銃声が鳴った。 だが、痛みは訪れない。 | |||
??? | 吾等は暗闇で刃を鍛え、混沌より秩序を守る。 | ||
??? | 混沌を前に、理性を失うべきでない最たる者は、君だったはずだよ、ウィズダム。 | ||
私は目を開いた。目の前には、見知らぬ男性の背中があった。 青い火焔が天地を覆い尽くし、黒紫色の歪な銃弾を燃やし尽くした。 | |||
伸べ広げられた巨大な羽翼から、眩い光塵をきらきらと撒き散らすその様子は、 下界へと降臨する天使を彷彿とさせた。 | |||
イオスフォロスはウィズダムを制し、 オペランドを凝集させた鎖で、彼女をがんじがらめにした。 | |||
ウィズダム | ガガ――ギギギガガ――*&……&……%*&¥& | ||
イオスフォロス | ウィズダム。君は以前「エントロピー」のようなイレギュラーが大嫌いだと言っていたね―― | ||
イオスフォロス | 理性を持たず、本能だけで動く狂った獣(けもの)は「エージェント」の名を汚していると。 | ||
イオスフォロスは伸ばした手を、優しくウィズダムの頭部へと下ろした。 | |||
イオスフォロス | 君を一人で来させるべきじゃなかったかな? | ||
イオスフォロス | だけど、君たちはいつもたった一人で、混沌なる闇に立ち向かおうとする。己を盾に、辺境戦線に立つ戦友たちのように。 | ||
青い炎がにわかに湧き立つ。 浄化を象徴する白銀の輝きが、イオスフォロスの手から発せられている。 | |||
イオスフォロス | 君はもう一人前だと思っていたよ、ウィズダム。君ならきっと…… | ||
イオスフォロス | その知恵で影に潜むイレギュラーを浄化し、リバベルへと帰還し栄誉を授かれると思っていた。 | ||
清らかな泉水が濁世の罪悪を洗い流すかのように、 光が一層、また一層と、ウィズダムの身体を包んでゆく。 | |||
イオスフォロス | 目を覚ませ、ウィズダム。君は浄化者だ。中位で最も叡智ある存在だ。 | ||
イオスフォロス | 混沌に屈するべきではない。 | ||
ウィズダム | ググ……グガァァァぁああぁぁアアああ!!! | ||
ウィズダムの怒りの咆哮が響いた。 彼女はオペランドの束縛をものともせず、イオスフォロスの手のひらに噛みついた。 | |||
青い炎が彼女の牙を焦がす。 だが彼女は微塵も痛みを感じていないらしく、 ひたすらに彼の手を噛み千切ろうとしていた。 | |||
イオスフォロス | ……はぁ。 | ||
イオスフォロスは小さく溜息をつくと 、オペランドで構築した檻の中にウィズダムを隠し去った。 | |||
続いて、彼は私を見た。 穏やかな表情からは、何も読み取れない。 | |||
イオスフォロス | オアシスの主導者、「教授」と呼ばれている{教授}だね。 | ||
イオスフォロス | まさか、初対面がこんな形になろうとは。 | ||
{教授} | 私を知っているのか? | ||
イオスフォロス | もちろんだ。君たちは異常エージェントを率いて、領地を切り開き、多くのセクターを浄化者に背かせた。 | ||
イオスフォロス | {教授}、噂はかねがね。 | ||
{教授} | どうやら、君たちのブラックリストに載ってしまったようだ。 | ||
イオスフォロス | 君がウィズダムと協力し合っていたことは、ここへ来る途中で耳にしたよ。 | ||
イオスフォロス | 括目すべきは、君がアンジェラスを見逃した点だ。破壊しか知らないイレギュラーの所行とはわけが違う。 | ||
イオスフォロス | 君の慈愛と叡智は肯定に値するよ。だから、君たちには手を下さないでおく。少なくとも、今は。 | ||
(選択) | 1.手を下さないのは「君」だけか? | A | |
2.つまりリバベルと浄化者は、私たちへの態度を改めないと? | A | ||
A | イオスフォロス | リバベルには遵守すべき法規が存在し、それは絶対だ。 | |
イオスフォロス | 浄化者の態度については……主導者は僕だけではないからね、軽率な発言は控えるよ。 | ||
(選択) | 1.「ウィズダム」はどうなるんだ? | B | |
B | イオスフォロス | {教授}、やはり君は興味深い。この期に及んで他人の心配をするとは。 | |
イオスフォロス | 安心するといい。リバベルへ連れ帰り、治療を受けさせるさ。 | ||
その時、不協和音が響いた。 | |||
オディールによって再び開かれた裂け目が、徐々に明瞭さを帯びてゆく。 裂け目のもう一方からの鳴き声が、そこはかとなく聞こえてくる。 | |||
イオスフォロス | お喋りはここまでのようだ。 | ||
イオスフォロスが手を掲げた。 そこから発せられた鋭い光が、彼の動きを覆い隠した。 | |||
光が収まる頃には、巨大なデータの裂け目はすでに跡形もなく消えていた。 | |||
イオスフォロス | ピエリデスセクターの管理は、浄化者が引き継ぐ。君たちは立ち去りたまえ。 | ||
そう言って、イオスフォロスは羽ばたいて行った。 | |||
ソル | あれが話に聞いてた「イオスフォロス様」かぁ…… | ||
ソル | 一度でいいから、勝負してみたいなぁ……あいやいやいや、今のナシ。 | ||
ソル | あの規模のオペランドじゃ、敵いっこないもんね。 | ||
アントニーナ | なんせ、浄化者のボスですからね。レイヴンやアンジェラスよりかは、迫力ありますよ。 | ||
ソル | 教授ってば、ぜんぜん怖がってないみたい、やるじゃん! | ||
ペルシカ | 教授、大丈夫ですか? | ||
(選択) | 1.大丈夫だよ。 | C | |
2.最悪な気分だ。 | D | ||
C | ペルシカは私の肩を叩いた。 | E | |
D | ペルシカ | 心中、お察しします…… | E |
E | 私たちは周囲を見渡して、メンテナンスの準備を始めた。 | ||
花園はさながら炎に焼き尽くされたかのようだった。 エントロピーも全滅している。 | |||
安全を確認した上で、ペルシカが皆に治療を施し始める。 私はオアシスに救援信号を送った。 | |||
ペルシカ | 少なくとも、ピエリデスの脅威は阻止されましたね。これで、オアシスがエントロピーに襲撃される心配はなくなります。 | ||
ペルシカ | ですが、クロックさんは…… | ||
ソル | あんなに感染の酷かったオディールですら目を覚ましたんだ、クロックだってきっと大丈夫だよ! | ||
ペルシカ | ……それは、浄化者のサポートがあったからこそです。それに、あなたも見たでしょう?あのアドミニストレーターの末路を。 | ||
ソル | じゃ、じゃあクロックは…… | ||
ペルシカ | クロックさんの状況は、以前の私たちよりも遥かに深刻です。ターシャリレベルに潜るだけで解決できるとは思えません。 | ||
ペルシカ | エントロピーによる感染症を治療するには、敵のソースコードが必要不可欠です。 | ||
ソル | でも、データの裂け目は閉じちゃったし、あのアドミニストレーターも行方知れずだよ。まるで手がかりが…… | ||
アントニーナ | 手がかりならあります。 | ||
ペルシカ | いけません、アントニーナさん。起き上がらないで、治療は終わってないんですよ! | ||
アントニーナ | 手がかりはあります。あのアドミニストレーターと行動をともにした際、念のため発信機を忍ばせておきました。 | ||
アントニーナは自身の端末からマップを呼び出した。 | |||
スクリーン上では、光る軌跡がピエリデスセクターを出発し、 地図上の未知のエリアへと続いている。 | |||
ペルシカ | この方角は……コプリーセクター? | ||
{教授} | コプリーセクター? | ||
ペルシカ | コプリーセクターはオアシスと同様の、プライベートセクターです。具体的な状況は私にも。 | ||
アントニーナ | プライベートセクターだからこそ、隠れるのにはうってつけなのでしょう。 | ||
アントニーナ | どんなに狡猾な者でも、痕跡を完全に消すことはできない。今度はこちらが網を引く番です。 | ||
ソル | さっすがアントニーナ!教授、さっそく出発しよう! | ||
ペルシカ | 待ってください、今はまだダメです。 | ||
ソル | えっ、ここまで来たのにあきらめちゃうの? | ||
{教授} | ソル、私たちには準備が必要なんだ。 | ||
ソル | はーい…… | ||
荒涼とした花園に、希望の炎が再び灯った。 | |||
エントロピー、浄化者、イオスフォロス…… | |||
波瀾の幕引きには、まだまだ程遠いようだ。 |