オアシス、G区画第二防衛線、臨時司令部。 | |||
ボニー | ペルシカさん、次の負傷者が到着しました! | ||
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ペルシカ | 了解です。9時の方向へお連れしてください、そちらに医療設備を用意しておきました。 | ||
ペルシカ | ちょうど戦況が安定しているようですね、ここは私が! | ||
ボニー | あれっ、アンナさんは? | ||
ペルシカ | 現在、障壁のオペランドがクラゲエントロピーに吸収されています。それを制すると言って、障壁へ向かわれました。 | ||
ペルシカは指揮端末のスクリーンから視線をそらし、 後方スタッフを指揮して、負傷したエージェントたちの処置を急いだ。 | |||
ペルシカ | ……なんてひどい…… | ||
ボニー | はい……もう負傷者を安置できる場所がありません。A区画の防衛ノードが死守されたそうなので、そちらに臨時医療施設を…… | ||
??? | ペルシカ、ペルシカがいるの……? | ||
ペルシカ | クロトさん、私はここです。 | ||
聞き慣れた呼び声を耳にし、ペルシカは身を屈めて彼女の手を取った。 | |||
ペルシカ | 大丈夫ですか? | ||
クロト | 問題ない、ヘルが攻撃を防いでくれたから…… | ||
クロト | レイシーは、センタウレイシーは……? | ||
ペルシカ | センタウレイシーさんは…… | ||
エントロピーに襲撃された彼女は現在、抑制剤で感染の重症化を食い止めている状態だ。 30分前、ペルシカがセンタウレイシーにオペランドを注入したのを最後に、 彼女は昏迷状態に陥っている。 | |||
――ペルシカはそれを告げられなかった。 | |||
ペルシカ | センタウレイシーさんでしたら、ご無事ですよ。安心して治療を受けてください。 | ||
クロト | よかった、レイシーは無事…… | ||
クロト | ゴホッ……嘘をついた。本当は、体がひどく痛む。だけど、レイシーの焼いたクッキーが食べられるなら、この痛みも我慢できそう。 | ||
ペルシカ | ……傷が酷いです。喋らないで、今はゆっくり休憩なさってください。 | ||
クロト | ええ。なんだか眠い……おやすみ、なさい…… | ||
ペルシカはクロトの手を握ったまま、温かなオペランドをクロトの体へと送った。 彼女の傷口が、ゆるやかに回復し始める。 | |||
ボニー | 戦いを指揮しながら負傷者の治療もしてるのに、オペランドをそんなに使ったら、ペルシカさんのメンタルが…… | ||
ペルシカ | ありがとうございます、ボニーさん。私は大丈夫ですよ。クロトさんの応急処置は済ませました。あとはお願いできますか。 | ||
ペルシカは立ち上がって周囲を見た。 負傷したエージェントたちによって、臨時司令部は埋め尽くされつつある。 この小さな部屋は、もはや死に最も近い場所となっていた。 | |||
ボニー | あの……方針はこれまでと同じですか? | ||
ペルシカ | はい。できる限り治療を行いますが、施しようがない場合は強制スリープさせます。オペランドが足りないか、対処できない問題があれば、私に声をかけてください。こちらで対応します。 | ||
ボニー | な、なら、ペルシカさんのオペランドは……? | ||
ペルシカ | 心配いりませんよ、程度はわきまえていますから。ソルさんたちが、私たちのために時間を稼いでいます。 | ||
ペルシカ | 私のオペランドが底を尽きそうになったら、総員エニグマセクターへと撤退しましょう。オアシスの全エネルギーコアを起爆することで、上位エントロピーを屠ります。 | ||
ペルシカは窓の外を見た。その様子を眺めていたボニーの目には、 今にも倒れてしまいそうな、儚い人影が映っている。 | |||
ペルシカ | もうこれ以上、死を背負う必要なんてないのに…… | ||
ボニー | ペルシカさん、やっぱり休んだほうが―― | ||
ソル | ペルシカ!誰が来たと思う!? | ||
突如部屋へと押し入ってきたソルを見て、ボニーが驚く。 | |||
ソル | あれっ、ボニー?ごめん、驚かせちゃった? | ||
ボニー | だ、だだだ、大丈夫ですっ……! | ||
胸を撫で下ろした後でボニーが目を上げると、 音に驚いたペルシカも、同じようにこちらを振り向いていた。 | |||
だが、彼女の顔にあるのは驚愕ではなかった。 強張っていたペルシカの表情が、ソルを見たとたん和らぐ。 それどころか、ほんのわずかに笑顔を浮かべている。 | |||
ボニー | あ、あの……わたしは治療がありますので、これで失礼します! | ||
ペルシカ | ソルさん、そちらの方は……? | ||
ソル | あっ、そうそう!あれ、リンドは? | ||
「リンド」の名前を聞いて、ペルシカはにわかに身震いをした。 | |||
つないでいたはずの手が機械アームにすり替わっているのに気づき、ソルは頭を掻いた。 傍にいた青緑の髪をした少女が、馴れ馴れしくペルシカの肩を抱く。 | |||
ハヴォック | ど~も~!あたしはハヴォック!庇護者の一員や、よろしゅう頼んま! | ||
ハヴォック | うっわぁ、負傷者がドえらいことになっとんな~。よう今まで持ちこたえたわ、ホンマ。あたしらが来たからには安心してや! | ||
ペルシカ | あ、ありがとうございます…… | ||
ハヴォック | 遠慮せんといて!ジブン、ペルシカやろ?知っとるで~、超有名人やさかいな! | ||
ペルシカ | えっ、私をご存知なんですか? | ||
ハヴォック | そらあんた、オアシスの超重要人物なんやからトーゼンやろ!リンドもよう……むぐぐぐッ!? | ||
ふいに、扉の外から伸ばされた機械アームが、 危機一髪のところでハヴォックの口を塞いだ。 | |||
ソル | あっ、リンド、どこに行ってたのさ。迷子になったかと思ったじゃん! | ||
リンド | チッ…… | ||
外から舌打ちが聞こえたかと思うと、滅入った表情のリンドが扉の前に現れた。 | |||
ペルシカ | リンドさん…… | ||
リンド | 言っとくけど、これは任務だからな。エントロピーについて説明する必要がなかったら、こんな所に来るもんか。 | ||
リンド | 話が終わったら戦場に戻るから。そっちだって、昔話してる暇なんかないだろ?時間を無駄にしたくない。 | ||
ペルシカ | はい……わかっています。あなたがお元気そうでよかった。 | ||
リンド | マジでやめてもらえる、そういうの?最後まで話す気が失せる。 | ||
ソル | ま、まぁまぁ…… | ||
対峙する二人を気まずく眺めていたソルが、無理やり話題を変えた。 | |||
ソル | とにかくさ、エントロピーについて教えてよ! | ||
リンド | ……わかった。 | ||
リンドは慣れた手つきで端末を開いた。 すると、背後の機械アームがなだめるように彼女の頭を撫でて、 ロリポップキャンディを一つ手渡した。 | |||
リンド | 私らは{教授}からの救援要請を受け取って……あ~、最初から説明すんのダルすぎ。ハヴォック、頼んだ。 | ||
ハヴォック | えっ、あたしィ?まぁ、ええけど。 | ||
ハヴォックは野次馬根性を引っ込めると、 大きく背伸びをして、これまでの経緯を説明しだす。 | |||
ひとしきり情報交換を行ったことで、 双方は互いの状況と現在の情勢をはっきりと認識した。 | |||
ペルシカ | あなた方のおかげでしたか……どうりで通信がこうも早く復旧したわけです。 | ||
ペルシカ | 教授がメッセージを送れる状態にあることも、大きな励みです。本当にありがとうございます。 | ||
ソル | まさかリンドが、あの「ドロメル」とかいう上位にタイマン挑んでたとはね……やるじゃん! | ||
ハヴォック | 「ドラメラ」やっちゅーの!ぜんぜんちゃうやんけドアホ! | ||
リンド | ……「ドロメア」な。ハヴォックは大げさにしすぎ。相手はただ、クラゲエントロピーに憑依して私とくっちゃべってただけ。 | ||
リンド | それ以外の情報は知らなくていい。とにかく、大量のオペランドを注いだら、クラゲが急に動かなくなった。 | ||
ソル | その隙に、敵をやっつけたってこと? | ||
リンド | そう。クラゲのデータの断片を手に入れた、分析にまわして。 | ||
ペルシカ | ……わかりました。アントニーナさん、聞こえますね? | ||
アントニーナ | 了解しました、すでに分析を始めています。 | ||
ハヴォック | はっや!追放者もなかなかやるやん! | ||
リンド | 話を戻す。 | ||
リンドはハヴォックを睨みつけて、話を続けた。 | |||
リンド | おそらく、オペランドを大量に吸収したせいで、いわゆる「サナギ」状態に陥ったんだと思われる。それで動きを止めたんだ。 | ||
ソル | なるほど!これで弱点がわかったね!今度こそ一網打尽にしてやる! | ||
ペルシカ | …… | ||
ペルシカ | ありがとうございます。頂いた情報に関しては善処します。 | ||
リンド | 報告任務終わり。ハヴォック、行くよ。 | ||
ハヴォック | よっしゃ! | ||
ペルシカ | お疲れ様でした。撤退準備を始める頃に、改めてご連絡を…… | ||
ハヴォック | 撤退ィ~?撤退するって、どこに? | ||
ペルシカ | エニグマセクターに、一時的に避難する予定です。 | ||
ペルシカ | あなた方の支援のおかげで、A区画の防衛ノードは守られました。ですが、敵の戦力からして、ここもじきに戦火に包まれるでしょう。頃合いを見て、速やかに撤退しなくては。 | ||
ハヴォック | ほな、「オアシス」はどないすんねや? | ||
ペルシカ | オアシスよりも、追放者たちの命が重要です。焦土作戦を用いて…… | ||
リンド | ふざけんな!! | ||
リンドが即座に前に出て、ペルシカの胸ぐらをつかんだ。 | |||
ソル | なっ……!? | ||
リンド | ついにメンタルがイカれた?遠路はるばる駆けつけて、敵の弱点まで教えてやったのに、撤退するだと……!? | ||
ペルシカ | うっ……リ、リンドさん…… | ||
ペルシカは深呼吸をした。 リンドとの対峙によるプレッシャーが、ペルシカを蝕む。 それでも、彼女は向き合わなくてはならない。 | |||
ペルシカ | 実は……敵の弱点に関しては、うすうす感づいていました。 あなた方の情報は、それを裏付けただけに過ぎません。 | ||
ペルシカ | 上位エントロピー――ドロメアの稼働を止めるのに必要なオペランドの量を、 試しに計算したこともあります。 | ||
ペルシカ | ハヴォックさん。リンドさんを襲ったクラゲを満腹状態にさせるには、 どれだけのオペランドが必要でしたか? | ||
ハヴォック | う……それがその、情けないハナシ、庇護者小隊全員が吸いつくされてもうて…… | ||
ペルシカ | 思ったとおりです。クラゲ一匹を沈黙させるのに、それだけのオペランドが必要になる。ドロメアが相手では、どうなるかわかりますね? | ||
ペルシカ | 最悪の場合、オペランドがすべて敵に渡り、私たちは万策尽きてしまう。 | ||
ペルシカ | たとえクラゲエントロピーを殲滅できたとしても、新しい敵が現れたらどうします?あらゆる資源を失った私たちに、戦う力など残ってはいないでしょう。だからこそ―― | ||
ペルシカ | だからこそ、オアシスを諦めて撤退するのが、最善策だと申し上げているんです。 | ||
リンド | フッ……「オアシスを諦める」ね…… | ||
リンド | あの時、オアシスを目指すと言ったのはおまえだ、そのせいでノットは死んだ。 | ||
「ノット」の名を聞いて、ペルシカが微かに身を震わせる。 | |||
リンド | それが今度は「追放者」が大事だから、オアシスを諦めるって? | ||
ペルシカ | …… | ||
ペルシカ | ……私は、死傷者の状況を踏まえて判断を…… | ||
リンド | おまえ……ノットの犠牲をなんだと思ってんだ!? | ||
ペルシカ | 私のせいでノットさんが死んだから!!だから、こうするしかなかったんです!! | ||
リンドの手が止まる。 体から力が抜けて、ペルシカは地面にへたり込んだ。 | |||
長時間の戦闘指揮と治療活動、加えてメンタルの高負荷な稼働のせいで、 ペルシカは立ち上がるエネルギーすら失っていた。 | |||
ペルシカ | ……ずっと……ずっと、ずっとずっと後悔してきました。 | ||
ペルシカ | どうしてあんなに、オアシスにこだわっていたんだろう。オアシスである必要が、どこにあったんだろう…… | ||
ペルシカ | 何度も、何度も何度も違う可能性を考えたんです。でもわかってる、私にはそんなの不可能だって。 | ||
リンド | …… | ||
ペルシカ | リンドさん。私、ずっとあなたにお会いしたかった。安全に過ごしていらっしゃるか、ずっと気がかりでした。でも、その日が訪れるのが、とても恐ろしかった…… | ||
ペルシカ | だって、私が判断を誤ったせいで、ノットさんは…… | ||
ペルシカ | だから、もう二度と、私のわがままのせいで誰かが死ぬのは嫌なんです。 | ||
ソル | ペルシカ…… | ||
ペルシカ | そんな顔しないでください、ソルさん。これが本当の私なんです。卑怯で、臆病で…… | ||
ペルシカ | 私には失敗を冒す度胸も、それを受け止める勇気もない。だけどここで撤退すれば、少なくとも皆さんの命は助かる…… | ||
ソルがしゃがんで、ゆっくりとペルシカに近づく。 ペルシカは思わず目を閉じた。 だが、彼女を待っていたのは抱擁だった。 | |||
ソル | ……ずっと、一人で悩んでたんだね。気付いてあげられなくて、ごめん。 | ||
ソル | だから何度も、あたしたちを撤退させようとしたんだね。今までの命令も、ぜんぶ犠牲を避けるためだったんだね。 | ||
ペルシカ | ……は、い…… | ||
ソル | 大変だったね、ペルシカ。 | ||
ソル | ……そういえば、言ってなかったかも。あたしね、ペルシカに感謝してるんだ。 | ||
ペルシカ | ……え? | ||
ソル | ペルシカのおかげで、あたしたちはオアシスにたどり着けた。「追放者」の居場所を手に入れて、たくさんの仲間を迎えることができた。 | ||
ペルシカ | …… | ||
ペルシカは呆然とソルを眺めている。 彼女の言葉を理解していないようだ。 | |||
リンド | ……ソル、どいて。 | ||
ソル | リ、リンド、落ち着いて…… | ||
立ち上がってリンドを阻もうとするソルを、ハヴォックが引き戻した。 そして彼女にそっと耳打ちをする。 | |||
リンドは前に出ると、荒々しくペルシカを立ち上がらせた。 | |||
リンド | 悲劇のヒロインぶってんのがサイコーにムカつくんだよね。世界が自分を中心に回ってるとでも? | ||
リンド | 私が怖い?私がおまえに会いたくないとは考えないんだ?おまえを殴らずにいるだけで、メンタルが今にもオーバーロードしそうだよ。 | ||
リンド | 私はおまえの判断を一生許さない。おまえの執着のせいで、ノットは死んだ。 | ||
リンド | けど……ソルの言葉は否定しない。なにせノットもオアシスに行くのに賛成してたから。 | ||
ペルシカ | ……え? | ||
リンド | 客観的に見れば、ほとんどの奴らは生き残ったしね。 | ||
リンド | あそこで殿になる意味は、ノット自身がよく理解してたはずだ。 | ||
リンド | だから、ノットの覚悟を無駄にするつもりなら、私がここでおまえを殺す。 | ||
リンドが手を離した。 ペルシカは背後にあった椅子へと倒れ込む。 | |||
リンド | ハヴォック、見てないで行くぞ。 | ||
ハヴォック | えっ、もう終わり? | ||
リンド | オアシスにはエントロピーがウジャウジャいるんだ、時間を無駄にできない。 | ||
ハヴォック | ほ~ん。見かけによらず優しい一面もあるんやな? | ||
リンド | ドギツイ一面もあるよ、見せてあげよっか? | ||
ハヴォック | ナ、ナシナシ、今のナシ―― | ||
リンドとハヴォックの声が遠のいていった。 司令室に静寂が戻る。 | |||
ペルシカ | ……ソルさんも、リンドさんに賛成なんですか? | ||
ソル | うん……リンドの言葉は正しいと思うよ。オアシスはあたしたちのホームだ、失うわけにはいかない。 | ||
ソル | 犠牲だって時には必要だよ、またマグラシアを彷徨うよりはマシだろ?今後、何が起こるかわかんないんだしさ! | ||
ペルシカ | でも、本当にドロメアを倒せるでしょうか…… | ||
ソル | まぁ、それは作戦によるけど…… | ||
ソル | ペルシカがどんな選択をしようと、あたしは全力でサポートするからね! | ||
???? | 戻ってきてみれば、まだ大口を叩いていましたか。 | ||
ソル | あっ、アンナ!来るのはやっ! | ||
アントニーナ | クラゲエントロピーへの反撃プログラムがようやく完成しました。これで、サンドボックス障壁からオペランドを吸収されずに済みます。 | ||
ソル | つまり……クラゲエントロピーがもう増殖しないってことか。 | ||
アントニーナはやや驚いた様子でソルを見た。 | |||
アントニーナ | その通り。データの解析によって、ドロメアを沈黙させるに必要なオペランドの量が判明しました。オペランドの流失を阻止した今なら、十分対処可能です。 | ||
ペルシカ | それはつまり…… | ||
アントニーナ | つまり、ドロメアを倒せる可能性があるということ。 | ||
ペルシカはアントニーナの分析報告を見て、言葉を失った。 | |||
アントニーナ | ハァ……私はソルさんと違って、歯が浮くような台詞は嫌いですし、人を慰めるのも苦手です。ですが……ペルシカさん。 | ||
アントニーナ | 私はあなたを信じます。決断の是非や、結果の善し悪しは関係ない。最悪、この身を犠牲にしたっていい。 | ||
アントニーナ | 私はあなたを信じます。だからどうか、あなたの仲間を信じてください。 | ||
ソル | そうだよ!あたしたちなら、きっと成し遂げられる! | ||
ボニー | あ、あの……応急処置を終えた報告に伺ったんですが…… | ||
ボニーが扉の外から、恐る恐る顔を出した。 | |||
ボニー | わ、わたしもお手伝いしたいです!先ほど、ようやく治療が一段落しました!これからも、もっともっとがんばります! | ||
ボニー | だからどうか、わたしたち医療部門のことも信じてください…… | ||
ソル | あっはは!ボニーってば、頼りになるぅ! | ||
アントニーナ | マグニルダとホライズンからも通信が来ています。各エリアのエントロピーを制圧し終えたため、こちらに手を貸せると…… | ||
ソル | ほらぁ、見なよペルシカ!あたしの言った通りでしょ?みんながついてるよ。 | ||
ペルシカは茫然と顔を上げて、目の前の人々を見た。 溢れる涙に、視界が朦朧としてくる。 | |||
ソル | ペ、ペルシカ、大丈夫……? | ||
ペルシカ | 大丈夫です。私、ずっと独りでグルグル回っていたみたいです。こんなにも大勢の方が、傍にいるのにも気づかずに…… | ||
ペルシカ | いつの間にか、皆さんに追い越されていましたね。 | ||
ソル | 何言ってるのさ!あたしたちは、いつも一緒だよ! | ||
ペルシカは頷いて、涙を拭った。 | |||
ペルシカ | すみません。私のせいで、多くの時間を無駄にしてしまいました。 | ||
ソル | 大丈夫だよ。庇護者が来てくれたおかげで、だいぶ持ち直せたからね。あたしも少しは休憩できたし…… | ||
ペルシカ | いえ、そのことではなくて。作戦を実行に移すとなれば急ぎませんと。 | ||
ソル | えっ、作戦って、上位エントロピーを倒す作戦?もう出来上がったの? | ||
ペルシカ | あらゆる可能性を検討しましたから。作戦の枠組みはできています、あとはアントニーナさんに詳細をご判断して頂ければ。 | ||
ソル | すごいや!手伝えることがあったら言ってね! | ||
アントニーナ | 結構です。分析データもろくに読めないでしょうから。 | ||
ソル | ちょっと、頭脳派をバカにしないでよ!? | ||
司令室が、久しぶりに和やかな雰囲気に包まれた。 | |||
ペルシカ | (教授は、ずっとこんな気持ちで追放者を導いていたのね……) | ||
ペルシカ | では皆さん、各自作戦準備を!行動開始! | ||
全員 | 了解! |