臨界爆震 PART.2 倚仗

Last-modified: 2025-02-05 (水) 00:58:22

ロッサムセクター外縁、エントロピーの群れから約500mほど離れた場所。
{教授}これが壊れた最後の通信ノードだ。
これさえ直せれば、ハンナとの連絡がつく。
ソルはぁ……これでやっと修復が終わるよ。
アントニーナ直してるのは私なんですが?
{教授}そう、偉大なるアントニーナ様の言う通り。
クロックディラックで上見てくるよ、念のため。
ソルじゃあ、あたしは近くをパトロールしてるね。
{教授}うん、頼んだよ。
 クロックが巨大な機兵に乗り込んで飛び去った。
ソルも双剣を手に、パトロールを始める。
アントニーナがノードを修復し終えるやいなや、私はすぐに通信を試みた。
 ピピピッ。
{教授}もしもし、こちらはオアシスの{教授}。
私の声が聞こえるか?
ハンナ……教授!はい、はっきりと聞こえます。あなた方との連絡がついてなによりです!
アントニーナ久しぶりですね、ハンナ。そちらの状況はどうです?
ハンナアンナ!無事だったんだ、よかった……
 通信機に映った、馴染みのある愛らしい容貌は、見るものに親しみを抱かせる。
 ロッサムで別れた時と比べて、ハンナはずいぶんと成熟したようだった。
だがアントニーナの姿を見た時、彼女の顔に喜びの色が浮かぶ。
それが、彼女がまだあどけない子どもであることを物語っていた。
ハンナあ……ロッサムセクターの周縁にいらっしゃるんですね。危機の最中にも関わらず、駆けつけて頂き、誠にありがとうございます。
ハンナどうか、ロッサムを窮地からお救いください。
{教授}そちらの具体的な状況を教えてもらえないか?
ハンナ酷い有様ですね、陥落していないエリアはたったの35%です。
{教授}なんて速度だ。
ハンナセクター中央の通路が敵に占領されてしまいました。私たちには、それを奪還する力もありません。
ハンナあなた方がエントロピーと呼ぶウイルスが、セクターの内部で増殖し続けて、他のセクターを襲撃し始めたんです……
{教授}オアシスや他のセクターは無事だよ、心配いらない。
君のほうは、あとどれくらい持ちこたえられそうだ?
ハンナ私は生き延びたエージェントとともに、アドミンセンターに避難しています。周囲に展開した障壁の残存時間は44分間です。
{教授}わかった、なるべく持ちこたえてくれ。
あと500mほどでロッサムに到着する。
ハンナ助かった……外で防衛に当たっているエージェントにも伝えておきます。きっとみんな喜びます!
{教授}……その前に、君の言っていた「手段」がなんなのか、確認しておきたい。
ハンナえっ?
 ハンナは一瞬呆然とするも、すぐに意図するところに気がついた。
ハンナ高密度オペランドレールガン」のことですね?
{教授}やっぱりか。
 高密度オペランドレールガン」――ロッサムセクターの切り札だ。
私が救援に駆けつけた理由の一つでもある。
{教授}キュクロプスのオリヴィアから聞いたよ、ロッサムと協力して兵器を開発したと。
ロッサムの「自衛武装軍需設備建設プロセス」の一環だね?
だが、ロッサムに送り届けられた時点では、まだ未完成だったはずだ。
ハンナはい。この技術が完成したのはつい最近のことです。
ハンナクラウド上の物体はすべてオペランドで構成されている。即ち、オペランドの圧縮密度を高めれば、理論上は膨大なパワーを体積の小さな砲身に収めることが可能です。さらにキュクロプスセクターによる安定性の高い素材を……
{教授}具体的な構造については、後で聞くよ。
ハンナあっ……も、申し訳ありません。
 言葉を切ったハンナは、依然として不安げな表情を浮かべている。
ハンナ教授がいらしたということは、もしかして、オペランドを届けに来てくださったんですか?
{教授}当然だろう。与えられた使命は必ず果たす、それが私だからね。
ハンナありがとうございます!オペランドさえあれば、ロッサム奪還は時間の問題です。
ハンナ「高密度オペランドレールガン」を使って、奴らを最も小さいオペランド粒子にまで還元させてやります。
ハンナオペランドの備えが十分だったら、とっくにそうしていたのに……少なくとも、ここで立ち往生せずに済んだはず……
{教授}だが、一つだけ問題があるんだ――
ロッサムを取り囲むエントロピーの大群が見えるか?
{教授}数が多すぎる、これではセクターに近づけない。
ハンナそうでした、その問題が……残念ながら、こちらからセクター外の様子は確認できません。
ハンナこうなったら、レールガンを低出力で稼働させ、一時的に道を作ります。
{教授}だけど、そんなことをしたら君たちが……
ハンナかまいません。それに、あなた方のオペランドがなければ、いずれにせよロッサムは助かりません。他に選択肢はないんです。
ハンナオアシスは私たちを助けるために、一度ならず二度までも、危険を承知で駆けつけてくださった。まだオペランドに余裕がある内に、あなた方をお手伝いさせてください。
ハンナ今あるオペランドなら「高密度オペランドレールガン」を10%までチャージ可能です。資源は一時的に底を尽きますが……
{教授}もはや賭けだな。
ハンナそうかもしれませんね。チャンスはたった一度だけです。その後は、あなたの率いる部隊が、ロッサム唯一の希望となります。
ハンナ座標と砲撃のタイミングを指示願います、教授。
{教授}他に方法はなさそうだ。
ソル教授!
 ふいにソルが私たちの会話に割り込んできた。
ソル通信は終わった?エントロピーどもが急にひと塊になって、こっちに向かってきてるよ!
アントニーナそんな、まさか……
{教授}ここは奴らの偵察範囲外だぞ、見つかるはずがないのに。
ソルあたしにもわけがわかんないよ!とにかく緊急事態!
{教授}総員、戦闘準備を!
 
 黒紫色の海水が突如沸き立ち、エントロピーの波が次から次へと押し寄せてくる。
アントニーナクロックさん、前に出過ぎです!
クロック平気!きょうじゅ、あれやって!
{教授}ソル、クロックのために時間を稼いでやれ!
ソルりょーかい!第一小隊、第二小隊は掩護を!偵察小隊、あたしについてきて!
クロックうっわぁ、きもちわるっ。エントロピーの抗体、あってよかったぁ……
 猛攻を受け止めつつ後退するディラック、それを盾に交戦する戦闘エージェントたち。
戦場を駆けめぐり、敵を斬り伏せて回るソルと偵察小隊。
アントニーナは後方から全部隊を支援している。
ソルクロック!まだなの!?
クロックあと少し……準備……完了ッ!
ソル総員、二人一組で背中合わせに後退!地形に気をつけろ、包囲されたら厄介だ!
 ソルの叫び声とともに、戦闘エージェントたちが続々と撤退し、
ディラックに場所を明け渡した。
クロックくらえ……インパルス爆撃ッ!!!
 周囲のエントロピーが、爆撃によって跡形もなく消え去った。
だがすぐに新しい波が押し寄せてきて、空白を覆い尽くしてしまう。
 エントロピーの動きは素早いが、それでも私たちはわずかな隙を縫って、
ロッサムセクターへとにじり寄っていった。
 どこへ向かおうと、エントロピーの群れはしつこく私たちについてまわった。
先ほどまで目的もなく群れていただけのエントロピーが、今や意志を宿したかのように、
黒紫の無数の瞳で「私」を睨み、「私」へと迫ってきている。
アントニーナダメです、数が多すぎる!味方の損傷が速い……!
ソルおかしいよ!さっきクロックと偵察した時は、こんなんじゃなかったのに!
アントニーナ上位エントロピーによる指揮かもしれない、信号を探ってみます!
ソルクロック、もう一発打てない?
クロックそう簡単にポンポン打てたら必殺技って言わんしょ!?
クロックしかもこの進攻スピード……だめだ、包囲される、うわぁぁぁ……コミュ障という名の発作が……!!
ソルエントロピー相手にコミュ障発症すな!!
{教授}ソル、負傷者を掩護しつつ撤退!クロック、殿を頼む!
ソルわかった!偵察小隊はルートを確認!第二小隊、こっちへ!
アントニーナそんな……ありえない……どうして……
{教授}落ち着け、どうしたんだ?
アントニーナ上位エントロピーの信号が見つからない……どこを探しても!
アントニーナまさか、上位の制御を受けてない……?なら、なぜいきなり私たちを攻撃したんだ……!?
アントニーナわけがわからない……どうしてこうなる!?この肝心な時に!
{教授}エントロピー学者を目指すのは後回しだ。
一部のエントロピーを制御して時間を稼げないか?
アントニーナたとえ一部をコントロールしたところで、この数じゃ焼け石に水ですよ!
{教授}それもそうだ……
ソルまずい、ディラックがもう持たない!アンナ、早くなんとかして!
アントニーナチッ……ソルさんはさがって!奴らに隙を与えちゃダメだ!
{教授}ハンナ、砲撃を頼めるか!?
 手中の通信装置から声が鳴った。
ハンナ現在、レールガンの制御プログラムを起動しています。教授、できるだけ敵を引き付けてください。
ハンナあなた方を危険な目に遭わせてしまい、申し訳ございません。
{教授}そう言うな。リスクがあるのは初めからわかってた。
{教授}それに、限りある手札は、絶好のタイミングで使わないとね。
ハンナご理解いただき、ありがとうございます。
ソルちょ、ちょっと待って……ハンナ、今がどういう状況かわかってる!?ここのエントロピー、少なくとも千匹はいるよ!?
ソルそのなんとかガンっていうの、オペランドを大量に使うんでしょ?使い切っちゃったら、あんたらの安全はどうなるのさ!?
ハンナアドミンセンターに閉じこもっていては、いくらオペランドがあったところで無意味です。
ハンナそれに、充填するのはたったの10%ですから。道を切り開くには十分です。
ソルほ、本当に……?
{教授}ソル、ハンナを信じよう。
{教授}アントニーナ、座標を彼女に送ってくれ。
アントニーナ今すぐに。
 アントニーナは素早くスクリーンをタップして、
ひとまとまりのコードをハンナに送った。
ハンナ受け取りました、座標インプット完了。
ハンナみなさん、あとほんの少しの辛抱です。
ソルしょうがないね……ハンナ、頼んだよ!