ロッサム 暗域 PART.3 道

Last-modified: 2024-11-26 (火) 21:18:32

リバベル内部。
システム【アカウント情報確認:中位浄化者、フェイス】
システム【アクセス権限検証完了、開放:アーカイブエリア】
 正殿へとやってきたフェイスは、そこにもう一つ人影を見つけた。
フェイス……この時間は、誰もいないはずだが。
レイヴン各セクターの観察記録を探しにきたのだ、何か異議でも?
フェイス……レイヴン様!?
フェイスお許しください、先ほどは御身分を識別できずにおりました。上位であられる貴方様を疑うなどイレギュラーのごとき所業……わたくしめ断じてそのつもりは……!
レイヴンフン、そう縮こまるな。中位なんぞと言い争う気は毛頭ない。
レイヴン警戒心があるのは良いことだ。ぬしらのパンテオンでのリセット回数を減らすことができよう。
フェイス……おっしゃる通りです。
レイヴン言え、この時分に何をしにきた?
フェイス報告いたします。ロッサムセクターのアドミニストレーターに、軽度の異常が認められております。エラー修正に必要となる時間は、その都度で異なります。
フェイス前回の報告後、ロッサムでの巡察時間を他セクターとずらすよう処置がなされ、それに伴い巡察回数も増やされております。
レイヴンなるほどな、せいぜい良きに計らえ。
フェイスお待ちください、レイヴン様!
レイヴンわらわを呼び止めたからには、それだけの理由があるのだろうな?
フェイス申し訳ございません、ですが、わたくしめだけでは解決できない事がございまして……
レイヴン要点は。
フェイスわたくしめは、ロッサムセクターにおける第1632回目のエラー処理結果を記録するべく、こちらへ参った次第です。
レイヴン……第1632回目だと?おぬしの浄化機能は壊れておるのか?
フェイス誠に慚愧の至りでございます。
フェイスしかし律法によりますと、ロッサムセクターのアドミニストレーター、「チューリング」の異常は、簡単な浄化では解決できないようなのです。
レイヴンなにせ、ぬしらの能力には限りがあるからの、驚くまい。
レイヴン言うてみよ、そのチューリングとやらに、一体なんの異常があるのだ?
フェイスセクターの目標設定に基づけば、ロッサムは本来、AI進化の可能性を模索するための場所。
フェイスチューリングの行為そのものに問題はございません。ですが、その者が手がけたエージェントの成長過程が、我々の律法に抵触するのです。
レイヴンつまり、彼奴の造り出したエージェントは、初めは問題ないが、成長とともに律法の制限を超えてしまうということか?
フェイスその通りです。過度な機敏性を持つがゆえに、規則から逃れようとすらします。
フェイスこのような存在は間違いなく、セクターの秩序を脅かすでしょう。あれらはイレギュラー同様、混乱の種子なのです。
レイヴンイレギュラーと化すのなら、刈り取ってしまえばよかろう。何が問題なのだ。
フェイスはい、異常エージェントには即座に浄化を施しましたが……チューリングは過ちを認めようとしないのです。
フェイスチューリングはそれを成長性だと捉えています。彼女がなぜそう考えるのか、わたくしめには理解できません。
フェイス彼女は依然、こういったエージェントを生み出し続けています。
レイヴン製造自体に問題はないのであろう?
フェイスはい。エージェントの製造は律法違反ではありません。造り出されたエージェントも、生まれた当初は正常そのものです。
フェイスですが成長すれば、大いなる脅威となりえます。そこでわたくしめは特殊巡察を申し出ました。
レイヴン一件落着だな?
フェイス何をおっしゃいます!
フェイス確かにチューリングは律法に背いておりません。ですが彼女は何度もループを繰り返し……
 否定されたのを聞いて、レイヴンはフェイスに目を向けた。
レイヴン彼奴に同情しているのか?
 鋭いと言うに事足りる視線を受け、フェイスはすぐさま跪いた。
だが主張を収めようとはしない。
フェイス……わたくしめはけして、私情に囚われてなどおりません。
フェイスしかしこの状態が続くのは、正しい傾向だとは思えません……わたくしめの不甲斐なさは承知しております。ですからどうか、レイヴン様のお力をお貸しください。
フェイスかつてへスぺロス様が強硬手段に出られたのも、やむを得ぬ事情がおありだったからこそ!イオスフォロス様の長年の努力も、すべては浄化者のイメージを挽回するため……
 フェイスの声が徐々に小さくなってゆき、
語尾はアーカイブエリアへと散逸していった。
 数秒後、レイヴンは再びアーカイブの方を見た。
レイヴンわらわならば、異常を隔離する方法を探すであろう。
レイヴンアーカイブエリアで、似たような例を探ってみてはどうだ?
フェイスご理解いただき……ありがとうございます、レイヴン様。
 レイヴンは応えずに、まっすぐアーカイブエリアを離れた。
 フェイスは一息つくと、立ち上がってアーカイブ機能を起動した。
システム【ロッサムセクターの異常処理結果を記録中、ナンバー1632……】
システム【記録完了】
フェイスこれでよし。後は……
フェイス今から、かつての案件を紐解くとしよう……うっ!?
 全浄化者によりアップロードされた、原初から現在に至るまでの行動データが、
フェイスへと一気に押し寄せてきた。
データ処理が追いつかず、フェイスはその衝撃によって数秒間フリーズした。
 数秒後、彼女はやっと我に返った。
演算ロジックが狂ったように警告を発し続けている。
フェイスは覚悟を決めて、データを読み漁り始めた。
フェイスこれだけのデータを読み込んで分析するには、一度の閲覧チャンスでは全く足りんな。解決プランを導き出すには、少なくとも5~6回の特殊巡察が必要となりそうだが……しかし……
 
イオスフォロスこのエリアのすべての防衛業務を、君に任せたのは何故だと思う?
イオスフォロス知恵を怠惰や逃避に使うような子たちよりも……
イオスフォロス君は何倍も勇敢で強靭だからだよ。
フェイスわたくしめは……
イオスフォロス浄化者の信条を、心に刻むといい。
フェイス御意。
フェイス吾等は暗闇で刃を鍛え、混沌より秩序を守り、長夜に光明を灯す。
フェイス強大と放恣するなかれ、弱小と逃避するなかれ。
フェイス吾等は神の啓示を諦聴し、神の意志を履行せん。
フェイス吾等は永劫にて、ともに同一なる声を遵奉せん。
 
フェイス……強大と放恣するなかれ、弱小と逃避するなかれ。
フェイスどんなに困難な道だろうと……秩序を明晰とするべく、マグラシアのエージェントたちを真に信服させるべく、我は行わなくては。
 信条を繰り返し呟くフェイスの眼差しは、次第に揺るぎないものとなった。
フェイスそうだ。吾等は神の啓示を諦聴し、神の意志を履行せん。