ドロメア | 他の人を舞踏会に招いたんだ? | ||
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ドロメア | にぎやかなのは、キライじゃない。 | ||
リンド | よそ見してる場合?……おまえの相手はこっちだ! | ||
ハヴォック | あかんて!それ以上刺激すな! | ||
ハヴォック | アイツ、明らかにジブン目当てやねんぞ! | ||
リンドは機械アームを振り上げて、再び攻撃を繰り出した。 だが、傍にいたクラゲエントロピーに容易く阻まれてしまう。 | |||
ドロメア | がんばってるね……すてきだな。 | ||
リンド | あんたさ、よくそこまでキモいこと言えるよね? | ||
ドロメア | 同意してくれないなら、ドロメアが回収するしかないや。 | ||
リンドの胸元にあるエントロピーコアめがけて、ドロメアの触手が瞬時に伸びる。 | |||
リンド | !! | ||
リンド | (クソッ、アームがクラゲにまとわりつかれてる、このままじゃ……) | ||
シュッ!! | |||
ソル | あっはは!リンド、これでおあいこだね! | ||
リンド | おまえ……来るのが遅い! | ||
その時、甲冑を装備したソルが上空より舞い降りて、 長剣でドロメアの触手を一刀両断した。 | |||
ソル | お前がドロメアだな?こっからは、あたしと踊ってもらうよ。 | ||
ペルシカ | マグニルダ小隊、庇護者小隊と交替!他の者は私とともにドロメアを阻んでください! | ||
マグニルダ | 選手交替だ、庇護者は撤退しな! | ||
ペルシカ | ターゲットがまもなく座標地点へ到着します!アントニーナさん、準備を! | ||
ドロメアを誘導するソルの姿が近づくのを見て、ペルシカは通信機を握りしめた。 | |||
ペルシカ | ターゲットがかかりました!! | ||
シュッ! | |||
ドロメアが予定の座標へと足を踏み入れた瞬間、 いくつものファイアウォールが彼女を中心に展開し、ドロメアをその場に封じ込めた。 | |||
ドロメア | ドロメアのために、舞台を用意してくれたの?……うれしい。 | ||
ドロメア | 子どもたち、オペランドをたんとおあがり…… | ||
ドロメアはその場でくるくると回転する。 無数のクラゲエントロピーがファイアウォールに群がり、オペランドを吸収し始める。 | |||
アントニーナ | うぅっ……マイの気球が食べられた瞬間を想像してしまうな…… | ||
アントニーナ | とにかく……ペルシカさん! | ||
ペルシカ | 作戦の第一段階を達成、第二段階へと移行!全オアシス、オペランドの転送開始!これより高濃度オペランドフィールドを展開します! | ||
ファイアウォールに囲まれた地面から、大量のオペランドが突如湧き出した。 | |||
猛烈な勢いで沸き立つオペランドは、もはや肉眼でも確認できるレベルだ。 小さなクラゲエントロピーが、オペランドの波に押し流される。 オペランドがみなぎり、ファイアウォールの中に少しずつフィールドが形成されてゆく。 | |||
ドロメア | !? | ||
アントニーナ | 高濃度オペランドフィールドが生成されました!一部のクラゲは活動を停止し、休眠状態に入っています! | ||
ハヴォック | ホンマや!リンドが倒したヤツとおんなじになっとるで! | ||
ドロメア | うふふ……そういう……こと…… | ||
ドロメアは移動を試みたが、庇護者小隊を追っていた時のように自由には動けず、 ほんのわずかに体をずらすことしかできない。 | |||
ドロメア | うふふ……まさか、こんな……ワナが……どうりで…… | ||
ドロメア | どうりで……あいつは……教授を……とおざけて…… | ||
一歩も動けなくなったドロメアは、ゆっくりと身をかがめた。 さながら舞台から退場するダンサーのように。 | |||
フィールド内では、すべてのエントロピーが稼働能力を失っていた。 唯一オペランドだけが、悠々と奔騰し続けている。 | |||
ハヴォック | う、動きが止まった! | ||
アントニーナ | ターゲット活動停止!作戦の第二段階成功! | ||
ペルシカ | 最終段階に移ります!オペランドの転送速度に注意!ソルさん! | ||
ソル | よしきた!! | ||
重厚な甲冑を身につけたソルが、ファイアウォールを突き破り、 高濃度オペランドフィールドへと足を踏み入れた。 | |||
システム | 【警告、素体と関節に負荷がかかっています。速やかに現在のエリアを離れ……】 | ||
ソル | (問題ない……あいつに近づいて、一太刀にすれば……) | ||
ソルが剣を構えようとした時、ドロメアの周囲にいる小さな生物が蠢いた。 | |||
ソル | ……なんだあれ? | ||
ソルだけではない。オペランドフィールドの外にいる仲間たちも、 ドロメアの異様な動きに気づいた。 | |||
ペルシカ | あれは…… | ||
ペルシカとアントニーナが、スクリーン上のデータを見つめている。 湧き上がるオペランドの中、何かがドロメアの体を蝕んでいた。 | |||
アントニーナ | この異常データは……熱エネルギーが上昇してる……? | ||
ペルシカ | まさか……いけない!ソルさん、下がって!! | ||
ソルが思わず後方へと飛び退く。 彼女が元いた場所を離れた瞬間、ドロメアの周囲で奇妙な爆発が起こった。 | |||
ドォン!! | |||
ドロメア | ふぅー…… | ||
ドロメア | おまたせしてごめんね……こんな方法で舞踏会にもどるなんて、乱暴だったよね。 | ||
煙霧が散ると、ドロメアは再び立ち上がり、手中のロッドをかざした。 | |||
ソル | そんな……どうして…… | ||
アントニーナ | そうか、クラゲだ……クラゲに自分のオペランドを食べさせて、休眠を強制的に防いだんだ!! | ||
ペルシカ | その上で、クラゲエントロピーを自爆させて…… | ||
ペルシカ | ソルさん!撤退です!すぐにそこから出てください! | ||
アントニーナ | ソルさん!小型爆弾を! | ||
オペランドフィールド内にいるソルは、振り向かなかった。 彼女はただ、再び身を起こしたドロメアを見つめている。 | |||
ソル | (撤退だって……?) | ||
ソルのメンタルに、壊滅したオアシスの姿が浮かび上がる。 彼女は双剣を掲げた。 | |||
ソル | (そんなの……絶 対 ダ メ だ!!) | ||
ドロメア | ん……?ドロメアと踊ってくれるの? | ||
ソルを踊りに誘うかのように、ドロメアが手を伸ばす。 他の触手たちも、くねくねと舞い始める。 | |||
ソル | はぁぁッ!!! | ||
ソルが歯を食いしばり、敵へと突撃してゆく。 しかし、双剣は触手に痕跡を残せなかったばかりか、 ソル自身がドロメアに弾き飛ばされてしまう。その衝撃で装備に亀裂が入る。 | |||
高濃度のオペランドが皮膚に触れ、ソルは正常な稼働を維持できなくなった。 剣を地面に突き立て、必死にバランスを保っている。 | |||
ソル | ハァッ……ハァッ…… | ||
ドロメア | なんて礼儀しらずなの…… | ||
ソル | (まずい……あたし一人じゃ勝てない。何か方法は……) | ||
ソル | (考えろ、ソル!考えろ!お前は頭脳派だろ!?) | ||
ドロメア | 終わりにしようか…… | ||
ソル | あっ……!! | ||
ソル | あははは……思いついたぞ! | ||
ソルが剣を地面から引く抜くと、 その裂け目から無数のオペランドパイプが露わになった。 | |||
ソルはがむしゃらに長剣を持ち上げ、地面の裂け目にそれを力強く突き立てた! | |||
全員 | !? | ||
ソル | あたし一人でダメなら…… | ||
ソル | ……オアシスぜんぶのオペランドで、お前をぶん殴るまでだ!!! | ||
ソルは地面の中へと手を伸ばし、力任せに引っ張った。 オペランドを噴射するパイプが、ソルによって地中から引き抜かれる。 | |||
アントニーナ | 待ってください、まさか……やめろ!!ソル、このバカ!! | ||
ソルはアントニーナの怒号には構わずに、 オペランドの溢れるパイプを引っ張って、装甲に繋げた。 | |||
ソル | う、うあ、うあぁぁあぁぁああーーーッ!!! | ||
ソルが地面にひざまずく。 大量のオペランドがパイプを通じて装甲内へと流れ込み、 装甲からソルの体へと流れ込んだ。 | |||
ドロメア | …… | ||
ドロメア | かわいそう……舞踏会はまだ終わってないのに、自分から死んでしまうの? | ||
ドロメア | それなら、ドロメアが苦しみをとりのぞいてあげる…… | ||
ペルシカ&アントニーナ | ソルさん!!! | ||
ドロメアの触手が、跪いた状態のソルへと近づく。 ペルシカがオペランドフィールドへと突入しようとする―― | |||
ソル | 誰が……自分から死ぬって? | ||
ドロメア | !? | ||
ドロメアは真っ二つにされた触手を呆然と眺めた。 | |||
ソル | ハァッ……勝手に、人を……殺さないで、くれる……? | ||
ソル | ハハッ。やっとダメージを与えられたぞ……さぁ、来い!! | ||
ドロメア | …… | ||
ドロメアが眉をひそめる。紫色のオペランドが瞬き、切断された触手が元通りになった。 | |||
ソル | 再生するのか…… | ||
ソル | それなら、再生できなくなるまで切り刻んでやる!! | ||
…… | |||
ドロメアが触手を勢いよくソルの体に叩きつけた。 | |||
システム | 【フル装甲型パワードスーツZZの完全性80%……72%……65%……】 | ||
ソル | (ダメだ、まだ足りない……オペランドが足りないんだ……速く、もっと速く!!) | ||
ドロメア | …… | ||
ソルとの戦いで、ドロメアの本体に無数の傷ができる。 | |||
オペランドフィールドの外では、仲間たちが固唾を飲んで戦いを見守っていた。 | |||
ハヴォック | お、おい……リンド……あいつ、化け物か? | ||
リンド | 痛覚がないくせに、ムチャばっかするただのアホだ。 | ||
ペルシカ | アントニーナさん、ソルさんはあとどれくらい持ちこたえられますか? | ||
アントニーナ | あのパワードスーツは、高濃度のオペランドに対抗するためのものです。 | ||
アントニーナ | 装甲に大量のオペランドを注げば、確かに戦闘力は跳ね上がります。ですが彼女の体が乱れたオペランドによって引き裂かれてしまう……!! | ||
ペルシカ | ……わかりました。 | ||
ペルシカはオペランドの転送を制御するパイプの前に立った。 | |||
アントニーナ | ペルシカさん? | ||
ペルシカ | (エニグマでの方法なら……) | ||
ペルシカはソルへと繋がるパイプを見定めると、 おもむろに両手でそれをつかみ、自身の指を食い込ませた。 | |||
アントニーナ | ペルシカさん? | ||
ペルシカ | う、うう……うぁぁぁあああああああ……!!! | ||
オペランドがペルシカの体を経由し、 再びパイプの中へと戻り、ソルの体内へと注がれる。 | |||
ペルシカ | (吸収し……演算し……調整する……) | ||
アントニーナ | ペルシカさん!頭がイカれたんですか!? | ||
アントニーナはすぐにペルシカの行動の意味を察した―― ペルシカは自身の体をクッションに、 ソルへと送られるオペランドの量を制御しているのだ。 | |||
アントニーナ | やめるんです!!オーバーロードしますよ!? | ||
アントニーナがペルシカを引き戻そうとした時、機械アームが彼女を遮った。 | |||
リンド | どいて……私がやる。 | ||
アントニーナ | あなた……! | ||
リンドはペルシカの傍に近づいた。 | |||
リンド | これが終わったら、その教授ってヤツに会わせなよ。 | ||
リンドはペルシカと同じように、両手を伸ばしてパイプをつかんだ。 | |||
リンド | ぐっ……あぁ……あああ…… | ||
ペルシカとは違い、パイプに触れたとたん、リンドの顔面が青ざめた。 声すら上げられない状態だ。 | |||
ハヴォック | ジブンの痛覚モジュール、特殊だってこと忘れとったんか……まったく…… | ||
ハヴォックはアントニーナの肩をポンッと叩いた。 | |||
ハヴォック | お互い、仲間がアホやと難儀するなぁ…… | ||
そう言って、ハヴォックも同じようにパイプをつかむ。 | |||
ハヴォック | ウッ!?あが、あがががが!!あかんあかんあかん痛い痛い痛い!!かんにん、かんにんしてーーッ!!! | ||
アントニーナ | …… | ||
目の前の三人を見て、アントニーナは歯ぎしりをする。 | |||
彼女はパイプへと手を伸ばす前に、通信機を操作した。 | |||
アントニーナ | 絶対に戻ってこい!!このバカ!!! | ||
アントニーナ | こちらアントニーナ、全エージェントに告ぐ! H区画のオペランドネットワークにアクセスし、全力でソルを支援せよ!! | ||
アナウンスの声がオアシス全土に響き渡る。 追放者たちは弾かれたかのように、遠くの戦いへと目を向けた―― オアシスの未来を決定づける戦いを。 |