| 少し前、浄化者No.05哨戒タワー。 | |||
| クロックとの通信で上位エントロピーの存在を知ってから、 十数分も経たずに、新しいメッセージが届いた。 | |||
| クロック | きょうじゅ、こちらクロック。今、レールガンの砲台に向かってるとこ。 | ||
| クロック | さっき、上位エントロピーっぽいヤツに会った。映像を送るね…… | ||
| {教授} | これって……! | ||
| クロックから送られてきた映像を見て、私は心臓が止まりかけた。 | |||
| アントニーナ | どうかしました? | ||
| {教授} | 嘘よ、あり得ない……生きてるはずが…… | ||
| アントニーナ | 見せてください。これは……オディール?いや、彼女よりも随分と小さい。 | ||
| {教授} | これは、オディールじゃない…… | ||
| アントニーナにその名を告げると、彼女は困惑の表情を浮かべた。 | |||
| アントニーナ | オデット? | ||
| {教授} | ええ、オディールの妹よ。 彼女のターシャリレベルで見たことがあるわ。 | ||
| 戦いが一段落すると、劇場内のエントロピーが徐々に姿を消していった。 オデットを包んでいた紫の煙も、オディールを束縛していたツルも消失した。 | |||
| オデット | うぅ……力が……弱まってゆく…… | ||
| オデット | 私たち、やっぱり捨てられちゃったの……?どうして…… | ||
| オデット | おねえ……さま…… | ||
| やがて、オデットも他の感染者と同じように、粉々になっていった。 | |||
| オデットは最後の最後まで、目を大きく見開き、 名残惜しそうな瞳で彼女の姉を見つめ続けていた。 | |||
| オディール | 幕がやっと降りたわね。 | ||
| 消えゆく妹を前に、オディールはそう小さく呟いただけだった。 彼女の身体の紫色が、先ほどよりも濃くなっている。 | |||
| {教授} | だけど、ターシャリレベルでの記憶が間違いないなら、 オデットはとっくに存在していないはずよ。 | ||
| {教授} | どうして彼女がここに? | ||
| アントニーナ | あえて推測するなら……エントロピーが樹状ネットワーク構造を有しているのはご存知ですね? | ||
| アントニーナ | 十分なオペランドさえあれば、配下のエントロピーを妹の姿に変えることも、今のオディールになら難しくはないはずです。 | ||
| {教授} | それが、形だけの問題じゃないのよ。 | ||
| アントニーナ | というと? | ||
| {教授} | クロックが言ってたわ、あれは高い知能を持つと。 | ||
| {教授} | オディールの能力は確かに上がったけど、 不思議なことに、察知能力や反応速度は以前よりも落ちてるわ。 でなきゃ、私が本物の浄化者と連絡を取っていたのに気づかないはずがない。 | ||
| {教授} | あなたは、なぜだと思う? | ||
| アントニーナ | …… | ||
| アントニーナ | まさか……オディールの操る分身……?それに注意を割いてるせいで、本体の反応が鈍くなった…… | ||
| アントニーナ | ふざけた仮説ですが、ありえなくもない。コプリーの記録では、 デミウルゴスの触手は切り落とされると、新たな個体に分裂するとありました。 我らがオアシスに居候している「あのチビ」ですよ。 | ||
| アントニーナ | オディールが、その習性を真似したのかもしれません。 デミウルゴスと接触した際に、彼女のデータを採取したのかも…… | ||
| {教授} | だとしても、本体と同等の知能を分身に持たせることなど可能なのかしら…… | ||
| {教授} | ……これはとある事実に基づく仮説だけど、 オディールが自身のメンタルの一部を、分身に分け与えていたとしたら? | ||
| アントニーナ | エントロピーともなると、不可能とは言い切れませんね。それにしても、なぜ妹の姿に? | ||
| {教授} | エントロピーの考えは、私にもわからないわ。 | ||
| {教授} | とにかく、この仮説が正しければ、 オデットはオディールと同じくらい危険だということになる。 | ||
| {教授} | あれは下位エントロピーにメンタルを埋め込んだだけの代物よ。 オデットの媒体を自由に変えさせて、 瞬間移動したかのように見せかけることも可能でしょうね。 | ||
| アントニーナ | つまり、上位エントロピーがどこに出没するかわからない……あまりにも危険すぎます!すぐにクロックたちに知らせないと。 | ||
| {教授} | ええ、そうしましょう。 | ||
| {教授} | それと、もう一つ考えが浮かんだの。 その方法を逆手に取れば、彼女たちの「絆」を利用できるかもしれない。 | ||
| アントニーナ | 「絆」?なんですか、それ? | ||
| {教授} | フェイスを呼んでくるわ、そろそろ反撃に出るべき頃合いよ。 | ||
| フェイス | なるほどな……エントロピーにそんな芸当ができたとは。 | ||
| アントニーナ | 力をひけらかすしか能のない石頭どもじゃ、エントロピーを捕まえたところで、分析もせずに消し去ってしまうのがオチだ。 | ||
| フェイス | 今回ばかりは否定はできん。教訓になった、機会があれば上層部に進言しておこう。 | ||
| フェイス | だがもしかすると、中位浄化者には触れられない知識がリバベルには存在するのかもしれない。我が知らぬことを、上位浄化者様が存じないとは言い切れん…… | ||
| アントニーナ | ちょっと文句言われたからって、過剰反応しすぎだろ……もういい、やめやめ。 | ||
| アントニーナ | それで、その考えとやらをお聞かせ願えます? | ||
| {教授} | オディールとオデットが一つのメンタルで繋がっているとなれば、 セクターの外にいるオディールを倒せば、中のオデットもおのずと消滅するはずよ。 | ||
| {教授} | あるいは、オデットに攻撃を加えることで、オディールの隙を突くこともできる。 | ||
| アントニーナ | なるほど、貴重な無駄話をどうも。現状をお教えしましょうか?肝心のオディールに致命傷は与えられず、オデットも捕まらない。この状態でどうしろと? | ||
| {教授} | 少なくとも方向性は定まったわ。 次はオディールの座標についてだけど…… | ||
| {教授} | フェイス、浄化者の人海戦術による偵察を試みたいの。 オディールの逃げた方向はわかるわね? | ||
| フェイス | ある程度は把握できている、下位浄化者を向かわせよう。 | ||
| {教授} | よし、範囲を特定して徹底的に洗うのよ。 アントニーナ、DDoS攻撃で相手を一時的に拘束できる? | ||
| アントニーナ | プログラマーは魔法使いじゃないんですよ。私に空中を飛び回る上位エントロピーを拘束しろと? | ||
| フェイス | 話の途中悪いが、リファクターによる検査結果だ。アントニーナ、お前の体には奴の断片的なデータがわずかに残っている。 | ||
| アントニーナ | ……これだからバカ正直な石頭は嫌いなんだ、皮肉の一つも言えやしない。 | ||
| {教授} | え? | ||
| アントニーナ | 少し、あなたを試したかっただけですよ。謝ります。 | ||
| アントニーナ | オディールから攻撃された時、私はとっさに彼女のメンタルへのハッキングを試みました。 | ||
| {教授} | 本当?さすがはアントニーナ! | ||
| アントニーナ | 喜ぶのはまだ早い。こちらの意図を悟られ、結果から言えばハッキングは失敗でした。 | ||
| アントニーナ | ですが、わずかながら彼女の触手からデータを削り取ることはできました。データに含まれるシグネチャコードを利用すれば、彼女の位置をより早く特定できるはずです。 | ||
| フェイス | 尽力に感謝する、すぐにこのデータを下位たちに共有しよう。 | ||
| アントニーナ | ……たとえそれでも、オディールはすでにこちらの手の内に気づいています。一般的な手段で拘束できるとは思えません。 | ||
| フェイス | 先ほどの上位エントロピーとの戦闘記録、そしてアントニーナの能力を踏まえると……対象に気づかれていない状態で再び接近した場合、対象を拘束できる可能性は97%以上と推測される。 | ||
| アントニーナ | ……お前、私に恨みでも……あったな、確かに。 | ||
| フェイス | 誤解するな、お前はロッサムを救う特殊部隊の核心ともいえるメンバーだ。浄化者にとっても、大切な仲間には違いない。 | ||
| フェイス | 我の言葉はどれも作戦に欠かせない合理的な指摘だ。気分を害したのなら謝るが、ロッサムを救うためには…… | ||
| アントニーナ | もういい、わかったから!やらないとは言ってません、私だってそのつもりでしたよ。 | ||
| {教授} | それなら良かった、頼んだわよ。 | ||
| アントニーナ | 問題は、どうやって相手に気づかれないよう近づくか。 | ||
| フェイス | パワーと知性、そして機動性を兼ね備えた我々中位浄化者ならば、力づくでの接近は可能だろう。だが一般エージェントであるお前たちには困難だ。 | ||
| アントニーナ | なぜそう断定できる? | ||
| フェイス | なぜならお前たち二人は、上位エントロピーと渡り合うに十分な戦闘能力を有していない。 | ||
| {教授} | 正面からは確かに無理ね。 でもこの場合は、アントニーナが敵の死角から一定距離まで近づきさえすればいいの。 | ||
| フェイス | 縦横無尽に飛び回り、無数の配下を従える上位エントロピーに、死角があると思うか? | ||
| アントニーナ | なめてもらっちゃ困るな。エントロピーの知識にかけて、私の右に出る者などいない。 | ||
| フェイス | ほう。そこまで言うのなら、相手に感づかれず接近できる方法があるのか? | ||
| フェイス | 外見は目立つし、電子戦に特化した性能故に足が速いとも思えない。 | ||
| アントニーナ | ……教授、手始めにこの鉄クズを焼き落としても? | ||
| アントニーナは茫然とした表情のフェイスの前に立ち、上目遣いに相手を睨みつけた。 | |||
| {教授} | こら、そう焦らない。 | ||
| その光景を見ていた私の脳裏に、ふと、とあるアイディアがひらめいた。 | |||
| {教授} | フェイス……中位浄化者、つまり、 あなたならオディールに接近できるって言ったわね? | ||
| フェイス | 相手の能力に変化がなければの話だが。この盾で身を守れば、ターゲットに近づくのは容易い。 | ||
| フェイス | だが、我に敵を拘束する手段はない…… | ||
| {教授} | かまわないわ、いいアイディアを思いついたの。 | ||
| アントニーナ | 嫌な予感しかしませんね。 | ||
| {教授} | 大丈夫よ、アントニーナ。 ただあなたたち二人の……協力が必要になるけど。 | ||
| {教授} | 作戦はこうよ…… |
