オアシス障壁残存時間――0:40:21 ロッサムセクター、データセンター上層。フェイスとの交戦前―― | |||
震動の中、バランスを取りながら作業を続けるアントニーナのもとに、 ハンナからの通信が入った。 | |||
アントニーナ | ハンナ?何があったんです? | ||
ハンナ | フェイスが来た、チューリングを連れてる。 | ||
アントニーナ | なんですって!?いくらなんでも早すぎる! | ||
ハンナ | 仕掛けておいた装置を起動させよう、戦いはもう避けられない。 | ||
アントニーナ | わかりました。ハンナ、オペランドの抽出を頼めますか?私はペルシカたちの応援に向かいます。 | ||
ハンナ | ……それは無理、やることがあるから。 | ||
アントニーナ | ……何をする気なんです? | ||
ハンナ | わかってるでしょ、「リライトプラン」だよ。 | ||
アントニーナ | 落ち着いてください、ハンナ!無茶はやめるんです! | ||
ハンナ | 今が絶好のチャンスなんだよ。中位浄化者、浄化者と戦えるエージェント、強制ハッキングできる装置、条件は全部そろってる。 | ||
アントニーナ | 条件云々の問題じゃありません!言いましたよね、書き換えられる保証はどこにもないと! | ||
ハンナ | できるよ。何度もシミュレーションしたもん。もしかして、アンナの演算能力じゃシミュレートできないの? | ||
ハンナ | それとも、事実を受け入れられない? | ||
アントニーナ | …… | ||
アントニーナ | 浄化者のウェイトは膨大です。このクラスのオペランド演算に耐えられるエージェントなんてどこにも…… | ||
ハンナ | 私にならできるよ。アンナだってよく知ってるでしょ。 | ||
アントニーナ | たとえあなたでも、これだけの演算を行えば、メンタルが崩壊してしまいます! | ||
アントニーナ | これまでの努力は、すべてあなたとT1641を生かすためなんですよ!? | ||
ハンナ | プランが成功すればT1641は助かるよ。チューリングとロッサムも苦しみから解放される。 | ||
ハンナ | そうなれば、「ハンナ」はきっとまた生まれてこれる。 | ||
アントニーナ | ふざけないでください! | ||
ハンナ | 早く知り合いを助けに行って。もう持ちこたえられないみたい。 | ||
アントニーナ | 待ってください!どこへ行くんです? | ||
ハンナ | 私の行くべきところだよ。 | ||
オアシス障壁残存時間――0:34:19 ロッサムセクター、データセンター上層。フェイスとの交戦後―― | |||
熾烈な戦い……否、熾烈な抵抗を経て、 ソルはフェイスによって片手で地面へと叩きつけられた。 ペルシカの攻撃もことごとく無効化される。 | |||
ソル | ぐぁぁッ――がッ…… | ||
ドンッ―― | |||
ペルシカ | ソルさん! | ||
フェイス | 風変わりな攻撃だ。お前たち、通常のエージェントではないな。 | ||
ソル | 甘く……見るな! | ||
フェイス | 無駄だ。 | ||
フェイスは軽々とソルの斬撃を防ぐと、彼女の襟をつかんで持ち上げた。 | |||
ソル | だッ――あぁぁ!! | ||
フェイス | 【目標のシグネチャコードに異常、旧所属アドレス――クラウドセクター】 | ||
フェイス | なるほど、異常の原因はこれか。自身のセクターを離れるべきではなかったな。お前たちはマグラシアの基本条約に背いた。 | ||
フェイス | 【浄化者執行条約第八章第11条に基づき、異常エージェント、お前を浄化する】 | ||
ソル | やれるもんなら……やってみろ!! | ||
ドンッ―― | |||
フェイスは再びソルの拳をつかんだ。 | |||
フェイス | 無意味な抵抗はやめろ、間違いは正さねばならない。 | ||
??? | 正されるのはお前だ。 | ||
ふいに影の中から冷たい声が響いた。 すると建物全体が赤く点灯しだし、警報音が立て続けに鳴った。 | |||
アントニーナ | >指向性プログラム起動、シグネチャコード・ホワイトリスト―― >人形、エージェント、教授…… | ||
アントニーナ | >過負荷シークエンス起動、高電圧インパルス照準完了。 >オペランド基準衝撃カウントダウン…… | ||
アントニーナ | >全通信チャンネル封鎖。 | ||
システムアナウンスがデータセンター内に次々と響き渡る。 長らく潜伏していた捕食者が、己の牙を剥き出しにするかのように。 | |||
集束式オペランドレーザー、高周波洗浄音波、データリンクミサイル…… あちこちに隠されてた武装設備が一斉に起動し、 建物内を覆い尽す勢いでフェイスへと襲いかかった。 | |||
フェイス | ! | ||
突然の攻撃にフェイスはソルを手放し、後方へと飛びのいた。 | |||
フェイス | 【中位浄化者フェイスよりロッサムの全浄化者へ通告、即座にデータセンターへと集合せよ】 | ||
通信システム | ―――― | ||
フェイス | 【繰り返す、中位浄化者フェイスよりロッサムの全浄化者へ通告、即座にデータセンターへと集合せよ】 | ||
アントニーナ | ちゃんとアナウンス聞いてた?もう一度、繰り返してあげようか?浄化者のお嬢さん? | ||
アントニーナ | 全通信チャンネルはすでに封鎖されてる。1時間のあいだ、外界とは一切連絡が取れない。たとえ1バイトだろうとね。 | ||
アントニーナ | 外の浄化者は、とっくに「君の下した指令」に従って、別の場所へ向かったよ。大人しくお縄についたらどう? | ||
フェイス | 浄化者はいかなる脅しにも応じぬぞ。ぐッ―― | ||
フェイスは応援を要請できないと知ると、私たちに接近しようとした。 しかし、各方向からの様々な攻撃により、再び後退を余儀なくされる。 | |||
チューリング | アンナ! | ||
ペルシカ | アントニーナさん!?どうしてここに!? | ||
アントニーナ | 話は後です!皆さん、ハンナを見ませんでしたか!? | ||
ペルシカ | あなたと一緒じゃないんですか? | ||
アントニーナ | そんな……どこに行ったんだ!? | ||
ドンッ――! | |||
フェイス | 我は退かぬ! | ||
突然の叫び声が、私たちの会話を遮った。 フェイスは集中砲火を突破し、アントニーナめがけて突進してゆく。 | |||
ソル | アンナ、危ない! | ||
倒れていたはずのソルがいつの間にか起き上がり、 防御の緩んだフェイスの背中へと斬りかかった。 | |||
フェイス | がぁッ!!! | ||
フェイス | ……ロッサムの異常エージェントは、もはや尋常ではない。 | ||
フェイス | 【浄化者執行条約第九章第27条に基づき、すべての制限を解除し、異常エージェントを浄化する】 | ||
{教授} | ソル、行って!ペルシカはソルの援護をお願い! アントニーナは背後から全力でジャミングを! | ||
ソル&ペルシカ | 了解! | ||
アントニーナ | チッ……わかりました。 |