逆音共振 PART.11 祝典

Last-modified: 2025-02-02 (日) 20:28:44

バーバンクセクター、ルーナピエナ劇場。
 無数の弾幕と歓声に包まれていた七花は、
曲を歌い終えると観客に向かって深々とお辞儀をした。
七花みんなー、応援ありがとーー♥
エージェントたちアンコール!アンコール!
 エージェントたちの歓声とともに、
客席からのプレゼントが次々とステージ上に流れてゆく。
ガーゴイルガッ――ギギ……
 次の瞬間、絢爛たる光をまとうガーゴイルたちが黒く染まったかと思うと、
束縛をふりはらい七花へと襲いかかった。
エージェントたちあっ!!
エージェントあ、あれは――
クロダークレンジャーの眷属だ!
クロ忌々しいガーゴイルどもめ、これでもくらえッ!
 観客の驚く声に混じって、オペランドを凝集させた砲弾が放たれ、
それに命中したガーゴイルが音を立てて倒れた。
エージェントクロ様ーーッ!!
 配信ルームに乗り込んだクロが急降下し、
ステージ上にいた七花をキャッチして再び上昇する。
クロまさかダークレンジャーの眷属が、こんなとこに現れるなんて!
七花異相レンジャーたちの最終決戦が起ころうとしてる……バーバンクのみんな!!
七花突然でびっくりしたよね!悪者たちがまるで楽譜のモルデントみたいに、メロディと互いに同調し合いながら、ルーナピエナの舞台へと集まってきたよ!
七花でもね、七花は信じてる。私たちの奏でる大いなる音色なら、この不協和音をコンチェルトに変えられるって!
クロさぁて、いよいよ始まるぜ!フェスティバル特別プログラム――「逆音共振《モルデント・レゾナンス》」!!
クロセクターの平和はみんなの応援にかかってるからね!期待してるよ~!
エージェントえっ、うそ、台本だったの……凄すぎない?
エージェントあの引きこもりアドミニストレーター、今回は大胆に出たなー……
エージェントラスト、やっぱり異相レンジャーだった!異相レンジャーΩとダークレンジャーNの決闘か……どうなるんだろう?
エージェント初登場の異相レンジャーSもいるしね、めっちゃ期待!
 エージェントたちが熱烈な討論を繰り広げている。
ガーゴイルが稼働停止したのを見て、宙に浮かぶ二人はようやく胸をなでおろした。
七花クロ、さっきのセリフ、すっごくよかった!
クロへっへ~、私ってば演技の才能あったりして?ナナっぺもサイコーだったじゃん!
七花にゃ……実は、結構緊張してたんだ。ステージは何度も経験してるけど、今回は大事な役目もあるしね……
七花異相レンジャーΩは絶対に現れるって教授が言ってた……本当に来るのかな?
クロ安心しなって。私にゃ遥かに及ばないけど、こういう時の教授って頼りになるんだから。
クロってなわけで、ステージ任務クリア!こっからの観客席の安全は、クロ様にどーんとまかせとけ!
七花うん、そうだね。ここからの主役はソルたちだもん。
 クロは配信ルームを操縦し、観客席の後方へゆっくりと下りてきた。
一方、七花は光の灯る方向を見つめている。
七花がんばれ、ソル、ナシタさん。あとは頼んだからね。
 
 ステージの端。
ナシタかなり盛り上がってるな。
ソルほんとだね……こんなに賑やかなの久しぶりだよ。
ナシタ他のセクターはこうじゃないのか?
ソルうん、違う。
 ソルは顔を上げた。遠くにうっすらと輝くセクターの境界、
そして明々と輝くネオンへと順に視線を巡らせると、
彼女は最後に目の前ではしゃぐ人々を見た。
ソルあたしたちは教授と一緒に、命を呑み込もうとするデータのブラックホールとか、汚染された桃源郷とか、恐ろしいほど広くて静かな海とか、そういうのを見てきた。
ソルだけど、ここはぜんぜん違う。観測隊時代を思い出すよ。みんな笑顔で、お互いを励まし合いながら、理想の未来を追いかけてる。
ナシタまるで主人公の発言だな。
ソルそうかな?あたしはただ、彼らの夢を守りたかっただけ。この剣はそのためにあるんだから。
ナシタたとえ、悪役を演じることになっても?
ソルあー、それは無理かな。ナシタみたいに上手くやれる自信ない。
ナシタなら、ソルは主役でいてくれ。あたしがサポートする。
ナシタ全力で応えるさ、お前の本気にな!
ソルうん、あたしも頑張る!準備は整ったね、あとは監督の指示を――
 ピピピッ――
 突然の通信音が、二人の会話を遮った。
ソルとナシタは視線を通わせ、これから訪れる正念場への意志を固める。
メリル劇場の西側に異常反応、かなりのスピードでステージに接近してきてる。
 
イオスメリルさんから通信よ、異相レンジャーΩが舞台へと近づいてるわ。
イオス予想が的中したわね、教授?
{教授}エージェントを守るだけの人手がなければ、
すべてのエージェントを一箇所にまとめてしまえばいい。
エントロピーなら、ターゲットが集中している場所に現れるはず。
{教授}単なる推測だけどね、ほぼ賭けだった。
イオスどうやら、賭けには勝てたみたい。
{教授}これは始まりに過ぎないよ。賭けの結果は、今後の計画にかかってる。
イオスふふふ、サプライズがお上手だこと。さて、この舞台で一体何が起こるのかしら……?
{教授}あなたの期待に添えられるといいけど。
 私はイヤホンマイクを軽く押さえて、計画に関わる全メンバーに情報を同期した。
{教授}舞台の幕が上がる。
 
ソル出番だよ、ナシタ。準備はいい?
ナシタ……ああ、準備オーケーだ。
 ナシタは通信を切ると、視線をステージに向けた。
ガーゴイルガガッ……
 黒い霧が立ち込める。倒したはずのガーゴイルたちが、
暗闇の中から再び蘇るかのように、小刻みに震え始めた。
 ナシタはとあるガーゴイルの頭部を踏みつけたまま、
深呼吸をして変身アイテムに手をかけた。
 演算力の稼働効率を限りなく抑える。誰も変身には気づいていない。
 パッ――
 ふいに音楽が止んだかと思うと、劇場全体が闇に包まれた。
エージェントな、なに、どうしたの?
エージェントいよいよ始まるのかな?
 話し声が徐々に静まってゆく。
エージェントたちは興奮した笑顔を浮かべ、瞳には輝くような期待を宿らせている。
ナシタ(みんなと一緒にエージェントたちの笑顔を守る。そうだ、それがあたしの願い……)
ナシタ(あたしだけじゃない。みんながフェスティバルの成功を、今までの努力が報われることを願ってる)
 漆黒のオペランドが彼女の身を包んだ。ダークレンジャーNが自分の台詞を叫ぶ。
ダークレンジャーN光に濡れそぼつだけの、何も知らない人間どもよ――
ダークレンジャーN貴様らへの罰を届けに来たぞ!