| ロッサムセクター、外周。 | |||
| ソル | エントロピー、本当にもう追ってきてない…… | ||
|---|---|---|---|
| クロック | ぜんぶ、きょうじゅのほうに行ったんだと思う。あっちも無事だといいけど。 | ||
| ソル | アンナもいるし、きっと大丈夫だよ!それよりも、定期連絡の時間までにハンナたちと合流しよう。 | ||
| ソル | このオペランドをハンナに渡せば、レールガンで教授を支援できる。 | ||
| クロックとソルの率いる部隊は周囲を警戒しながら、 ボロボロになったファイアウォールをくぐり抜け、 荒れ果てたセクターの内部へと入った。 | |||
| ソル | はは……初めて訪れた時は、ファイアウォールの解除に苦労したんだよ。 | ||
| ソル | まさか壁すらなくなっちゃうなんてね。時が過ぎれば、事情も変わるわけだ。 | ||
| クロック | 言葉の意味わかって使ってる?……そういや、さっきは冷静だったじゃん。 | ||
| ソル | えっ、なにが? | ||
| クロック | きょうじゅに先に行けって言われた時、即OKしたっしょ。きょうじゅとアンナが心配じゃないの? | ||
| ソル | そりゃ、心配に決まってる。 | ||
| ソル | だけど、今は心配するよりも、みんなを信じるほうが大事だから。 | ||
| クロック | ……そうだけど、ソルがそんなこと言うなんて意外。 | ||
| ソル | あのね……あんたが休んでた間、こっちは戦い通しだったんだからね。舐めるなっつの。 | ||
| クロック | うーっす。んじゃ、道案内よろしく。 | ||
| ソル | えーっと……どれどれ…… | ||
| ソル | ……ここって、どこだっけ? | ||
| クロック | え……来たことあるんでしょ? | ||
| ソル | でも、前はこんなにたくさんビルとか立ってなかったし……そもそも廃墟じゃ…… | ||
| ソル | ……しっ、人影だ! | ||
| ソルはクロックを引きとめて、迎撃姿勢を取り、周囲を警戒した。 | |||
| ソル | 誰だ!?出てこい! | ||
| クロック | もしかして……地中に隠れてたとか? | ||
| ?? | ……ご名答よ。さっきはお疲れ様、無事でよかったわ。 | ||
| ?? | この廃墟の下の避難所で待っていたの。 アドミニストレーターであるハンナの指示で、ついさっき建てられたものよ。 | ||
| ソル | この声は…… | ||
| ?? | 助けてくれて感謝するわ、オアシスからの訪問者さん。 | ||
| ?? | 落ち着いて。アドミニストレーターのハンナに言われて、あなたたちを迎えにきたの。 | ||
| チューリング | 助けてくれて感謝するわ、見知らぬ訪問者さん。 | ||
| ソル | うわっ!!! | ||
| ソル | 誰だッ!?さっきの子どもは?どこへ隠した!? | ||
| チューリング | 落ち着いて、あの子と位置を取り換えただけだから。 | ||
| チューリング | 私はこのセクターの責任者、ロッサムのアドミニストレーター…… | ||
| ソル | チューリング!久しぶり!! | ||
| チューリング | ……ごめんなさい。記憶データにあなたに関する記載はないみたい。前にどこかでお会いしたかしら? | ||
| ソル | …… | ||
| チューリングの茫然とした眼差しを前に、ソルは言葉に詰まった。 | |||
| チューリング | ……どうかしたの?私、何か失礼なことを……? | ||
| ソル | あ、いや……違くて。その……あは、あはは…… | ||
| クロック | ソル、時間ないよ、本題入って。 | ||
| クロック | なんでもいいからさっさと始めてよ、あたしは絶対に知らない人に話しかけないからね…… | ||
| ソル | あ、わ、わかった。ゴホン! | ||
| ソル | チューリング、こんにちは。あたしはソル、こっちはクロック。あたしら全員、オアシスから来たエージェントだよ。 | ||
| ソル | ハンナから話は聞いてると思うけど、教授に頼まれてオペランドを届けにきたんだ。それと、みんなの安全はあたしらが守るから。 | ||
| チューリング | ええ、聞いているわ。シグネチャコードの認証完了、問題なさそうね。改めて自己紹介を。私はロッサムセクターのエージェント、名前はチューリングよ。 | ||
| チューリング | 私が皆さんをアドミンセンターに案内するわ。 | ||
| ロッサムセクター、アドミンセンター。 | |||
| チューリングはソル一行を連れて廃墟を抜け、変形した金属ゲートの前へとやってきた。 戦闘エージェントとディラックを扉の前に待機させ、 ソルとクロックの二人はゲートの下をくぐって部屋へと入った。 | |||
| ハンナ | ソルさん!やっと来てくれたんですね! | ||
| 通信では努めて事務的だったハンナも、 実際に会ってみれば、喜びの感情を抑えきれないでいる。 | |||
| ソル | ハンナ、久しぶり!アドミンセンター、ずいぶんと立派になったね、安心したよ! | ||
| ハンナ | ありがとうございます、敵の襲撃で原型を留めていませんが。ソルさんがお元気でよかった……あ、こちらは? | ||
| ソル | こっちはクロック、オアシスの首席エンジニアだよ。ロッサムへのオペランドはクロックが持ってきたんだ! | ||
| ハンナ | お会いできて光栄です、ハンナです。 | ||
| クロック | あ……はい、よろしく。 | ||
| クロックはぎこちなくハンナと握手をかわした。 | |||
| ハンナ | 私の見た目に驚かれましたでしょう。他のパートナーやトレーダーたちも、初めは同じ反応をします。 | ||
| ハンナ | ですが、どうかご安心ください。アドミニストレーターとしての務めは、十二分に果たせていると自負しています。 | ||
| クロック | あ……う、うん。 | ||
| クロックはすがるような視線をソルに向けた。 | |||
| ソル | ハンナの能力は疑ってないよ。この子、ちょっと人見知りでさ。 | ||
| クロック | おい!!誰がコミュ障バラせっつった!? | ||
| ハンナ | そうでしたか。とにかく、オアシスの皆さんがご無事で安心しました。この度はご足労いただき、本当にありがとうございます。 | ||
| ハンナ | 時間がありません、挨拶はこの辺にして本題に入りましょう――オペランドをお預かりしても? | ||
| ソル | もちろん。この子の機兵のコックピットに入れて来たんだけど、隙間から入ってこれなくて。今、表に置いてある。 | ||
| ハンナ | わかりました。チューリング、エージェントを連れてオペランドを取りに向かって。 | ||
| チューリング | わかったわ。 | ||
| チューリングは数名のエージェントを連れて立ち去った。 | |||
| ハンナ | 教授からメッセージがありました。大体の状況は把握しています。教授とアントニーナさんはセクターの外で戦っているんですね? | ||
| ハンナ | さすがは教授、大胆な作戦ですね。 | ||
| ハンナ | エントロピーどもの危険性は重々承知しています。すぐに「高密度オペランドレールガン」を起動して、この戦いを終わらせましょう。 | ||
| ソル | 前から訊きたかったんだけどさ……そのなんとかガンって名前、なんでそんなに長いの? | ||
| クロック | 名前の長さは問題ではない、ソル君。大事なのは美的センス、そして実際の性能なのだよ。 | ||
| ソル | あんたの美的センスも十分怪しいけどな…… | ||
| クロック | ねぇ、そのレールガン見せてもらってもいい?撃った時の効果はさっき見たけど、やっぱり自分の目で各種性能とかパラメータとか確認しておきたいんだよね。 | ||
| ハンナ | 制御はここから行えますが、砲台はアドミンセンターから少し離れた場所にあります。 | ||
| ハンナ | 外にはまだかなりの数のエントロピーが徘徊しています。特にあの長い触手を持った狙撃手は危険です、あちこちへエントロピー液を撒き散らしている。 | ||
| ハンナ | 今、ここを出るのはお勧めしません。関連データだけでしたら、今すぐお送りできますよ。 | ||
| クロック | そっか……わかった。 | ||
| クロックはさっそくデータを受け取ると、それをつぶさに確認し始めた。 ハンナとソルは、チューリングが戻るのを待っている。 | |||
| 室内は静まり返っていた。 ふと、ソルがハンナの頭上に目を向ける。 | |||
| ソル | さっきさ、たくさんの高層ビルが並んでるのを見たんだ。あれ、ぜんぶハンナが建てたんだよね? | ||
| ハンナ | ええ。セクター内の建設業務も、私の仕事の一つです。 | ||
| ソル | あれからたいして経ってないのに、すごいな。大変だったでしょ? | ||
| ハンナ | そうですね……でも、チューリングは何も覚えていませんし、私が頑張らないとセクターを維持できませんから。 | ||
| ソルはハンナの頭を撫でた。 | |||
| チューリング | ただいま、ハンナ。 | ||
| チューリング | 避難所にいるエージェントからの連絡よ。セクター付近に集まってたエントロピーの砲撃手たちが、一斉に撤退したって。 | ||
| ハンナ | 一斉に?奴ら、単独行動してたんじゃなかったの? | ||
| ソル | 中位か、上位エントロピーからの命令を受けたのかもね。もともと、そういう造りだから。 | ||
| ハンナ | 命令……いったい何の…… | ||
| ハンナ | とにかく、エージェントたちに追跡させて。 | ||
| チューリング | 了解。それと、オアシスからのオペランドよ。コンソールで解凍と点検をしておく必要があるわ。 | ||
| ハンナ | 見せて……うん、問題なさそう。ソルさん、クロックさん、オペランドは確かに受け取りました。ありがとうございます。 | ||
| ハンナ | これでレールガンをもう一度起動できます。チューリング。 | ||
| チューリング | わかったわ、すぐにコンソールに向うわね。 | ||
| チューリングは手短にそう答えると、足早にその場から立ち去った。 彼女の背中を見つめるソルの心中は複雑だ。 | |||
| ソル | ハンナ……もしかして、チューリングとケンカしてるの? | ||
| ハンナ | いいえ?どうしてですか? | ||
| ソル | なんていうか、その……二人の雰囲気が……ぎこちないような気がして…… | ||
| ソル | なんか、オフィスの上司と部下って感じになってない? | ||
| ハンナ | そうですか?ロッサムではこれが普通ですよ? | ||
| ソル | あ、そっか。忘れてた……マグラシアじゃどこもそうだよね、うん。 | ||
| ソル | でもさ……その、ハンナとチューリングは親子なわけでしょ?親子って、もっと…… | ||
| ハンナ | ……それは、どういう意味ですか? | ||
| クロック | し、信じられない……!! | ||
| クロックが突然大声を上げた。 二人の注意が彼女に向く。 | |||
| ソル | び、びっくりするなぁ……どうしたのさ? | ||
| クロック | これだよ、レールガンのデータ!ヤバいよこれ、とんでもないよ。どうやったらオペランドをここまで圧縮できんの!? | ||
| ハンナ | その技術は、ロッサムにおける研究の副産物なんです。私も兵器に応用するのはこれが初めてで。 | ||
| クロック | ハンナって、もしかしたら機兵造りの天才になれるかも…… | ||
| ハンナ | あ、ありがとうございます。ですが、私の専門はあくまで人工知能ですから。 | ||
| ハンナ | レールガンの製造技術に関しては、キュクロプスのアドミニストレーターに伺ったほうがよろしいかと。 | ||
| ハンナ | オリヴィアさんは、仕事がとてもスピーディーなんですよ。たった数日でレールガンのパーツを送ってこられて。運んできたのがあの浄化者じゃなかったら、もっと良かったんですけど。 | ||
| 浄化者という単語を口にしたハンナが、あからさまに嫌悪の表情となる。 | |||
| ソル | 浄化者が、運んできた? | ||
| ソル | あいつらがそんなことを……まぁでも、セクターのエージェントがNullエリアをぶらつくわけにもいかないし、結果オーライだったんじゃない? | ||
| ハンナ | 浄化者なんて二度と目にしたくなかったのに、よりにもよってあいつが……いまだにチューリングがどうなったかを嗅ぎ回っているそうです。 | ||
| ハンナは深呼吸をして、情緒を整えた。 | |||
| ハンナ | とにかく、ロッサムは浄化者との縁を切ってるんです。今更、良い顔しようったって無駄です。 | ||
| ハンナ | そもそも、来歴不明のウイルスを相手にしてるんですから、セクター外からの介入は少ないほどいいでしょう。 | ||
| ソル | ま、それはそうだけど。 | ||
| クロック | でもさ、なんか変だよ。このパラメータの通りに稼働してたら、 エントロピーなんか入ってこれないはずだけどな。 | ||
| ハンナ | ロッサムは奇襲を受けたんです。 エントロピーどもはなんらかの方法で私たちの防御システムを回避し、 オペランドの供給ラインを直接攻撃してきました。 | ||
| ハンナ | 私が報告を受ける頃には、セクターの防御システムはとっくに無力化されていたんです。 | ||
| クロック | オディールとかいうヤツの仕業なんでしょ?めちゃくちゃずるがしこいな…… | ||
| ハンナ | すみません、そこまでは。ただ、どうしても理解できないことがあって。なぜウイルスは資源の豊富なキュクロプスなどではなく……私たち研究員のセクターを重点的に狙ったのでしょう? | ||
| ソル | うーん……ロッサムを拠点にしようとしてたとか? | ||
| ソル | そうすればここを中心に、周囲のセクターに攻め入ることができる。 | ||
| ハンナ | ……もしそうだったら、すべて私の責任です。私はロッサムを守れなかった。 | ||
| ソル | あっ、いや、ハンナを責めてるわけじゃないよ。オアシスも奇襲を受けたことあったから、酷い有様だった。 | ||
| ソル | でも今は、あたしたちがついてる。ここを奪わせはしないよ!とにかく、なんちゃらガンを起動して、奴らを一網打尽にしちゃおう! | ||
| ハンナ | はい!チューリングが解凍を終えたら、すぐに砲台を起動します! | ||
| ハンナの表情に、そこはかとなく自信が戻った。 | |||
| ハンナ | 教授がエントロピーの大半を引き付けてくださってる。砲台を100%までチャージできたら、真っ先に教授の支援を行います。ソルさんは砲撃すべき座標の確認をお願いします。 | ||
| ソル | よし、それでいこう! | ||
| ハンナ | だけどその前に……ソルさん、オアシスの戦闘エージェントの方々が、部屋の外にいらしてますね? | ||
| ハンナ | 先ほど、外のエントロピーが集団行動を開始したとの報告を受けました。上位エントロピーの制御下で、どんな行動に出るのか心配です。 | ||
| ソル | わかった、付近の警戒に当たらせるよ。観測ポイントはどこ? | ||
| ハンナ | お待ち下さい、確認します。 | ||
| エージェントの少女 | ハンナさん、なにかご用ですか? | ||
| ハンナ | エントロピーの動向を教えて。それと、これからオアシスの方が支援に向うから。 | ||
| エージェントの少女 | わかりました。5分前に大量の【スプラッシャー】と【フィルスベルチャー】が第4研究所と第7研究所の跡地へと向かいました。 | ||
| ハンナ | 第4と第7?その付近で一番高い建物だ…… | ||
| ソル | ……まさか……! | ||
| ハンナ | ソルさん、どうしたんです? | ||
| ソル | 狙撃手と高い建物――奴らの狙いがわかったかもしれない! | ||
| クロック | なら防空対策を―― | ||
| ドォンッ! | |||
| クロックの言葉を待たずに、背後の壁が激しい衝撃を受けて倒れた。 | |||
| クロック | やっば……! | ||
| ソル | ハンナ、伏せろ!! | ||
| ハンナ | はい! | ||
| ハンナは一瞬慌てるも、すぐに冷静さを取り戻す。 | |||
| ハンナ | 偵察小隊、状況は!? | ||
| エージェントの少女 | ハンナさん!中位エントロピーがアドミンセンターを標的にしています! | ||
| エージェントの少女 | アドミンセンターの一部の崩壊を検知、このままでは…… | ||
| ドォンッ! | |||
| エージェントが言い終える前に、次の砲撃がアドミンセンターを襲った。 激しい揺れに壁の表層が剥がれ落ち、建物の裂け目から黒紫色の液体が滲み出す。 | |||
| クロック | ディラックがまだ外に……! | ||
| ソル | あいつら、アドミンセンターもろともブッ壊す気だ! | ||
| クロック | レールガンの砲撃で上位エントロピーに感づかれたんだ。それで攻撃信号を発したアドミンセンターに…… | ||
| ソル | そんなのどうでもいいから!先鋒小隊、聞こえる!?ロッサムの先住エージェントを守るんだ! | ||
| ハンナ | アドミンセンターには大勢の研究員がいます、それにチューリングも。私たちは、誰一人として戦闘能力を持ちません…… | ||
| ソル | 大丈夫、こっちの人員を向かわせる!この建物、まだ持つよね!? | ||
| ハンナ | おそらく、数分は…… | ||
| ソル | 聞こえたな!?はやく! | ||
| 戦闘エージェント | 了解! | ||
| ソル | よし!あたしらは――クロック、敵の砲撃手を片付けるよ! | ||
| クロック | りょ!まずはこっから出ないと! |
