| ロッサムセクター、高密度オペランドレールガン制御室前。 | |||
| クロック | あらかた片付いたかな。 | ||
|---|---|---|---|
| 戦闘エージェント | はい。ロッサムのエージェントによるスキャンでも、周囲に敵影は見られませんでした。 | ||
| クロック | りょーかい……みんなはここで警戒を維持、あたしとハンナが中に入る。 | ||
| バンッ! | |||
| 新しく建設されたはずの建物は、敵の攻撃によりあちこちが変形していた。 半開きになった扉を、クロックが勢いよく蹴り開ける。 | |||
| クロック | ようやく最終兵器のお出ましだぜ!! | ||
| クロック | これが伝説とうたわれたレールガンの制御……室……? | ||
| クロック | な、なにここ……余剰データだらけじゃん!?ゴホッ、ゴホッ……掃除しなよ!? | ||
| ハンナ | なにせ、手動での制御は初めてですから。大目に見てください。 | ||
| クロック | ゴホゴホ……思った通り、エントロピーの攻撃であちこち損傷してる…… | ||
| クロック | えーっと……データタブはどこ?ジェネレーターは? | ||
| クロック | あれっ、ジェネレーターがない……このパーツなに?見たことないんだけど…… | ||
| ハンナ | クロックさん、私が手動で整備します。 | ||
| クロック | あ……ヤバいつい興奮しちゃって素がまろびでちゃったテヘペロおこちゃまに注意されるとかどんだけ?ヤバい恥ずかしすぎて死ぬ今すぐ死にたい誰かコロして誰かコロせ…… | ||
| ハンナ | お気持ちはわかりますが、表に出ていてもらえますか? | ||
| ハンナ | このレールガンは私の指示のもとで組み立てられました。キュクロプスの技術を基に、様々な新機能を付け加えています。整備できるのは、この世に私しかいません。 | ||
| ハンナ | 教授が通信で言っていたように、オディールさえ倒せば、片割れのオデットは形を保っていられなくなる。そうすればチューリングたちは助かるんです。 | ||
| クロック | あ、あたしもなにか手伝えるかも…… | ||
| ハンナ | この戦いを終えたら、メカニズムをゆっくり教えてあげますから。 | ||
| ハンナ | 今はとにかく、素早く確実に砲台が撃てるようにしないと! | ||
| クロック | ちぇっ、わかったよ……なら、あたしはどうすれば? | ||
| ハンナ | クロックさんにできることはなさそうです…… | ||
| ハンナ | ここは私が引き受けますので、クロックさんはソルさんとの通信を続けてください。二人に連絡がつかないのは心配です…… | ||
| クロック | うん……さっきからかけてるんだけど、なんでだか繋がらなくて。 | ||
| クロック | それじゃ、その……外で、ソルに連絡してるね…… | ||
| ハンナ | よろしくお願いします。 | ||
| クロックはトボトボと制御室から出ていった。 ハンナはすぐさま整備に取りかかる。 | |||
| ハンナ | まずはコンソールを起動しないと…… | ||
| システム音声 | 【アドミニストレーター権限を確認、コンソールを起動します】 | ||
| ハンナ | はやく、はやく……チューリングがもうオペランドを送ってきてるかも…… | ||
| システム音声 | 【コンソール起動完了、データを確認中……受信できるデータはありません】 | ||
| ハンナ | まだ送られてきてないか……今のうちに制御システムを起動して…… | ||
| ハンナ | うわっ、設備がめちゃくちゃ、思ったよりも大変そう…… | ||
| ハンナ | まずはコードをもとに戻して…… | ||
| ドォン!! | |||
| 突如鳴った轟音が、彼女の思考を遮った。 突然の揺れにハンナはバランスを崩し、その場に尻もちをついた。 | |||
| ハンナ | きゃっ! | ||
| ハンナ | クロックさん!何があったんです!? | ||
| クロック | エントロピーだよ、まっすぐこっちを狙ってきた! | ||
| クロック | 数自体は少ないけど、砲撃手が紛れ込んでる!流れ弾が砲台に当たったらごめん! | ||
| ハンナ | わかりました、外は頼みます!こちらも整備を急ぎます! | ||
| ハンナ | 教授が座標を知らせてくる前に、なんとしてもレールガンを撃てるようにしなきゃ……でないと、何もかも無駄になってしまう! | ||
| クロック | わかってる……頼んだよ、ハンナ! | ||
| クロックがそう言い終える前に、ハンナはすでに通信を切っていた。 | |||
| ハンナ | そう、頼れるのは自分だけ…… | ||
| チューリング | ……エージェントに聞いたの。私がリセットされたのは、この身を犠牲にして、一般エージェントだったあなたを守ったからだ、って。 | ||
| ハンナ | …… | ||
| チューリング | もしそれが本当なら、きっと優先順位の判断ミスが起きたせいよね?だから私は権限を剥奪されて、あなたがアドミニストレーターになった。でも、そのエージェントはそうじゃないっていうの…… | ||
| ハンナ | ……チューリングは、いつも正しかった。 | ||
| ハンナ | 証明するんだ……チューリングの犠牲は、ロッサムを私に託したことは、なに一つ間違ってなかったって! | ||
| ハンナ | ここも壊れてる……それに予備リアクターの動力が足りないのかな…… | ||
| ハンナ | バレルに熱が……どうして?まだ起動もしてないのに…… | ||
| エラーを知らせるウィンドウがいくつかポップアップした。 ハンナはそれを一つ一つ確認したが、多くの原因が見当たらない。 | |||
| ハンナ | こうなったら初期化するしか……動力システム、リセット開始! | ||
| ハンナ | リセット完了、システム稼働失敗、エラーコード……どうして……!? | ||
| ピピピッ! | |||
| 通信機が鳴り続けるのをよそに、ハンナは手を動かし続けている。 | |||
| ハンナ | どうしてなの……元の設定を復元したはずなのに…… | ||
| ドォンッ!!! | |||
| ハンナ | うわぁっ! | ||
| システム音声 | 【警告、右側外殻に損傷を確認】 【警告、右側外殻に損傷を確認】 | ||
| システム音声 | 【速やかに修復してください……】 | ||
| ハンナ | 銃身が……!また砲撃されたら今度こそおしまいだ! | ||
| ハンナ | 考えなくちゃ、何か、何か方法は……私はロッサムのアドミニストレーターなんだから……私が方法を考えないと…… | ||
| ハンナ | そうだ!まず銃身を直して、オペランドで障壁を作れば…… | ||
| ハンナは焦っていた。彼女はとっさに計画を思いつくと、 外部へとつながる頭上のハッチを開けて、損傷した部位を確認しようとする。 | |||
| だが、ハッチから顔を覗かせた瞬間、黒紫色の砲弾がハンナめがけて飛んできた―― | |||
| ハンナ | しまった…… | ||
| ドンッ! | |||
| ハンナ | …… | ||
| オペランドの使用も間に合わず、ハンナは思わず両手で攻撃を防ごうとした。 だが、予想していた衝撃は訪れない。 | |||
| ハンナが目を見開くと、そこには巨大な機兵が立っていた。 無数の弾丸で流れ弾を次々と撃ち落とす。 | |||
| ハンナ | ク……クロックさん! | ||
| クロック | ハンナ、無理しないで。 | ||
| 逆光の中、機兵のコックピットが開かれ、パイロットが中から下りてくる。 | |||
| クロック | 自己紹介がまだだったな。スヴァローグ重工のトップエンジニア、ならびにオアシス製造局の責任者とは、他でもないこの私。 | ||
| クロック | そして今は――君のパートナーだ。 | ||
| ハンナは茫然とクロックに視線を向けたまま、レールガンの銃身へと上がった。 その時彼女はようやく、相手が自分よりも背が高かったことに気づく。 クロックの影に、ハンナはすっぽりと収まった。 | |||
| まるで大人だ……チューリングのような。 | |||
| レールガンの制御室内。 | |||
| クロック | 最後にこれを繋げて、と――いっちょあがり! | ||
| システム音声 | 【……エネルギー供給正常、動力システム起動完了】 | ||
| ハンナ | ほ、本当に起動できた……どうして?砲台のメカニズムは知らないはずなのに…… | ||
| クロック | オペランドの圧縮は、正直やられたと思ったよ。いまだにどういう構造なのか理解できないし。 | ||
| クロック | けど、稼働できてたマシンの動力システムがダウンするのは、十中八九、機体の耐久上限に達しちゃってるからなんだよね。 | ||
| ハンナ | でも、前はこんなこと……あ……! | ||
| クロック | 気づいた?そう、エントロピー液が原因。こうして拭き取れば、システムがより安定する。 | ||
| クロック | ほんとは砲台の基礎をもっと固めて、表面をメッキでコーティングできたらいいんだけど……とりあえずは応急処置ね。 | ||
| クロック | エントロピーに襲撃されたら、また動力が落ちちゃうだろうけど、今はそんなこと言ってらんないし。 | ||
| ハンナ | どうして思いつかなかったんだろう……ありがとうございます、クロックさん。本当に助かりました。 | ||
| クロックはポッチーの箱を取り出して、ハンナに一本差し出した。 | |||
| クロック | なんでもかんでも一人で背負わないでよ、お子サマなんだからさ。少しはあたしにもカッコつけさせて。 | ||
| ハンナ | クロックさん…… | ||
| ハンナはポッチーを受け取り、黙って味わった。 | |||
| システム音声 | 【データセンターからオペランドの転送申請を受理しました】 | ||
| ハンナ | あっ!チューリングだ! | ||
| クロック | ってことは、あっちも成功したんだ。 | ||
| ハンナ | よかった……あとは教授から座標をもらうだけ! | ||
| クロック | でもヘンだな、ソルとチューリングに連絡つかないなんて…… | ||
| ピピピッ。 | |||
| クロック | おっと、噂をすれば!ソル、そっちは…… | ||
| ??? | 舞台が……幕を開けた。 | ||
| クロック | !? | ||
| ハンナ | ソルさんじゃない!! | ||
| ??? | 私は、葬礼の語り手……名は、オデット。 | ||
| 通信画面の向こうで、小さなブラックスワンが、終章の帳をそっとかき分けた。 | |||
| まずチューリングの姿がぼんやりと浮かび上がった。瞳は精彩を失っている。 次に、彼女の喉元に当てられた、黒紫色の鋭い羽根が目に入る。 そして、背後に浮かぶ少女の姿も。 | |||
| ハンナ | ……チューリング!!! | ||
| ハンナの叫び声を聞いて、チューリングが小さく抵抗した。 だがすぐにオデットに取り押さえられる。 | |||
| 語り手は虚ろな視線を通信機に向けたまま、台詞を呟く。 | |||
| オデット | そちらの演目を……終わらせなさい。 | ||
| オデット | さもないと、彼女が……誰よりも先に、退場することになる。 |
