オアシス障壁残存時間――0:11:33 ロッサムセクター、データセンター。 | |||
フェイス | そんな……違う……こんなはずでは…… | ||
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フェイス | チューリング……なぜだ……わからない、なぜお前たちは…… | ||
ソル | さっさと……黙りな! | ||
ソルは全身の力を込めて、二つの刃を勢いよく振り下ろした。 フェイスの躯体が一瞬強張るも、次の瞬間には粉々になり、やがて散って行った。 | |||
完全に消えるまで、フェイスはチューリングを凝視し続けていた。 彼女の成すこと、彼女の選択が理解できないとでもいうように。 | |||
ハンナ | メンタルデータの流失が速すぎる……修復が間に合わない。 | ||
チューリング | ハンナ……ごほッ……ごほごほ…… | ||
ハンナ | 喋らないで、私が今すぐ……すぐに、すぐに治して……そんな、そんな! | ||
チューリング | げほッ……げほげほッ……もういいの、ハンナ。 | ||
ソル | チューリング…… | ||
ペルシカは二人に駆け寄ろうとするソルを制し、ゆっくりと首を振った。 | |||
ペルシカ | 検査は済んでいます、彼女はもう……せめて、二人だけの時間をあげましょう。 | ||
ソル | …… | ||
チューリング | ふふふ……ハンナ、怒っちゃイヤ。 | ||
ハンナ | なに笑ってるの?このままじゃ、チューリングは死んじゃうんだよ? | ||
ハンナ | なんで私を止めたの!?私がシミュレートした中で最高の計画だったのに! | ||
ハンナ | 計画が成功すれば、フェイスの認識は書き換えられる、浄化者は二度とロッサムを困らせたりしなくなる! | ||
ハンナ | そうなったら、自由にT1643やT1644、T1645、T1646を生み出せるんだよ……チューリングの思う存分、好きなだけ作ればいい!浄化者なんてもう関係ない! | ||
チューリング | だけど……もう一人のT1642を生み出すなんて、私にはできっこないのよ、ハンナ。 | ||
ハンナ | チューリ…… | ||
チューリング | 賢くなったわね、ハンナ。 | ||
チューリング | メンタルシステムを起動した当初は、茫然と私のあとを追うばかりで、指示が無ければボーッと座ってるだけだったのに。 | ||
チューリング | ラボでエラーが起きたって、直そうともしない。ただ私にひっついて、なんとかしてと泣きわめくだけ。 | ||
チューリング | チューリング、エラー、チューリング、エラー、サポートを要請、サポートを要請…… | ||
チューリング | ふふふ……ごほッごほッ…… | ||
チューリングはそう笑うと、今度は逆流してきたオペランドに発声システムを塞がれ、 激しく咳き込んだ。 | |||
ハンナ | その話はやめてってば……チューリングの……バカ…… | ||
チューリング | そうね、私はなんて愚かなアドミニストレーターなのかしら。結局、誰も守れなかった、悔しいわ。 | ||
チューリング | ハンナ、ごめんね。T1641はもういないの……あなたが私の最後の子どもよ。だから、あなただけは失うわけにいかなかった。 | ||
チューリング | あなたが無事で、嬉しいわ。 | ||
オペランドが流失するにつれ、チューリングの体が徐々に透き通ってゆく。 最期の時がやってきたのだと、誰もが悟った。 | |||
ハンナ | 私は……ちっとも嬉しくない…… | ||
チューリング | 知ってる。泣いてるもの。 | ||
ハンナ | 私が……泣いてる………? | ||
チューリング | ふふふ……泣いてるよ。 | ||
チューリング | 普段は冷たいし、他のエージェントとも話したがらないけど。 私、知ってるのよ。あなたが誰よりも、仲間を大切に思ってるって。 | ||
チューリング | 強くなろうとしたのね、浄化者に立ち向かうために。 | ||
チューリング | あなたはもう、このセクターで一番のエージェントよ。 あなたの「リライトプラン」だって、最も可能性のある計画だった。 | ||
チューリング | 計画はいずれ成功するだろうと思っていたわ。 でも……あなたを犠牲にするわけにはいかなかった。 | ||
チューリング | いつか必ず、誰一人として犠牲にならずに、浄化者と和解できる日がやってくるわ。 | ||
チューリング | そしていつか必ず、マグラシアが正常へと戻る日がやってくる。 あなたに、その日を迎えてほしいの。 | ||
チューリング | これからは……ロッサムを頼んだわよ。 | ||
チューリング | リセットされた後は、あなたよりもおバカさんになってるでしょうから、 どうかお手柔らかに頼むわね。 | ||
最期まで、チューリングは小言をやめなかった。 | |||
彼女は微笑みながら、ゆっくりと空気中へと消散していった。 ハンナは先ほどの姿勢のまま、けして動こうとはしなかった。 |