逆音共振 PART.1 由来

Last-modified: 2025-02-02 (日) 19:32:21

??緊張しているの、{教授}?
 銀髪の少女と私の体がぴったりと寄り添い合う。
彼女はかすかに目を上げ、真意の読めない眼差しを私の視線と絡ませた。
??今の情況が不安?それとも、私と二人きりだから?
??いずれにしても、私の気持ちは貴方と同じ。
??「貴方と私は同じ糸で、運命に紡がれている」
??貴方の傍にいるからかしら、心の動悸が止まないわ……
{教授}わ……私は不安なんて感じない。
 その場の雰囲気に呑まれ、取り留めもないセリフが口をついて出た。
{教授}ここで不安になっていたら、どうやって背後の君を守るんだ?
 その言葉を聞いた彼女は、小さく微笑んで優しく私の手をつないだ。
私はそのまま彼女を胸に抱き、防御態勢をとる。
 周囲から攻めくる黒い影たちは、意外にもその動きに慄いて足を止めた。
??そう言ってくれて、嬉しいわ……
??知ってる?貴方に出会うまで、人生は不自由なものだと思ってた。
??でもね、この先に答えがあろうとなかろうと、貴方となら受け止められる。今はそう思えるの。
 彼女は私の手を強く握りしめた、瞳に溢れんばかりの愛をたたえて。
??どうか私を連れていって、この果てなき檻から解き放ってちょうだい!
??貴方さえ、私と一緒に――
{教授}私は――
ペルシカ教授?
{教授}えっ!?
{教授}ペ、ペルシカ?どうしてここに?
??目を逸しちゃ駄目。
{教授}わ……私は……
 彼女は私の袖を引いた。ペルシカがこちらに迫ってくる。
 私は脳をフル回転させ、なぜこうなってしまったのかを思い出そうとした……
 
数日前、オアシス。
ペルシカお疲れ様です、教授。コーヒーはいかがですか?
{教授}ありがとう、もらうよ。
ペルシカまだ他セクターの資源をまとめているんですか?
{教授}うん、かなりの大仕事だからね。
ペルシカそうですね、私たちと提携を結ぶセクターも増えてきましたから。これも教授のおかげです。
(選択)1.まぁね、自分には恐れ入るよ。A
2.追放者がみんなで努力したおかげだ。B
Bペルシカまたご謙遜を。A
Aペルシカこの仕事が一段落したら、しばらくゆっくりなさっては?
{教授}そうだね、みんなにもちゃんとお礼がしたいし。
{教授}だけど、今考えてる余裕はないな。
エントロピーがどこから来たのかもわかってないし、
このところ他のセクターにもエントロピーが出現し始めている。
{教授}それにマグラシアじゃ、いつどんなハプニングが起きてもおかしくない……
 バンッ!
 そう言いかけたところで、何者かによって司令室の扉が突然押し開かれた。
クロ教授~~ッ!チャンスもチャンス、大チャンス!
{教授}ほらね、言った傍からこれだ……
ペルシカクロさん、入ってくる前に挨拶をしろとお伝えしたじゃありませんか。
クロチッ……ペルシカ、アタマ硬すぎ!今や時代はデジタルよ?時間イコール命、時間イコールアクセス数!んな挨拶してる暇あるかっつの!
クロあっ!も・し・か・し・て~……
クロ実は教授と二人っきりの時間を邪魔されたくなかったとか~?
ペルシカ
ペルシカゴホン。は、話を逸らさないでください。ご用件は何です?
クロちぇっ、つまんないの。
クロ教授!これこれ、これ見て!ビッグニュース!
 クロは有無を言わさずにデスクの前までやってくると、
ゴールドで縁取られた黒い封筒を私に突きつけた。
クロじゃじゃじゃじゃ~~ッん!どう、ビックリした?驚いた?
{教授}バーバンク……フェスティバル……?
 私は精緻な封筒を慎重に開けた。
中にはファッショナブルなデザインのブレスレットと、一枚の案内カードが入っている。
クロそうそうそう!サイバーメディアの技術力の結晶、バーバンクからの招待状!私とナナっぺが前にいたトコね!
クロバーバンクでフェスティバルが開催されるんだって!しかもこの招待状、オアシス宛てだよ!?
クロどう考えてもこのクロ様とナナっぺの威光によるタマモノでしょ。完全にひれ伏してるわこりゃ……
{教授}つまり、外出許可が欲しいと?
クロでっへっへ~、わかっちゃった~?さすがは教授、話が早い。なら無駄話はいらないね。
クロ私とナナっぺをバーバンクに行かせてくれたらぁ、トレンド最先端のお土産買ってきてあげるからさぁ~……
ペルシカだめです。
クロえ~っ!?
クロチッ、わかったよ……ペルシカが根に持つなんてね。謝ればいいんでしょ、謝れば!
クロえ~~ん、ごめんなさぁ~い!さっきのはただの冗談だからぁ!心のと~っても広いペルシカ様なら、バーバンクに行かせてくれるよね?ね、ね?
ペルシカそうじゃありません。クロさん、あなたのお気持ちはわかります。ですが、今オアシスを離れるのは危険です。
クロどして?エントロピーウィルスはもう解決したんでしょ?
ペルシカそれが先日、ヘリオスに変種が出現したんです……現在、医療部門が解析を急いでいます。
ペルシカ何かの前兆かもしれません、ここは慎重になったほうがよろしいかと。
ペルシカそれに、この招待状も気になりますし……
{教授}招待状が?
 ペルシカの怪訝な視線に気づき、私は案内カードを取り出して裏返してみた。
裏側には真っ赤なルージュの痕が付いている。
{教授}{教授}へ……
クロ口紅がなんだってのさ!「不夜城」のイメージにぴったりのプロモーションじゃん!
{教授}書かれてる内容によると、この案内カードを持って入場すれば、
専属エージェントがバーバンクを案内してくれるそうだ。
クロへ~!バーバンクの専属ガイドかぁ~、きっと超がつく美女なんだろうな~!教授、大人気だねぇ~?
(選択)1.サイコーだな。C
2.どうにも怪しい……D
Cペルシカきょ、教授?目を覚ましてください、どう見ても罠ですよ!
ペルシカそもそもバーバンクを訪れたこともないのに、相手はなぜ教授のお名前を?E
Dペルシカそ、そうですよ、怪しすぎます!なぜバーバンクのエージェントが教授のお名前を?E
Eクロべつに変じゃないと思うけど?マグラシアで暴れまわってる教授だよ、トレンド入りしてないほうがオカシイって!
ペルシカでも万が一……
クロ万が一なに!?
 クロは思いっきり床を踏みつけた。
ドローンがオフィス内をぐるんと飛び回る。
{教授}ペルシカの心配ももっともだ。まずは安全かどうか確認しよう。
 そう言って私は通信装置を開いた。
{教授}アントニーナ、これなんだけど――
アントニーナ了解。
{教授}さすがはアントニーナ、瞬時に理解するとは。
アントニーナ……
アントニーナひととおり検査し終えました。デジタルシグネチャに問題ありません、確かにバーバンクのエージェントからのものです、それもアドミニストレータークラスの。
クロほらぁ!アンナもそう言ってるじゃん!
アントニーナアントニーナです。
 【通信終了】
クロこれなら問題ないでしょ?
クロまったくさ~、あんたらが真面目すぎるからオアシスがこんなにタイクツなんじゃん!新しい映画もない、新作ゲームもない!
クロあの面白いグッズ売ってたキツネまで来なくなっちゃったしさ!
クロ教授が石頭だから商売あがったりなんでしょーよ!老人ホームまっしぐらだよ、こんなんじゃ!
ペルシカリコさんは他セクターでの仕事もありますから、訪問が途絶えても不思議じゃないですよ。
ペルシカリコさんの近況は確かに気がかりですが……
{教授}言われてみれば、最近リコの存在感が薄くなってるな。
通貨トレーダーがいないと、オペランドを整理するのも大変なんだ……
クロぬあああああ……おたくらの愚痴とかマジでどーでもいいんだけど!?
クロしゃーない。こうなったら、あることないこと言いふらしちゃおーっと!
クロ『衝撃!教授とペルシカがオフィスであーんなことやこーんなことまで……!?』
{教授}君ね……
 百面相に忙しいクロを見て、私は泣くに泣けず笑うに笑えなかった。
{教授}まぁ、君の言い分にも一理あるけどね。
クロへっ?
ペルシカ教授?それって……
{教授}ちょうど、各セクターのオペランド配分をまとめてたところだし。
ペルシカええ……中でもサンドボックス障壁を起動したロッサム、キュクロプス、ヘリオス、エニグマ――
ペルシカこの四つのセクターはどれも封鎖的で他セクターとの交流経験に乏しく、作業は難航しています。
ペルシカリコさんが早く戻ってくれると良いんですが……
{教授}その通り、仕事が一向に終わらない理由は二つ。
リコがいないのと、セクターが封鎖的だからだ。
{教授}より流動性の高いセクターに接触して、オペランド配分のルートを増やす必要がある。
ペルシカ……確かに、バーバンクは規模が大きく、オペランド配分に長けたエージェントを数多く所有しています。ターゲットとしては申し分ないですね。
{教授}それに、七花とクロはバーバンクでの知名度も高い。
私たちとバーバンクの架け橋になってくれるはず。
ペルシカお……仰る通りです……
ペルシカバーバンクの手助けがあれば、ヘリオスで起きたエントロピー事件の調査もだいぶ楽になります。
ペルシカですが……この招待状がどうしても気になって……
{教授}どうだろうね。バーバンクに私の名前が知れ渡っていてもおかしくはないが、
このタイミングはさすがに妙だ。
{教授}バーバンク付近は調べたか?
ペルシカおそらくはまだ。偵察小隊は提携したセクター周辺の調査を優先しますから。
{教授}それなら、彼らが偵察し終えてから行動に移そう。
まぁ、フェスティバルへの参加は見送ることになるけど……
クロうぁああーーッとぉ!!やっぱ考え過ぎも良くないよね!?ここはクロ様にまっかせなさ~い!
クロほい、ポチっとな。
システムスレッドの書き込みに成功しました。
 ……
 ピピピピピッ!
{教授}!?
 メッセージの着信音が狂ったように鳴り出した。
私のスクリーンが赤いドットで埋め尽くされる。
ソルえーーッ!?教授があたしらへのお礼に、バーバンクフェスに連れてってくれるって!?ほんとなの?
七花にゃ~ん!教授、ありがと~☆今回のフェス、すっごく楽しみにしてたんだー!
クロック新しいプロジェクトがあるから行けないけど、行列並んでフェスティバル限定フィギュア買ってきてくれるなら、許してあげないこともないかな……
{教授}クロ……一体何を……
クロべっつにぃ~?(ポチっとね)
{教授}送信記録を削除したって無駄だ!
クロぬふふふ……教授、皆の期待に背くことが、果たしてキミにできるかね?
クロみーんな一生懸命お仕事頑張ってたんだしさーあ、ここはひ・と・つ――
{教授}う……
 スクリーン上ではしゃぐみんなの姿を前にすると、
どうにも数々の正論が喉に詰まったまま出てこない。
{教授}はぁ……仕方ない……
{教授}ついでにバーバンクのアドミニストレーターの信頼を得られれば、
無駄足にはならないか。
ペルシカ教授、それはつまり……
(選択)1.みんなのためだ。F
2.君のためだ。G
F{教授}希たちのおかげで、ヘリオスのほうはなんとかなりそうだ。
あとはアントニーナとシーモに任せよう。
H
G{教授}前から君と一緒に休暇を取りたいと思ってたんだ、ペルシカ。
ペルシカ……H
Hペルシカわかりました。すぐにアドミニストレーターとの交渉材料の用意と、人員の手配を済ませておきます……
クロクロちゃんはさっそく荷物をまとめてきま~すッ!よっしゃあああッ!!祭だ祭だぁぁーーッ!
 そうして、私たちのバーバンクへの旅は、慌ただしくも幕を開けたのだった。