臨界爆震 PART.17 初醒

Last-modified: 2025-02-05 (水) 02:08:20

ロッサムセクター、データセンター。
ハンナん……わ、私……
ハンナ終わった……の?
チューリングハンナ!
 ハンナが起き上がる前に、傍にいたチューリングが飛んできた。
チューリング目を覚ましたのね、ハンナ!
ハンナうぅ、この感触……今度こそ本物だ……
チューリングえっ?本物って?
 朦朧とした夢のような幻が退いてゆく。
ハンナはとっさに、チューリングを強く抱きしめた。
だがすぐに我に返り、気恥ずかしさから腕の力を緩める。
 ハンナの腕から力が抜けるのを察して、チューリングが彼女をさらにきつく抱きしめた。
ハンナは口を開きかけたが、黙して相手の首元に頭を埋めると、
今度はしっかりとチューリングとの抱擁を交わす。
ハンナ……無事でよかった……
ハンナへ、平気だよ……チューリングは、いつ目が覚めたの?
チューリングついさっきよ、ソルさんが起こしてくれたの。
ハンナソルさん、本当にありがとうございます。
ソルいいって、チューリングにも治療してもらったし。
ソルそれに、最後の手段が決め手になったわけだしね。やるじゃん、ハンナ。
 ハンナは耳をぴくんと動かして、はにかんだ表情で小さく頷いた。
ハンナ……オディールは?
ソルクロックの話だと、向こうも終わったみたいだ。今、砲台からこっちに向かってるって。
ソルあのレールガンの威力、とんでもないね……さっきの一撃で、Nullエリアにいるエントロピーの8割が消し炭になったらしいよ……
ソルアンナが現場を確認したんだ。オディールは跡形もなく消えてた。
 ピピピッ。
ソルあっ、教授からだ。
ソルちょっと通信受けてくる、二人はゆっくりしてて。
 ソルはそそくさとその場を離れた。
チューリングソルさん――まったく、あんなに速く走ったら、また傷口が開いちゃうわ。
ハンナ治療、上手になったんだね、チューリング。
チューリングええ、この戦いで治療する機会が何度もあったから……ハンナに教わったおかげよ。
ハンナそれは、私も同じ……チューリングが私に、どうするべきか教えてくれたから。
チューリングハンナ……
ハンナ私、今までずっと怖かったの。少しでも理想から外れたら、チューリングの信頼に背いてしまうんじゃないかって。
ハンナでもこれからは、そんな風に考えるのはやめる。あの時、私を……私の未来を、選んでくれてありがとう。
ハンナだからこそ……今ここに立って、私自身の意志で、チューリングとの未来を、もう一度選ぶことができる。
チューリング私も……私も、同じ気持ちよ、ハンナ。
 誰からともなく、互いの指先が優しく相手を求めた。
ぴったりと重なり合った手のひらは、まるでメビウスの輪のように、
一つの未来へと織りなされてゆく。
 
一方、浄化者No.5哨戒タワー付近。
ソル……ってなわけで、チューリングとハンナは無事だからさ。安心してよ。
{教授}そういうあなたはどうなの、ソル?
ソルえ、あたし?そりゃ当然……元気だよ、ほら!えへへ。
アントニーナ免疫プログラム失効、複数の運動モジュール機能停止、オーバーロードによるメンタル損傷……その状態で、よくそんな事が言えたものですね。
アントニーナまだ元気だと言い張るようなら、珍しい実験標本として42Labに送り返してやりましょうか?
ソルまぁまぁ、いいじゃん別に、無事だったんだからさ……睨まないでよ、悪かったって。
アントニーナまったく……
ソルそういうアンナと教授は?そっちはどうだったの?
{教授}包囲してきたエントロピーの群れは、レールガンで一掃したわ。
遠くに散らばってる残党は、浄化者が対処してる。
{教授}フェイスはロッサムの無事を確認した上で、リバベルへ報告に戻ってる。
{教授}私たちも、もうすぐロッサムにたどり着くわ。
ようやく合流できるわね。
ソルやったぁ!教授たちが来たら、みんなでお祝いしよ!
アントニーナその前に、ロッサムの再建を手伝わなくては。
アントニーナ祝うのは少なくとも、ファイアウォールを立て直して、オアシスの安全を確保した後ですね。
ソルわかってるって、ちょっと喜んでみただけじゃん。アンナは相変わらず厳しいなぁ。
アントニーナアントニーナです。
ソルファイアウォールといえばさ……ハンナに聞いたんだけど、エントロピーはロッサムの防衛システムを避けて、侵入してきたんだって。
ソルでも、セクターを駆け回ってた時に見たけど、建物はどれも頑丈だし、防衛措置もしっかりしてるし、ハンナが肝心な部分で手を抜くとは思えないけどなぁ。
ソルオディールのやつ、いったいどんな方法を使ったんだろ。
アントニーナなるほど、そうでしたか……オディールの奴、作戦が巧妙なだけでなく、技術や情報にも精通していたとは。
アントニーナ一介のアドミニストレーターだった者が、上位エントロピーに変わると、ここまで厄介なのか……
ソルあいつの言ってた「主」から、力をもらって成長したとか?
アントニーナ能力やメンタルの進化はともかく、ロッサムの構造にこれだけ詳しい点は説明がつきません。
アントニーナどう思われますか、教授?
{教授}……もし、ロッサムの内部にエントロピーを手助けする者がいたとしたら……
ソルそんな奴がいたら、とっくに姿を現してると思うけどな?
ソル仲間が死にそうになってたら、助けるのが普通でしょ?
{教授}そうね……これも単なる憶測に過ぎないわ。
とにかく、まず合流してからよ。
{教授}クロックは?まだ戻ってないの?
ソル砲台からこっちに向かってるらしいけど。アンナが連絡してみたら?
アントニーナどれ……
 【ツー……ツー……ツー……】
アントニーナ応答しませんね。
ソルヘンだな。こんな時になにやってんだろ?
アントニーナクロックさんのことです。おおかた、砲台の構造に夢中で我を忘れてるんでしょう。
 アントニーナの冗談を聴いていたかのように、聞き慣れた声がセクター中に響いた――
システム音声【射撃命令を確認】
【高密度オペランドレールガン、スタンバイ】
{教授}……?
システム音声【座標較正完了。ターゲットロックオン】
【高密度オペランドレールガン、エネルギー充填:25%……】
ソルなに、このアナウンス……クロックなの?
システム音声【オペランド圧縮完了】
【高密度オペランドレールガン、エネルギー充填:50%……】
アントニーナまさか……たとえクロックでも、オペランドが緊迫している時に、こんな真似をするとは思えません!
{教授}ソル、砲台はクロックが操作してるの?
ソルわ、わかんない……だけど、ハンナは特殊な権限がないと操作できないって言ってた!
ソルハンナがクロックに権限を開放してるから、レールガンを動かせるのはあの二人だけだよ!
{教授}妙なことになったわね……すぐにハンナに状況を確認して!
ソル了解!
システム音声【高密度オペランドレールガン、エネルギー充填:70%……】
アントニーナ教授!レールガンの向きが変わっています!
{教授}一体どうなってるの……まさか……
戦闘エージェント教授!浄化者が現れました!
{教授}浄化者?なぜこんな時に……
ペイシェンス初めまして、教授。
{教授}あなたは……フェイスの部下だったわね。
フェイスに何かあったの?
ペイシェンスご安心ください、フェイス様は無事にリバベルへとご到着されております。
ペイシェンス仲間の浄化者も、皆、リバベルへと帰還いたしました。
ペイシェンスフェイス様よりあなた様への伝言をお預かりしております。
{教授}伝言?通信で済ませればいいのに。
ペイシェンス現在の我々の兵力では……オアシスの皆様をこれ以上支援するのは困難です。
ペイシェンスなにせ、他人のことなどかまってはおれんからのぉ。
{教授}……今、なんて?
{教授}ちょっと待って……私たちがオアシスの者だなんて、
ひとことも言ってないはずよ……!
 違和感に気づいた私は、アントニーナの腕を引いて後ずさった。
私の反応を見て、戦闘エージェントたちにも緊張が走る。
{教授}あなた……本当にフェイスの部下なの?
 
ハンナレールガンの製造技術に関しては、キュクロプスのアドミニストレーターに伺ったほうがよろしいかと。
ハンナオリヴィアさんは、仕事がとてもスピーディーなんですよ。たった数日でレールガンのパーツを送ってこられて。運んできたのがあの浄化者じゃなかったら、もっと良かったんですけど。
 
{教授}聞いたわ、レールガンは浄化者が運んだんだって?
構造を知る者になら、砲台の権限を奪えても不思議じゃない……
ペイシェンスさすがは教授。相変わらず察しがよくていらっしゃる。
アントニーナお前は誰だ!?正体を表わせ!
??おろろん。しばらく顔を合わせぬ程度で、まろを忘れてしまったのかえ?
??よよよ……いとかなし。
まがりなりにも、そちの命の恩人でおじゃるというに……
??まぁよかろ。まろのためにレールガンという名の馳走をあつらえたのじゃ……これでイーブンにおじゃるな?
{教授}その口調……やっぱりね。
私の知る限り、リバベルに背いた浄化者はただ一人。
アントニーナまさか……ユーカリスト!?
 正体を見破られると同時に、下位浄化者が小さな少女に姿を変えた。
{教授}総員、撃て!
 周囲の戦闘エージェントたちが、一斉に攻撃を開始した。
しかし弾丸は相手の掲げたプレートに弾かれてしまう。
ユーカリストまっこと、ご挨拶におじゃるの、まろのセンサイなハートが傷ついたぞい。
ユーカリストそちの手柄をかっさらうとでも思うたか?天下のユーカリスト様も、見下げられたものじゃて。
ユーカリストかように貴重な砲台……まずは教授に味わってもらわねば。
システム音声【高密度オペランドレールガン、エネルギー充填:99%……】
【目標を再確認:オアシス】
アントニーナなんだと……!?
 私とアントニーナが反応するよりも先に、眩しい白光が突如輝き出した。
レールガンの威力を目の当たりにしてきた私たちには、
その光が何を意味するのか、誰よりもわかっていた。
 それは、希望と壊滅をもたらす光。
 ドォンッ!!
ユーカリストた~まや~~……うきゃきゃきゃ!盛大な食前の催しでおじゃるのぉ!!ファイアウォールの砕ける音が聞こえて来そうじゃわい……さながらカニの甲羅を砕くかのよう!
ユーカリストマルキラのカラスを捨て駒にして正解じゃったぞい、よき買い物でおじゃった。
ユーカリストさてと……そろそろメインディッシュの時間かの?
ユーカリストわれらが丹精込めて計画したマグラシアの襲撃を、よくも邪魔してくれたものでおじゃ……まったく、少しはまろの身にもなってみぃ。
 ユーカリストの挑発をよそに、私は必死に通信を立ち上げようとしていた。
 【ツー……ツー……ツー……】
 【ツー……ツー……ツー……】
{教授}お願い、応答して……ペルシカ……!
 だんだんと遠のいてゆく話中音が、繰り返し繰り返し、
私の呼びかけに応えるだけだった。
 >> Critical Cascade // E N D . . .