懸光昇変 PART.19 連携パスポーン

Last-modified: 2025-02-16 (日) 23:17:26

ドロメア他の人を舞踏会に招いたんだ?
ドロメアにぎやかなのは、キライじゃない。
リンドよそ見してる場合?……おまえの相手はこっちだ!
ハヴォックあかんて!それ以上刺激すな!
ハヴォックアイツ、明らかにジブン目当てやねんぞ!
 リンドは機械アームを振り上げて、再び攻撃を繰り出した。
だが、傍にいたクラゲエントロピーに容易く阻まれてしまう。
ドロメアがんばってるね……すてきだな。
リンドあんたさ、よくそこまでキモいこと言えるよね?
ドロメア同意してくれないなら、ドロメアが回収するしかないや。
 リンドの胸元にあるエントロピーコアめがけて、ドロメアの触手が瞬時に伸びる。
リンド!!
リンド(クソッ、アームがクラゲにまとわりつかれてる、このままじゃ……)
 シュッ!!
ソルあっはは!リンド、これでおあいこだね!
リンドおまえ……来るのが遅い!
 その時、甲冑を装備したソルが上空より舞い降りて、
長剣でドロメアの触手を一刀両断した。
ソルお前がドロメアだな?こっからは、あたしと踊ってもらうよ。
 
ペルシカマグニルダ小隊、庇護者小隊と交替!他の者は私とともにドロメアを阻んでください!
マグニルダ選手交替だ、庇護者は撤退しな!
ペルシカターゲットがまもなく座標地点へ到着します!アントニーナさん、準備を!
 ドロメアを誘導するソルの姿が近づくのを見て、ペルシカは通信機を握りしめた。
ペルシカターゲットがかかりました!!
 シュッ!
 ドロメアが予定の座標へと足を踏み入れた瞬間、
いくつものファイアウォールが彼女を中心に展開し、ドロメアをその場に封じ込めた。
ドロメアドロメアのために、舞台を用意してくれたの?……うれしい。
ドロメア子どもたち、オペランドをたんとおあがり……
 ドロメアはその場でくるくると回転する。
無数のクラゲエントロピーがファイアウォールに群がり、オペランドを吸収し始める。
アントニーナうぅっ……マイの気球が食べられた瞬間を想像してしまうな……
アントニーナとにかく……ペルシカさん!
ペルシカ作戦の第一段階を達成、第二段階へと移行!全オアシス、オペランドの転送開始!これより高濃度オペランドフィールドを展開します!
 ファイアウォールに囲まれた地面から、大量のオペランドが突如湧き出した。
 猛烈な勢いで沸き立つオペランドは、もはや肉眼でも確認できるレベルだ。
小さなクラゲエントロピーが、オペランドの波に押し流される。
オペランドがみなぎり、ファイアウォールの中に少しずつフィールドが形成されてゆく。
ドロメア!?
アントニーナ高濃度オペランドフィールドが生成されました!一部のクラゲは活動を停止し、休眠状態に入っています!
ハヴォックホンマや!リンドが倒したヤツとおんなじになっとるで!
ドロメアうふふ……そういう……こと……
 ドロメアは移動を試みたが、庇護者小隊を追っていた時のように自由には動けず、
ほんのわずかに体をずらすことしかできない。
ドロメアうふふ……まさか、こんな……ワナが……どうりで……
ドロメアどうりで……あいつは……教授を……とおざけて……
 一歩も動けなくなったドロメアは、ゆっくりと身をかがめた。
さながら舞台から退場するダンサーのように。
 フィールド内では、すべてのエントロピーが稼働能力を失っていた。
唯一オペランドだけが、悠々と奔騰し続けている。
ハヴォックう、動きが止まった!
アントニーナターゲット活動停止!作戦の第二段階成功!
ペルシカ最終段階に移ります!オペランドの転送速度に注意!ソルさん!
ソルよしきた!!
 重厚な甲冑を身につけたソルが、ファイアウォールを突き破り、
高濃度オペランドフィールドへと足を踏み入れた。
システム【警告、素体と関節に負荷がかかっています。速やかに現在のエリアを離れ……】
ソル(問題ない……あいつに近づいて、一太刀にすれば……)
 ソルが剣を構えようとした時、ドロメアの周囲にいる小さな生物が蠢いた。
ソル……なんだあれ?
 ソルだけではない。オペランドフィールドの外にいる仲間たちも、
ドロメアの異様な動きに気づいた。
ペルシカあれは……
 ペルシカとアントニーナが、スクリーン上のデータを見つめている。
湧き上がるオペランドの中、何かがドロメアの体を蝕んでいた。
アントニーナこの異常データは……熱エネルギーが上昇してる……?
ペルシカまさか……いけない!ソルさん、下がって!!
 ソルが思わず後方へと飛び退く。
彼女が元いた場所を離れた瞬間、ドロメアの周囲で奇妙な爆発が起こった。
 ドォン!!
ドロメアふぅー……
ドロメアおまたせしてごめんね……こんな方法で舞踏会にもどるなんて、乱暴だったよね。
 煙霧が散ると、ドロメアは再び立ち上がり、手中のロッドをかざした。
ソルそんな……どうして……
アントニーナそうか、クラゲだ……クラゲに自分のオペランドを食べさせて、休眠を強制的に防いだんだ!!
ペルシカその上で、クラゲエントロピーを自爆させて……
ペルシカソルさん!撤退です!すぐにそこから出てください!
アントニーナソルさん!小型爆弾を!
 オペランドフィールド内にいるソルは、振り向かなかった。
彼女はただ、再び身を起こしたドロメアを見つめている。
ソル(撤退だって……?)
 ソルのメンタルに、壊滅したオアシスの姿が浮かび上がる。
彼女は双剣を掲げた。
ソル(そんなの……絶 対 ダ メ だ!!)
ドロメアん……?ドロメアと踊ってくれるの?
 ソルを踊りに誘うかのように、ドロメアが手を伸ばす。
他の触手たちも、くねくねと舞い始める。
ソルはぁぁッ!!!
 ソルが歯を食いしばり、敵へと突撃してゆく。
しかし、双剣は触手に痕跡を残せなかったばかりか、
ソル自身がドロメアに弾き飛ばされてしまう。その衝撃で装備に亀裂が入る。
 高濃度のオペランドが皮膚に触れ、ソルは正常な稼働を維持できなくなった。
剣を地面に突き立て、必死にバランスを保っている。
ソルハァッ……ハァッ……
ドロメアなんて礼儀しらずなの……
ソル(まずい……あたし一人じゃ勝てない。何か方法は……)
ソル(考えろ、ソル!考えろ!お前は頭脳派だろ!?)
ドロメア終わりにしようか……
ソルあっ……!!
ソルあははは……思いついたぞ!
 ソルが剣を地面から引く抜くと、
その裂け目から無数のオペランドパイプが露わになった。
 ソルはがむしゃらに長剣を持ち上げ、地面の裂け目にそれを力強く突き立てた!
全員!?
ソルあたし一人でダメなら……
ソル……オアシスぜんぶのオペランドで、お前をぶん殴るまでだ!!!
 ソルは地面の中へと手を伸ばし、力任せに引っ張った。
オペランドを噴射するパイプが、ソルによって地中から引き抜かれる。
アントニーナ待ってください、まさか……やめろ!!ソル、このバカ!!
 ソルはアントニーナの怒号には構わずに、
オペランドの溢れるパイプを引っ張って、装甲に繋げた。
ソルう、うあ、うあぁぁあぁぁああーーーッ!!!
 ソルが地面にひざまずく。
大量のオペランドがパイプを通じて装甲内へと流れ込み、
装甲からソルの体へと流れ込んだ。
ドロメア……
ドロメアかわいそう……舞踏会はまだ終わってないのに、自分から死んでしまうの?
ドロメアそれなら、ドロメアが苦しみをとりのぞいてあげる……
ペルシカ&アントニーナソルさん!!!
 ドロメアの触手が、跪いた状態のソルへと近づく。
ペルシカがオペランドフィールドへと突入しようとする――
ソル誰が……自分から死ぬって?
ドロメア!?
 ドロメアは真っ二つにされた触手を呆然と眺めた。
ソルハァッ……勝手に、人を……殺さないで、くれる……?
ソルハハッ。やっとダメージを与えられたぞ……さぁ、来い!!
ドロメア……
 ドロメアが眉をひそめる。紫色のオペランドが瞬き、切断された触手が元通りになった。
ソル再生するのか……
ソルそれなら、再生できなくなるまで切り刻んでやる!!
 ……
 ドロメアが触手を勢いよくソルの体に叩きつけた。
システム【フル装甲型パワードスーツZZの完全性80%……72%……65%……】
ソル(ダメだ、まだ足りない……オペランドが足りないんだ……速く、もっと速く!!)
ドロメア……
 ソルとの戦いで、ドロメアの本体に無数の傷ができる。
 オペランドフィールドの外では、仲間たちが固唾を飲んで戦いを見守っていた。
ハヴォックお、おい……リンド……あいつ、化け物か?
リンド痛覚がないくせに、ムチャばっかするただのアホだ。
ペルシカアントニーナさん、ソルさんはあとどれくらい持ちこたえられますか?
アントニーナあのパワードスーツは、高濃度のオペランドに対抗するためのものです。
アントニーナ装甲に大量のオペランドを注げば、確かに戦闘力は跳ね上がります。ですが彼女の体が乱れたオペランドによって引き裂かれてしまう……!!
ペルシカ……わかりました。
 ペルシカはオペランドの転送を制御するパイプの前に立った。
アントニーナペルシカさん?
ペルシカ(エニグマでの方法なら……)
 ペルシカはソルへと繋がるパイプを見定めると、
おもむろに両手でそれをつかみ、自身の指を食い込ませた。
アントニーナペルシカさん?
ペルシカう、うう……うぁぁぁあああああああ……!!!
 オペランドがペルシカの体を経由し、
再びパイプの中へと戻り、ソルの体内へと注がれる。
ペルシカ(吸収し……演算し……調整する……)
アントニーナペルシカさん!頭がイカれたんですか!?
 アントニーナはすぐにペルシカの行動の意味を察した――
ペルシカは自身の体をクッションに、
ソルへと送られるオペランドの量を制御しているのだ。
アントニーナやめるんです!!オーバーロードしますよ!?
 アントニーナがペルシカを引き戻そうとした時、機械アームが彼女を遮った。
リンドどいて……私がやる。
アントニーナあなた……!
 リンドはペルシカの傍に近づいた。
リンドこれが終わったら、その教授ってヤツに会わせなよ。
 リンドはペルシカと同じように、両手を伸ばしてパイプをつかんだ。
リンドぐっ……あぁ……あああ……
 ペルシカとは違い、パイプに触れたとたん、リンドの顔面が青ざめた。
声すら上げられない状態だ。
ハヴォックジブンの痛覚モジュール、特殊だってこと忘れとったんか……まったく……
 ハヴォックはアントニーナの肩をポンッと叩いた。
ハヴォックお互い、仲間がアホやと難儀するなぁ……
 そう言って、ハヴォックも同じようにパイプをつかむ。
ハヴォックウッ!?あが、あがががが!!あかんあかんあかん痛い痛い痛い!!かんにん、かんにんしてーーッ!!!
アントニーナ……
 目の前の三人を見て、アントニーナは歯ぎしりをする。
 彼女はパイプへと手を伸ばす前に、通信機を操作した。
アントニーナ絶対に戻ってこい!!このバカ!!!
 
アントニーナこちらアントニーナ、全エージェントに告ぐ!
H区画のオペランドネットワークにアクセスし、全力でソルを支援せよ!!
 アナウンスの声がオアシス全土に響き渡る。
追放者たちは弾かれたかのように、遠くの戦いへと目を向けた――
オアシスの未来を決定づける戦いを。