ロッサム 標準 PART.9 犠牲

Last-modified: 2024-11-26 (火) 20:56:50

オアシス障壁残存時間――0:26:33
ロッサムセクター、データセンター。
 ドンッ――
 ソルは再びフェイスによって壁に叩きつけられた。
だが彼女は声をあげなかった。悲鳴も、叫び声も、何もない。
ソル……
 チーム唯一の近接戦要員であるソルは、フェイスの攻撃の80%近くを引きつけていた。
だがいかに屈強な戦士だろうと、やがては力尽きる時がくる。
ペルシカソルさん!
アントニーナソ……ごほッ……ソル、さん……
 ……
ペルシカソルさん、返事をしてください!ソルさん!
フェイス貴様らのたくましさには、目を見張るぞ。
 フェイスの状態も万全とはいえない。
関節部分の装甲は完全に破壊され、首元は露わになっている。
 だが彼女の戦闘力にはなんら影響無いようだった。
フェイスはソルに近づき、最期の一撃を加えようとする。
 ドォンッ―――
 その時、予想だにしない事態が起こった。
フェイスの頭上で激しい爆発が起きたかと思うと、
炎に混じって小さな影が飛び降りてきたのだ。
ハンナはぁぁーーッ!!
チューリングハンナ!
アントニーナハンナ駄目だ!
 ハンナは力を振り絞り、手にしていた何かをフェイスの首元へと突き刺した。
しかし次の瞬間、彼女はフェイスによって首を掴まれ、宙に持ち上げられてしまう。
フェイス【異常エージェントを検知、ナンバーT1642】
フェイス見つけたぞ。
チューリング待って!フェイス!その子を放しなさい!
フェイス【訓練モード、威嚇攻撃】
 殺傷力の極めて低い弾丸がフェイスの手中より発せられ、
チューリングの足元に命中した。
フェイスこれ以上過ちを犯すな、チューリングよ。
フェイス今のお前は一時的に拘束されているに過ぎない。だが怪しい動きをすれば、罪は重くなる。
フェイスそうなれば、「イオスフォロス」様の審判は必要なくなる。お前を処するなど、我一人の権限で十分だ。
ハンナお前に……人を……処する……権利なんて、ない。
 ハンナが背後にあった手を翻すと、
フェイスの首に挿し込まれていた装置が静かに稼働し始めた。
システム>接触面積が要求値に到達、リライトプログラムアクティベート……
ハンナリライトプラン……開始!
フェイスリライトプラン?何のことだ?
チューリングなんですって!?ハンナ、今すぐ止めて!!
フェイス【浄化者執行条約第八章第11条に基づき、異常エージェント、お前を浄化する】
 フェイスはハンナの首をつかんだまま持ち上げ、彼女に武器を突き立てようとした。
 
チューリングやめて――!
チューリング【メンタル互換リクエスト、対象――ナンバーT1642】
チューリング【接続完了……強制変換】
 その刹那、チューリングはハンナのメンタルシステムへと強制接続した。
 ザーーー
 微かなハウリング音が鳴った。それに武器の風切音が続く。
チューリングうぐッ!!!
フェイス???チューリング!?
 刃を突き立てたフェイスは、信じられないという表情で目を見開いた。
その手に捕らわれていたはずの異常エージェントが、
チューリングにすり替わっていたのだ。
システム>浄化者による越権行為を検知――
【規則違反のない状況下で、浄化者が自らアドミニストレーターに危害を加えました】
>損傷検測中……
 損傷確定――致命傷、最終警告!
警告が発令されました!違反者――中位浄化者フェイスに懲戒処分が科せられます!
フェイス貴様!なぜだ!うぅっ――
 瞬く電光が、フェイスの躯体から弧を描いてほとばしった。
彼女は立つ事さえままならず、足をもつれさせてその場に倒れ込んだ。
システム>懲戒処分執行中。処分その一、装甲解除。
フェイスかはッ――!げほげほッ……げほッ……
システム>懲戒処分執行中。処分その二、武器弱体化。
フェイスやめろ……やめろ!
システム>懲戒処分執行中。処分その三、中位殺傷プログラム権限オフ。
フェイスうわぁぁぁ―――!!!
 突然の出来事に、その場にいた全員が呆気に取られていた。
やがてハンナがチューリングのもとへ駆けつけるのを見て、メンバーは我に返った。
ペルシカ!!
ペルシカ今です!