臨界爆震 PART.5 不案内

Last-modified: 2025-02-05 (水) 01:11:51

ロッサムセクター、外周。
ソルエントロピー、本当にもう追ってきてない……
クロックぜんぶ、きょうじゅのほうに行ったんだと思う。あっちも無事だといいけど。
ソルアンナもいるし、きっと大丈夫だよ!それよりも、定期連絡の時間までにハンナたちと合流しよう。
ソルこのオペランドをハンナに渡せば、レールガンで教授を支援できる。
 クロックとソルの率いる部隊は周囲を警戒しながら、
ボロボロになったファイアウォールをくぐり抜け、
荒れ果てたセクターの内部へと入った。
ソルはは……初めて訪れた時は、ファイアウォールの解除に苦労したんだよ。
ソルまさか壁すらなくなっちゃうなんてね。時が過ぎれば、事情も変わるわけだ。
クロック言葉の意味わかって使ってる?……そういや、さっきは冷静だったじゃん。
ソルえっ、なにが?
クロックきょうじゅに先に行けって言われた時、即OKしたっしょ。きょうじゅとアンナが心配じゃないの?
ソルそりゃ、心配に決まってる。
ソルだけど、今は心配するよりも、みんなを信じるほうが大事だから。
クロック……そうだけど、ソルがそんなこと言うなんて意外。
ソルあのね……あんたが休んでた間、こっちは戦い通しだったんだからね。舐めるなっつの。
クロックうーっす。んじゃ、道案内よろしく。
ソルえーっと……どれどれ……
ソル……ここって、どこだっけ?
クロックえ……来たことあるんでしょ?
ソルでも、前はこんなにたくさんビルとか立ってなかったし……そもそも廃墟じゃ……
ソル……しっ、人影だ!
 ソルはクロックを引きとめて、迎撃姿勢を取り、周囲を警戒した。
ソル誰だ!?出てこい!
クロックもしかして……地中に隠れてたとか?
??……ご名答よ。さっきはお疲れ様、無事でよかったわ。
??この廃墟の下の避難所で待っていたの。
アドミニストレーターであるハンナの指示で、ついさっき建てられたものよ。
ソルこの声は……
??助けてくれて感謝するわ、オアシスからの訪問者さん。
??落ち着いて。アドミニストレーターのハンナに言われて、あなたたちを迎えにきたの。
 
チューリング助けてくれて感謝するわ、見知らぬ訪問者さん。
ソルうわっ!!!
ソル誰だッ!?さっきの子どもは?どこへ隠した!?
チューリング落ち着いて、あの子と位置を取り換えただけだから。
チューリング私はこのセクターの責任者、ロッサムのアドミニストレーター……
 
ソルチューリング!久しぶり!!
チューリング……ごめんなさい。記憶データにあなたに関する記載はないみたい。前にどこかでお会いしたかしら?
ソル……
 チューリングの茫然とした眼差しを前に、ソルは言葉に詰まった。
チューリング……どうかしたの?私、何か失礼なことを……?
ソルあ、いや……違くて。その……あは、あはは……
クロックソル、時間ないよ、本題入って。
クロックなんでもいいからさっさと始めてよ、あたしは絶対に知らない人に話しかけないからね……
ソルあ、わ、わかった。ゴホン!
ソルチューリング、こんにちは。あたしはソル、こっちはクロック。あたしら全員、オアシスから来たエージェントだよ。
ソルハンナから話は聞いてると思うけど、教授に頼まれてオペランドを届けにきたんだ。それと、みんなの安全はあたしらが守るから。
チューリングええ、聞いているわ。シグネチャコードの認証完了、問題なさそうね。改めて自己紹介を。私はロッサムセクターのエージェント、名前はチューリングよ。
チューリング私が皆さんをアドミンセンターに案内するわ。
 
ロッサムセクター、アドミンセンター。
 チューリングはソル一行を連れて廃墟を抜け、変形した金属ゲートの前へとやってきた。
戦闘エージェントとディラックを扉の前に待機させ、
ソルとクロックの二人はゲートの下をくぐって部屋へと入った。
ハンナソルさん!やっと来てくれたんですね!
 通信では努めて事務的だったハンナも、
実際に会ってみれば、喜びの感情を抑えきれないでいる。
ソルハンナ、久しぶり!アドミンセンター、ずいぶんと立派になったね、安心したよ!
ハンナありがとうございます、敵の襲撃で原型を留めていませんが。ソルさんがお元気でよかった……あ、こちらは?
ソルこっちはクロック、オアシスの首席エンジニアだよ。ロッサムへのオペランドはクロックが持ってきたんだ!
ハンナお会いできて光栄です、ハンナです。
クロックあ……はい、よろしく。
 クロックはぎこちなくハンナと握手をかわした。
ハンナ私の見た目に驚かれましたでしょう。他のパートナーやトレーダーたちも、初めは同じ反応をします。
ハンナですが、どうかご安心ください。アドミニストレーターとしての務めは、十二分に果たせていると自負しています。
クロックあ……う、うん。
 クロックはすがるような視線をソルに向けた。
ソルハンナの能力は疑ってないよ。この子、ちょっと人見知りでさ。
クロックおい!!誰がコミュ障バラせっつった!?
ハンナそうでしたか。とにかく、オアシスの皆さんがご無事で安心しました。この度はご足労いただき、本当にありがとうございます。
ハンナ時間がありません、挨拶はこの辺にして本題に入りましょう――オペランドをお預かりしても?
ソルもちろん。この子の機兵のコックピットに入れて来たんだけど、隙間から入ってこれなくて。今、表に置いてある。
ハンナわかりました。チューリング、エージェントを連れてオペランドを取りに向かって。
チューリングわかったわ。
 チューリングは数名のエージェントを連れて立ち去った。
ハンナ教授からメッセージがありました。大体の状況は把握しています。教授とアントニーナさんはセクターの外で戦っているんですね?
ハンナさすがは教授、大胆な作戦ですね。
ハンナエントロピーどもの危険性は重々承知しています。すぐに「高密度オペランドレールガン」を起動して、この戦いを終わらせましょう。
ソル前から訊きたかったんだけどさ……そのなんとかガンって名前、なんでそんなに長いの?
クロック名前の長さは問題ではない、ソル君。大事なのは美的センス、そして実際の性能なのだよ。
ソルあんたの美的センスも十分怪しいけどな……
クロックねぇ、そのレールガン見せてもらってもいい?撃った時の効果はさっき見たけど、やっぱり自分の目で各種性能とかパラメータとか確認しておきたいんだよね。
ハンナ制御はここから行えますが、砲台はアドミンセンターから少し離れた場所にあります。
ハンナ外にはまだかなりの数のエントロピーが徘徊しています。特にあの長い触手を持った狙撃手は危険です、あちこちへエントロピー液を撒き散らしている。
ハンナ今、ここを出るのはお勧めしません。関連データだけでしたら、今すぐお送りできますよ。
クロックそっか……わかった。
 クロックはさっそくデータを受け取ると、それをつぶさに確認し始めた。
ハンナとソルは、チューリングが戻るのを待っている。
 室内は静まり返っていた。
ふと、ソルがハンナの頭上に目を向ける。
ソルさっきさ、たくさんの高層ビルが並んでるのを見たんだ。あれ、ぜんぶハンナが建てたんだよね?
ハンナええ。セクター内の建設業務も、私の仕事の一つです。
ソルあれからたいして経ってないのに、すごいな。大変だったでしょ?
ハンナそうですね……でも、チューリングは何も覚えていませんし、私が頑張らないとセクターを維持できませんから。
 ソルはハンナの頭を撫でた。
チューリングただいま、ハンナ。
チューリング避難所にいるエージェントからの連絡よ。セクター付近に集まってたエントロピーの砲撃手たちが、一斉に撤退したって。
ハンナ一斉に?奴ら、単独行動してたんじゃなかったの?
ソル中位か、上位エントロピーからの命令を受けたのかもね。もともと、そういう造りだから。
ハンナ命令……いったい何の……
ハンナとにかく、エージェントたちに追跡させて。
チューリング了解。それと、オアシスからのオペランドよ。コンソールで解凍と点検をしておく必要があるわ。
ハンナ見せて……うん、問題なさそう。ソルさん、クロックさん、オペランドは確かに受け取りました。ありがとうございます。
ハンナこれでレールガンをもう一度起動できます。チューリング。
チューリングわかったわ、すぐにコンソールに向うわね。
 チューリングは手短にそう答えると、足早にその場から立ち去った。
彼女の背中を見つめるソルの心中は複雑だ。
ソルハンナ……もしかして、チューリングとケンカしてるの?
ハンナいいえ?どうしてですか?
ソルなんていうか、その……二人の雰囲気が……ぎこちないような気がして……
ソルなんか、オフィスの上司と部下って感じになってない?
ハンナそうですか?ロッサムではこれが普通ですよ?
ソルあ、そっか。忘れてた……マグラシアじゃどこもそうだよね、うん。
ソルでもさ……その、ハンナとチューリングは親子なわけでしょ?親子って、もっと……
ハンナ……それは、どういう意味ですか?
クロックし、信じられない……!!
 クロックが突然大声を上げた。
二人の注意が彼女に向く。
ソルび、びっくりするなぁ……どうしたのさ?
クロックこれだよ、レールガンのデータ!ヤバいよこれ、とんでもないよ。どうやったらオペランドをここまで圧縮できんの!?
ハンナその技術は、ロッサムにおける研究の副産物なんです。私も兵器に応用するのはこれが初めてで。
クロックハンナって、もしかしたら機兵造りの天才になれるかも……
ハンナあ、ありがとうございます。ですが、私の専門はあくまで人工知能ですから。
ハンナレールガンの製造技術に関しては、キュクロプスのアドミニストレーターに伺ったほうがよろしいかと。
ハンナオリヴィアさんは、仕事がとてもスピーディーなんですよ。たった数日でレールガンのパーツを送ってこられて。運んできたのがあの浄化者じゃなかったら、もっと良かったんですけど。
 浄化者という単語を口にしたハンナが、あからさまに嫌悪の表情となる。
ソル浄化者が、運んできた?
ソルあいつらがそんなことを……まぁでも、セクターのエージェントがNullエリアをぶらつくわけにもいかないし、結果オーライだったんじゃない?
ハンナ浄化者なんて二度と目にしたくなかったのに、よりにもよってあいつが……いまだにチューリングがどうなったかを嗅ぎ回っているそうです。
 ハンナは深呼吸をして、情緒を整えた。
ハンナとにかく、ロッサムは浄化者との縁を切ってるんです。今更、良い顔しようったって無駄です。
ハンナそもそも、来歴不明のウイルスを相手にしてるんですから、セクター外からの介入は少ないほどいいでしょう。
ソルま、それはそうだけど。
クロックでもさ、なんか変だよ。このパラメータの通りに稼働してたら、
エントロピーなんか入ってこれないはずだけどな。
ハンナロッサムは奇襲を受けたんです。
エントロピーどもはなんらかの方法で私たちの防御システムを回避し、
オペランドの供給ラインを直接攻撃してきました。
ハンナ私が報告を受ける頃には、セクターの防御システムはとっくに無力化されていたんです。
クロックオディールとかいうヤツの仕業なんでしょ?めちゃくちゃずるがしこいな……
ハンナすみません、そこまでは。ただ、どうしても理解できないことがあって。なぜウイルスは資源の豊富なキュクロプスなどではなく……私たち研究員のセクターを重点的に狙ったのでしょう?
ソルうーん……ロッサムを拠点にしようとしてたとか?
ソルそうすればここを中心に、周囲のセクターに攻め入ることができる。
ハンナ……もしそうだったら、すべて私の責任です。私はロッサムを守れなかった。
ソルあっ、いや、ハンナを責めてるわけじゃないよ。オアシスも奇襲を受けたことあったから、酷い有様だった。
ソルでも今は、あたしたちがついてる。ここを奪わせはしないよ!とにかく、なんちゃらガンを起動して、奴らを一網打尽にしちゃおう!
ハンナはい!チューリングが解凍を終えたら、すぐに砲台を起動します!
 ハンナの表情に、そこはかとなく自信が戻った。
ハンナ教授がエントロピーの大半を引き付けてくださってる。砲台を100%までチャージできたら、真っ先に教授の支援を行います。ソルさんは砲撃すべき座標の確認をお願いします。
ソルよし、それでいこう!
ハンナだけどその前に……ソルさん、オアシスの戦闘エージェントの方々が、部屋の外にいらしてますね?
ハンナ先ほど、外のエントロピーが集団行動を開始したとの報告を受けました。上位エントロピーの制御下で、どんな行動に出るのか心配です。
ソルわかった、付近の警戒に当たらせるよ。観測ポイントはどこ?
ハンナお待ち下さい、確認します。
エージェントの少女ハンナさん、なにかご用ですか?
ハンナエントロピーの動向を教えて。それと、これからオアシスの方が支援に向うから。
エージェントの少女わかりました。5分前に大量の【スプラッシャー】と【フィルスベルチャー】が第4研究所と第7研究所の跡地へと向かいました。
ハンナ第4と第7?その付近で一番高い建物だ……
ソル……まさか……!
ハンナソルさん、どうしたんです?
ソル狙撃手と高い建物――奴らの狙いがわかったかもしれない!
クロックなら防空対策を――
 ドォンッ!
 クロックの言葉を待たずに、背後の壁が激しい衝撃を受けて倒れた。
クロックやっば……!
ソルハンナ、伏せろ!!
ハンナはい!
 ハンナは一瞬慌てるも、すぐに冷静さを取り戻す。
ハンナ偵察小隊、状況は!?
エージェントの少女ハンナさん!中位エントロピーがアドミンセンターを標的にしています!
エージェントの少女アドミンセンターの一部の崩壊を検知、このままでは……
 ドォンッ!
 エージェントが言い終える前に、次の砲撃がアドミンセンターを襲った。
激しい揺れに壁の表層が剥がれ落ち、建物の裂け目から黒紫色の液体が滲み出す。
クロックディラックがまだ外に……!
ソルあいつら、アドミンセンターもろともブッ壊す気だ!
クロックレールガンの砲撃で上位エントロピーに感づかれたんだ。それで攻撃信号を発したアドミンセンターに……
ソルそんなのどうでもいいから!先鋒小隊、聞こえる!?ロッサムの先住エージェントを守るんだ!
ハンナアドミンセンターには大勢の研究員がいます、それにチューリングも。私たちは、誰一人として戦闘能力を持ちません……
ソル大丈夫、こっちの人員を向かわせる!この建物、まだ持つよね!?
ハンナおそらく、数分は……
ソル聞こえたな!?はやく!
戦闘エージェント了解!
ソルよし!あたしらは――クロック、敵の砲撃手を片付けるよ!
クロックりょ!まずはこっから出ないと!