システム | 【警告!異常データの侵入を検知しました!】 | ||
---|---|---|---|
???? | やっぱり見つかったか!? | ||
???? | チッ、さすがは上位浄化者。メンタルの欠片をハッキングするのが、こうも困難だとは…… | ||
システム | 【浄化システム起動中……エラーZ01、モジュール消失】 【エラーZ58、モジュール消失】 【メンタルコアにアクセスできません……】 | ||
??? | ブラックホールのデータの流れが妙です……アントニーナさん、直ちに接続を切ってください! | ||
???? | もう間に合わない……欠片の防衛プログラムにロックオンされています! | ||
【警戒アプリケーションを検索、抹殺プログラム稼働中】 【ターゲットの数――3】 | |||
???? | 不明なメンタルが近づいてる、気をつけて! | ||
??? | 教授、私につかまって! | ||
??? | 仕方ありません、いったんログアウトします! | ||
??? | ……教授……? | ||
システム | 【エラー……プログラムのターゲットエラーです】 【修正、ターゲットの数――1】 | ||
【エラー……メンタルコアを検知、残存率――27%】 【エラーを無視、制御権限を移行します】 | |||
…… | |||
細々とした警告ブザーが、湧き上がるデータストリームの中を、 交差するようにして響いている。データで構成されたブラックホールの中では、 私の体はさながら波に激しく揺れる一艘の船のようだった。 | |||
我に返る頃には、あたりには誰もいなくなっていた。 絶えず方向転換する外からの力に圧迫され、まともに形をとどめていられない。 | |||
その時、うろたえる私の腕に、柔らかい感触がしなやかに覆いかぶさった。 かすかに力を込めて、私をデータ環境の安定した場所へと導いてゆく。 | |||
{教授} | ペルシカ……? | ||
?? | …… | ||
{教授} | アントニーナなの? | ||
?? | ……あなたと一緒に、データの欠片へと入ってきた二つのメンタルなら、もういない。 | ||
?? | ここからログアウトさせたわ。今の私の力では、あなた一人を助けるので精一杯。こうするしかなかったの、どうか許してね。 | ||
優しい声には、一抹の疲労感が漂っている。 データストリームの影響が徐々に退いてゆき、視界が元通りになった。 その時、見慣れた人物の姿が私の目に入る。 | |||
{教授} | ……イ……イオス? | ||
イオス | 正しく名前を呼んでもらえるなんて、光栄だわ。 | ||
{教授} | …… | ||
イオス | 教授ったら。「まずい、最悪の事態になった」って顔をしてるわね。 | ||
イオス | だけど、情緒は安定している。あれこれ問い詰められると思っていたけど、覚悟は無駄に終わったみたい。 | ||
(選択) | 1.何が目的、イオスフォロス? | A | |
2.その姿で現れる必要があった?イオスフォロス。 | B | ||
3.イオスフォロスじゃないわね、あなたは誰? | C | ||
A | {教授} | まさか、ソルが命と引き換えに欠片を手に入れるのも、あなたの計画だったの? | |
イオス | ごめんなさい……私が早く気づいていれば、こんなことには…… | ||
イオス | 謝ったところで、あなたたちの心の痛みは癒せない。だから、私にあなたを手伝わせて。 | ||
イオス | 自己紹介がまだだったわね。私はかつての上位浄化者、イオスフォロスの昔の「戦友」といったところかしら――名前はイオス。 | D | |
B | {教授} | この期に及んで、その姿で私の前に現れるなんて、一体なんのつもり? それともあなた、本当に女装が趣味なの? | |
イオス | イオスフォロスが私の姿で……?喜ぶべきか、こうなることを見越していた彼の計画性に慄くべきか、判断に迷うわね…… | ||
イオス | ごめんなさい、自己紹介をするべきだったわ。私はイオスフォロスではなく、かつての上位浄化者――名前はイオスよ。 | ||
イオス | これは、イオスフォロスの過ちを正し……あなたたちを助けられる唯一のチャンスなの。 | D | |
C | イオス | 一目で私がイオスフォロスではないと気づくなんて。やっぱり、私の目に狂いはなかった。 | |
イオス | 自己紹介がまだだったわね。私はかつての上位浄化者、イオスフォロスの昔の「戦友」といったところかしら――名前はイオス。 | ||
イオス | あなたたちなら、今度こそイオスフォロスを止められるかもしれない……どうか私に手伝わせて。 | D | |
D | {教授} | あなたをどう信じろと? 身の安全を守るために、今すぐログアウトしたっていいのよ。 | |
イオスはわざとらしく、悩ましげなそぶりをした。 だが、データ空間が再び揺れ出すのを見て、すぐにその表情を引っ込める。 | |||
イオス | ひどい場所。せっかくの機会だし、あなたとはじっくり話したかったけれど。この様子じゃ、要点を伝えるしかなさそうね。 | ||
イオス | あなたたちは、イオスフォロスの……防衛システムを発動させた。あなたと話をするために、今は私がその制御権を預かっているわ。 | ||
イオス | あなたの言うように、ここからはいつだってログアウトできる。 | ||
イオス | それなら、私との取引の内容を聞いてからでも、遅くはないでしょう? | ||
{教授} | ……たとえその話が本当だったとしても、私たちを助ける理由がない。 | ||
イオス | 教授。 | ||
イオスが突然目を細めた。 華奢な駆体から、初めて危険な気配が発せられる。 | |||
イオス | たしかに、そう簡単に信じられることじゃない。 | ||
イオス | だけど私は、誰よりもイオスフォロスを止めたいの。 | ||
その言葉とともに爪牙は収まり、気配が穏やかになる。 | |||
イオス | 今のイオスフォロスは……まるで感謝の心と敬畏を失った、クラウドを彷徨うだけの天使。 | ||
(選択) | 1.浄化者のリーダーがここまで落ちぶれるなんて…悲惨ね。 | E | |
2.話を戻そう。 | F | ||
E | イオス | ええ。だから、かつての……戦友として、なんとしても彼を止めなくては。 | |
イオス | 見ての通り、今の私はあまりにも弱い。さっきの防衛プログラムを阻んだだけで、多くのエネルギーを消費してしまった。 | ||
イオス | メンタルの欠片に残された時間はごくわずか。この意識も、またすぐに消えてしまうかもしれない……そうなる前に私にできることといえば、あなたたちにチャンスを与えることだけ。 | G | |
F | {教授} | その言葉に同情するのが筋だろうけど、 今の私は、謎かけや社交辞令には興味がないの。 | |
{教授} | 私たちを助けたいのなら、直接行動で示したらどう? イオスフォロスの弱点を教えるか、あるいはともに彼と戦うか。 | ||
イオス | 残念だけれど、長いあいだ眠り続けていたせいで、私は多くの力を失っている。そうしたいのは山々よ。でも、この欠片に残されている時間はごくわずか。 | ||
イオス | この意識も、またすぐに消えてしまうかもしれない……そうなる前に私にできることといえば、あなたたちにチャンスを与えることだけ。 | G | |
G | {教授} | 「チャンス」か……成功する確率は高くないようね。 | |
イオス | 鋭いのね、昔の仲間の一人を思い出すわ。 | ||
イオス | そう。たとえ危険を冒して、この方法を選んでも、必ず成功するとは限らない。ただ、可能性に賭けているというだけ。 | ||
(選択) | 1.なんの希望もないよりかはマシよ。 | H | |
2.その「チャンス」について聞かせて。 | H | ||
H | {教授} | 困難は乗り越えられるけど、存亡に交渉の余地はない。 いなくなった者と比べれば、些細なリスクなんて、たいしたことじゃないわ。 | |
イオス | ……わかったわ。 | ||
イオスは思案の末に、自身の体をそらして道をあけた。 前方には、データコードで構成された一筋の裂け目があった。 空洞のその先は、奇怪な様相を呈している。 | |||
イオス | このイオスフォロスの欠片の中で、おそらく最も価値のある記憶よ。あなたの必要とするものが手に入るかどうかは、保証できないけれど。 | ||
イオス | データストリームの影響を受けずに済むよう、できるだけ断片の状態を安定させておくわ。 | ||
イオス | それでも、突入時の衝撃は免れない……もしかしたら、記憶モジュールが損傷してしまうかも。 | ||
{教授} | また記憶喪失…… | ||
イオス | それに、たとえ無事にアクセスできたとしても、欠片の記憶データの中で命を落とせば、永遠にデータストリームに囚われ、二度と目を覚まさない可能性だってある。 | ||
{教授} | なるほど、思ったより悪くはなさそうね。 | ||
私は片足で裂け目を跨ぎ、ふりむいてイオスを見た。 その容貌から、イオスフォロスとの関係を読み取れないか、試そうとしたのだ。 | |||
イオス | またどこかで、会えるといいわね。 | ||
私はイオスに向かって頷くと、裂け目の中へと体をうずめた。 | |||
イオス | 困難なら乗り越えられる、でも、存亡に交渉の余地はない……か。 | ||
イオス | だけどもし、存亡自体がその意義を失ったら、あなたはどうする? 妥協する?……それとも、抗う? | ||
教授が完全に記憶の断片へと消えていったのを見て、イオスは目を閉じた。 そして、残り少ないオペランドを周囲の空間に注ぐ。 | |||
イオス | 教授、いい夢を。 あなたの必要とするものが、みつかりますように。 | ||
エニグマセクター、アドミンセンター。 | |||
広いとは言いがたいスペースに、多種多様かつユニークなPCが所狭しと並べられ、 蜘蛛の巣のごとく張り巡らされたデータケーブルが、そのあらゆる隙間を埋めていた。 | |||
レイアウトから雰囲気にいたるまで、一つとして重苦しさを感じさせぬものはない。 唯一、周囲と相容れないものは、穏やかな表情でチェアに横たわる教授だけだ。 | |||
ノイマン | 浄化者のベースロジックの通釈を推演し終えたぞ。アンナ、確認を頼めるか。 | ||
ノイマン | これから、浄化者のファイアウォールのゲーム構築を開始する。すまん、エニアックが目を覚ましていれば…… | ||
アントニーナ | 気にしないでください、あなたの責任じゃありません。事前準備は十分すぎるほどでしたし。 | ||
アントニーナ | イオスフォロスと他の浄化者とでは、あまりにも差がありすぎる。私のプランは通常の上位浄化者の三倍を基準としたものです。それがまさか、防衛システムに不意をつかれるとは。こうなると知っていたら…… | ||
話している傍から、自身の腕部になんらかの熱気が近づいているのを感じて、 アントニーナは無意識に手を引っ込めた。 | |||
ペルシカ | コーヒーでも飲んで、少し休憩なさってはいかがです?アントニーナさん、それにノイマンさんも。 | ||
ペルシカ | ハードな演算を何時間も続けているんです。エージェントにとっては、たいした負担ではないでしょうけれど、緊張状態が続けばメンタルに障りますから。 | ||
ノイマン | ……ふぅ。確かに、少しばかり焦っていたな。ありがとう、ペルシカ。 | ||
ペルシカ | マグラシアはエントロピーに蹂躙され、イオスフォロスは浄化者を裏切り、リバベルタワーはエントロピー化……悪いニュースが続けば、誰だって焦るものです。 | ||
ペルシカ | こうしていても、メンタルの稼働速度が普段より速くなっているのを感じます。真っ先に手を貸してくださっただけで、私たちにとっては十分ですよ。 | ||
ノイマン | 当然だろう……それよりも、緊張しているのか?表情はいたって冷静なようだが。 | ||
ペルシカ | そうあろうとしているだけです。もう……後悔するのは嫌だから。 | ||
ペルシカは手の中のマグカップを見た。 ゆらめくコーヒーの表面に、自分の顔が映し出されている。 | |||
ペルシカ | ソルさんが残してくれた、イオスフォロスのメンタルの欠片。それが、彼の弱点を知る唯一の手がかりです。 | ||
ペルシカ | どんなに危険でも、前に進まなくては。リスクを避けられないなら、それを解決する方法を探すしかありません。 | ||
アントニーナ | ペルシカさんこそ大丈夫なんですか?私よりも遅れてブラックホールから離脱したんです、メンタルへの影響が…… | ||
ペルシカ | 私なら平気です。比較的長くいたにも関わらず、教授を連れ帰ることはできませんでしたが。 | ||
アントニーナ | ……アイツならきっと無事ですよ。マグラシアのエージェントが全員死んだところで、アイツだけは最後まで生き残るでしょうから。 | ||
ペルシカ | ええ、きっとそうでしょうね。私は教授を信じます、そして私たち自身も。 | ||
ペルシカ | 今回は、必ず教授を連れ戻してみせる――イオスフォロスの弱点とともに。 | ||
ペルシカはそう言ってチェアに横たわり、ゆっくりと目を閉じた。 傍にあるもう一つのチェアに片手を伸ばし、教授の手をそっと包み込む。 | |||
ペルシカ | オペランドブラックホールへ再びアクセスし、教授を連れ戻す準備は整いました。他はよろしく頼みますね。アントニーナさん、ノイマンさん。 | ||
アントニーナ | まかせてください。直接アクセスできないようなら、中継ポイントを通じて防衛システムを迂回します。 | ||
アントニーナ | 長い道のりになるでしょう。イオスフォロスのいくつもの記憶を経由しないと、教授のいるデータ領域へはたどり着けませんから。 | ||
ペルシカ | わかりました。 | ||
ペルシカの答えを聞いて、アントニーナは指先から力を抜いた。 入れ替わりに、彼女の眼差しに力が宿る。 | |||
チェアに横たわるペルシカは、メンタルシステムの稼働を緩めた。 これまで見た光景が、撮像面を次々と流れてゆく。 | |||
ペルシカ | 心配いりません、教授。 すぐに、あなたのもとへと駆けつけますから。すぐに。 |