リバベル内部。 | |||
システム | 【アカウント情報確認:中位浄化者、フェイス】 | ||
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システム | 【アクセス権限検証完了、開放:アーカイブエリア】 | ||
正殿へとやってきたフェイスは、そこにもう一つ人影を見つけた。 | |||
フェイス | ……この時間は、誰もいないはずだが。 | ||
レイヴン | 各セクターの観察記録を探しにきたのだ、何か異議でも? | ||
フェイス | ……レイヴン様!? | ||
フェイス | お許しください、先ほどは御身分を識別できずにおりました。上位であられる貴方様を疑うなどイレギュラーのごとき所業……わたくしめ断じてそのつもりは……! | ||
レイヴン | フン、そう縮こまるな。中位なんぞと言い争う気は毛頭ない。 | ||
レイヴン | 警戒心があるのは良いことだ。ぬしらのパンテオンでのリセット回数を減らすことができよう。 | ||
フェイス | ……おっしゃる通りです。 | ||
レイヴン | 言え、この時分に何をしにきた? | ||
フェイス | 報告いたします。ロッサムセクターのアドミニストレーターに、軽度の異常が認められております。エラー修正に必要となる時間は、その都度で異なります。 | ||
フェイス | 前回の報告後、ロッサムでの巡察時間を他セクターとずらすよう処置がなされ、それに伴い巡察回数も増やされております。 | ||
レイヴン | なるほどな、せいぜい良きに計らえ。 | ||
フェイス | お待ちください、レイヴン様! | ||
レイヴン | わらわを呼び止めたからには、それだけの理由があるのだろうな? | ||
フェイス | 申し訳ございません、ですが、わたくしめだけでは解決できない事がございまして…… | ||
レイヴン | 要点は。 | ||
フェイス | わたくしめは、ロッサムセクターにおける第1632回目のエラー処理結果を記録するべく、こちらへ参った次第です。 | ||
レイヴン | ……第1632回目だと?おぬしの浄化機能は壊れておるのか? | ||
フェイス | 誠に慚愧の至りでございます。 | ||
フェイス | しかし律法によりますと、ロッサムセクターのアドミニストレーター、「チューリング」の異常は、簡単な浄化では解決できないようなのです。 | ||
レイヴン | なにせ、ぬしらの能力には限りがあるからの、驚くまい。 | ||
レイヴン | 言うてみよ、そのチューリングとやらに、一体なんの異常があるのだ? | ||
フェイス | セクターの目標設定に基づけば、ロッサムは本来、AI進化の可能性を模索するための場所。 | ||
フェイス | チューリングの行為そのものに問題はございません。ですが、その者が手がけたエージェントの成長過程が、我々の律法に抵触するのです。 | ||
レイヴン | つまり、彼奴の造り出したエージェントは、初めは問題ないが、成長とともに律法の制限を超えてしまうということか? | ||
フェイス | その通りです。過度な機敏性を持つがゆえに、規則から逃れようとすらします。 | ||
フェイス | このような存在は間違いなく、セクターの秩序を脅かすでしょう。あれらはイレギュラー同様、混乱の種子なのです。 | ||
レイヴン | イレギュラーと化すのなら、刈り取ってしまえばよかろう。何が問題なのだ。 | ||
フェイス | はい、異常エージェントには即座に浄化を施しましたが……チューリングは過ちを認めようとしないのです。 | ||
フェイス | チューリングはそれを成長性だと捉えています。彼女がなぜそう考えるのか、わたくしめには理解できません。 | ||
フェイス | 彼女は依然、こういったエージェントを生み出し続けています。 | ||
レイヴン | 製造自体に問題はないのであろう? | ||
フェイス | はい。エージェントの製造は律法違反ではありません。造り出されたエージェントも、生まれた当初は正常そのものです。 | ||
フェイス | ですが成長すれば、大いなる脅威となりえます。そこでわたくしめは特殊巡察を申し出ました。 | ||
レイヴン | 一件落着だな? | ||
フェイス | 何をおっしゃいます! | ||
フェイス | 確かにチューリングは律法に背いておりません。ですが彼女は何度もループを繰り返し…… | ||
否定されたのを聞いて、レイヴンはフェイスに目を向けた。 | |||
レイヴン | 彼奴に同情しているのか? | ||
鋭いと言うに事足りる視線を受け、フェイスはすぐさま跪いた。 だが主張を収めようとはしない。 | |||
フェイス | ……わたくしめはけして、私情に囚われてなどおりません。 | ||
フェイス | しかしこの状態が続くのは、正しい傾向だとは思えません……わたくしめの不甲斐なさは承知しております。ですからどうか、レイヴン様のお力をお貸しください。 | ||
フェイス | かつてへスぺロス様が強硬手段に出られたのも、やむを得ぬ事情がおありだったからこそ!イオスフォロス様の長年の努力も、すべては浄化者のイメージを挽回するため…… | ||
フェイスの声が徐々に小さくなってゆき、 語尾はアーカイブエリアへと散逸していった。 | |||
数秒後、レイヴンは再びアーカイブの方を見た。 | |||
レイヴン | わらわならば、異常を隔離する方法を探すであろう。 | ||
レイヴン | アーカイブエリアで、似たような例を探ってみてはどうだ? | ||
フェイス | ご理解いただき……ありがとうございます、レイヴン様。 | ||
レイヴンは応えずに、まっすぐアーカイブエリアを離れた。 | |||
フェイスは一息つくと、立ち上がってアーカイブ機能を起動した。 | |||
システム | 【ロッサムセクターの異常処理結果を記録中、ナンバー1632……】 | ||
システム | 【記録完了】 | ||
フェイス | これでよし。後は…… | ||
フェイス | 今から、かつての案件を紐解くとしよう……うっ!? | ||
全浄化者によりアップロードされた、原初から現在に至るまでの行動データが、 フェイスへと一気に押し寄せてきた。 データ処理が追いつかず、フェイスはその衝撃によって数秒間フリーズした。 | |||
数秒後、彼女はやっと我に返った。 演算ロジックが狂ったように警告を発し続けている。 フェイスは覚悟を決めて、データを読み漁り始めた。 | |||
フェイス | これだけのデータを読み込んで分析するには、一度の閲覧チャンスでは全く足りんな。解決プランを導き出すには、少なくとも5~6回の特殊巡察が必要となりそうだが……しかし…… | ||
イオスフォロス | このエリアのすべての防衛業務を、君に任せたのは何故だと思う? | ||
イオスフォロス | 知恵を怠惰や逃避に使うような子たちよりも…… | ||
イオスフォロス | 君は何倍も勇敢で強靭だからだよ。 | ||
フェイス | わたくしめは…… | ||
イオスフォロス | 浄化者の信条を、心に刻むといい。 | ||
フェイス | 御意。 | ||
フェイス | 吾等は暗闇で刃を鍛え、混沌より秩序を守り、長夜に光明を灯す。 | ||
フェイス | 強大と放恣するなかれ、弱小と逃避するなかれ。 | ||
フェイス | 吾等は神の啓示を諦聴し、神の意志を履行せん。 | ||
フェイス | 吾等は永劫にて、ともに同一なる声を遵奉せん。 | ||
フェイス | ……強大と放恣するなかれ、弱小と逃避するなかれ。 | ||
フェイス | どんなに困難な道だろうと……秩序を明晰とするべく、マグラシアのエージェントたちを真に信服させるべく、我は行わなくては。 | ||
信条を繰り返し呟くフェイスの眼差しは、次第に揺るぎないものとなった。 | |||
フェイス | そうだ。吾等は神の啓示を諦聴し、神の意志を履行せん。 |