数分前。タルタロスセクター、移動迷宮外環、メイン供給タワー。 | |||
システム | 【警告、エントロピーの信号を検知しました】 【警告、エントロピーの信号を大量に検知しました】 【警告、エントロピーの数が多すぎます。作戦方針を慎重に考慮した上で……】 | ||
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アルシオーネ | 黙りゃ。 | ||
アルシオーネは高所から襲い来るエントロピーを撃ち落とし、システムの警告を切った。 | |||
アルシオーネ | イレギュラーどもめ、次から次へと…… | ||
エレクトラ | 数だけじゃない……これまでの下位よりも、ずいぶんとタフですわよ。二倍近くのパワーでないと、消滅させられないなんて。 | ||
傷ついた下位エントロピーが再び這い寄るのを見て、 エレクトラは襲い来るエントロピー液を双剣で防いだ。 そしてアルシオーネの背後へと後退し、彼女の死角を補う。 | |||
予定していた撤退ルートは、すでにエントロピーの群れによって覆い尽くされていた。 二人は戦いながらの撤退を余儀なくされる。 | |||
エレクトラ | こっちはオペランドの消耗が激しくなっていますのに、敵が減る気配も、撤退するそぶりもありませんわ。わたくしたちをここで窮死させるつもりですわね。 | ||
エレクトラ | おそらくは偽装コードの失効も、迷宮の変動も、すべて彼らの予想通り。この状況で撤退すれば…… | ||
アルシオーネ | おのれ、恥をかかせおって…… | ||
アルシオーネ | エレクトラ!われらは上位浄化者なるぞ! | ||
エレクトラ | ……アルシオーネちゃん? | ||
アルシオーネは視線を動かさずに、再び手中の弓を引いた―― | |||
シュッ! | |||
矢が空を切って飛んでゆき、エントロピーの群れに金色の道を切り拓く。 | |||
エントロピー | ! | ||
アルシオーネ | ……下位エントロピーごときに、上位浄化者がやられると思うてか!? | ||
アルシオーネ | あまり大々的ではいらぬ警戒を招き、仲間の行動が危ぶまれると思うたが……こうなってしまっては、コソコソ隠れる必要もあるまいて。 | ||
アルシオーネはつま先でトンッと飛び跳ね、上空へと舞い上がった。 | |||
アルシオーネ | 愚かなイレギュラーどもよ、まろがうぬらに制裁を下してくれるわ! | ||
そう言ったとたん、アルシオーネの体がまばゆい光に包まれた。 形なき障壁の内側で、金色の光芒が矢じりの先端へと凝集しだす。 | |||
アルシオーネ | エレクトラ。こやつらがわれらの撤退を許さぬのなら、計画通り供給タワーを起爆するぞい。 | ||
アルシオーネ | イレギュラーどもを、唾棄すべき供給タワーもろとも木っ端微塵にしてくれりゃ! | ||
エレクトラ | アルシオーネ…… | ||
アルシオーネ | じゃが、これでは距離が遠すぎて、エネルギーの充填に時間がかかる。エレクトラ、まろのために時間を稼いでたもれ! | ||
エレクトラ | ……ふふふ、それもそうですわね…… | ||
アルシオーネの確固たる眼差しを受けて、エレクトラが口角を上げた。 双剣が閃き、数匹の下位エントロピーがたちまち撫で斬りにされる。 | |||
エレクトラ | 上位浄化者を待ち伏せするその度胸は、褒めて遣わしますわ。お望み通り、わたくしどもの実力をとくと味わわせてあげましょう。 | ||
エントロピー | !!! | ||
オペランドがアルシオーネの手中へと凝集しつつあることに気づいたのか、 下位エントロピーたちはエレクトラを迂回し、直接アルシオーネへと突撃した。 だが、そのどれもが剣の光によって、瞬く間に切り刻まれてしまう。 | |||
エレクトラ | あら。アルシオーネちゃんに近づいていいと、いつ申し上げましたかしら? | ||
エレクトラの双剣が一体の下位エントロピーを斬り伏せた瞬間、 ふいに何かが彼女の肩を掠めた。 | |||
エレクトラ | !? | ||
エレクトラ | (やはり、パワーが足りないか……この下位エントロピーども、見た目は変わらないのに、なぜ急にこうも強く?) | ||
エレクトラ | (とにかく、何があってもアルシオーネを守らないと……) | ||
エレクトラは空中でエネルギーを凝集させるアルシオーネを見上げた。 その時、アルシオーネの背後で何かが煌めいた。 | |||
アルシオーネ | エレクトラ!ジャッジメントアローのカウントダウンを…… | ||
エレクトラ | アルシオーネ!!避けて!! | ||
エレクトラが上空へと飛び上がった。 自身の死角に閃く、赤い影には気づかずに。 | |||
エレクトラ | !? | ||
赤い上位エントロピー | コッチダ、「姉様」…… | ||
エレクトラ | な…… | ||
エレクトラはとっさに右側へと飛び退く。 刹那、真っ黒な何かが、背後から彼女の脇腹を貫いた。 | |||
エレクトラ | あっ……あ、ああぁあぁぁあああッ!!! | ||
アルシオーネ | エレクトラ!! | ||
真っ赤な上位エントロピーが、エレクトラの背後から現れた。 漆黒の槍でエレクトラの体を空高く持ち上げる。 | |||
赤い上位エントロピー | 避ケラレ無カッタナァ……思ッタヨリ詰マラァン…… | ||
アルシオーネ | おのれ……! | ||
アルシオーネは方向を変え、赤い上位エントロピーを狙った。 だが遅々として弦を放そうとしない。相手はエレクトラを盾にしている。 エネルギーの蓄えられた一撃を放てば、エレクトラも無事では済まない。 | |||
エレクトラ | わたくしはいいから!!撃ちなさ……ぐぁぁあっ!? | ||
赤い上位エントロピーは、剣でエレクトラの体を突き上げたまま、 もう一方の手で彼女の両腕を凄まじい力でねじ伏せた。 その衝撃で、エレクトラの腹部がさらに裂かれる。 | |||
赤い上位エントロピー | ギェギェギェギェ!!!浄化者、コノ程度……? | ||
エレクトラ | ぐっ……な、なんて怪力なの…… | ||
赤い上位エントロピー | 来イヨ、来来来!違ウ場所デ、殺シ合イ、楽シモォウ!! | ||
赤い上位エントロピーは、エレクトラを携えてエントロピーの波に飛び込むと、 紫色の海へと姿を消した。 | |||
アルシオーネ | エレクトラッ!!? | ||
赤い上位エントロピーがエレクトラを拘束したまま、エントロピーの海を進んでゆく。 エレクトラは激痛を忍んで双剣を振るおうとしたが、つかまれた両腕はビクともしない。 | |||
エレクトラ | はな……せ……! | ||
赤い上位エントロピー | 此処ダ!此処ガ良ィイ!! | ||
エレクトラ | がはっ!い、忌々しいイレギュラーめ…… | ||
エレクトラは重々しく迷宮の壁へと叩きつけられた。 激しい衝撃に、エレクトラの全身を刺すような痛みが駆けめぐる。 | |||
エレクトラ | (なんて恐ろしい力……アトラス以上だわ。だけど、この角度からなら……) | ||
赤い上位エントロピー | 「ドンッ!」 | ||
エレクトラ | な……がっ、がぁぁぁああああぁぁぁあ!!?? | ||
赤い上位エントロピーの手のひらから不吉な紫色が拡散し、 エレクトラの体内で弾け飛んだ。 | |||
システム | 【警告、システム構造の損壊率50%】 【警告、基礎伝動プログラムがオフラインです】 【警告、システムプログラムが錯乱しています……】 | ||
エレクトラ | はぁっ……ゲホッゲホッ……き……きさ、ま…… | ||
赤い上位エントロピー | ゲギャギャギャ!此レデ終ワリカ?信ジナイ……中位ノ奴ラト、マルデ変ワラァン!! | ||
赤い上位エントロピー | 知ッテタラ、アノチビニシタノニィィィ!! | ||
エレクトラ | アルシ、オーネに……手出しは、させない!! | ||
赤い上位エントロピー | ギャヒヒヒハハハ!!良イネェ、良イ目ダネェ!!ジャア、続ケ……グゲァッ!? | ||
アルシオーネ | エレクトラ!! | ||
赤い上位エントロピーが攻撃を避けた。 アルシオーネはその隙を見計らって低空飛行し、 上位エントロピーの手からエレクトラを奪還する。 | |||
アルシオーネ | エレクトラ!目を覚ますでおじゃる!! | ||
エレクトラ | にげ……て……はや、く…… | ||
赤い上位エントロピー | オット……危ナイ、危ナァイ…… | ||
赤い上位エントロピー | グァグァグァグァグァ!!チビ、ナカナカ速イナァ……コレデ終ワリ、詰マラナイ、ソウ思ッテタンダ!! | ||
上位エントロピーは、真横に突き刺さった金色の矢をやすやすと引き抜くと、 それを真っ二つにへし折った。 | |||
赤い上位エントロピー | 其処ノチビ!!遊ンデクレヨォ!!! | ||
アルシオーネ | この、下種がァ!!!! | ||
アルシオーネは怒りに震えつつ、自身の腕の中で 意識を失いかけているエレクトラを見た。 そして今度は、赤い上位エントロピーを穿つように睨めつける。 | |||
アルシオーネ | おのれイレギュラー!!エレクトラを傷つけた罪、償わせてくれる!!! | ||
アルシオーネは弓を引き、すばやく光の矢を放った。 | |||
赤い上位エントロピー | ヒギェギェギャハハハッハァ!!来イッ!! | ||
赤い上位エントロピーが重槍を振りまわし、光の矢を断ち切った! | |||
赤い上位エントロピー | グガ?矢ガ分裂シ……ンギャアアッ!? | ||
赤い上位エントロピー | ゲホゲホッゲフッブホッ……コノ煙、何処カラ……アノ死ニ損ナイガ…… | ||
赤い上位エントロピー | 消エタ!?何処ダ、奴ラ、何処へ行ッタァァァ!?!? | ||
煙に視界を遮られた上位エントロピーは、斬撃で周囲の濃煙を払った。 | |||
赤い上位エントロピー | 糞糞糞!騙サレタ騙サレタ騙サレタァァ!!チビィィィ嗚呼アアア!!! | ||
赤い上位エントロピー | ……良イ、良イィサ、構ワナイ……スグニ見ツケ出シテヤル…… | ||
その時、タルタロスの仄暗い上空を、金色の矢が切り裂いた。 アルシオーネは弓を戻すと、小さな体で重傷のエレクトラを抱き直し、 宙に浮かんだまま、緊張した面持ちで彼女の容態を確かめた。 | |||
アルシオーネ | 安心せい、すぐに彼奴らが駆けつける……エレクトラ?エレクトラ!目を覚まさんか!? | ||
アルシオーネ | 基礎構造、損壊……メンタルの安定性、低下……そんな…… | ||
迷宮の壁は飛び越えるには高すぎる。 不慣れな環境の中、アルシオーネは直感だけを頼りに飛び回り、安全な場所を探した。 一方で、金色のオペランドをエレクトラの体内へと注入し続ける。 | |||
アルシオーネ | さっき、矢で直接攻撃していれば……いや、そもそも、なぜ上位エントロピーがこんなところに? | ||
アルシオーネ | まろが判断を誤った……?あ、ありえぬでおじゃ。あの時はたしかに下位エントロピーしか検知されんかった…… | ||
アルシオーネ | ……よもや、初めから仕組まれていた……? | ||
エレクトラ | アルシオーネちゃん…… | ||
アルシオーネ | エレクトラ!目が覚めたか! | ||
エレクトラ | ゲホッ。わ、わたくしなら、平気ですわ…… | ||
アルシオーネ | バカを言うでない!そちの体はすでに……まろの、まろのせいでおじゃ…… | ||
アルシオーネ | まろが、エレクトラの話を聞いていれば、こんなことには…… | ||
エレクトラ | 自分を責めないでくださいまし。こうなると誰が予想できて?……イレギュラーどもが、こうも狡猾だったなんて…… | ||
アルシオーネ | じゃが、じゃがまろは……まろは、気づくべきでおじゃった…… | ||
エレクトラ | 誰しも失敗はありますわ。あなただって、いつも姉様の面倒を見てくれるじゃない……今回は言うなれば、わたくしたち二人の不手際ですわ。 | ||
エレクトラ | さぁ、キャンディでも食べて、落ち着きなさ……ゴホッ、ゴホゴホッ…… | ||
アルシオーネ | エレクトラ!もう喋るな!まろがすぐに安全なエリアに…… | ||
エレクトラ | ゴホッ……う、しろ…… | ||
アルシオーネ | !? | ||
赤い上位エントロピー | ゲヒャヒャヒャ……何処行クンダァ、チビ? | ||
とっさの反応は攻撃を防げなかった。 斬撃がアルシオーネの脆弱な防御を切り裂き、機械じかけの翼の片方を削ぎ落とす。 | |||
赤い上位エントロピー | ギシシシシ!!堕チロ堕チロ堕チロォ、堕堕堕堕堕!!! | ||
アルシオーネ | 「ジャッジメントアロー」!! | ||
墜落する寸前に放った金色の矢が、赤い上位エントロピーを撃退した。 アルシオーネはエレクトラをかばいつつ、おもむろに地表へと叩きつけられる。 やがて彼女はむくりと起き上がると、エレクトラを背負い、 上位エントロピーのいる場所とは真逆の方向へ逃げ出した。 | |||
エレクトラ | ゲホゲホ……ゲホッ、ゲホゲホッ…… | ||
アルシオーネ | ありえん……彼奴は撒いたはず、それもステルスプログラムまで駆使して……なぜわれらの居場所がわかる!? | ||
アルシオーネ | チィッ……よもやこの迷宮に、知られざるギミックがまだ存在するとでも…… | ||
エントロピー | ギギッ!!! | ||
アルシオーネ | 下位エントロピー!?こ、この数は…… | ||
エレクトラ | アルシオーネ……あ、あなた……一人で……お逃げなさ…… | ||
アルシオーネ | そちを放ってなどおけぬ!!イレギュラー、そこを退(の)け!! | ||
アルシオーネが立て続けに三本の矢を放った。 光の矢は下位エントロピーの命を大量に刈り取りはしたが、 二人の逃げ道を作るには至らなかった。 | |||
エントロピー | ギッ―― | ||
アルシオーネ | こうなったら……全力で…… | ||
赤い上位エントロピー | ギヒャヒャヒャヒャ!!追イツイタァ!! | ||
アルシオーネ | ぬぅっ、不覚ッ……! | ||
アルシオーネはエレクトラを背負ったまま脆弱な障壁を展開し、 下位エントロピーの攻撃を凌ぎつつ、前へと突進した。 | |||
…… | |||
アルシオーネ | ハァ……ハァ…… | ||
アルシオーネ | ハァ……ハァ……ジャ、ジャッジメント、アロー…… | ||
アルシオーネが再び矢を射る。 しかし、矢に宿る光はとっくに暗澹としており、 エントロピーの2~3匹を一時的に退けることしかできない。 | |||
アルシオーネ | イレギュラーの数が……ますます増えておる…… | ||
アルシオーネ | まろは上位浄化者でおじゃるぞ……なぜ下位ごときが散らせぬ……!? | ||
赤い上位エントロピー | アレアレアレ、モウ終ワリィ?ダッタラ逃ゲルナ、正々堂々戦エ!戦戦戦戦! | ||
アルシオーネ | げに執拗な奴でおじゃる…… | ||
システム | 【警告、オペランド消耗率75%……】 | ||
アルシオーネ | かくなる上は……! | ||
アルシオーネは足を止めて、エレクトラをそっと足元に下ろした。 手中の弓を極限まで引き絞り、赤い上位エントロピーに金色の矢で狙いを定める。 | |||
赤い上位エントロピー | ヤット諦メタカァ?ギャギャギャギャ!偉イナァ、オ利口ダナァ!! | ||
赤い上位エントロピー | アダシノ愛スル殺戮ノ時間ダァ!!オマエガ先攻ナ!早クシロ早ク、早早早!! | ||
アルシオーネ | く、狂っとる…… | ||
エレクトラ | アルシオーネ……ここは、わたくしが…… | ||
エレクトラが歯を食いしばって身を起こし、アルシオーネの前に立った。 | |||
アルシオーネ | じょ、冗談よさぬか、その体でどう…… | ||
エレクトラ | 休憩はもう十分ですわ。あとは、わたくしにおまかせくださいまし。 | ||
エレクトラ | わたくしの戦闘経験は……あなたよりもずっと豊富ですもの! | ||
アルシオーネ | エレクトラ、やめ…… | ||
赤い上位エントロピー | ……ンギィィイイイッ!!ゴチャゴチャ煩ァァイ!!面倒ダ!! | ||
上位エントロピーは二人に向かって雄叫びを上げると、 長い武器をふりまわし、空中にエントロピーの波動を迸らせてから、 二人めがけて突進していった―― | |||
アトラス | 「ジャッジメントブレイド」! | ||
赤い上位エントロピー | グヒ……? | ||
赤い上位エントロピーが反応するより先に、 壁のごとき剣身が、彼女の体へと勢いよく叩きつけられた。 | |||
赤い上位エントロピー | ギギャッ……!? | ||
周囲の下位エントロピーたちが即座に群がり、再び包囲網を成す。 | |||
アルシオーネ | アトラス!{教授}!! | ||
{教授} | こっちよ!! | ||
私はオペランド障壁を展開し、アトラスの掩護のもと、 二人を連れて迷宮の奥深くへと撤退した。 |