| ロッサムセクター、データセンター。 | |||
| ハンナ | ん……わ、私…… | ||
|---|---|---|---|
| ハンナ | 終わった……の? | ||
| チューリング | ハンナ! | ||
| ハンナが起き上がる前に、傍にいたチューリングが飛んできた。 | |||
| チューリング | 目を覚ましたのね、ハンナ! | ||
| ハンナ | うぅ、この感触……今度こそ本物だ…… | ||
| チューリング | えっ?本物って? | ||
| 朦朧とした夢のような幻が退いてゆく。 ハンナはとっさに、チューリングを強く抱きしめた。 だがすぐに我に返り、気恥ずかしさから腕の力を緩める。 | |||
| ハンナの腕から力が抜けるのを察して、チューリングが彼女をさらにきつく抱きしめた。 ハンナは口を開きかけたが、黙して相手の首元に頭を埋めると、 今度はしっかりとチューリングとの抱擁を交わす。 | |||
| ハンナ | ……無事でよかった…… | ||
| ハンナ | へ、平気だよ……チューリングは、いつ目が覚めたの? | ||
| チューリング | ついさっきよ、ソルさんが起こしてくれたの。 | ||
| ハンナ | ソルさん、本当にありがとうございます。 | ||
| ソル | いいって、チューリングにも治療してもらったし。 | ||
| ソル | それに、最後の手段が決め手になったわけだしね。やるじゃん、ハンナ。 | ||
| ハンナは耳をぴくんと動かして、はにかんだ表情で小さく頷いた。 | |||
| ハンナ | ……オディールは? | ||
| ソル | クロックの話だと、向こうも終わったみたいだ。今、砲台からこっちに向かってるって。 | ||
| ソル | あのレールガンの威力、とんでもないね……さっきの一撃で、Nullエリアにいるエントロピーの8割が消し炭になったらしいよ…… | ||
| ソル | アンナが現場を確認したんだ。オディールは跡形もなく消えてた。 | ||
| ピピピッ。 | |||
| ソル | あっ、教授からだ。 | ||
| ソル | ちょっと通信受けてくる、二人はゆっくりしてて。 | ||
| ソルはそそくさとその場を離れた。 | |||
| チューリング | ソルさん――まったく、あんなに速く走ったら、また傷口が開いちゃうわ。 | ||
| ハンナ | 治療、上手になったんだね、チューリング。 | ||
| チューリング | ええ、この戦いで治療する機会が何度もあったから……ハンナに教わったおかげよ。 | ||
| ハンナ | それは、私も同じ……チューリングが私に、どうするべきか教えてくれたから。 | ||
| チューリング | ハンナ…… | ||
| ハンナ | 私、今までずっと怖かったの。少しでも理想から外れたら、チューリングの信頼に背いてしまうんじゃないかって。 | ||
| ハンナ | でもこれからは、そんな風に考えるのはやめる。あの時、私を……私の未来を、選んでくれてありがとう。 | ||
| ハンナ | だからこそ……今ここに立って、私自身の意志で、チューリングとの未来を、もう一度選ぶことができる。 | ||
| チューリング | 私も……私も、同じ気持ちよ、ハンナ。 | ||
| 誰からともなく、互いの指先が優しく相手を求めた。 ぴったりと重なり合った手のひらは、まるでメビウスの輪のように、 一つの未来へと織りなされてゆく。 | |||
| 一方、浄化者No.5哨戒タワー付近。 | |||
| ソル | ……ってなわけで、チューリングとハンナは無事だからさ。安心してよ。 | ||
| {教授} | そういうあなたはどうなの、ソル? | ||
| ソル | え、あたし?そりゃ当然……元気だよ、ほら!えへへ。 | ||
| アントニーナ | 免疫プログラム失効、複数の運動モジュール機能停止、オーバーロードによるメンタル損傷……その状態で、よくそんな事が言えたものですね。 | ||
| アントニーナ | まだ元気だと言い張るようなら、珍しい実験標本として42Labに送り返してやりましょうか? | ||
| ソル | まぁまぁ、いいじゃん別に、無事だったんだからさ……睨まないでよ、悪かったって。 | ||
| アントニーナ | まったく…… | ||
| ソル | そういうアンナと教授は?そっちはどうだったの? | ||
| {教授} | 包囲してきたエントロピーの群れは、レールガンで一掃したわ。 遠くに散らばってる残党は、浄化者が対処してる。 | ||
| {教授} | フェイスはロッサムの無事を確認した上で、リバベルへ報告に戻ってる。 | ||
| {教授} | 私たちも、もうすぐロッサムにたどり着くわ。 ようやく合流できるわね。 | ||
| ソル | やったぁ!教授たちが来たら、みんなでお祝いしよ! | ||
| アントニーナ | その前に、ロッサムの再建を手伝わなくては。 | ||
| アントニーナ | 祝うのは少なくとも、ファイアウォールを立て直して、オアシスの安全を確保した後ですね。 | ||
| ソル | わかってるって、ちょっと喜んでみただけじゃん。アンナは相変わらず厳しいなぁ。 | ||
| アントニーナ | アントニーナです。 | ||
| ソル | ファイアウォールといえばさ……ハンナに聞いたんだけど、エントロピーはロッサムの防衛システムを避けて、侵入してきたんだって。 | ||
| ソル | でも、セクターを駆け回ってた時に見たけど、建物はどれも頑丈だし、防衛措置もしっかりしてるし、ハンナが肝心な部分で手を抜くとは思えないけどなぁ。 | ||
| ソル | オディールのやつ、いったいどんな方法を使ったんだろ。 | ||
| アントニーナ | なるほど、そうでしたか……オディールの奴、作戦が巧妙なだけでなく、技術や情報にも精通していたとは。 | ||
| アントニーナ | 一介のアドミニストレーターだった者が、上位エントロピーに変わると、ここまで厄介なのか…… | ||
| ソル | あいつの言ってた「主」から、力をもらって成長したとか? | ||
| アントニーナ | 能力やメンタルの進化はともかく、ロッサムの構造にこれだけ詳しい点は説明がつきません。 | ||
| アントニーナ | どう思われますか、教授? | ||
| {教授} | ……もし、ロッサムの内部にエントロピーを手助けする者がいたとしたら…… | ||
| ソル | そんな奴がいたら、とっくに姿を現してると思うけどな? | ||
| ソル | 仲間が死にそうになってたら、助けるのが普通でしょ? | ||
| {教授} | そうね……これも単なる憶測に過ぎないわ。 とにかく、まず合流してからよ。 | ||
| {教授} | クロックは?まだ戻ってないの? | ||
| ソル | 砲台からこっちに向かってるらしいけど。アンナが連絡してみたら? | ||
| アントニーナ | どれ…… | ||
| 【ツー……ツー……ツー……】 | |||
| アントニーナ | 応答しませんね。 | ||
| ソル | ヘンだな。こんな時になにやってんだろ? | ||
| アントニーナ | クロックさんのことです。おおかた、砲台の構造に夢中で我を忘れてるんでしょう。 | ||
| アントニーナの冗談を聴いていたかのように、聞き慣れた声がセクター中に響いた―― | |||
| システム音声 | 【射撃命令を確認】 【高密度オペランドレールガン、スタンバイ】 | ||
| {教授} | ……? | ||
| システム音声 | 【座標較正完了。ターゲットロックオン】 【高密度オペランドレールガン、エネルギー充填:25%……】 | ||
| ソル | なに、このアナウンス……クロックなの? | ||
| システム音声 | 【オペランド圧縮完了】 【高密度オペランドレールガン、エネルギー充填:50%……】 | ||
| アントニーナ | まさか……たとえクロックでも、オペランドが緊迫している時に、こんな真似をするとは思えません! | ||
| {教授} | ソル、砲台はクロックが操作してるの? | ||
| ソル | わ、わかんない……だけど、ハンナは特殊な権限がないと操作できないって言ってた! | ||
| ソル | ハンナがクロックに権限を開放してるから、レールガンを動かせるのはあの二人だけだよ! | ||
| {教授} | 妙なことになったわね……すぐにハンナに状況を確認して! | ||
| ソル | 了解! | ||
| システム音声 | 【高密度オペランドレールガン、エネルギー充填:70%……】 | ||
| アントニーナ | 教授!レールガンの向きが変わっています! | ||
| {教授} | 一体どうなってるの……まさか…… | ||
| 戦闘エージェント | 教授!浄化者が現れました! | ||
| {教授} | 浄化者?なぜこんな時に…… | ||
| ペイシェンス | 初めまして、教授。 | ||
| {教授} | あなたは……フェイスの部下だったわね。 フェイスに何かあったの? | ||
| ペイシェンス | ご安心ください、フェイス様は無事にリバベルへとご到着されております。 | ||
| ペイシェンス | 仲間の浄化者も、皆、リバベルへと帰還いたしました。 | ||
| ペイシェンス | フェイス様よりあなた様への伝言をお預かりしております。 | ||
| {教授} | 伝言?通信で済ませればいいのに。 | ||
| ペイシェンス | 現在の我々の兵力では……オアシスの皆様をこれ以上支援するのは困難です。 | ||
| ペイシェンス | なにせ、他人のことなどかまってはおれんからのぉ。 | ||
| {教授} | ……今、なんて? | ||
| {教授} | ちょっと待って……私たちがオアシスの者だなんて、 ひとことも言ってないはずよ……! | ||
| 違和感に気づいた私は、アントニーナの腕を引いて後ずさった。 私の反応を見て、戦闘エージェントたちにも緊張が走る。 | |||
| {教授} | あなた……本当にフェイスの部下なの? | ||
| ハンナ | レールガンの製造技術に関しては、キュクロプスのアドミニストレーターに伺ったほうがよろしいかと。 | ||
| ハンナ | オリヴィアさんは、仕事がとてもスピーディーなんですよ。たった数日でレールガンのパーツを送ってこられて。運んできたのがあの浄化者じゃなかったら、もっと良かったんですけど。 | ||
| {教授} | 聞いたわ、レールガンは浄化者が運んだんだって? 構造を知る者になら、砲台の権限を奪えても不思議じゃない…… | ||
| ペイシェンス | さすがは教授。相変わらず察しがよくていらっしゃる。 | ||
| アントニーナ | お前は誰だ!?正体を表わせ! | ||
| ?? | おろろん。しばらく顔を合わせぬ程度で、まろを忘れてしまったのかえ? | ||
| ?? | よよよ……いとかなし。 まがりなりにも、そちの命の恩人でおじゃるというに…… | ||
| ?? | まぁよかろ。まろのためにレールガンという名の馳走をあつらえたのじゃ……これでイーブンにおじゃるな? | ||
| {教授} | その口調……やっぱりね。 私の知る限り、リバベルに背いた浄化者はただ一人。 | ||
| アントニーナ | まさか……ユーカリスト!? | ||
| 正体を見破られると同時に、下位浄化者が小さな少女に姿を変えた。 | |||
| {教授} | 総員、撃て! | ||
| 周囲の戦闘エージェントたちが、一斉に攻撃を開始した。 しかし弾丸は相手の掲げたプレートに弾かれてしまう。 | |||
| ユーカリスト | まっこと、ご挨拶におじゃるの、まろのセンサイなハートが傷ついたぞい。 | ||
| ユーカリスト | そちの手柄をかっさらうとでも思うたか?天下のユーカリスト様も、見下げられたものじゃて。 | ||
| ユーカリスト | かように貴重な砲台……まずは教授に味わってもらわねば。 | ||
| システム音声 | 【高密度オペランドレールガン、エネルギー充填:99%……】 【目標を再確認:オアシス】 | ||
| アントニーナ | なんだと……!? | ||
| 私とアントニーナが反応するよりも先に、眩しい白光が突如輝き出した。 レールガンの威力を目の当たりにしてきた私たちには、 その光が何を意味するのか、誰よりもわかっていた。 | |||
| それは、希望と壊滅をもたらす光。 | |||
| ドォンッ!! | |||
| ユーカリスト | た~まや~~……うきゃきゃきゃ!盛大な食前の催しでおじゃるのぉ!!ファイアウォールの砕ける音が聞こえて来そうじゃわい……さながらカニの甲羅を砕くかのよう! | ||
| ユーカリスト | マルキラのカラスを捨て駒にして正解じゃったぞい、よき買い物でおじゃった。 | ||
| ユーカリスト | さてと……そろそろメインディッシュの時間かの? | ||
| ユーカリスト | われらが丹精込めて計画したマグラシアの襲撃を、よくも邪魔してくれたものでおじゃ……まったく、少しはまろの身にもなってみぃ。 | ||
| ユーカリストの挑発をよそに、私は必死に通信を立ち上げようとしていた。 | |||
| 【ツー……ツー……ツー……】 | |||
| 【ツー……ツー……ツー……】 | |||
| {教授} | お願い、応答して……ペルシカ……! | ||
| だんだんと遠のいてゆく話中音が、繰り返し繰り返し、 私の呼びかけに応えるだけだった。 | |||
| >> Critical Cascade // E N D . . . |
