒の人影へと姿を変えた。 | |||
見た目は違えど、その顔立ちには見覚えがあった――オディールだ。 | |||
一瞬、彼女の顔色が苦痛に染まるも、完全に新たな力を受け入れたかのように、 今度は無上なる喜びの表情を浮かべた。 | |||
オディール? | あぁ……竜殺しはやがて竜となる。勇者の願いが何であろうと、結果は変わらない。これは疑いようのない悲劇なの。 | ||
オディール? | 喜劇を書くのは難しいわ。大団円を迎えるには、想像を絶する努力が必要となる。けれど悲劇は違う。 | ||
オディール? | 喪失とはえてして理不尽なもの……喪失こそが私たちの宿命。かたや生存とは強奪の繰り返し。 | ||
{教授} | オディール……あなた…… | ||
アントニーナ | 裂け目の制御にオペランドを割いたせいで、エントロピーに隙を突かれたか…… | ||
アントニーナ | あれだけオペランドをファイアウォールに充てるよう忠告したのに!! | ||
オディール? | 生きるために奪い、生きるために喰らう……生きるためなら、忌み嫌うものとすら混じり合う。 | ||
オディール? | 舞台はこれにて幕引きよ、ご観劇に感謝するわ。 | ||
{教授} | 彼女を押さえて! | ||
ソル | 待ちやがれッ! | ||
ソルは両剣を抜いて、オディールの触手めがけて切りかかった。 | |||
キンッ! | |||
ソル | ……あんた……! | ||
ソルの刀は、無情にも狙撃銃のバレルで弾かれた。 | |||
ウィズダム | ぐ……う…… | ||
ソル | 足手まといになるなって……そっちが言ったんじゃん……! | ||
貫かれた傷口を中心に、ウィズダムの身体が素早く変異し始めた。 彼女の両手と顔面は、すでに漆黒に覆われてしまっている。 | |||
彼女の身体が苦痛に歪んだ。 まるで何かが彼女の皮膚下で激しく変化し、繭を突き破ろうとしているかのように。 | |||
ウィズダム | の……呑み込……すべ、て…… い、いやだ、吾輩、は……@#¥失#%……リセ……##¥%! | ||
ウィズダム | うぅぅぅ……あぐッ……ガッ…… ガアあァァァぁあアあーーーー | ||
オディール? | ふふふ……なんて美しいのかしら。躯体に囚われた命が、まもなく羽化し始める―― | ||
オディール? | 幸せなお方、これから真の自由を味わえるのね。 | ||
オディール? | 我らが崇拝せし主は、かくも偉大であらせられる。己が暗闇に囚われようとも、我らに自由をお恵みになるのだから。 | ||
オディール? | でも大丈夫、私が主を解き放ってご覧にいれましょう。 | ||
アントニーナ | 逃げる気か! | ||
アントニーナの攻撃が外れた。 | |||
ウィズダムの背後で、オディールは悠々とスカートをたくし上げ、 優雅にお辞儀をしてみせた。続いて、紫色の裂け目が再び現れる。 彼女は身体をのけぞらせ、あの恐ろし気な隙間へと、瞬く間に姿を消した。 | |||
ペルシカ | ソルさん、退がって!今のウィズダムは危険です! | ||
ソル | でも…… | ||
ウィズダム | ギギ……ギガ……ガァァッァァァアアアーーーー!! | ||
下位浄化者 | 【攻撃命令を確認、ターゲット変更――】 | ||
アントニーナ | あれはもうウィズダムではありません!下位浄化者まで寝返った! | ||
アントニーナ | もう迷っている場合じゃない! | ||
{教授} | ペルシカ、ソルの援護を!アントニーナ、下位浄化者をお願い! | ||
{教授} | ソル……戦闘準備! | ||
ソル | くっ…… | ||
ソル | くっそぉぉぉぉッ! |