| レールガンの制御室内。 | |||
| オデットの無感情な声に、あたりの空気が一瞬にして凍りつく。 | |||
| クロック | お前がオデット……おい、ソルをどうした?! | ||
| オデット | ソル?……ああ、彼女なら……しかるべき、カーテンコールを選んだわよ。 | ||
| オデット | 次は……あなたたちの番。 | ||
| ハンナ | チューリングを離せ!!! | ||
| オデット | 機械じかけの神を……呼び覚ましたのね? | ||
| オデット | それなら……あなたたちの手で…… | ||
| クロック | ……何が言いたい? | ||
| オデット | あなたたちの手で……砲台を、壊しなさい。 | ||
| オデット | さもないと…… | ||
| そこまで言うと、オデットは黙った。 ふと、彼女に拘束されたチューリングがにわかに痙攣しだし、 その腕が黒紫色に染まり始める。 | |||
| ハンナ | やめろ!! | ||
| オデット | 家族は……なによりも大事。 | ||
| オデット | あなたたち、なら……正しい道を、選び取れる。 | ||
| オデット | 後悔の……ないように。 | ||
| クロック | ……ちょっと、待って、ソルはどうしたの!?ねぇ!? | ||
| ピッ―― | |||
| クロック | 通信が切れた……あのヤロー!!! | ||
| ハンナ | レールガンを撃たせないよう、チューリングを人質にしてまで…… | ||
| クロック | っていうか、オディールをさっさと消しちゃえばいいんじゃ?きょうじゅが言ってたじゃん。オディールを倒せば、オデットも勝手に消えるって。 | ||
| ハンナ | でも、もし……メンタルの連動に時差があって、オデットがすぐに消えなかったら?そもそも、この仮説が成立しなかったらどうするの……!? | ||
| ハンナ | もしそうだったら……あの時、みたいに…… | ||
| チューリング | そしていつか必ず、マグラシアが正常へと戻る日がやってくる。 あなたに、その日を迎えてほしいの。 | ||
| チューリング | これからは……ロッサムを頼んだわよ。 | ||
| チューリング | リセットされた後は、あなたよりもおバカさんになってるでしょうから、 どうかお手柔らかに頼むわね。 | ||
| ハンナ | 同じ失敗を繰り返すわけにはいかない…… | ||
| まぶたに焼き付いた、あの時の光景。 ハンナはコンソールに手をついて、何かを呟いている。 | |||
| ハンナ | 死なせない……死なせない、絶対に……チューリングを助けるには、こうするしか…… | ||
| クロック | おちついて、ハンナ! | ||
| クロック | あいつの言う事なんか聞いちゃだめ。もしレールガンが壊れたら、奴らがチューリングを生かす理由もなくなる。 | ||
| ハンナ | わかってる、わかってます……そんなことできるわけない。だけど、このままじゃチューリングが…… | ||
| ハンナ | そうだ、データセンターに攻め入れば……!クロックさんは砲台を守ってください、私が戦闘エージェントを連れて、チューリングを助け出します! | ||
| ハンナは藁にもすがる想いで、クロックの腕を強く握りしめた。 | |||
| だがハンナはクロックの反応を待たずに、今度は力強く首をふる。 | |||
| ハンナ | ダメだ……あれだけのエントロピーに対抗できるはずがない…… | ||
| クロック | それに、ここがまた敵に砲撃されたら?サイアク、レールガンまでエントロピーに奪われちゃうよ。 | ||
| ハンナ | 制御権限は私が持っています。エントロピーの手に渡ったところで、意味はないでしょう。 | ||
| クロック | だからって、ここを失うわけにはいかない。これが最後の希望だから。 | ||
| クロック | ハンナ、一旦落ち着きなって。あたしだって力になるよ、一緒に方法かんがえよ。 | ||
| ハンナは数秒黙ったあとで、力なくうなだれた。 | |||
| ハンナ | ごめんなさい、クロックさん。私、つい焦っちゃって……怖いんです、怖くてたまらない。 | ||
| クロック | わかってる、だいじょうぶ。 | ||
| ハンナ | クロックさんは、ソルさんが心配なのに…… | ||
| クロック | ハンナだって、チューリングが心配なんでしょ。一緒にいたはずなのにな。ソルの奴、どうしちゃったんだろ。 | ||
| ハンナ | 一人で抱え込んじゃだめなら……私は、どうしたらいいでしょう? | ||
| クロックは何も言わずに、自分の通信機を小突いた。 | |||
| ハンナ | あ……そっか!教授なら……! | ||
| クロック | きょうじゅに連絡しよ、きっと方法が見つかるはずだから。 | ||
| クロックは慰めるように、ハンナの頭を撫でた。 | |||
| クロック | こっちにはきょうじゅがついてるんだ、きっとなんとかなる。 | ||
| クロックの言葉を聞いて、観念したかのように、ハンナは耳をそっと伏せた。 そしてクロックの手に頬を擦り付けながら、小さく答えた。 | |||
| ハンナ | ……はい。 | ||
| 浄化者No.05哨戒タワー。 | |||
| {教授} | なるほど、大体の状況はわかった。 | ||
| {教授} | 人質を取られてしまっては、このままオディールを砲撃するわけにもいくまい。 | ||
| {教授} | アントニーナ、君はハッキングの専門家だ。どう考える? | ||
| アントニーナ | ハッキングの専門家ね…… | ||
| ハンナ | アンナ、お願い…… | ||
| ハンナの切実な表情を見て、アントニーナはしばらく考え込んだ。 再び口を開いた彼女の語気は、いくばくか和らいでいた。 | |||
| アントニーナ | ハンナの心配はもっともです。オディールを倒しても、オデットが瞬時に消えるとは限らない。 | ||
| アントニーナ | オディールとの繋がりが途絶えたことを知れば、彼女がどう出るかは明白です。 | ||
| ハンナ | きっと、最後の力を振り絞ってでも、チューリングを道連れにするはず…… | ||
| フェイス | イレギュラーらしい行動だな。一般エージェントに手を出すような輩を、リバベルは許しはしない。 | ||
| ハンナ | …… | ||
| アントニーナ | …… | ||
| ハンナは表情を冷たくして、それ以上何も言わなかった。 | |||
| {教授} | ……ハンナ、私たちにはフェイスの力が必要なんだ。 | ||
| ハンナ | わかっています……今はどんなに些細な力も不可欠です。話を戻しましょう。 | ||
| アントニーナ | 状況をまとめると、オディールが自身のメンタルで妹を作り出したとするならば、たとえ姉を解決できても、妹が消滅せずに自主的に動きだし、チューリングを危険に晒す可能性がある。 | ||
| アントニーナ | 同時に姉妹を倒すか……あるいは妹をハッキングして、先にチューリングを助け出すか。 | ||
| クロック | こっちの戦力じゃ、あれだけのエントロピーに敵いっこないよ。 | ||
| クロック | それに、アンナみたいに遠くからハッキングする手段もないし…… | ||
| アントニーナ | 確かに、まったく同時に倒すことは不可能でしょう。ですが、ほんのわずかな時間差ならば…… | ||
| ハンナ | 教えて、アンナ。少しでも可能性があるなら、私はやるよ。 | ||
| アントニーナ | ……わかりました。今から一つのプログラムを送ります。オディールのデータから分析した内容をもとに、私が組み立てたものです。 | ||
| アントニーナ | このプログラムをオデットに注入すれば、彼女を一時的に無力化できます。 | ||
| ハンナ | そっか、そうすれば……チューリングを助け出せるだけじゃなくて、オディールにも隙ができる。 | ||
| アントニーナ | その通り。今のオディールはオデットとメンタルで繋がっています。 | ||
| アントニーナ | 片方が突然沈黙すれば、何かしらの隙を見せるはず。オディールを拘束する絶好のチャンスです。 | ||
| ハンナ | わかった。 | ||
| クロック | で、悪いニュースは? | ||
| アントニーナ | 遠隔ハッキングの術を持たない場合、このプログラムを正しく作動させるには、対象の体内に直接注入する必要があります。 | ||
| アントニーナ | つまり、相手に近づかなくてはならないということ。 | ||
| ハンナ | わかった、私がやる。 | ||
| ハンナ | クロックさんは砲台を守ってください。私は戦闘エージェントを連れてデータセンターに向かいます。 | ||
| クロック | 戦えないんじゃ危険すぎる、あたしが行く。 | ||
| ハンナ | オデットはレールガンの制御権限が、本来なら私にしかないことを知っています。私が砲台に残ったら、きっと怪しまれてしまう。 | ||
| ハンナ | 特例として、制御権限がクロックさんに開放されてるなんて、敵は思いもしませんよ。 | ||
| クロック | 褒められるのはいいけどさ、こんなの喜べないよ…… | ||
| ハンナ | それじゃ、すべてが終わったら、また褒めてあげますね。 | ||
| ハンナ | 話は戻りますが、私なら対象に接近できるかと。人質の交換を理由に近づき、隙を見てプログラムを注入します。 | ||
| フェイス | だが、武装もせずに上位エントロピーに近づくのは危険だ。 | ||
| アントニーナ | こいつに同意するのは癪ですが、これは成功率の高い作戦とはいえません。 | ||
| ハンナ | でも、唯一の作戦なんでしょ。 | ||
| アントニーナ | 決心はついているようですね。 | ||
| ハンナ | ……アンナ、あの時のこと、覚えてる? | ||
| ハンナ | 私のリライトプランが、チューリングに却下されたの。 | ||
| アントニーナ | もちろん。あなたが犠牲になろうとしていることを、チューリングは知っていたからでしょう。 | ||
| ハンナ | そうだね。今なら、チューリングの気持ちがわかる。 | ||
| ハンナ | あの時は、私一人が犠牲になればいいと思ってた。でも今は、二人とも生き延びるチャンスがある。 | ||
| ハンナは拳を握りしめた。 そして誰かに誓うかのように、親指の側を胸にしっかりと当てる。 | |||
| ハンナ | ううん……必ず二人で、生きて帰ってみせる。 | ||
| ハンナ | そのためなら、この程度のリスク、どうってことないよね? | ||
| アントニーナ | ……教授、どう思われます? | ||
| (選択) | 1.君の勇気に敬意を表するよ、ハンナ。 | A | |
| 2.君がそこまで言うのなら。 | B | ||
| A | ハンナ | ありがとうございます、教授! | C |
| B | ハンナ | 私、きっとご期待に添えてみせます、教授! | C |
| C | |||
| ハンナ | それじゃ、行ってきますね、クロックさん。 | ||
| クロック | もう何回も言ってる気がするけど……気をつけてね。 | ||
| ハンナ | はい!砲台のほうは大丈夫ですね? | ||
| クロック | まかせて。さっきオペランドを全部受け取った。チューリングは、ちゃんと使命を果たしたよ。 | ||
| ハンナ | ……私も、私の使命を…… | ||
| ピピッ! | |||
| ハンナの決意に応えるかのように、端末が鳴った。 | |||
| ハンナ | えっ……チューリングからの……!? | ||
| ハンナの目に映る、これ以上ないほどに見慣れたコード配列。 記憶の奥底から、未来への一筋の道が照らし出される。 |
