| しばらくして、私たちは「No.05哨戒タワー」付近にやってきた。 | |||
| 浄化者へと接近するにつれ、何かを恐れるかのように、 追ってきたエントロピーたちが次々と脱落していった。 | |||
| アントニーナのキーボードを叩く手もゆっくりになり、 次第に軽やかなリズムを刻みだす。 | |||
| {教授} | 追手がどんどん減ってきてるな。 | ||
| アントニーナ | ここが浄化者のテリトリーだからでしょう。怖くて近づけないんです。 | ||
| {教授} | 本当にそうかな? | ||
| アントニーナ | 何が言いたいんです? | ||
| {教授} | 確かに、浄化者の哨戒タワーを攻め落とすには、 下位エントロピーの群れだけじゃ不可能だ。 | ||
| {教授} | だが、オディールがいつエントロピーの指揮を取るともわからない。 応戦準備は常にしておかないと。 | ||
| アントニーナ | 聞けば、イオスフォロスのホワイトリストに載ったそうじゃないですか。その事実が役に立つことを祈りますよ。 | ||
| {教授} | 少なくとも、浄化者たちはこちらに敵意を見せていないだろう。 | ||
| アントニーナ | ええ、確かに……ついでに負傷者を治療してもらえると大助かりなんですが。 | ||
| ピピピピピッ! | |||
| アントニーナ | 哨戒タワーからの通信です、受けてください。 | ||
| 下位浄化者 | 【こちら浄化者No.05哨戒タワー】 | ||
| 下位浄化者 | 【前回の通信から10分が経過、大規模なウイルスは検知されていません】 | ||
| {教授} | ウイルスが時間を守ると思うか? すぐに到着する、そこで待ってろ。 | ||
| 下位浄化者 | 【哨戒タワーのゲートを開放する必要はありますか?】 | ||
| {教授} | ああ、頼むよ。開けてくれ。 | ||
| 下位浄化者 | 【リクエストを受理しました】 | ||
| そうこうしている間に、私たちは哨戒タワーの前へとたどり着いた。 私たちが近づくにつれ、巨大なゲートがゆっくりと開かれる。 | |||
| {教授} | 戦闘エージェントたちは負傷者を連れて先に中へ。 私とアントニーナが両側からサポートする。 | ||
| 戦闘エージェント | 了解! | ||
| ゲートをくぐると、威圧感に満ちた巨大な建造物が、私たちの前に現れた。 建物の影から一体の下位浄化者が現れ、こちらへとゆっくり浮遊してくる。 | |||
| 下位浄化者 | 【NullエリアNo.05哨戒タワーへようこそ】 | ||
| {教授} | 要請に応じたのは君か? | ||
| 下位浄化者 | 【はい。皆様のIDを提示願います】 | ||
| {教授} | 私たちにはイオスフォロスの許可が…… | ||
| その時、私の端末が鳴った。 | |||
| ピピピピピッ! | |||
| アントニーナ | 通信要請ですね。 | ||
| {教授} | クロックたちか? 君が出てくれ、私は浄化者と話をつけておく。 | ||
| アントニーナ | 了解。 | ||
| アントニーナは私から通信機を受け取って、部隊の後方へと下がり、通信を受けた。 私は下位浄化者に視線を戻す。相手は先ほどから微動だにしていない。 | |||
| {教授} | ……どうした?何か問題でも? | ||
| 下位浄化者 | 【権限の認証を終えていません、IDを提示してください】 | ||
| {教授} | わかったよ。 | ||
| {教授} | ここには君だけなのか? 他の浄化者はどこにいる? | ||
| 下位浄化者 | 【さらなる深みにいます】 | ||
| {教授} | 「さらなる深み」? 下位浄化者まで抽象的な言い回しをするようになったか。 それとも「イレギュラー」のような、浄化者特有の呼び方があるのか? | ||
| ぶつぶつと呟きながら、私は無意識に周囲を見渡した。 | |||
| 哨戒タワーの内部は清潔で静かだ、私たちのほかに人影はない。 | |||
| {教授} | ……みんな、待て。 なんだか様子がおかしい。 | ||
| 下位浄化者? | 【さらなる深みへと……彼らは……やがてたどり着く……】 | ||
| {教授} | 総員撤退! | ||
| 下位浄化者? | 【さらなる深みは……ここにある】 | ||
| 一瞬のうちに、浄化者の機械音声が女性の声に変わった。 黒と白の外見が、瞬く間に色濃くなってゆく。 | |||
| 下位浄化者? | 【いらっしゃい……No.05哨戒タワーへ、{教授}教授】 | ||
| それは聞き覚えのある声だった。 | |||
| 下位浄化者? | 【本日の演目を始めましょうか……】 | ||
| 下位浄化者? | 【ようこそ……あなたのために設えた……】 | ||
| エントロピー化した浄化者の背後から、禍々しい触手が放たれる。 私はとっさに背後へと飛び退いた。 刹那、何か冷たいものが首の後ろを掠める。 | |||
| {教授} | まずい、フェイントか―― | ||
| 鋭い刃が空を切り裂いて、間近へと迫った。 背後からの攻撃を避ける術はない。 しかし、次の瞬間―― | |||
| アントニーナ | 教授! | ||
| グサッ―― | |||
| アントニーナ | ……ぐっ…… | ||
| {教授} | アントニーナ!! | ||
| アントニーナ | 教授……これは、罠です…… | ||
| 黒紫色の鉤爪が、アントニーナの肩を貫いた。 | |||
| アントニーナの体を隔てて、オディールが私に微笑む。 | |||
| オディール | ようこそ、あなたのために設えた舞台へ。 | ||
| オディール | これは挨拶代わりよ、ご満足頂けた? |
