臨界爆震 STAGE 10 久闊

Last-modified: 2025-02-05 (水) 01:14:24

 しばらくして、私たちは「No.05哨戒タワー」付近にやってきた。
 浄化者へと接近するにつれ、何かを恐れるかのように、
追ってきたエントロピーたちが次々と脱落していった。
 アントニーナのキーボードを叩く手もゆっくりになり、
次第に軽やかなリズムを刻みだす。
{教授}追手がどんどん減ってきてるわね。
アントニーナここが浄化者のテリトリーだからでしょう。怖くて近づけないんです。
{教授}本当にそうかしら?
アントニーナ何が言いたいんです?
{教授}確かに、浄化者の哨戒タワーを攻め落とすには、
下位エントロピーの群れだけじゃ不可能よ。
{教授}だけど、オディールがいつエントロピーの指揮を取るともわからない。
応戦準備は常にしておかないと。
アントニーナ聞けば、イオスフォロスのホワイトリストに載ったそうじゃないですか。その事実が役に立つことを祈りますよ。
{教授}少なくとも、浄化者たちはこちらに敵意を見せてないでしょ。
アントニーナええ、確かに……ついでに負傷者を治療してもらえると大助かりなんですが。
 ピピピピピッ!
アントニーナ哨戒タワーからの通信です、受けてください。
下位浄化者【こちら浄化者No.05哨戒タワー】
下位浄化者【前回の通信から10分が経過、大規模なウイルスは検知されていません】
{教授}ウイルスが時間を守ると思う?
すぐに到着するから、そこで待ってなさい。
下位浄化者【哨戒タワーのゲートを開放する必要はありますか?】
{教授}ええ、頼むわ。開けてちょうだい。
下位浄化者【リクエストを受理しました】
 そうこうしている間に、私たちは哨戒タワーの前へとたどり着いた。
私たちが近づくにつれ、巨大なゲートがゆっくりと開かれる。
{教授}戦闘エージェントたちは負傷者を連れて先に中へ。
私とアントニーナが両側からサポートするわ。
戦闘エージェント了解!
 ゲートをくぐると、威圧感に満ちた巨大な建造物が、私たちの前に現れた。
建物の影から一体の下位浄化者が現れ、こちらへとゆっくり浮遊してくる。
下位浄化者【NullエリアNo.05哨戒タワーへようこそ】
{教授}要請に応じたのはあなたね?
下位浄化者【はい。皆様のIDを提示願います】
{教授}私たちにはイオスフォロスの許可が……
 その時、私の端末が鳴った。
 ピピピピピッ!
アントニーナ通信要請ですね。
{教授}クロックたち?
あなたが出て、私は浄化者と話をつけておくから。
アントニーナ了解。
 アントニーナは私から通信機を受け取って、部隊の後方へと下がり、通信を受けた。
私は下位浄化者に視線を戻す。相手は先ほどから微動だにしていない。
{教授}……どうしたの、何か問題でも?
下位浄化者【権限の認証を終えていません、IDを提示してください】
{教授}わかったわよ。
{教授}ここにはあなただけなの?
他の浄化者はどこ?
下位浄化者【さらなる深みにいます】
{教授}「さらなる深み」?
下位浄化者まで抽象的な言い回しをするようになったのね。
それとも「イレギュラー」みたいな、浄化者特有の呼び方があるの?
 ぶつぶつと呟きながら、私は無意識に周囲を見渡した。
 哨戒タワーの内部は清潔で静かだ、私たちのほかに人影はない。
{教授}……みんな、待って。
なんだか様子がおかしい。
下位浄化者?【さらなる深みへと……彼らは……やがてたどり着く……】
{教授}総員撤退!
下位浄化者?【さらなる深みは……ここにある】
 一瞬のうちに、浄化者の機械音声が女性の声に変わった。
黒と白の外見が、瞬く間に色濃くなってゆく。
下位浄化者?【いらっしゃい……No.05哨戒タワーへ、{教授}教授】
 それは聞き覚えのある声だった。
下位浄化者?【本日の演目を始めましょうか……】
下位浄化者?【ようこそ……あなたのために設えた……】
 エントロピー化した浄化者の背後から、禍々しい触手が放たれる。
私はとっさに背後へと飛び退いた。
刹那、何か冷たいものが首の後ろを掠める。
{教授}しまった、フェイント――
 鋭い刃が空を切り裂いて、間近へと迫った。
背後からの攻撃を避ける術はない。
しかし、次の瞬間――
アントニーナ教授!
 グサッ――
アントニーナ……ぐっ……
{教授}アントニーナ!!
アントニーナ教授……これは、罠です……
 黒紫色の鉤爪が、アントニーナの肩を貫いた。
 アントニーナの体を隔てて、オディールが私に微笑む。
オディールようこそ、あなたのために設えた舞台へ。
オディールこれは挨拶代わりよ、ご満足頂けた?