ロッサム 標準 PART.10 告別

Last-modified: 2024-11-26 (火) 20:58:59

オアシス障壁残存時間――0:11:33
ロッサムセクター、データセンター。
フェイスそんな……違う……こんなはずでは……
フェイスチューリング……なぜだ……わからない、なぜお前たちは……
ソルさっさと……黙りな!
 ソルは全身の力を込めて、二つの刃を勢いよく振り下ろした。
フェイスの躯体が一瞬強張るも、次の瞬間には粉々になり、やがて散って行った。
 完全に消えるまで、フェイスはチューリングを凝視し続けていた。
彼女の成すこと、彼女の選択が理解できないとでもいうように。
ハンナメンタルデータの流失が速すぎる……修復が間に合わない。
チューリングハンナ……ごほッ……ごほごほ……
ハンナ喋らないで、私が今すぐ……すぐに、すぐに治して……そんな、そんな!
チューリングげほッ……げほげほッ……もういいの、ハンナ。
ソルチューリング……
 ペルシカは二人に駆け寄ろうとするソルを制し、ゆっくりと首を振った。
ペルシカ検査は済んでいます、彼女はもう……せめて、二人だけの時間をあげましょう。
ソル……
チューリングふふふ……ハンナ、怒っちゃイヤ。
ハンナなに笑ってるの?このままじゃ、チューリングは死んじゃうんだよ?
ハンナなんで私を止めたの!?私がシミュレートした中で最高の計画だったのに!
ハンナ計画が成功すれば、フェイスの認識は書き換えられる、浄化者は二度とロッサムを困らせたりしなくなる!
ハンナそうなったら、自由にT1643やT1644、T1645、T1646を生み出せるんだよ……チューリングの思う存分、好きなだけ作ればいい!浄化者なんてもう関係ない!
チューリングだけど……もう一人のT1642を生み出すなんて、私にはできっこないのよ、ハンナ。
ハンナチューリ……
チューリング賢くなったわね、ハンナ。
チューリングメンタルシステムを起動した当初は、茫然と私のあとを追うばかりで、指示が無ければボーッと座ってるだけだったのに。
チューリングラボでエラーが起きたって、直そうともしない。ただ私にひっついて、なんとかしてと泣きわめくだけ。
チューリングチューリング、エラー、チューリング、エラー、サポートを要請、サポートを要請……
チューリングふふふ……ごほッごほッ……
 チューリングはそう笑うと、今度は逆流してきたオペランドに発声システムを塞がれ、
激しく咳き込んだ。
ハンナその話はやめてってば……チューリングの……バカ……
チューリングそうね、私はなんて愚かなアドミニストレーターなのかしら。結局、誰も守れなかった、悔しいわ。
チューリングハンナ、ごめんね。T1641はもういないの……あなたが私の最後の子どもよ。だから、あなただけは失うわけにいかなかった。
 
チューリングあなたが無事で、嬉しいわ。
 オペランドが流失するにつれ、チューリングの体が徐々に透き通ってゆく。
最期の時がやってきたのだと、誰もが悟った。
ハンナ私は……ちっとも嬉しくない……
チューリング知ってる。泣いてるもの。
ハンナ私が……泣いてる………?
チューリングふふふ……泣いてるよ。
チューリング普段は冷たいし、他のエージェントとも話したがらないけど。
私、知ってるのよ。あなたが誰よりも、仲間を大切に思ってるって。
チューリング強くなろうとしたのね、浄化者に立ち向かうために。
チューリングあなたはもう、このセクターで一番のエージェントよ。
あなたの「リライトプラン」だって、最も可能性のある計画だった。
チューリング計画はいずれ成功するだろうと思っていたわ。
でも……あなたを犠牲にするわけにはいかなかった。
チューリングいつか必ず、誰一人として犠牲にならずに、浄化者と和解できる日がやってくるわ。
チューリングそしていつか必ず、マグラシアが正常へと戻る日がやってくる。
あなたに、その日を迎えてほしいの。
チューリングこれからは……ロッサムを頼んだわよ。
チューリングリセットされた後は、あなたよりもおバカさんになってるでしょうから、
どうかお手柔らかに頼むわね。
 最期まで、チューリングは小言をやめなかった。
 彼女は微笑みながら、ゆっくりと空気中へと消散していった。
ハンナは先ほどの姿勢のまま、けして動こうとはしなかった。