ピエリデス 標準 PART.12 続く

Last-modified: 2024-11-27 (水) 21:16:40

 銃声が鳴った。
だが、痛みは訪れない。
???吾等は暗闇で刃を鍛え、混沌より秩序を守る。
???混沌を前に、理性を失うべきでない最たる者は、君だったはずだよ、ウィズダム。
 私は目を開いた。目の前には、見知らぬ男性の背中があった。
青い火焔が天地を覆い尽くし、黒紫色の歪な銃弾を燃やし尽くした。
 伸べ広げられた巨大な羽翼から、眩い光塵をきらきらと撒き散らすその様子は、
下界へと降臨する天使を彷彿とさせた。
 
 イオスフォロスはウィズダムを制し、
オペランドを凝集させた鎖で、彼女をがんじがらめにした。
ウィズダムガガ――ギギギガガ――*&……&……%*&¥&
イオスフォロスウィズダム。君は以前「エントロピー」のようなイレギュラーが大嫌いだと言っていたね――
イオスフォロス理性を持たず、本能だけで動く狂った獣(けもの)は「エージェント」の名を汚していると。
 イオスフォロスは伸ばした手を、優しくウィズダムの頭部へと下ろした。
イオスフォロス君を一人で来させるべきじゃなかったかな?
イオスフォロスだけど、君たちはいつもたった一人で、混沌なる闇に立ち向かおうとする。己を盾に、辺境戦線に立つ戦友たちのように。
 青い炎がにわかに湧き立つ。
浄化を象徴する白銀の輝きが、イオスフォロスの手から発せられている。
イオスフォロス君はもう一人前だと思っていたよ、ウィズダム。君ならきっと……
イオスフォロスその知恵で影に潜むイレギュラーを浄化し、リバベルへと帰還し栄誉を授かれると思っていた。
 清らかな泉水が濁世の罪悪を洗い流すかのように、
光が一層、また一層と、ウィズダムの身体を包んでゆく。
イオスフォロス目を覚ませ、ウィズダム。君は浄化者だ。中位で最も叡智ある存在だ。
イオスフォロス混沌に屈するべきではない。
ウィズダムググ……グガァァァぁああぁぁアアああ!!!
 ウィズダムの怒りの咆哮が響いた。
彼女はオペランドの束縛をものともせず、イオスフォロスの手のひらに噛みついた。
 青い炎が彼女の牙を焦がす。
だが彼女は微塵も痛みを感じていないらしく、
ひたすらに彼の手を噛み千切ろうとしていた。
イオスフォロス……はぁ。
 イオスフォロスは小さく溜息をつくと
、オペランドで構築した檻の中にウィズダムを隠し去った。
 続いて、彼は私を見た。
穏やかな表情からは、何も読み取れない。
イオスフォロスオアシスの主導者、「教授」と呼ばれている{教授}だね。
イオスフォロスまさか、初対面がこんな形になろうとは。
{教授}私を知っているのか?
イオスフォロスもちろんだ。君たちは異常エージェントを率いて、領地を切り開き、多くのセクターを浄化者に背かせた。
イオスフォロス{教授}、噂はかねがね。
{教授}どうやら、君たちのブラックリストに載ってしまったようだ。
イオスフォロス君がウィズダムと協力し合っていたことは、ここへ来る途中で耳にしたよ。
イオスフォロス括目すべきは、君がアンジェラスを見逃した点だ。破壊しか知らないイレギュラーの所行とはわけが違う。
イオスフォロス君の慈愛と叡智は肯定に値するよ。だから、君たちには手を下さないでおく。少なくとも、今は。
(選択)1.手を下さないのは「君」だけか?A
2.つまりリバベルと浄化者は、私たちへの態度を改めないと?A
Aイオスフォロスリバベルには遵守すべき法規が存在し、それは絶対だ。
イオスフォロス浄化者の態度については……主導者は僕だけではないからね、軽率な発言は控えるよ。
(選択)1.「ウィズダム」はどうなるんだ?B
Bイオスフォロス{教授}、やはり君は興味深い。この期に及んで他人の心配をするとは。
イオスフォロス安心するといい。リバベルへ連れ帰り、治療を受けさせるさ。
 その時、不協和音が響いた。
 オディールによって再び開かれた裂け目が、徐々に明瞭さを帯びてゆく。
裂け目のもう一方からの鳴き声が、そこはかとなく聞こえてくる。
イオスフォロスお喋りはここまでのようだ。
 イオスフォロスが手を掲げた。
そこから発せられた鋭い光が、彼の動きを覆い隠した。
 光が収まる頃には、巨大なデータの裂け目はすでに跡形もなく消えていた。
イオスフォロスピエリデスセクターの管理は、浄化者が引き継ぐ。君たちは立ち去りたまえ。
 そう言って、イオスフォロスは羽ばたいて行った。
 
ソルあれが話に聞いてた「イオスフォロス様」かぁ……
ソル一度でいいから、勝負してみたいなぁ……あいやいやいや、今のナシ。
ソルあの規模のオペランドじゃ、敵いっこないもんね。
アントニーナなんせ、浄化者のボスですからね。レイヴンやアンジェラスよりかは、迫力ありますよ。
ソル教授ってば、ぜんぜん怖がってないみたい、やるじゃん!
ペルシカ教授、大丈夫ですか?
(選択)1.大丈夫だよ。C
2.最悪な気分だ。D
C ペルシカは私の肩を叩いた。E
Dペルシカ心中、お察しします……E
E 私たちは周囲を見渡して、メンテナンスの準備を始めた。
 花園はさながら炎に焼き尽くされたかのようだった。
エントロピーも全滅している。
 安全を確認した上で、ペルシカが皆に治療を施し始める。
私はオアシスに救援信号を送った。
ペルシカ少なくとも、ピエリデスの脅威は阻止されましたね。これで、オアシスがエントロピーに襲撃される心配はなくなります。
ペルシカですが、クロックさんは……
ソルあんなに感染の酷かったオディールですら目を覚ましたんだ、クロックだってきっと大丈夫だよ!
ペルシカ……それは、浄化者のサポートがあったからこそです。それに、あなたも見たでしょう?あのアドミニストレーターの末路を。
ソルじゃ、じゃあクロックは……
ペルシカクロックさんの状況は、以前の私たちよりも遥かに深刻です。ターシャリレベルに潜るだけで解決できるとは思えません。
ペルシカエントロピーによる感染症を治療するには、敵のソースコードが必要不可欠です。
ソルでも、データの裂け目は閉じちゃったし、あのアドミニストレーターも行方知れずだよ。まるで手がかりが……
アントニーナ手がかりならあります。
ペルシカいけません、アントニーナさん。起き上がらないで、治療は終わってないんですよ!
アントニーナ手がかりはあります。あのアドミニストレーターと行動をともにした際、念のため発信機を忍ばせておきました。
 アントニーナは自身の端末からマップを呼び出した。
 スクリーン上では、光る軌跡がピエリデスセクターを出発し、
地図上の未知のエリアへと続いている。
ペルシカこの方角は……コプリーセクター?
{教授}コプリーセクター?
ペルシカコプリーセクターはオアシスと同様の、プライベートセクターです。具体的な状況は私にも。
アントニーナプライベートセクターだからこそ、隠れるのにはうってつけなのでしょう。
アントニーナどんなに狡猾な者でも、痕跡を完全に消すことはできない。今度はこちらが網を引く番です。
ソルさっすがアントニーナ!教授、さっそく出発しよう!
ペルシカ待ってください、今はまだダメです。
ソルえっ、ここまで来たのにあきらめちゃうの?
{教授}ソル、私たちには準備が必要なんだ。
ソルはーい……
 荒涼とした花園に、希望の炎が再び灯った。
 エントロピー、浄化者、イオスフォロス……
 波瀾の幕引きには、まだまだ程遠いようだ。