| ロッサムセクター外縁、エントロピーの群れから約500mほど離れた場所。 | |||
| {教授} | これが壊れた最後の通信ノードだ。 これさえ直せれば、ハンナとの連絡がつく。 | ||
|---|---|---|---|
| ソル | はぁ……これでやっと修復が終わるよ。 | ||
| アントニーナ | 直してるのは私なんですが? | ||
| {教授} | そう、偉大なるアントニーナ様の言う通り。 | ||
| クロック | ディラックで上見てくるよ、念のため。 | ||
| ソル | じゃあ、あたしは近くをパトロールしてるね。 | ||
| {教授} | うん、頼んだよ。 | ||
| クロックが巨大な機兵に乗り込んで飛び去った。 ソルも双剣を手に、パトロールを始める。 アントニーナがノードを修復し終えるやいなや、私はすぐに通信を試みた。 | |||
| ピピピッ。 | |||
| {教授} | もしもし、こちらはオアシスの{教授}。 私の声が聞こえるか? | ||
| ハンナ | ……教授!はい、はっきりと聞こえます。あなた方との連絡がついてなによりです! | ||
| アントニーナ | 久しぶりですね、ハンナ。そちらの状況はどうです? | ||
| ハンナ | アンナ!無事だったんだ、よかった…… | ||
| 通信機に映った、馴染みのある愛らしい容貌は、見るものに親しみを抱かせる。 | |||
| ロッサムで別れた時と比べて、ハンナはずいぶんと成熟したようだった。 だがアントニーナの姿を見た時、彼女の顔に喜びの色が浮かぶ。 それが、彼女がまだあどけない子どもであることを物語っていた。 | |||
| ハンナ | あ……ロッサムセクターの周縁にいらっしゃるんですね。危機の最中にも関わらず、駆けつけて頂き、誠にありがとうございます。 | ||
| ハンナ | どうか、ロッサムを窮地からお救いください。 | ||
| {教授} | そちらの具体的な状況を教えてもらえないか? | ||
| ハンナ | 酷い有様ですね、陥落していないエリアはたったの35%です。 | ||
| {教授} | なんて速度だ。 | ||
| ハンナ | セクター中央の通路が敵に占領されてしまいました。私たちには、それを奪還する力もありません。 | ||
| ハンナ | あなた方がエントロピーと呼ぶウイルスが、セクターの内部で増殖し続けて、他のセクターを襲撃し始めたんです…… | ||
| {教授} | オアシスや他のセクターは無事だよ、心配いらない。 君のほうは、あとどれくらい持ちこたえられそうだ? | ||
| ハンナ | 私は生き延びたエージェントとともに、アドミンセンターに避難しています。周囲に展開した障壁の残存時間は44分間です。 | ||
| {教授} | わかった、なるべく持ちこたえてくれ。 あと500mほどでロッサムに到着する。 | ||
| ハンナ | 助かった……外で防衛に当たっているエージェントにも伝えておきます。きっとみんな喜びます! | ||
| {教授} | ……その前に、君の言っていた「手段」がなんなのか、確認しておきたい。 | ||
| ハンナ | えっ? | ||
| ハンナは一瞬呆然とするも、すぐに意図するところに気がついた。 | |||
| ハンナ | 「高密度オペランドレールガン」のことですね? | ||
| {教授} | やっぱりか。 | ||
| 「高密度オペランドレールガン」――ロッサムセクターの切り札だ。 私が救援に駆けつけた理由の一つでもある。 | |||
| {教授} | キュクロプスのオリヴィアから聞いたよ、ロッサムと協力して兵器を開発したと。 ロッサムの「自衛武装軍需設備建設プロセス」の一環だね? だが、ロッサムに送り届けられた時点では、まだ未完成だったはずだ。 | ||
| ハンナ | はい。この技術が完成したのはつい最近のことです。 | ||
| ハンナ | クラウド上の物体はすべてオペランドで構成されている。即ち、オペランドの圧縮密度を高めれば、理論上は膨大なパワーを体積の小さな砲身に収めることが可能です。さらにキュクロプスセクターによる安定性の高い素材を…… | ||
| {教授} | 具体的な構造については、後で聞くよ。 | ||
| ハンナ | あっ……も、申し訳ありません。 | ||
| 言葉を切ったハンナは、依然として不安げな表情を浮かべている。 | |||
| ハンナ | 教授がいらしたということは、もしかして、オペランドを届けに来てくださったんですか? | ||
| {教授} | 当然だろう。与えられた使命は必ず果たす、それが私だからね。 | ||
| ハンナ | ありがとうございます!オペランドさえあれば、ロッサム奪還は時間の問題です。 | ||
| ハンナ | 「高密度オペランドレールガン」を使って、奴らを最も小さいオペランド粒子にまで還元させてやります。 | ||
| ハンナ | オペランドの備えが十分だったら、とっくにそうしていたのに……少なくとも、ここで立ち往生せずに済んだはず…… | ||
| {教授} | だが、一つだけ問題があるんだ―― ロッサムを取り囲むエントロピーの大群が見えるか? | ||
| {教授} | 数が多すぎる、これではセクターに近づけない。 | ||
| ハンナ | そうでした、その問題が……残念ながら、こちらからセクター外の様子は確認できません。 | ||
| ハンナ | こうなったら、レールガンを低出力で稼働させ、一時的に道を作ります。 | ||
| {教授} | だけど、そんなことをしたら君たちが…… | ||
| ハンナ | かまいません。それに、あなた方のオペランドがなければ、いずれにせよロッサムは助かりません。他に選択肢はないんです。 | ||
| ハンナ | オアシスは私たちを助けるために、一度ならず二度までも、危険を承知で駆けつけてくださった。まだオペランドに余裕がある内に、あなた方をお手伝いさせてください。 | ||
| ハンナ | 今あるオペランドなら「高密度オペランドレールガン」を10%までチャージ可能です。資源は一時的に底を尽きますが…… | ||
| {教授} | もはや賭けだな。 | ||
| ハンナ | そうかもしれませんね。チャンスはたった一度だけです。その後は、あなたの率いる部隊が、ロッサム唯一の希望となります。 | ||
| ハンナ | 座標と砲撃のタイミングを指示願います、教授。 | ||
| {教授} | 他に方法はなさそうだ。 | ||
| ソル | 教授! | ||
| ふいにソルが私たちの会話に割り込んできた。 | |||
| ソル | 通信は終わった?エントロピーどもが急にひと塊になって、こっちに向かってきてるよ! | ||
| アントニーナ | そんな、まさか…… | ||
| {教授} | ここは奴らの偵察範囲外だぞ、見つかるはずがないのに。 | ||
| ソル | あたしにもわけがわかんないよ!とにかく緊急事態! | ||
| {教授} | 総員、戦闘準備を! | ||
| 黒紫色の海水が突如沸き立ち、エントロピーの波が次から次へと押し寄せてくる。 | |||
| アントニーナ | クロックさん、前に出過ぎです! | ||
| クロック | 平気!きょうじゅ、あれやって! | ||
| {教授} | ソル、クロックのために時間を稼いでやれ! | ||
| ソル | りょーかい!第一小隊、第二小隊は掩護を!偵察小隊、あたしについてきて! | ||
| クロック | うっわぁ、きもちわるっ。エントロピーの抗体、あってよかったぁ…… | ||
| 猛攻を受け止めつつ後退するディラック、それを盾に交戦する戦闘エージェントたち。 戦場を駆けめぐり、敵を斬り伏せて回るソルと偵察小隊。 アントニーナは後方から全部隊を支援している。 | |||
| ソル | クロック!まだなの!? | ||
| クロック | あと少し……準備……完了ッ! | ||
| ソル | 総員、二人一組で背中合わせに後退!地形に気をつけろ、包囲されたら厄介だ! | ||
| ソルの叫び声とともに、戦闘エージェントたちが続々と撤退し、 ディラックに場所を明け渡した。 | |||
| クロック | くらえ……インパルス爆撃ッ!!! | ||
| 周囲のエントロピーが、爆撃によって跡形もなく消え去った。 だがすぐに新しい波が押し寄せてきて、空白を覆い尽くしてしまう。 | |||
| エントロピーの動きは素早いが、それでも私たちはわずかな隙を縫って、 ロッサムセクターへとにじり寄っていった。 | |||
| どこへ向かおうと、エントロピーの群れはしつこく私たちについてまわった。 先ほどまで目的もなく群れていただけのエントロピーが、今や意志を宿したかのように、 黒紫の無数の瞳で「私」を睨み、「私」へと迫ってきている。 | |||
| アントニーナ | ダメです、数が多すぎる!味方の損傷が速い……! | ||
| ソル | おかしいよ!さっきクロックと偵察した時は、こんなんじゃなかったのに! | ||
| アントニーナ | 上位エントロピーによる指揮かもしれない、信号を探ってみます! | ||
| ソル | クロック、もう一発打てない? | ||
| クロック | そう簡単にポンポン打てたら必殺技って言わんしょ!? | ||
| クロック | しかもこの進攻スピード……だめだ、包囲される、うわぁぁぁ……コミュ障という名の発作が……!! | ||
| ソル | エントロピー相手にコミュ障発症すな!! | ||
| {教授} | ソル、負傷者を掩護しつつ撤退!クロック、殿を頼む! | ||
| ソル | わかった!偵察小隊はルートを確認!第二小隊、こっちへ! | ||
| アントニーナ | そんな……ありえない……どうして…… | ||
| {教授} | 落ち着け、どうしたんだ? | ||
| アントニーナ | 上位エントロピーの信号が見つからない……どこを探しても! | ||
| アントニーナ | まさか、上位の制御を受けてない……?なら、なぜいきなり私たちを攻撃したんだ……!? | ||
| アントニーナ | わけがわからない……どうしてこうなる!?この肝心な時に! | ||
| {教授} | エントロピー学者を目指すのは後回しだ。 一部のエントロピーを制御して時間を稼げないか? | ||
| アントニーナ | たとえ一部をコントロールしたところで、この数じゃ焼け石に水ですよ! | ||
| {教授} | それもそうだ…… | ||
| ソル | まずい、ディラックがもう持たない!アンナ、早くなんとかして! | ||
| アントニーナ | チッ……ソルさんはさがって!奴らに隙を与えちゃダメだ! | ||
| {教授} | ハンナ、砲撃を頼めるか!? | ||
| 手中の通信装置から声が鳴った。 | |||
| ハンナ | 現在、レールガンの制御プログラムを起動しています。教授、できるだけ敵を引き付けてください。 | ||
| ハンナ | あなた方を危険な目に遭わせてしまい、申し訳ございません。 | ||
| {教授} | そう言うな。リスクがあるのは初めからわかってた。 | ||
| {教授} | それに、限りある手札は、絶好のタイミングで使わないとね。 | ||
| ハンナ | ご理解いただき、ありがとうございます。 | ||
| ソル | ちょ、ちょっと待って……ハンナ、今がどういう状況かわかってる!?ここのエントロピー、少なくとも千匹はいるよ!? | ||
| ソル | そのなんとかガンっていうの、オペランドを大量に使うんでしょ?使い切っちゃったら、あんたらの安全はどうなるのさ!? | ||
| ハンナ | アドミンセンターに閉じこもっていては、いくらオペランドがあったところで無意味です。 | ||
| ハンナ | それに、充填するのはたったの10%ですから。道を切り開くには十分です。 | ||
| ソル | ほ、本当に……? | ||
| {教授} | ソル、ハンナを信じよう。 | ||
| {教授} | アントニーナ、座標を彼女に送ってくれ。 | ||
| アントニーナ | 今すぐに。 | ||
| アントニーナは素早くスクリーンをタップして、 ひとまとまりのコードをハンナに送った。 | |||
| ハンナ | 受け取りました、座標インプット完了。 | ||
| ハンナ | みなさん、あとほんの少しの辛抱です。 | ||
| ソル | しょうがないね……ハンナ、頼んだよ! | ||
