ピエリデス 標準 PART.8 花園

Last-modified: 2024-11-27 (水) 21:05:45

 戦いが一段落すると、劇場内のエントロピーが徐々に姿を消していった。
オデットを包んでいた紫の煙も、オディールを束縛していたツルも消失した。
オデットうぅ……力が……弱まってゆく……
オデット私たち、やっぱり捨てられちゃったの……?どうして……
オデットおねえ……さま……
 やがて、オデットも他の感染者と同じように、粉々になっていった。
 オデットは最後の最後まで、目を大きく見開き、
名残惜しそうな瞳で彼女の姉を見つめ続けていた。
オディール幕がやっと降りたわね。
 消えゆく妹を前に、オディールはそう小さく呟いただけだった。
彼女の身体の紫色が、先ほどよりも濃くなっている。
{教授}……正気に戻ったのか?
オディールええ……
オディールピエリデスセクターは大きくはないの。私の妹、友達、仲間……
オディール私たちはセクターを営むため、権限と引き換えにオペランドを手に入れた……
A(選択→D)1.誰が君たちと取引を?B
2.エントロピーはどこから来たんだ?C
B{教授}君たちの言う「謎の訪問者」とは誰なんだ?
オディールわからないの。
オディール彼の姿は、はっきりとしないから。A
C{教授}君たちの言う「紫の花」は、花園の中心にあるのか?
オディールそうよ。私たちは花からオペランドを得られると気づいた。
オディールでもある日、花が急にデータの裂け目へと変化したの。
オディールおびただしい数のエントロピーが溢れだして、私たちをあっという間に呑み込んでしまった。A
D そう言って、彼女は再び劇場の座席に腰かけた。
オディール正気を保つって、難しいのね。最後の希望が現れなければ、とっくに妹と一緒に踊っていたでしょう。
 オディールは手のひらを私に向けた。
表情はややくたびれて見える。
オディール私を呼び覚まして。私ならデータの裂け目を封じ、エントロピーの侵入を防ぐことができる。
オディールどうか私を助けて、ピエリデスセクターを助けてちょうだい。
{教授}もちろん。
 足元の大地が激しく揺れ始めた。
劇場が崩壊を迎えようとしている。
{教授}まだ持ちこたえられるか?
オディール使命を果たすまでは、倒れたりしないわ。安心して。
 
ペルシカ教授!大丈夫ですか?
{教授}言っただろ、無事に戻って来るって。
ペルシカ良かった……良かった!
アントニーナまだ気は抜けませんよ、ペルシカさん。
アントニーナアドミニストレーターが目を覚まします……安全なんでしょうね、教授?
{教授}私と会話していた時は、意識ははっきりとしていたよ。
アントニーナでも彼女、まだ黒いままですよ……あっ、動いた!
 私たちは緊張した面持ちで、オディールの目覚めを見守った。
しばらくして、彼女はゆっくりと目を見開いた。瞳には明晰さをたたえている。
オディールありがとう、教授さん。
ペルシカ意識が回復しました!
アントニーナ油断しないでください!彼女のコードを分析しました、エントロピー化は続いています!
オディール心配いらないわ。私が正気である限り、この身を明け渡したりはしないから。
アントニーナ……暴走したら、容赦はしませんよ。
オディールええ、もちろん。
オディール時間がないわ、歩きながら話しましょう。
 
ウィズダム……つまり、エントロピーどもは、ピエリデス内部にデータの裂け目をこしらえたのでござるか?
ウィズダムどうりで数が多いわけだ。対応が遅れたのも納得がいく……
オディール裂け目は私と妹が建てた花園にあるわ。今から連れて行ってあげる。
ウィズダムわかった……しかし、一体なにやつが……
オディール知らないわ。いまだに原因がわかってないの……
オディールうっ……!
 話の途中で、ふいにオディールがよろめき、危うく倒れそうになる。
ソルとペルシカが急いで彼女を支えた。
オディールごめんなさい……やっぱり体が弱っているみたい……
オディールあのエントロピーたちが、まだメンタル内で悪さを――うあぁっ!
ソル大丈夫!?
アントニーナウィルスによる攻撃ですね。あなたのメンタルを奪うために、ファイアウォールを破ろうとしているんです。
アントニーナあなたの身体は、強制的にオペランドを使って対抗しています……このままでは、長くはもちません。
{教授}私たちのオペランドを渡そう。
戦いは密だけど、まだ余裕はあるから。
オディールそ……それじゃあ、お願いできるかしら、教授さん。
アントニーナオディールさん、オペランドをできるだけメンタルファイアウォールの維持に回してください。
アントニーナ何があろうと、他へオペランドを分散させてはいけません。でないと、エントロピーの攻撃を防げなくなります。
オディール気をつけるわ……ありがとう、皆さん。
{教授}ペルシカ、手伝ってくれ。彼女にオペランドを送るんだ。
エントロピーに襲撃されないよう、他のみんなは周囲の警戒を。
ウィズダムよかろう、警戒任務は吾輩に任されよ。
ソルへへ~。ウィズダム、もう完全に教授の部下になってるじゃん。
ウィズダムぶ……部下とな!?
ソルそうだよ、もう浄化者なんかやめて、オアシスに加わるってのはどう?倉庫なら寝床に使って良いよ。
ウィズダムじょ、冗談よさぬか!
ウィズダム吾輩の忠誠は永遠にイオスフォロス様だけのもの……つけあがるのも大概にせい!
ソルう、嘘に決まってんじゃんか、本気にしないでよ……
ウィズダムフン、勘違いするでないぞ。我らは単なる協力関係。ここでおぬしらを捨て置こうと、吾輩は一向にかまわぬのだからな!
ウィズダムリバベルに戻れば、イオスフォロス様にご報告差し上げねばならぬ。おぬしらがどうなるかは、あの御方の思し召し次第にござる。
ウィズダムひょっとしたら、再び敵同士に戻るやもしれぬぞ。
ソルなんでそうなるのさ。そんなの報告書に上手いこと書いとけば……
ウィズダム何度も申しておろう!吾輩が信仰に背くことなどあり得ぬ!我らの信仰は――
オディールみんな、着いたわ。
ソルなんだ……これ!?
 目の前には、想像を絶する光景が広がっていた。
花園のゲートは、生い繁る紫色の棘と触手によって、がっちりと塞がれている。
 私たちの火力では、この奇妙なゲートを破ることなどできない――
ウィズダムここは吾輩が。この程度の防御なら問題なかろう。おぬしらはオディールを見張っておれ。
ソルおおおっ!頼りになるぅ!
ペルシカどうかお気をつけて。
ウィズダム浄化者よ、攻撃フォーメーションでござる!
下位浄化者【命令を確認】
 死を象徴する赤いレーザーが、ウィズダムの狙撃銃からゲートの中央へと伸びた。
 ウィズダムは体中のオペランドをその一撃に集中させている。
それにより周囲の空間が歪む。
 ドンッ――!
 オペランドに満ちた狙撃弾が、あっという間にゲートを貫いた。
棘が綺麗な円形にくりぬかれ、その周囲にはわずかに焦げ跡が残っている。
ソルこっわ……こんなので撃ちぬかれた日にゃ……
アントニーナ待ってください、様子が変です!何かが反撃してきます!
 ふいに、残った棘と触手が自意識を持ったかのごとく、急激に成長し始めた。
そして、鋭い矛のようにウィズダムへと襲いかかる。
ウィズダムなにっ!?
ソルウィズダム!
 ソルは後先考えずにウィズダムのほうへ走った。
だが距離が遠すぎる。
 棘と触手が瞬時にウィズダムを呑み込み、爆発した。
 煙霧が晴れると、そこにはエントロピー液の中に倒れるウィズダムの姿があった。
リファクター
アントニーナまずい!意識を失ってる!
{教授}落ち着け!ペルシカ、オディールを頼む!
ペルシカはい!
{教授}アントニーナ――
アントニーナもう分析してます!
アントニーナダメです、メンタルが正気でないと、ファイアウォールを維持できません!
アントニーナエントロピーウィルスが彼女のベースコードを攻撃しています!
ウィズダムギギ、ヒグッ、ギアアアアアア……!
アントニーナ攻撃してくる!
{教授}彼女を取り押さえろ!