| ロッサムセクター、アドミンセンター付近の仮設避難所内。 | |||
| 戦闘エージェント | 隊長、さしあたってエントロピーは追ってきていません。避難所の周囲に散らばる個体も、こちらには気づいていないようです。 | ||
|---|---|---|---|
| ソル | わかった、エントロピーの対処はまかせるよ。避難所の位置がバレないようにね。他のメンバーは引き続き警戒を。 | ||
| 戦闘エージェント | 了解! | ||
| ソル | 周囲のエントロピーを一掃したら動こう。あとはレールガンを起動すればいいんだよね? | ||
| ハンナ | いえ、その前に、オペランドの問題を解決しなくては。 | ||
| ソル | オペランドがどうしたの?チューリングがもう解凍して…… | ||
| クロック | 解凍されたオペランドは、まだアドミンセンターの中だよ。ガレキに埋もれてると思う。 | ||
| ソル | ……あ、そっか!!なんでそれを早く言わないのさ!? | ||
| クロック | ソルたちを助けるので、頭がいっぱいだったんだよ。 | ||
| ハンナ | ごめんなさい……私がアドミンセンターを爆破しろと言ったから…… | ||
| クロック | こうなったら、別の方法を考えるっきゃないね…… | ||
| チューリング | みなさん、どうか安心して。オペランドならここにあるわ。 | ||
| それを聞いた全員の視線が、チューリングの手にしているストレージ容器へと集まった。 | |||
| ソル | なんだ、ちゃんと持ってきてるじゃん!さっすがチューリング! | ||
| クロック | よかったぁ……てっきり失くしたのかと思った、頼りになるね。 | ||
| ソルとクロックの反応とは裏腹に、ハンナの顔色が沈む。 | |||
| チューリングはストレージ容器をしまいながら、メンバーに説明した。 | |||
| チューリング | 「高密度オペランドレールガン」が起動する前に、アドミンセンターが失われる確率は97%以上。 | ||
| チューリング | そう判断したから、オペランドの解凍を中断して、ストレージ容器に入れておいたの。 | ||
| ハンナ | ……避難が遅れた理由はそれ? | ||
| チューリング | ええ。解凍プログラムを止めて、ストレージ容器に収めるのに時間がかかって。 | ||
| ソル | とっさに思いつくなんてすごいな、チューリングは!でも今度からは、ちゃんとみんなに声かけなよ? | ||
| チューリング | そうね、そうするわ。こうするのが使命だと思って、ついとっさに…… | ||
| ハンナ | だからって……なんで勝手に行動したの!? | ||
| 急にハンナが声を荒らげ、チューリングを問い詰めた。 その場にいたエージェントたちが驚く。 | |||
| チューリング | ……優先レベルに基づいた判断よ、私の裁定範囲は超えていないと思うけど。 | ||
| ハンナ | チューリングだけじゃない……その勝手な判断のせいで、ソルさんまで危険に晒されたんだよ!? | ||
| ソル | ハ、ハンナ……あたしは大丈夫だから…… | ||
| ソル | ただの掠り傷だったし――に、睨まないでよ、わかった、黙ってる…… | ||
| ハンナは鋭い視線でソルを退場させると、 一歩前へ踏み出して、混乱するチューリングに詰め寄った。 | |||
| ハンナ | もしソルさんが助けてくれなかったら…… チューリングは今頃、エントロピーに呑み込まれてたんだからね!? | ||
| チューリング | どうしてそんなことで私を責めるの? 言葉の意味が理解できないわ、ハンナ。 | ||
| チューリング | これは私の使命なのよ。 こうでもしなきゃ、任務は失敗していた。 | ||
| ハンナ | それは、そうだけど……なら、どうして通信に出なかったの? 他の人がどう思うか、少しは考えなかったの? | ||
| ハンナ | チューリングが残ったところで、オペランドを守れるはずない! もしオペランドと一緒に敵に捕まったら、どうするつもりだったの!? | ||
| チューリング | 私は…… | ||
| ソル | ハンナ、もういいって、言い過ぎだよ…… あたしが自分から助けに行ったんだから。 | ||
| ソル | それにチューリングのおかげで、オペランドは無事だったんだし。 | ||
| ハンナ | だ、だけど、もし万が一があったら―― | ||
| チューリング | ……意味がわからない。 | ||
| ふいに、チューリングが声のトーンを上げた。 声色から具体的な感情は読み取れない。 | |||
| チューリング | これはれっきとした演算から得た結論よ。あの状況下なら、たった数分さえあればオペランドを守り通せた。現にその正しさは証明されてる。 | ||
| チューリング | ソルさんが助けに来なくても、オペランドだけを外に出す方法はあったわ。結果的に私がリセットされようと、ロッサムの安全は守られる。これが最も適した選択よ。 | ||
| チューリング | それのどこが間違っていたというの……「アドミニストレーターのハンナさん」? | ||
| その言葉を聞いて、ハンナは信じられないというようにチューリングを見た。 だがチューリングは眉をひそめたまま、迷うことなく彼女の視線に挑む。 | |||
| ソル | チューリング!さすがにそれは…… | ||
| チューリング | なに?はっきり言って。 | ||
| チューリングの頑なな視線が今度はソルに向けられる。 ソルは何も言えずに、慌てて両手をふった。 彼女の不可解な動作を見終えてから、チューリングはハンナに視線を戻す。 | |||
| ハンナ | リセット、って……死んじゃうって意味なんだよ、わかってる!? | ||
| チューリング | エージェントが消滅すれば、リセットされるのは当然でしょう。 それが人間の言う「死」とどう関係あるの? | ||
| チューリング | そんなもの、セクターに貢献する手段の一つに過ぎないのに。 | ||
| チューリング | 私たちにとっては、セクターを守ることが最優先よ。 第二優先事項はアドミニストレーターの安全を確保すること。 | ||
| チューリング | たとえ次があろうと、私は同じことをしてみせるわ。 | ||
| ハンナ | な―― | ||
| 相手に反論しようとするも、 彼女のよく知る、その揺るぎない眼差しを前にしてしまうと、 ハンナは言葉を唇歯に押し止めるほかなかった。 | |||
| チューリング | 私がなんとかしてみせるわ。 | ||
| チューリング | ハンナ、愛しているわ。それにT1641も。 | ||
| チューリング | あなたたちは私の娘よ。もし本当に危険が迫っても、必ず私があなたたちを守ってみせる。本当よ。 | ||
| ハンナ | …… | ||
| 沈黙が訪れた。 それぞれの思惑が、ぎこちない雰囲気の中にわだかまる。 | |||
| いまだに状況をつかめずにいる、たった一人の人物を除いて―― | |||
| クロック | こ、ここはどこ、あたしは誰……えーっと、ロッサムで何があったんだっけ…… | ||
| クロック | ねぇ、ソル、なんか言いなよ……めちゃくちゃ気まずくなってんじゃん!! | ||
| ソル | あっ、えーと、ゴホン。と、とにかくさ、こっからは計画通りでいいんだよね? | ||
| ソル | 幸いオペランドは無事だったんだし、こっちが優勢なのには変わりない。エントロピーどもがモタついてる隙に、奴らを一網打尽にしちゃお! | ||
| ハンナ | ……そうですね、言い争ってる場合じゃありませんでした。申し訳ありません、つい感情的になってしまって。 | ||
| ソル | いいのいいの、どうせ周囲のエントロピーを倒さないと外には出れないから……とにかく、今のうちに次の行動を考えよう! | ||
| ハンナ | アドミンセンターにあった制御コンソールが使えないとなると、レールガンの砲台に赴き、手動で制御するしかありませんね。 | ||
| ハンナ | アドミンセンターのセキュリティ画面を確認した時は、砲台の付近にいるエントロピーは比較的少数でしたが…… | ||
| クロック | オペランドもそこで解凍できるの? | ||
| ハンナ | 砲台にオペランドを解凍できる設備はありません……ですが、データセンターにある解凍装置を使えます。 | ||
| ソル | データセンター?どっかで聞いたような…… | ||
| ハンナ | 私がソルさんたちと初めてお会いした場所ですよ。あの時はアンナもそこにいました。 | ||
| ソル | つまり、フェイスとの戦いがあった場所か…… | ||
| ソルは茫然とした様子のチューリングを見て、言葉半ばに言い淀んだ。 | |||
| ハンナ | 「あれ」以来、データセンターは長らく封鎖されてきました。そのせいか、エントロピーによる破壊を免れています。 | ||
| ハンナ | 中の設備は問題なく使えるはずです。ただ……砲台とは真逆の方向にありますが…… | ||
| クロック | となれば、二手に分かれるか。 | ||
| ハンナ | はい。データセンターに赴いてオペランドを解凍し、それをデータ形式で砲台へと転送するチーム。そして砲台に向かいレールガンを整備して砲撃を行うチームの二つです。 | ||
| ハンナ | ……砲台には、私と戦闘エージェントの方々で向かいましょう。砲台を操作できるのは私だけですから。 | ||
| ハンナ | あなた方はチューリングとデータセンターへ…… | ||
| クロック | ちょっと待ったァッ!!あたしがいるじゃん!砲台の操作ならまかせてよ! | ||
| ハンナ | えっ、でも、操作なら私一人で…… | ||
| ソル | クロックと行きなよ、ハンナ。メカニックとしての腕は確かだからね、きっと役に立つよ。 | ||
| ソル | それに、道中にはエントロピーが大勢いるはずだし。この子の盾があれば心強い。 | ||
| ハンナ | ……わかりました。 | ||
| ソル | それじゃ、データセンターにはあたしとチューリングと、数名の戦闘エージェントで向うね。いいよね、チューリング? | ||
| チューリング | ええ。 | ||
| チューリングは短く答えた。 先ほどの諍いが尾を引いているようだ。 | |||
| クロック | そうと決まれば、きょうじゅに連絡だ。こっちの作戦を伝えないと。 | ||
| ソル | あたしも戦闘エージェントたちに伝えてくる。出発の準備に取り掛かろう! |
