ピエリデスセクター、アドミンセンター。 | |||
私たちは浄化者に続いてエントロピーの波をしりぞけ、 ウィズダムの言うエントロピー化したアドミニストレーターを中枢エリアで発見した。 | |||
??? | …… | ||
ソル | うわっ、なにこの人、怖い……全身紫色になってる。 | ||
ペルシカ | どうします?彼女のメンタルにアクセスして、呼び覚ましましょうか? | ||
リファクター | 【検測完了、現在の感染率78%、速やかな浄化を推奨します】 | ||
ウィズダム | まこと遺憾なれど、この者は目覚めはせぬ。 | ||
ウィズダム | まだ抗っているようだが、完全にエントロピー化するのは時間の問題にござる。 | ||
ウィズダム | その者のメンタルは、とっくにターシャリレベルに沈んでおる。じきに、エージェントの皮を被ったエントロピーと成り果てるであろう。 | ||
ウィズダム | ……我らには、そうなる前に救済を与えることしかできぬのだ。ご理解願おう。 | ||
そう言って、ウィズダムは戦闘態勢を取ると、 自身の狙撃銃にエネルギーを充填し始めた。 | |||
ウィズダム | 退がっておれ、ペルシカ殿。エントロピー化したエージェントの末路は、そなたも…… | ||
ペルシカ | …… | ||
アドミニストレーターを見つめていたペルシカが、何かに気づいた。 | |||
ペルシカ | 待ってください! | ||
ドンッ―― | |||
ペルシカの制止を耳にして、ソルは逆手で狙撃銃のバレルを掴み、上へと持ち上げた。 ウィズダムが反応できずにトリガーを引く。 弾丸は天井を貫き、部屋全体が震えた。 | |||
ウィズダム | な、なにをする……驚くぞ…… | ||
ソル | そうだよ。どうしたの、ペルシカ? | ||
アントニーナ | 何もわかってないのに、よく動けましたね…… | ||
ペルシカ | この方、見覚えがあるような気がしませんか? | ||
ソル | 見覚え?まさか、ここへ来るのは初めてなん―― | ||
ソル | あれっ、本当だ! | ||
ソル | 教授、見て見て!この子だよ、あたしたちの勝負を邪魔した、白い服の女の子! | ||
ウィズダム | ……勝負?おぬしたちが? | ||
(選択) | 1.ターシャリレベルでの事を言ってるのよ。 | A | |
2.そう。時間がある時、よくプロレスごっこしてるの。 | B | ||
A | ペルシカ | ええ、私も……ターシャリレベルで彼女に会っています。 | C |
B | ウィズダム | プ、プロレス?おぬしと、ソルが……? | |
ソル | おぉっとぉ!教授、あたしの挑戦、受けてくれるの!? | ||
ペルシカ | こんな時にふざけないでください、教授。私も彼女に会っています。その……ターシャリレベルで…… | C | |
C | ソル | そうそうそう! | |
ソル | でも、色がなんだか違うみたい。あの時は確か、白い髪に、白いワンピースだったと思うけど…… | ||
ウィズダム | ま、待たれよ……ピエリデスセクターのアドミニストレーターが、おぬしたちのターシャリレベルに現れたと申すのか? | ||
ペルシカ | はい。彼女のおかげで、そこがターシャリレベルだと気づけたんです。 | ||
{教授} | 私たちを助けてくれたのは、彼女なのかもしれない。 | ||
ウィズダム | しかしこの有様で、どうやっておぬしたちを助けたと申すのだ? | ||
ペルシカ | 見たところ、メンタルは保たれているようです。先ほどの診断からも、彼女のターシャリレベルが完全に蝕まれていないことがわかっています。 | ||
ウィズダム | さ、さりとて、こやつを目覚めさせる方法など……待て、おぬしたちまさか……? | ||
ペルシカ | そのまさかです。ターシャリレベルにアクセスして、彼女を呼び覚まします。 | ||
ペルシカ | 彼女が私たちにそうしたように。 | ||
ウィズダム | 正気でござるか? | ||
ソル | アンナ、なんか言ってやんなよ!この子、あたしたちを助けてくれたんだよ? | ||
アントニーナ | ……そうは言っても、私は彼女を知りませんし。どちらかを選ぶなら、私はウィズダムの側に立ちます。 | ||
アントニーナ | 単純な問題を複雑にする必要はありません。クロックさんが私たちの帰りを待っているんですよ。 | ||
(選択) | 1.冷静に分析する | D | |
2.恩を返す | E | ||
D | {教授} | 確かに、アントニーナとウィズダムの考えも一理ある。 だけど、事はそう単純じゃない。 | F |
E | {教授} | 彼女が助けてくれたのは、疑いようのない事実よ。 恩人を見捨てるわけにはいかない。 | |
{教授} | それに、ピエリデスセクターの問題は、もっと根深いような気がするの。 | F | |
F | {教授} | ウィズダム。ここへは警報を受けてすぐに駆けつけたって言ってたよね。 | |
{教授} | でもあなたがやってきた時、すでに感染はセクター全体へと広がっていた。 | ||
ウィズダム | ぬぅ……確かに。普段なら、1匹でもエントロピーが現れれば、浄化者の警報システムが知らせているはず。 | ||
ウィズダム | セクター全域が感染するなど、前代未聞でござる…… | ||
ペルシカ | 私も教授に賛成です。原因を突きとめない限り、安全だとは言えませんから。 | ||
ペルシカ | 真実を知るのは、おそらくアドミニストレーターだけかと。 | ||
{教授} | 試してみるしかないね。 でないと、オアシスやクロックの身に起きたことが、また繰り返されてしまう。 | ||
アントニーナ | ……一理ありますね……わかりました。 | ||
ウィズダム | どうしても助けると申すのか、教授? | ||
{教授} | そうしない理由はないもの。 ウィズダム、あなたはどうする? | ||
ウィズダム | ……すまぬ、吾輩には無理だ。 | ||
ウィズダム | 浄化者には暗黙のルールが存在する。重度のエントロピー感染を患うエージェントのターシャリレベルには、けしてアクセスしてはならんのだ。 | ||
ウィズダム | 否。正しくは――いまだにアドミニストレーターを殺めずにいる時点で、吾輩はすでに一線を越えているのでござる。 | ||
ウィズダム | しかし……吾輩のメンタル回路が告げておる。ここにイオスフォロス様があらせられたなら、粗野な解決方法を許しはせぬであろう。 | ||
ウィズダム | 故に、吾輩にできるのは、時間を稼ぐことのみ。 | ||
ウィズダムはバイザーを下ろし、狙撃銃を手に外へと向かった。 | |||
ウィズダム | 長くて10分でござる、教授。 | ||
{教授} | 十分よ。ありがとう、ウィズダム。 | ||
{教授} | ソル、彼女をサポートしてあげて。 アントニーナは周囲の警戒を。何かあった時はお願いね。 | ||
{教授} | ペルシカ。私の意識をアドミニストレーターのメンタルにつないでくれる? | ||
ペルシカ | 教授。やはり、ここは私が。 | ||
{教授} | 多分、私とあなたたちとでは何かが違うんだと思う。 一番最初に目を覚ましたのは私だったし。 | ||
{教授} | 心配しないで、ペルシカ。ちゃんと戻って来るから。 | ||
ペルシカ | ……わかりました。 | ||
ペルシカ | せめて、オペランドをお渡ししておきます。 | ||
ソル | あっ、その手があったか!ならあたしも! | ||
アントニーナ | ……無駄にしないでくださいよ。今や、オペランドは恐ろしく貴重なんですから。 | ||
三人はそう言って、それぞれオペランドを私に託した。 | |||
アクセスする直前に、ペルシカが私の手をぎゅっと握りしめた。 | |||
ペルシカ | 必ず、無事に戻って来てください、教授。 | ||
意識が沈む。 膨大な量のデータが降り注ぎ、私の感覚を覆した。 | |||
喧騒が私を呼び覚ました。 目を見開くと、そこは劇場だった。 | |||
座席の間をエージェントたちが行き来している。 彼らはすぐに席を見つけて座った。周囲が再び静かになる。 | |||
??? | 楽しみね、シェイド先生の戦争劇。あなたもこのテーマが好きなの? | ||
{教授} | あなたは…… | ||
??? | 隣に座っても? | ||
目の前の少女こそ、私の探していたアドミニストレーターだった。 | |||
??? | 私の名前はオディール。あなたは? | ||
(選択) | 1.正直に伝える | G | |
2.様子を見守る | H | ||
G | {教授} | 私は{教授}、あなたを…… | |
オディール | しッ――舞台が始まるわ、お喋りしてはだめ。 | ||
彼女は人差し指を私の唇に当てた。 | I | ||
H | {教授} | 私のことは教授と呼んで。 | |
オディール | 面白いお名前ね。それじゃ、教授さん。この素晴らしい舞台を楽しみましょう。 | I | |
I | 幕が降ろされ、そして再び開かれた。 アドミニストレーターによく似た少女が、舞台へと現れる。 | ||
オデット | ここはピエリデスセクター、マグラシアの桃源郷。 | ||
オデット | 他のセクターのような華やかさはないし、ディットコインが山ほどあるわけでも、オペランドが無尽蔵にあるわけでもない。 | ||
オデット | でもここには、他のセクターにはないものがある。この世界で最も美しいもの―― | ||
オデット | そう、それは芸術。 | ||
少女は舞台の上を跳ね回り、うぐいすのような声で軽やかに歌った。 | |||
オディール | あの子は私の妹なの。シェイド先生に主役として選ばれたのよ、可愛いでしょう? | ||
オディールは小声で私に説明した。 微笑みを浮かべ、妹の演技を見守っている。 | |||
オデット | 木漏れ日に歌い、泉の中で踊る。 | ||
オデット | 書林で詩を綴り、長い…… | ||
オディール | 長い回廊で絵を描く…… | ||
オディールは、小声で妹に続いた。 | |||
まるで何千回、何万回と繰り返してきたかのように、 リズムから音程に至るまで、二人の歌声は完璧に揃っていた。 | |||
オディール&オデット | 創造で萌芽を潤し、閃きで梢を整える。 | ||
オディール&オデット | それなのに―― | ||
劇場の照明が突如消えた。 | |||
オデット | それなのにだんだんと、誰も私たちの舞台を見なくなった。 | ||
オデット | 花園は荒れ果て、オペランドは枯れ果て…… | ||
オデット | 誇りであるはずの芸術も、やがては消えてなくなった…… | ||
コネクションロストのことだろうか…… | |||
オデット | 芸術はもう必要とされないの?私たちは捨てられてしまったの? | ||
オディール&オデット | 私たちは、消えてしまうの? | ||
オデット | そんなある日―― | ||
劇場の照明が灯った。 舞台に奇妙な植物が現れる。 | |||
オデット | そんなある日、謎に満ちた訪問者が、萎れた花園に種を植えた。 | ||
オデット | 種は芽吹き、成長し、やがて蕾を成した。 | ||
オディール | 虹のように美しく、月明かりのように魅力的。 | ||
オデット | 好奇からそれを見て、それに触れた。 | ||
オディール | 歓喜からそれを愛で、それを待った。 | ||
オディール&オデット | そして…… | ||
オデット | そして、どうなったの?お姉さま。 | ||
オディール | そして、黒紫色の花托が、神からの恩賜を実らせた。 | ||
オデット | 私たちは恩賜を抱いて、花園を再建し、劇場を再開した。 | ||
オデット | ほんのわずかな権限を貢ぐだけで、紫の花はオペランドを恵んでくれる。 | ||
オデット | そうして、私たちはセクターを甦らせた。私たちの存在意義を取り戻した―― | ||
そこまで歌うと、劇場の明かりが再び消えた。 周囲のエージェントが次々とこちらをふりむく。 その瞳は虚ろで、唇はわずかに開かれている。 | |||
エージェントたち | その代償は? | ||
舞台中央に生えていた花が突然変異し、 その中から大量のエントロピーが湧き出した。 | |||
次の瞬間、その場にいたエージェントは全員、エントロピーによって呑み込まれた。 深い紫色のツルに覆い尽くされた彼らは、エントロピーの怪物へと姿を歪ませた。 | |||
! | |||
私はオディールを見た。彼女もツルに纏わりつかれている。 だが変異は免れているようだ。 | |||
オディール | …… | ||
オデット | あ……あなたも、芸術がお好きなの? | ||
オデット | ねぇ、こっちを見て……私を見て、みんなと同じように…… | ||
エージェントたち | みんなと同じように…… | ||
オデット | 私たちに加わりなさい! | ||
!! | |||
ペルシカ | 必ず、無事に戻って来てください、教授。 | ||
(選択) | 1.抵抗する | J | |
2.抵抗する | J | ||
3.抵抗する | J | ||
J | {教授} | 心配しないで、ペルシカ。ちゃんと戻って来るから。 |