戦いが一段落すると、劇場内のエントロピーが徐々に姿を消していった。 オデットを包んでいた紫の煙も、オディールを束縛していたツルも消失した。 | |||
オデット | うぅ……力が……弱まってゆく…… | ||
オデット | 私たち、やっぱり捨てられちゃったの……?どうして…… | ||
オデット | おねえ……さま…… | ||
やがて、オデットも他の感染者と同じように、粉々になっていった。 | |||
オデットは最後の最後まで、目を大きく見開き、 名残惜しそうな瞳で彼女の姉を見つめ続けていた。 | |||
オディール | 幕がやっと降りたわね。 | ||
消えゆく妹を前に、オディールはそう小さく呟いただけだった。 彼女の身体の紫色が、先ほどよりも濃くなっている。 | |||
{教授} | ……正気に戻ったのか? | ||
オディール | ええ…… | ||
オディール | ピエリデスセクターは大きくはないの。私の妹、友達、仲間…… | ||
オディール | 私たちはセクターを営むため、権限と引き換えにオペランドを手に入れた…… | ||
A | (選択→D) | 1.誰が君たちと取引を? | B |
2.エントロピーはどこから来たんだ? | C | ||
B | {教授} | 君たちの言う「謎の訪問者」とは誰なんだ? | |
オディール | わからないの。 | ||
オディール | 彼の姿は、はっきりとしないから。 | A | |
C | {教授} | 君たちの言う「紫の花」は、花園の中心にあるのか? | |
オディール | そうよ。私たちは花からオペランドを得られると気づいた。 | ||
オディール | でもある日、花が急にデータの裂け目へと変化したの。 | ||
オディール | おびただしい数のエントロピーが溢れだして、私たちをあっという間に呑み込んでしまった。 | A | |
D | そう言って、彼女は再び劇場の座席に腰かけた。 | ||
オディール | 正気を保つって、難しいのね。最後の希望が現れなければ、とっくに妹と一緒に踊っていたでしょう。 | ||
オディールは手のひらを私に向けた。 表情はややくたびれて見える。 | |||
オディール | 私を呼び覚まして。私ならデータの裂け目を封じ、エントロピーの侵入を防ぐことができる。 | ||
オディール | どうか私を助けて、ピエリデスセクターを助けてちょうだい。 | ||
{教授} | もちろん。 | ||
足元の大地が激しく揺れ始めた。 劇場が崩壊を迎えようとしている。 | |||
{教授} | まだ持ちこたえられるか? | ||
オディール | 使命を果たすまでは、倒れたりしないわ。安心して。 | ||
ペルシカ | 教授!大丈夫ですか? | ||
{教授} | 言っただろ、無事に戻って来るって。 | ||
ペルシカ | 良かった……良かった! | ||
アントニーナ | まだ気は抜けませんよ、ペルシカさん。 | ||
アントニーナ | アドミニストレーターが目を覚まします……安全なんでしょうね、教授? | ||
{教授} | 私と会話していた時は、意識ははっきりとしていたよ。 | ||
アントニーナ | でも彼女、まだ黒いままですよ……あっ、動いた! | ||
私たちは緊張した面持ちで、オディールの目覚めを見守った。 しばらくして、彼女はゆっくりと目を見開いた。瞳には明晰さをたたえている。 | |||
オディール | ありがとう、教授さん。 | ||
ペルシカ | 意識が回復しました! | ||
アントニーナ | 油断しないでください!彼女のコードを分析しました、エントロピー化は続いています! | ||
オディール | 心配いらないわ。私が正気である限り、この身を明け渡したりはしないから。 | ||
アントニーナ | ……暴走したら、容赦はしませんよ。 | ||
オディール | ええ、もちろん。 | ||
オディール | 時間がないわ、歩きながら話しましょう。 | ||
ウィズダム | ……つまり、エントロピーどもは、ピエリデス内部にデータの裂け目をこしらえたのでござるか? | ||
ウィズダム | どうりで数が多いわけだ。対応が遅れたのも納得がいく…… | ||
オディール | 裂け目は私と妹が建てた花園にあるわ。今から連れて行ってあげる。 | ||
ウィズダム | わかった……しかし、一体なにやつが…… | ||
オディール | 知らないわ。いまだに原因がわかってないの…… | ||
オディール | うっ……! | ||
話の途中で、ふいにオディールがよろめき、危うく倒れそうになる。 ソルとペルシカが急いで彼女を支えた。 | |||
オディール | ごめんなさい……やっぱり体が弱っているみたい…… | ||
オディール | あのエントロピーたちが、まだメンタル内で悪さを――うあぁっ! | ||
ソル | 大丈夫!? | ||
アントニーナ | ウィルスによる攻撃ですね。あなたのメンタルを奪うために、ファイアウォールを破ろうとしているんです。 | ||
アントニーナ | あなたの身体は、強制的にオペランドを使って対抗しています……このままでは、長くはもちません。 | ||
{教授} | 私たちのオペランドを渡そう。 戦いは密だけど、まだ余裕はあるから。 | ||
オディール | そ……それじゃあ、お願いできるかしら、教授さん。 | ||
アントニーナ | オディールさん、オペランドをできるだけメンタルファイアウォールの維持に回してください。 | ||
アントニーナ | 何があろうと、他へオペランドを分散させてはいけません。でないと、エントロピーの攻撃を防げなくなります。 | ||
オディール | 気をつけるわ……ありがとう、皆さん。 | ||
{教授} | ペルシカ、手伝ってくれ。彼女にオペランドを送るんだ。 エントロピーに襲撃されないよう、他のみんなは周囲の警戒を。 | ||
ウィズダム | よかろう、警戒任務は吾輩に任されよ。 | ||
ソル | へへ~。ウィズダム、もう完全に教授の部下になってるじゃん。 | ||
ウィズダム | ぶ……部下とな!? | ||
ソル | そうだよ、もう浄化者なんかやめて、オアシスに加わるってのはどう?倉庫なら寝床に使って良いよ。 | ||
ウィズダム | じょ、冗談よさぬか! | ||
ウィズダム | 吾輩の忠誠は永遠にイオスフォロス様だけのもの……つけあがるのも大概にせい! | ||
ソル | う、嘘に決まってんじゃんか、本気にしないでよ…… | ||
ウィズダム | フン、勘違いするでないぞ。我らは単なる協力関係。ここでおぬしらを捨て置こうと、吾輩は一向にかまわぬのだからな! | ||
ウィズダム | リバベルに戻れば、イオスフォロス様にご報告差し上げねばならぬ。おぬしらがどうなるかは、あの御方の思し召し次第にござる。 | ||
ウィズダム | ひょっとしたら、再び敵同士に戻るやもしれぬぞ。 | ||
ソル | なんでそうなるのさ。そんなの報告書に上手いこと書いとけば…… | ||
ウィズダム | 何度も申しておろう!吾輩が信仰に背くことなどあり得ぬ!我らの信仰は―― | ||
オディール | みんな、着いたわ。 | ||
ソル | なんだ……これ!? | ||
目の前には、想像を絶する光景が広がっていた。 花園のゲートは、生い繁る紫色の棘と触手によって、がっちりと塞がれている。 | |||
私たちの火力では、この奇妙なゲートを破ることなどできない―― | |||
ウィズダム | ここは吾輩が。この程度の防御なら問題なかろう。おぬしらはオディールを見張っておれ。 | ||
ソル | おおおっ!頼りになるぅ! | ||
ペルシカ | どうかお気をつけて。 | ||
ウィズダム | 浄化者よ、攻撃フォーメーションでござる! | ||
下位浄化者 | 【命令を確認】 | ||
死を象徴する赤いレーザーが、ウィズダムの狙撃銃からゲートの中央へと伸びた。 | |||
ウィズダムは体中のオペランドをその一撃に集中させている。 それにより周囲の空間が歪む。 | |||
ドンッ――! | |||
オペランドに満ちた狙撃弾が、あっという間にゲートを貫いた。 棘が綺麗な円形にくりぬかれ、その周囲にはわずかに焦げ跡が残っている。 | |||
ソル | こっわ……こんなので撃ちぬかれた日にゃ…… | ||
アントニーナ | 待ってください、様子が変です!何かが反撃してきます! | ||
ふいに、残った棘と触手が自意識を持ったかのごとく、急激に成長し始めた。 そして、鋭い矛のようにウィズダムへと襲いかかる。 | |||
ウィズダム | なにっ!? | ||
ソル | ウィズダム! | ||
ソルは後先考えずにウィズダムのほうへ走った。 だが距離が遠すぎる。 | |||
棘と触手が瞬時にウィズダムを呑み込み、爆発した。 | |||
煙霧が晴れると、そこにはエントロピー液の中に倒れるウィズダムの姿があった。 | |||
リファクター | ! | ||
アントニーナ | まずい!意識を失ってる! | ||
{教授} | 落ち着け!ペルシカ、オディールを頼む! | ||
ペルシカ | はい! | ||
{教授} | アントニーナ―― | ||
アントニーナ | もう分析してます! | ||
アントニーナ | ダメです、メンタルが正気でないと、ファイアウォールを維持できません! | ||
アントニーナ | エントロピーウィルスが彼女のベースコードを攻撃しています! | ||
ウィズダム | ギギ、ヒグッ、ギアアアアアア……! | ||
アントニーナ | 攻撃してくる! | ||
{教授} | 彼女を取り押さえろ! |