オアシス、高濃度オペランドフィールド外。 | |||
ペルシカ | ソルさん…… | ||
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ソル | う…… | ||
聞き慣れた声がして、ソルはどうにか目を開けた。 | |||
ペルシカ | ソルさん、目が覚めたんですね!? | ||
ソル | う、うわぁっ!? | ||
ペルシカの抱擁を感じてようやく、ソルはすべてが終わったのだと実感した。 | |||
アントニーナ | まったく、幸運に恵まれてますよ。そんな状況で、こうも早く目覚めるとは…… | ||
ソル | あはは、褒め言葉ってことにしとく…… | ||
アントニーナ | よくも笑えたものですね……頭から爪の先まで傷だらけな上に、右腕はもはや人の形を留めてないんですよ!? | ||
ソル | …… | ||
アントニーナ | ……聞いてるんですか? | ||
ソル | まぁ……そもそも人形だし? | ||
アントニーナはつかつかとソルに近づいて、彼女にデコピンを食らわせた。 | |||
アントニーナ | ああなったらすぐに撤退しろと言いましたよね!?小型爆弾を渡したのは、なんのためだと思ってるんです!?どうして使わなかったんですか!! | ||
ソル | えへへ……戦いから生き残り、なおかつ資源も無駄にしない。これが頭脳派の実力ってヤツさ! | ||
アントニーナ | ふざけないでください、こっちは真面目に話してるんです!!もし負けていたら…… | ||
ソル | だって約束したもん、みんなで一緒に現実に帰るって。 | ||
ソル | それに、あそこで逃げてたら、今までの努力が水の泡でしょ?アンナも少しは褒めてくれたっていいじゃ~ん! | ||
ソルの輝く笑顔を見て、アントニーナは妥協するかのように溜息をついた。 | |||
アントニーナ | ハァ……無事でよかったですよ…… | ||
ペルシカ | ふふふ……そういった話は、また後にしましょうか。ソルさんが目を覚まされただけで、今は十分です。 | ||
ペルシカ | そうだ、これ。先ほどの戦いで落としていましたよ。 | ||
ペルシカはソルのネックレスを彼女の首にかけた。 戦火を経験した後でも、小瓶の中の緑は少しも色褪せていない。 | |||
ペルシカ | ソルさん。 | ||
ソル | ん? | ||
ペルシカ | よく頑張りましたね!! | ||
ソル | ………わぁ、ペルシカ。なんだか教授みたいだ!立派、立派! | ||
ペルシカ | いえそんな、私なんてまだまだです。でも、ありがとうございます。 | ||
ペルシカ | 応急処置は終わりました、あとはA区画の医療施設で治療を受けてください。ちょうどそちらで障壁の修復と検査があるので、アントニーナさんが同行します。 | ||
ソル | ペルシカは休まないの? | ||
ペルシカ | オアシスにはまだクラゲエントロピーが残っていますから。敵を一掃したら、私も向かいますね。アントニーナさん、ソルさんをよろしくお願いします。 | ||
ソル | 一人でも大丈夫なのに…… | ||
アントニーナ | 無鉄砲者には発言権なんてありませんから。 | ||
アントニーナはソルの抗議を無視して彼女を支え、 小隊メンバーとともに、すでに戦況の落ち着いたA区画外環へと向かった。 | |||
オアシス、A区画、サンドボックス障壁。 | |||
アントニーナ | 修復ポイントはこのあたりか……医療部門の方が迎えに来るそうですので、ここでお待ちください。 | ||
ソル | 医療部門も大変そうだね…… | ||
アントニーナ | まだ戦いは終わっていませんし、負傷者がかなりの数ですからね。 | ||
ソル | べつに休憩しなくても平気なんだけどな、それに手伝―― | ||
ソル | な、なんでもない。や、やっぱり、しっかり休んでおこうっと! | ||
アントニーナの恐ろしい剣幕を見て、ソルはすぐに態度を変えた。 | |||
アントニーナ | プッ……くくく……あははは! | ||
ソル | えっ、ア、アンナ……?どうしたの、メンタルがおかしくなった?お、脅かさないでよ……! | ||
アントニーナ | なんですかそれ。ただ笑っただけですよ、驚くことないでしょう。 | ||
ソル | あ、あは、あはは…… | ||
アントニーナ | 私はただ…… | ||
アントニーナ | みんな、いつの間にか成長していたんだなと…… | ||
アントニーナ | 皆さんと肩を並べて戦うのが、こんなに楽しいだなんて、昔は思いもしませんでしたよ。 | ||
アントニーナ | 私も負けていられないな――そう思っただけです。 | ||
アントニーナ | ……なんとか言ったらどうなんです? | ||
ソル | あのさ、アンナ。こんな時に言いたくないんだけど、あれ見て。 | ||
アントニーナ | おや、この部分の障壁、やや不安定ですね…… | ||
ソル | そうじゃなくって!障壁の外にエントロピーが残ってる! | ||
アントニーナが外を見ると、数匹の下位エントロピーがオアシスを攻撃していた。 サンドボックス障壁を破れはしないが、そのせいで震動が起きている。 | |||
ソル | あいつら、往生際が悪いなぁ!またペルシカが大変……ん? | ||
タタタタタッ―― | |||
ふいに火光が上がり、障壁の外にいたエントロピーが瞬時に液体と化した。 | |||
ソル | あれっ、外勤小隊が戻ってきたのかな…… | ||
アントニーナ | 違う、あれは……浄化者だ!! | ||
二人の視界に現れたのは、おびただしいまでの浄化者の大群だった。 彼らが通った場所のエントロピーが粉々になる。 | |||
ソル | 強い……さっすが浄化者! | ||
アントニーナ | まったく、遅刻にも程がありますね。強敵はとっくに倒した後ですよ。 | ||
アントニーナ | しかし……ロッサムでフェイスに助けられはしましたが、こいつらが味方かどうかは、まだわかりません。 | ||
アントニーナは警戒した様子で、先頭にいるフォーティテュードを見た。 そしてサンドボックス障壁の防御力レベルを上げる。 | |||
フォーティテュード | 【ピッ――IDを確認、作戦行動開始】 | ||
フォーティテュードが二人に近づいてきた。 その巨大な躯体は、見るものに圧迫感を与える。 | |||
フォーティテュード | 【イオスフォロス様の命令で、オアシスの支援に参りました】 | ||
フォーティテュード | 【こちらが、イオスフォロス様と{教授}教授の指令書です。サンドボックス障壁を開けてください】 | ||
アントニーナ | ……指令は問題なさそうですね。 | ||
ソル | 「イオスフォロス」ってヤツ、やるじゃ~ん!よかった、これでようやく一息つけるよ! | ||
アントニーナ | 障壁のホワイトリストへの登録完了。とりあえず、ペルシカに一言…… | ||
フォーティテュードは浄化者の一部を率いて、サンドボックス障壁をくぐった。 彼らが近づくにつれ、ソルはなぜか不安に駆られる。 | |||
ふいに、フォーティテュードの頭部が光った。 浄化者との戦いを何度も経験してきたソルには、それが何を意味するかわかった。 モードが切り替わったのだ。 | |||
ソル | ……待って、なんだか変だ! | ||
アントニーナ | え? | ||
ゴッ!! | |||
ソルがすぐさまアントニーナを突き飛ばした。 フォーティテュードの鋭い爪が、先ほどまでアントニーナのいた場所の地面を抉った。 | |||
フォーティテュード | 【作戦ターゲットを確認、捕獲モード起動……】 | ||
アントニーナ | どういうこと…… | ||
ソル | アンナ!!逃げて!!こいつら、あたしらを助けに来たんじゃない!! | ||
浄化者No.05哨戒タワー。 | |||
ユーカリスト | ふぅむ……これは……ここでおじゃ!! | ||
{教授} | ハァ……これは囲碁よ、五目並べじゃないんだから。 それにゲームが終わったって、あなたを逃がすつもりはないわ。 | ||
ユーカリスト | こんなもの、まろにはムリじゃと言うとろうがぁ~…… | ||
ユーカリストは泣きそうな顔で周囲を見渡した。 部屋の中のクラゲエントロピーは、どれも床にへばりついたまま動かない。 先ほどまでの元気が嘘のようだ。 | |||
ユーカリスト | 教授~、まろが間違っていたでおじゃ。見よ、オアシスはドロメアを倒し、まろは兵を失った。慈悲深き教授どのよ。どうじゃ、ここは一つ、まろを見逃してたも? | ||
{教授} | あなたが私を見逃したことなんて、一度もなかったのに? 大人しく浄化者に連行されることね。 | ||
ユーカリスト | そ、それは困るでおじゃ…… | ||
ユーカリストは哨戒タワーを包囲する浄化者たちを見て、何かを決心した。 | |||
ユーカリスト | ……センカタないの。相手が価値を認めるものでなければ、取り引きにはならぬ。 | ||
ユーカリスト | そちに価値のある情報を提供する代わりに、まろを見逃す、というのはどうかえ? | ||
{教授} | あなたの身柄よりも、価値のあるもの? | ||
ユーカリスト | オアシスの存続に関わる情報……と言ったらどうする? | ||
{教授} | オアシスの? | ||
私はユーカリストを見た。彼女は両手を固く握りしめている。 大きなリスクを冒そうとしているようだ、表情は嘘をつかない。 | |||
{教授} | 詳しく聞かせてもらえる? | ||
ユーカリスト | まろは、ここで延々よもやまを語ろうとかまわぬぞい。じゃが、オアシスを助けるチャンスを逃せば、後悔するのはまろにはおじゃらぬ。 | ||
{教授} | のらりくらりと躱されて、あなたをどう信じろと? | ||
ユーカリスト | ……よかろ。多少のエサがなくては、教授はかからぬようじゃ。このメッセージは、まろからの下賜だとでも思え。 | ||
ユーカリスト | そちにわかるかえ?まろがなぜああも寛ぎ、リバベルの追手を微塵も憂いておらぬのか。 | ||
{教授} | 可能性はいくつもあるわ。 逃げられる自信があったか、あるいは浄化者の戦闘力を侮っていたか…… | ||
ユーカリスト | はて、不思議じゃのぉ。見よ、まろはとっくに捕らえられておるぞ? | ||
{教授} | あなた、もしかして……リバベルに共犯者がいるって言いたいの? | ||
ユーカリスト | ビンゴでおじゃ!ならば当ててみよ……哨戒タワーに来るはずの部隊は、今はどこにおるのかのぉ? | ||
{教授} | 浄化者が部隊をオアシスに向かわせたと? それがどうしたの、こっちにはイオスフォロスとの契約があるのよ。 そのおかげで、フェイスの協力を得ることができた。 | ||
{教授} | たとえ浄化者がオアシスに敵意を持っていたとしても、 私の指令なしに、追放者は彼らをオアシスに迎え入れはしない。 | ||
ユーカリスト | もし、そちの指令があったとしたら? | ||
{教授} | 指令は偽造できないわ。 私のシグネチャコードを直接採取でもしない限り…… | ||
ガタッ―― | |||
私は何かに気づいて、猛然と立ち上がった。 | |||
イオスフォロス | シグネチャコードの採取完了。 この方法、気に入ってもらえたかしら? | ||
イオスフォロス | 今日から、浄化者とオアシスの間に新たな関係が築かれたわ。 | ||
イオスフォロス | それじゃ……またすぐに会うことになるでしょう。 | ||
{教授} | しまった……フェイス、リバベルに状況を確認して! 浄化者内部で事変が起きてる可能性があるわ!! | ||
{教授} | それに、オアシスが…… | ||
ユーカリスト | やっと信じたようでおじゃるの。さて、彼奴の目的を教えたら、まろを解放してくれるかえ? | ||
{教授} | ……いいわ。 | ||
ユーカリスト | その言葉、忘れるな!彼奴らの目的は…… | ||
…… | |||
私は再び通信を立ち上げた。だが応答はない。 | |||
話中音を聞いていた私の心が、少しずつ沈んでいった…… |