前日、午前04:11。 | |||
オアシス司令室。 | |||
ペルシカ | 教授、今のところ戦線は安定しています。 | ||
ペルシカ | ですが、サンドボックス障壁では、あの怪物たちを阻めません。今はなんとか抑え込めていますが、もし第三波、第四波が来れば…… | ||
{教授} | ……アントニーナのほうは? | ||
ペルシカ | 解析を通じて、メンタルファイアウォールを安定させるコードを作成しています。クロックさんが命がけでサンプルを持ち帰ってくれたおかげです。 | ||
ペルシカ | しかし…… | ||
アントニーナ | 私からご説明します。 | ||
ペルシカ | アントニーナさん?感染者のほうは大丈夫なんですか? | ||
アントニーナ | 生体サンプルで得たコードは、すでにインプット済です。さしあたっては問題ないですよ―― | ||
アントニーナ | ――さしあたっては、ですが。 | ||
ペルシカ | ウィルスを止められないのでしょうか? | ||
アントニーナ | こういった怪物は、とてつもなく微妙なんです。極めて不安定かつ不規則で、混沌とした状態にある。 | ||
アントニーナ | 生物学的にたとえれば、怪物たちはどれもが独立した個体であり、とある存在の発達や増殖による産物です。このウィルスも、おそらく後天的な進化の過程で備わったものでしょう。 | ||
アントニーナ | そのため現段階では、感染を一時的に封じ込めることしかできません。怪物どもの大元を見つけないことには、手の施しようがありませんね。 | ||
ペルシカ | なら、クロックさんは…… | ||
アントニーナ | ……クロックさんは、すでに感染の第二段階へと進んでいます。彼女の意識は、ターシャリレベルへと囚われてしまっている。 | ||
アントニーナ | 手に入れたコードでは、ターシャリレベルへの浸蝕を防ぐのが精一杯ですね。まぁ少なくとも、基礎演算とコアデータへの影響はかろうじて免れています。 | ||
話の途中で、アントニーナのスクリーン上に通信リクエストが現れた。 | |||
> 通信リクエスト確認、接続中…… | |||
エージェント | 解析結果が出ました。怪物の体内で、 まだ完全に異化していないプログラムの断片を発見しました。 プログラム内のデータは、どれもピエリデスセクターを指しています。 | ||
ペルシカ | ピエリデスセクター……オアシスに最も近いセクターだと記憶しています。それに規模も小さい。 | ||
エージェント | はい。これまでの探査で「芸術セクター」であることがわかっています。 我々を襲撃した怪物は、そこから発生したとみて間違いありません。 | ||
{教授} | ペルシカ、メンバーを集めて出発の準備を。 | ||
ペルシカ | わかりまし…… | ||
その時、アントニーナがペルシカの言葉を遮った。 | |||
アントニーナ | やめておいたほうがいいですよ、教授。 | ||
アントニーナ | ある程度の防御力を持つオアシスですら、この有様なんです。ピエリデスセクターなんて、とっくに滅ぼされてると思いますけど。 | ||
アントニーナ | 怪物に占拠されたセクターに行ったところで、無駄死にするだけです。 | ||
ペルシカ | たとえ危険でも、怪物たちの本体からソースコードさえ入手できれば、クロックさんたちは助かります! | ||
ペルシカ | それに、他に選択肢はありません。 | ||
アントニーナ | いいえ、一つだけあります。誰も認めたくはないだけで。 | ||
アントニーナ | ペルシカさん。最悪の事態となる前に、彼女たちをリセットするんです。でないと、リセットのチャンスまで失われてしまいます。 | ||
ペルシカ | 彼女たちを……殺せと言うんですか!? | ||
アントニーナ | 仕方ないじゃないですか!! | ||
アントニーナ | 二度と会えなくなるのは、もっと嫌だ…… | ||
アントニーナ | 私だって、他に方法があれば……くそっ! | ||
アントニーナは拳をデスクに激しく叩きつけた。 | |||
(選択) | 1.あなたの言うことはもっともよ。 | A | |
2.敵前逃亡するなんて、あなたらしくもない。 | B | ||
A | {教授} | でも、ここでためらうわけにはいかない。 もし怪物の攻撃が止まなかったら、仲間を何回リセットすることになる? | C |
B | {教授} | 心配はわかるよ。だけどリスクはさておき、 あなたは何回仲間をリセットするつもりなの? | C |
C | アントニーナ | …… | |
ペルシカ | アントニーナさん。これはけしてクロックさんや、感染者たちのためだけではありません。 | ||
ペルシカ | 怪物たちの進攻は続いています。主力部隊がなんとか対抗していますが、敵の増援がいつ現れるかもわかりません。 | ||
ペルシカ | ピエリデスへと向かうのは、ソースコードを見つけるのはもちろん、あれらを根本的に消し去るためでもあるんです。 | ||
アントニーナ | ……わかりました、教授に従います。 | ||
{教授} | 武装部隊は、オアシスに残って怪物を食い止めて。 突撃隊はペルシカ、アントニーナ、ソルの三名。出発準備を。 | ||
ペルシカ | はい! | ||
AM06:52。 | |||
ピエリデスセクター外。 | |||
アントニーナは私たちのまわりに、奇妙な形の装置を取り付けた。 それが稼働したのを確かめてから、 彼女はピエリデスセクターのファイアウォールにアクセスし始めた。 | |||
ソル | なんなのさ、これ?すっごくボロいけど…… | ||
ペルシカ | じっとしてください、アントニーナさんが大急ぎで作った防御装置です。外敵から私たちをある程度守ってくれます。 | ||
ソル | ちょ……ちょっと聞いただけじゃんか。なにさ、みんなピリピリしちゃって。 | ||
ペルシカ | ……確かに、もう少し気を楽にするべきですね。 | ||
ペルシカ | アントニーナさん、ファイアウォールのクラックは順調ですか? | ||
アントニーナ | …… | ||
ペルシカ | アントニーナさん? | ||
ペルシカは応答のないアントニーナに触れてみた。 | |||
ドサッ―― | |||
ペルシカ&ソル | アントニーナ(さん)!? | ||
アントニーナは苦痛の表情を浮かべて地面へと倒れ、身を縮こまらせた。 | |||
ペルシカ | まずいです、アントニーナさんのメンタルが感染しています! | ||
ソル | ファイアウォールか!? | ||
アントニーナを支えようとした矢先、 ソルの叫び声と目の前の光景に、私は愕然とした。 | |||
故障時のような光が瞬いたかと思うと、 きれいに整っていたはずのファイアウォールは、 いつの間にかボロボロに朽ち果てていた。 | |||
怪物 | ギッ!―― | ||
次の瞬間、おびただしい数の奇妙なプログラムが裂け目から身を乗り出し、 怒涛のごとくこちらへと押し寄せて来た。 | |||
怪物 | ギギギーーガガーーー | ||
防御装置による障壁が、怪物の攻撃をかろうじて防いだ。 私たちはその場に縮こまることしかできなかった。 | |||
ソル | アンナ!しっかり!! | ||
ペルシカ | 駄目です、彼女はもう感染しています!撤退するしかありません! | ||
{教授} | 防御装置を抱えて突破するのは? | ||
ペルシカ | いけません!装置を動かすのは危険です! | ||
怪物 | ガァァァーーギギギーーー | ||
黒紫色の液体が障壁内へと滲みだし、 足元から太腿をつたって上半身へと這い上がってきた。 | |||
{教授} | 危険でも―― | ||
言葉の途中で、怪物たちに圧迫されていた防御障壁が、ガラスのように砕け散った。 | |||
押し寄せる黒紫色の波に、今にも呑み込まれそうになる。 | |||
ソル | 危ない!! | ||
ソルが素早く私たちの前に立ち、襲い来る怪物を一刀両断にした。 | |||
しかし、亡骸は地に落ちることなく、延々と寄せる怪物の波にからめとられ、 私たちのほうへと押し流されてきた。 | |||
ペルシカ | ソルさん!教授を掩護して先に行ってください! | ||
ソル | なら、あんたはどうすんのさ!? | ||
ペルシカ | オペランド障壁で奴らを食い止めます! | ||
ペルシカの手から放たれたオペランドが、怪物たちを足止めした。 | |||
だが形成途中の障壁は、敵の分泌した黒紫色の液体によって溶かされてしまう。 | |||
ソルがすぐさま正面の怪物を防いだ。 しかし、今度は側面から触手が襲いかかって来る―― | |||
ペルシカ | !!教授!!! | ||
ふいに、私は誰かに押しのけられた。 続いて、何かが貫かれたような音がした。 | |||
あぁッ―― | |||
溢れ出したオペランドが、黒紫色の液体と混じりあう。 | |||
視界がはっきりとする時には、ペルシカはすでに倒れていた。 | |||
{教授} | ペルシカ!! | ||
ペルシカ | うぅ…… | ||
ペルシカ | ピエリデス、は……もう…… | ||
ペルシカ | 教授……逃げてくださ…… | ||
ペルシカ | ふふふ、少々つまらなかったみたいですね。 | ||
ペルシカ | あなたなら、どんな困難でも乗り越えられるわよね、指揮官? | ||
ペルシカ | あぁ……教授の見かけた白い服の少女は、アントニーナさんだったんですね。 | ||
{教授} | 白い服の少女を見たなんて、ひとことも言ってないはずだけど? | ||
白い服の少女 | ……あなたはここにいるべきじゃない。 | ||
気づくと、私は花園にいた。 周囲の景色が破片となって、あたりに浮かんでいる。 | |||
白い服の少女が私を見つめている。 彼女は小さく笑顔を浮かべた。 | |||
白い服の少女 | ……目を覚まして。 | ||
{教授} | !! | ||
私は猛然と起き上がった。 | |||
まわりを見渡すと、アントニーナの設置した装置はすでに機能停止しており、 他の三名は私の傍で静かに横たわっていた。傷口には応急処置が施されている。 | |||
ホッとしたのも束の間、耳元から聞き慣れた機械音声が響いた。 | |||
浄化者 | 【警告、ターゲットが目を覚ましました】 | ||
??? | メンタルの状況はわかるか? | ||
浄化者 | 【検査中……警告、ターゲットは異常エージェントです】 【プログラムを続行しますか?】 | ||
??? | 続行し……いや、待った。先にこやつを取り押さえろ。 | ||
機械の変形する音が激しく鳴り響いた。 続けざまに、わずかに光を放つ無数の銃口が私へと向けられた。 | |||
??? | 【武装制圧準備】 | ||
{教授} | !!! |