十数分前。 | |||
オアシス障壁残存時間――1:18:41 ロッサムセクター、データセンター上層。チューリングとの通信中断後―― | |||
アントニーナ | チューリングさん?もしもし?チューリングさん? | ||
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ハンナ | チューリングに何かあったの? | ||
アントニーナ | フェイスがアドミンセンターに現れたらしく、一方的に切られました。 | ||
ハンナ | プランは伝えた?チューリングはなんて? | ||
アントニーナ | いえ、それはまだ。チューリングさんは、私たちにロッサムを離れろと。 | ||
ハンナ | ロッサムを離れる?どうやって?セクターの全部の出入り口に浄化者がいるんだよ。 | ||
アントニーナ | ロッサムに来ている私の知り合いが、チューリングと取引したそうです。彼女たちが迎えにきます。 | ||
ハンナ | アンナの知り合い? | ||
アントニーナ | ええ、古い馴染みです……オペランドと引き換えだそうですよ。彼女たちがオペランドで何をするつもりなのか、大体の予測はつきますけどね。 | ||
アントニーナ | いずれにせよ、チューリングさんはもう手配を済ませています。私たちはそれに従うまで。 | ||
アントニーナ | ハンナ、ボーッとしてないで、オペランドを抽出してきてください。彼女たちが来たら、すぐに立ち去れるようにしておかないと。 | ||
ハンナ | ……その知り合い、本当にアテになるの? | ||
アントニーナ | ペルシカたちは頼りになりますよ。下位浄化者程度が相手なら、余裕ですね。 | ||
ハンナ | そうなんだ……そんなに…… | ||
ハンナ | だったら、「リライトプラン」を実行に移すのはどう? | ||
アントニーナ | 「リライトプラン」……?まだあきらめてなかったんですか。この状況で成功するとは思えませんけど…… | ||
ハンナ | もしあの「フェイス」っていう中位浄化者に接触できて、そいつのファイアウォールを破ることができれば、異常エージェントに対する判断基準を書き換えることが…… | ||
アントニーナ | ダメです。彼女たちを危険に晒すわけにはいきません!代償が大きすぎる! | ||
アントニーナ | それに、浄化者の基準を書き換えられる保証もないんですよ。 | ||
アントニーナ | 私たちの目的は、あなたとT1641を生かすことです。浄化者の脅威を消し去ることじゃない。 | ||
ハンナ | でもそれじゃ何の解決にもならないよ。一時的に安全になるだけで、チューリングと浄化者はいがみ会ったままじゃない。 | ||
ハンナ | 「リライトプラン」さえ成功すれば、ロッサムは…… | ||
アントニーナ | 何事も一朝一夕にはいきませんよ、ハンナ。それに、プランを変更している暇はありません。 | ||
アントニーナ | まずは、今の危機を乗り越えてから考えましょう。 | ||
ハンナ | でも…… | ||
アントニーナ | フェイスはすでにアドミンセンターに到着しています、こちらもオペランドの準備を急がなくては。 | ||
アントニーナ | チューリングの計らいを無駄にするわけにはいきません。 | ||
ハンナ | ……わかった。 | ||
オアシス障壁残存時間――0:44:54 ロッサムセクター、データセンター下層。 | |||
ソル | ふぅ――やっと着いた……あれっ、リコは? | ||
ペルシカ | 浄化者の注意を逸らすと言って、名刺を残して行ってしまいました。次回は料金割り増しだそうです。 | ||
ソル | 巻き込まれたくないだけのくせして、良く言うよ。さすがはキツネだ…… | ||
ペルシカ | 小言はあとにしましょう。はやくハンナさんを見つけないと。 | ||
データセンターの扉が開くと、T1641に良く似たエージェントが私たちを出迎えた。 | |||
ペルシカ | T1641にそっくり……あなたがハンナさん? | ||
ハンナ | はい、ハンナは私です。 | ||
ハンナ | 皆さん、ご苦労様でした。まずは休憩してはいかがでしょう? | ||
ペルシカ | 休憩している時間はないの。浄化者がロッサムを完全に掌握する前に、あなたを連れてここから離れないと。 | ||
ハンナ | チューリングに言われて、ここへいらしたんですね? | ||
ハンナ | そうしたいのは山々ですが、あなた方の必要としてるオペランドがまだ抽出できていません。抽出を中断して、ここを立ち去るべきでしょうか? | ||
ペルシカ | そんな…… | ||
{教授} | ペルシカ、君とハンナはオペランドの状況を確認してくるんだ。 私とソルでここを守る。 | ||
{教授} | 心配いらない、ほんの少しの間だけだ。なんとかなるさ。 | ||
ペルシカ | わかりました、すぐに向かいます。 | ||
ハンナに連れられ、ペルシカはデータセンター内部へと向かった。 | |||
物言わぬハンナの足取りは急いていた。 | |||
ペルシカ | 怖がらなくていいのよ。私たちが必ず助け出してみせるから。 | ||
ハンナ | ……怖くはありません。ただ……考え事をしていただけです。 | ||
ハンナはエレベーターのボタンを押すと、顔を上げてペルシカを見た。 | |||
ハンナ | ペルシカさんはロッサムの状況をご存知なんですか?浄化者と私たちとの関係について。 | ||
ペルシカ | ええ、ある程度は。辛かったでしょうね。 | ||
ハンナ | ペルシカさんは、チューリングの計画が合理的だと思いますか? | ||
ペルシカ | というと……? | ||
ハンナ | 私をロッサムから連れ出してどうなるのです?逃げたって何の解決にもならない。どうして根本的な問題を解決しようとしないのです? | ||
ペルシカ | あなたは、浄化者に立ち向かいたいの? | ||
ハンナ | ペルシカさんたちには、それができるのでしょう?もし手助けしてくださるのなら、私が現状を変えてみせます。 | ||
ペルシカ | ごめんなさい、ハンナさん。そうするわけにはいかないの。 | ||
ペルシカ | 私たちはリスクを冒せない。あなたの安全を最優先するのが、チューリングさんとの約束だもの。 | ||
ポーン―― | |||
ペルシカ | エレベーターが来たわ。質問はまた今度にしましょうか。 | ||
ペルシカがエレベーターへ足を踏み入れようとした途端、爆発が起きた。 衝撃によって建物全体が大きく揺れる。 | |||
ペルシカ | どういうこと? | ||
システム | >通信リクエストを受信…… | ||
{教授} | ペルシカ!はやく外へ! | ||
ペルシカ | 教授? | ||
システム | >通信中断。 | ||
ハンナ | …… | ||
ペルシカ | ハンナさんはここにいて、すぐに戻って来るから。 | ||
ペルシカの背中を見送るハンナは、首をかしげて何かを考えていた。 | |||
機械の瞳孔は収縮し続け、瞳の中をデータフローが次々と過ってゆく。 | |||
ペルシカはデータセンターの入り口に戻った。 彼女を待っていたのは、瓦礫の中に倒れているソルと…… | |||
チューリングをひっさげ、扉を突き破って現れたフェイスの姿だった。 | |||
浄化者 | 【異常エージェントを検知、数3、浄化モードへ移行】 | ||
チューリングを傍に置き、フェイスはデータセンターの内部を見回した。 何かを探しているようだ。 | |||
ペルシカ | チューリングさん!!! | ||
チューリング | げほッ……ごほごほッ……こ……来ないで…… | ||
フェイス | お前たちはロッサムの先住エージェントではないな。チューリングが匿っているのはお前たちではない。 | ||
フェイス | D11、D12、チューリングの匿う異常エージェントを探し出せ。ここの異常エージェントは我が引き受ける。 | ||
浄化者 | 【コマンドを受信、行動開始】 | ||
ソル | そうは……させるか! | ||
ペルシカ | ソルさん! | ||
{教授} | ペルシカ、気を取られるな!他の浄化者どもを食い止めるんだ! |