臨界爆震 PART.16 人質

Last-modified: 2025-02-05 (水) 01:34:06

レールガンの制御室内。
 オデットの無感情な声に、あたりの空気が一瞬にして凍りつく。
クロックお前がオデット……おい、ソルをどうした?!
オデットソル?……ああ、彼女なら……しかるべき、カーテンコールを選んだわよ。
オデット次は……あなたたちの番。
ハンナチューリングを離せ!!!
オデット機械じかけの神を……呼び覚ましたのね?
オデットそれなら……あなたたちの手で……
クロック……何が言いたい?
オデットあなたたちの手で……砲台を、壊しなさい。
オデットさもないと……
 そこまで言うと、オデットは黙った。
ふと、彼女に拘束されたチューリングがにわかに痙攣しだし、
その腕が黒紫色に染まり始める。
ハンナやめろ!!
オデット家族は……なによりも大事。
オデットあなたたち、なら……正しい道を、選び取れる。
オデット後悔の……ないように。
クロック……ちょっと、待って、ソルはどうしたの!?ねぇ!?
 ピッ――
クロック通信が切れた……あのヤロー!!!
ハンナレールガンを撃たせないよう、チューリングを人質にしてまで……
クロックっていうか、オディールをさっさと消しちゃえばいいんじゃ?きょうじゅが言ってたじゃん。オディールを倒せば、オデットも勝手に消えるって。
ハンナでも、もし……メンタルの連動に時差があって、オデットがすぐに消えなかったら?そもそも、この仮説が成立しなかったらどうするの……!?
ハンナもしそうだったら……あの時、みたいに……
 
チューリングそしていつか必ず、マグラシアが正常へと戻る日がやってくる。
あなたに、その日を迎えてほしいの。
チューリングこれからは……ロッサムを頼んだわよ。
チューリングリセットされた後は、あなたよりもおバカさんになってるでしょうから、
どうかお手柔らかに頼むわね。
 
ハンナ同じ失敗を繰り返すわけにはいかない……
 まぶたに焼き付いた、あの時の光景。
ハンナはコンソールに手をついて、何かを呟いている。
ハンナ死なせない……死なせない、絶対に……チューリングを助けるには、こうするしか……
クロックおちついて、ハンナ!
クロックあいつの言う事なんか聞いちゃだめ。もしレールガンが壊れたら、奴らがチューリングを生かす理由もなくなる。
ハンナわかってる、わかってます……そんなことできるわけない。だけど、このままじゃチューリングが……
ハンナそうだ、データセンターに攻め入れば……!クロックさんは砲台を守ってください、私が戦闘エージェントを連れて、チューリングを助け出します!
 ハンナは藁にもすがる想いで、クロックの腕を強く握りしめた。
 だがハンナはクロックの反応を待たずに、今度は力強く首をふる。
ハンナダメだ……あれだけのエントロピーに対抗できるはずがない……
クロックそれに、ここがまた敵に砲撃されたら?サイアク、レールガンまでエントロピーに奪われちゃうよ。
ハンナ制御権限は私が持っています。エントロピーの手に渡ったところで、意味はないでしょう。
クロックだからって、ここを失うわけにはいかない。これが最後の希望だから。
クロックハンナ、一旦落ち着きなって。あたしだって力になるよ、一緒に方法かんがえよ。
 ハンナは数秒黙ったあとで、力なくうなだれた。
ハンナごめんなさい、クロックさん。私、つい焦っちゃって……怖いんです、怖くてたまらない。
クロックわかってる、だいじょうぶ。
ハンナクロックさんは、ソルさんが心配なのに……
クロックハンナだって、チューリングが心配なんでしょ。一緒にいたはずなのにな。ソルの奴、どうしちゃったんだろ。
ハンナ一人で抱え込んじゃだめなら……私は、どうしたらいいでしょう?
 クロックは何も言わずに、自分の通信機を小突いた。
ハンナあ……そっか!教授なら……!
クロックきょうじゅに連絡しよ、きっと方法が見つかるはずだから。
 クロックは慰めるように、ハンナの頭を撫でた。
クロックこっちにはきょうじゅがついてるんだ、きっとなんとかなる。
 クロックの言葉を聞いて、観念したかのように、ハンナは耳をそっと伏せた。
そしてクロックの手に頬を擦り付けながら、小さく答えた。
ハンナ……はい。
 
浄化者No.05哨戒タワー。
{教授}なるほど、大体の状況はわかった。
{教授}人質を取られてしまっては、このままオディールを砲撃するわけにもいくまい。
{教授}アントニーナ、君はハッキングの専門家だ。どう考える?
アントニーナハッキングの専門家ね……
ハンナアンナ、お願い……
 ハンナの切実な表情を見て、アントニーナはしばらく考え込んだ。
再び口を開いた彼女の語気は、いくばくか和らいでいた。
アントニーナハンナの心配はもっともです。オディールを倒しても、オデットが瞬時に消えるとは限らない。
アントニーナオディールとの繋がりが途絶えたことを知れば、彼女がどう出るかは明白です。
ハンナきっと、最後の力を振り絞ってでも、チューリングを道連れにするはず……
フェイスイレギュラーらしい行動だな。一般エージェントに手を出すような輩を、リバベルは許しはしない。
ハンナ……
アントニーナ……
 ハンナは表情を冷たくして、それ以上何も言わなかった。
{教授}……ハンナ、私たちにはフェイスの力が必要なんだ。
ハンナわかっています……今はどんなに些細な力も不可欠です。話を戻しましょう。
アントニーナ状況をまとめると、オディールが自身のメンタルで妹を作り出したとするならば、たとえ姉を解決できても、妹が消滅せずに自主的に動きだし、チューリングを危険に晒す可能性がある。
アントニーナ同時に姉妹を倒すか……あるいは妹をハッキングして、先にチューリングを助け出すか。
クロックこっちの戦力じゃ、あれだけのエントロピーに敵いっこないよ。
クロックそれに、アンナみたいに遠くからハッキングする手段もないし……
アントニーナ確かに、まったく同時に倒すことは不可能でしょう。ですが、ほんのわずかな時間差ならば……
ハンナ教えて、アンナ。少しでも可能性があるなら、私はやるよ。
アントニーナ……わかりました。今から一つのプログラムを送ります。オディールのデータから分析した内容をもとに、私が組み立てたものです。
アントニーナこのプログラムをオデットに注入すれば、彼女を一時的に無力化できます。
ハンナそっか、そうすれば……チューリングを助け出せるだけじゃなくて、オディールにも隙ができる。
アントニーナその通り。今のオディールはオデットとメンタルで繋がっています。
アントニーナ片方が突然沈黙すれば、何かしらの隙を見せるはず。オディールを拘束する絶好のチャンスです。
ハンナわかった。
クロックで、悪いニュースは?
アントニーナ遠隔ハッキングの術を持たない場合、このプログラムを正しく作動させるには、対象の体内に直接注入する必要があります。
アントニーナつまり、相手に近づかなくてはならないということ。
ハンナわかった、私がやる。
ハンナクロックさんは砲台を守ってください。私は戦闘エージェントを連れてデータセンターに向かいます。
クロック戦えないんじゃ危険すぎる、あたしが行く。
ハンナオデットはレールガンの制御権限が、本来なら私にしかないことを知っています。私が砲台に残ったら、きっと怪しまれてしまう。
ハンナ特例として、制御権限がクロックさんに開放されてるなんて、敵は思いもしませんよ。
クロック褒められるのはいいけどさ、こんなの喜べないよ……
ハンナそれじゃ、すべてが終わったら、また褒めてあげますね。
ハンナ話は戻りますが、私なら対象に接近できるかと。人質の交換を理由に近づき、隙を見てプログラムを注入します。
フェイスだが、武装もせずに上位エントロピーに近づくのは危険だ。
アントニーナこいつに同意するのは癪ですが、これは成功率の高い作戦とはいえません。
ハンナでも、唯一の作戦なんでしょ。
アントニーナ決心はついているようですね。
ハンナ……アンナ、あの時のこと、覚えてる?
ハンナ私のリライトプランが、チューリングに却下されたの。
アントニーナもちろん。あなたが犠牲になろうとしていることを、チューリングは知っていたからでしょう。
ハンナそうだね。今なら、チューリングの気持ちがわかる。
ハンナあの時は、私一人が犠牲になればいいと思ってた。でも今は、二人とも生き延びるチャンスがある。
 ハンナは拳を握りしめた。
そして誰かに誓うかのように、親指の側を胸にしっかりと当てる。
ハンナううん……必ず二人で、生きて帰ってみせる。
ハンナそのためなら、この程度のリスク、どうってことないよね?
アントニーナ……教授、どう思われます?
(選択)1.君の勇気に敬意を表するよ、ハンナ。A
2.君がそこまで言うのなら。B
Aハンナありがとうございます、教授!C
Bハンナ私、きっとご期待に添えてみせます、教授!C
C 
ハンナそれじゃ、行ってきますね、クロックさん。
クロックもう何回も言ってる気がするけど……気をつけてね。
ハンナはい!砲台のほうは大丈夫ですね?
クロックまかせて。さっきオペランドを全部受け取った。チューリングは、ちゃんと使命を果たしたよ。
ハンナ……私も、私の使命を……
 ピピッ!
 ハンナの決意に応えるかのように、端末が鳴った。
ハンナえっ……チューリングからの……!?
 ハンナの目に映る、これ以上ないほどに見慣れたコード配列。
記憶の奥底から、未来への一筋の道が照らし出される。