臨界爆震 PART.9 確執

Last-modified: 2025-02-05 (水) 01:21:12

ロッサムセクター、アドミンセンター付近の仮設避難所内。
戦闘エージェント隊長、さしあたってエントロピーは追ってきていません。避難所の周囲に散らばる個体も、こちらには気づいていないようです。
ソルわかった、エントロピーの対処はまかせるよ。避難所の位置がバレないようにね。他のメンバーは引き続き警戒を。
戦闘エージェント了解!
ソル周囲のエントロピーを一掃したら動こう。あとはレールガンを起動すればいいんだよね?
ハンナいえ、その前に、オペランドの問題を解決しなくては。
ソルオペランドがどうしたの?チューリングがもう解凍して……
クロック解凍されたオペランドは、まだアドミンセンターの中だよ。ガレキに埋もれてると思う。
ソル……あ、そっか!!なんでそれを早く言わないのさ!?
クロックソルたちを助けるので、頭がいっぱいだったんだよ。
ハンナごめんなさい……私がアドミンセンターを爆破しろと言ったから……
クロックこうなったら、別の方法を考えるっきゃないね……
チューリングみなさん、どうか安心して。オペランドならここにあるわ。
 それを聞いた全員の視線が、チューリングの手にしているストレージ容器へと集まった。
ソルなんだ、ちゃんと持ってきてるじゃん!さっすがチューリング!
クロックよかったぁ……てっきり失くしたのかと思った、頼りになるね。
 ソルとクロックの反応とは裏腹に、ハンナの顔色が沈む。
 チューリングはストレージ容器をしまいながら、メンバーに説明した。
チューリング「高密度オペランドレールガン」が起動する前に、アドミンセンターが失われる確率は97%以上。
チューリングそう判断したから、オペランドの解凍を中断して、ストレージ容器に入れておいたの。
ハンナ……避難が遅れた理由はそれ?
チューリングええ。解凍プログラムを止めて、ストレージ容器に収めるのに時間がかかって。
ソルとっさに思いつくなんてすごいな、チューリングは!でも今度からは、ちゃんとみんなに声かけなよ?
チューリングそうね、そうするわ。こうするのが使命だと思って、ついとっさに……
ハンナだからって……なんで勝手に行動したの!?
 急にハンナが声を荒らげ、チューリングを問い詰めた。
その場にいたエージェントたちが驚く。
チューリング……優先レベルに基づいた判断よ、私の裁定範囲は超えていないと思うけど。
ハンナチューリングだけじゃない……その勝手な判断のせいで、ソルさんまで危険に晒されたんだよ!?
ソルハ、ハンナ……あたしは大丈夫だから……
ソルただの掠り傷だったし――に、睨まないでよ、わかった、黙ってる……
 ハンナは鋭い視線でソルを退場させると、
一歩前へ踏み出して、混乱するチューリングに詰め寄った。
ハンナもしソルさんが助けてくれなかったら……
チューリングは今頃、エントロピーに呑み込まれてたんだからね!?
チューリングどうしてそんなことで私を責めるの?
言葉の意味が理解できないわ、ハンナ。
チューリングこれは私の使命なのよ。
こうでもしなきゃ、任務は失敗していた。
ハンナそれは、そうだけど……なら、どうして通信に出なかったの?
他の人がどう思うか、少しは考えなかったの?
ハンナチューリングが残ったところで、オペランドを守れるはずない!
もしオペランドと一緒に敵に捕まったら、どうするつもりだったの!?
チューリング私は……
ソルハンナ、もういいって、言い過ぎだよ……
あたしが自分から助けに行ったんだから。
ソルそれにチューリングのおかげで、オペランドは無事だったんだし。
ハンナだ、だけど、もし万が一があったら――
チューリング……意味がわからない。
 ふいに、チューリングが声のトーンを上げた。
声色から具体的な感情は読み取れない。
チューリングこれはれっきとした演算から得た結論よ。あの状況下なら、たった数分さえあればオペランドを守り通せた。現にその正しさは証明されてる。
チューリングソルさんが助けに来なくても、オペランドだけを外に出す方法はあったわ。結果的に私がリセットされようと、ロッサムの安全は守られる。これが最も適した選択よ。
チューリングそれのどこが間違っていたというの……「アドミニストレーターのハンナさん」?
 その言葉を聞いて、ハンナは信じられないというようにチューリングを見た。
だがチューリングは眉をひそめたまま、迷うことなく彼女の視線に挑む。
ソルチューリング!さすがにそれは……
チューリングなに?はっきり言って。
 チューリングの頑なな視線が今度はソルに向けられる。
ソルは何も言えずに、慌てて両手をふった。
彼女の不可解な動作を見終えてから、チューリングはハンナに視線を戻す。
ハンナリセット、って……死んじゃうって意味なんだよ、わかってる!?
チューリングエージェントが消滅すれば、リセットされるのは当然でしょう。
それが人間の言う「死」とどう関係あるの?
チューリングそんなもの、セクターに貢献する手段の一つに過ぎないのに。
チューリング私たちにとっては、セクターを守ることが最優先よ。
第二優先事項はアドミニストレーターの安全を確保すること。
チューリングたとえ次があろうと、私は同じことをしてみせるわ。
ハンナな――
 相手に反論しようとするも、
彼女のよく知る、その揺るぎない眼差しを前にしてしまうと、
ハンナは言葉を唇歯に押し止めるほかなかった。
 
チューリング私がなんとかしてみせるわ。
チューリングハンナ、愛しているわ。それにT1641も。
チューリングあなたたちは私の娘よ。もし本当に危険が迫っても、必ず私があなたたちを守ってみせる。本当よ。
 
ハンナ……
 沈黙が訪れた。
それぞれの思惑が、ぎこちない雰囲気の中にわだかまる。
 いまだに状況をつかめずにいる、たった一人の人物を除いて――
クロックこ、ここはどこ、あたしは誰……えーっと、ロッサムで何があったんだっけ……
クロックねぇ、ソル、なんか言いなよ……めちゃくちゃ気まずくなってんじゃん!!
ソルあっ、えーと、ゴホン。と、とにかくさ、こっからは計画通りでいいんだよね?
ソル幸いオペランドは無事だったんだし、こっちが優勢なのには変わりない。エントロピーどもがモタついてる隙に、奴らを一網打尽にしちゃお!
ハンナ……そうですね、言い争ってる場合じゃありませんでした。申し訳ありません、つい感情的になってしまって。
ソルいいのいいの、どうせ周囲のエントロピーを倒さないと外には出れないから……とにかく、今のうちに次の行動を考えよう!
ハンナアドミンセンターにあった制御コンソールが使えないとなると、レールガンの砲台に赴き、手動で制御するしかありませんね。
ハンナアドミンセンターのセキュリティ画面を確認した時は、砲台の付近にいるエントロピーは比較的少数でしたが……
クロックオペランドもそこで解凍できるの?
ハンナ砲台にオペランドを解凍できる設備はありません……ですが、データセンターにある解凍装置を使えます。
ソルデータセンター?どっかで聞いたような……
ハンナ私がソルさんたちと初めてお会いした場所ですよ。あの時はアンナもそこにいました。
ソルつまり、フェイスとの戦いがあった場所か……
 ソルは茫然とした様子のチューリングを見て、言葉半ばに言い淀んだ。
ハンナ「あれ」以来、データセンターは長らく封鎖されてきました。そのせいか、エントロピーによる破壊を免れています。
ハンナ中の設備は問題なく使えるはずです。ただ……砲台とは真逆の方向にありますが……
クロックとなれば、二手に分かれるか。
ハンナはい。データセンターに赴いてオペランドを解凍し、それをデータ形式で砲台へと転送するチーム。そして砲台に向かいレールガンを整備して砲撃を行うチームの二つです。
ハンナ……砲台には、私と戦闘エージェントの方々で向かいましょう。砲台を操作できるのは私だけですから。
ハンナあなた方はチューリングとデータセンターへ……
クロックちょっと待ったァッ!!あたしがいるじゃん!砲台の操作ならまかせてよ!
ハンナえっ、でも、操作なら私一人で……
ソルクロックと行きなよ、ハンナ。メカニックとしての腕は確かだからね、きっと役に立つよ。
ソルそれに、道中にはエントロピーが大勢いるはずだし。この子の盾があれば心強い。
ハンナ……わかりました。
ソルそれじゃ、データセンターにはあたしとチューリングと、数名の戦闘エージェントで向うね。いいよね、チューリング?
チューリングええ。
 チューリングは短く答えた。
先ほどの諍いが尾を引いているようだ。
クロックそうと決まれば、きょうじゅに連絡だ。こっちの作戦を伝えないと。
ソルあたしも戦闘エージェントたちに伝えてくる。出発の準備に取り掛かろう!