逆音共振 PART.12 不夜

Last-modified: 2025-02-02 (日) 20:30:50

バーバンクセクター、アドミンセンター。
 メリルはすべてのスクリーンを監視していた。
中央にあるいくつかの画面には、フェスティバルの様子が映し出されている。
メリル全編アドリブみたいな脚本なのに、ここまで演れるなんてね。面白い、なんて面白いの!
メリルここ数年で、人形の素質もますます向上してるわけだ。
ネコニャーオ。
 どこからともなく現れたカラフルな猫が、
コードと置物の間を器用にくぐり抜け、メリルの懐に潜り込んだ。
メリル猫?いったいどこから……
メリルふーん、私の脚本に興味があるの?良い趣味してるじゃない。
 猫は質問がわからないと言わんばかりにデスクに飛び乗ると、
巡視するように周囲を散策し始めた。
メリルあ、ちょっと、気をつけなさい!そこにはインクが……
 カランッ。
 デスク上のインク瓶が猫の尻尾にはたかれ、広げておいた脚本にシミを作った。
メリルあ~あ~、ページが台無しじゃない……こいつ、お仕置きしてやる!
ネコニャッ!?
 驚いた猫は、慌ててデスクから飛び降り、どこかへと逃げていった。
 メリルは脚本を手に取ると、注意深く表面のインクを拭った。
メリルん……このページの台詞はナシタか。一つ目は――
 
ダークレンジャーN光に濡れそぼつだけの、何も知らない人間どもよ――貴様らへの罰を届けに来たぞ!
 見れば、黒い炎を燃やしたダークレンジャーNが、
いつの間にかガーゴイルの頭上に立っている。
異相レンジャーSお前は、ダークレンジャーN!
ダークレンジャーN見たか、異相レンジャーS?これぞ漆黒へと至る夜!
ダークレンジャーNガーゴイルどもは暗黒に操られている。そして、お前の友人――{教授}とその恋人も危険な状態だ。
 ステージの端で縛り上げられ、蒼白の表情で周囲を見渡す私とイオスが、
スポットライトに照らされる。
異相レンジャーS……そんな、あの人を人質にするなんて!卑怯だぞ、ダークレンジャーN!
ダークレンジャーN暗黒に抗うには、何かが犠牲になるものだ。
ダークレンジャーNさぁ、異相レンジャーS。ここにいる観客全員の命、そしてお前の愛する者の命。どちらを選ぶのだ?
異相レンジャーSくそ……あたしはどっちも諦めないぞ!
ダークレンジャーN口ではどうとでも言えるさ、行動で示してもらおうか!
小さなエージェント異相レンジャーSになら、絶対にできるもん!
小さなエージェントSーーッ!がんばれーーッ!試練をクリアして、ダークレンジャーNを仲間にしちゃえ!
エージェントなにあの子?幼児エリアのエージェントかな?
エージェントバカみたい、NとSが仲間になるわけないのに。
小さなエージェントNだって正義のヒーローなんだよ!?あたしを助けてくれたんだから!
小さなエージェントなんにもできないけど……応援ならできる!あたしも異相レンジャーの仲間だって、二人が言ってたもん!
 
 私とイオスは舞台の上から、観客席のエージェントたちを見下ろしていた。
イオスびっくりするほど元気ね、一般のエージェントとは雲泥の差だわ。
(選択)1.確かに、マグラシアにいる大多数のエージェントとは違うね。A
2.やっぱりエージェントはこうでなきゃ。B
3.異相レンジャーΩはまだ現れてない、気を抜かないで。C
Aイオスあまり驚かないのね。D
Bイオスこういうエージェントを前にも見たことが?D
Cイオス無粋な人ね……でも、それが指揮者の矜持というものなのかしら?D
D 会話の途中で、通信チャンネルから声が響いた。
ペルシカみなさん、気をつけて!ターゲットが舞台左袖に現れました!
 私はペルシカの示した方に目を向けた。
 するとそこに、ねじ曲がった黒い人影が音もなく姿を現した。
暗く冷たい視線でこちらを睨んでいる。
異相レンジャーΩ?ア……アガガ、ギ……
 白くポップな色合いの戦闘服は、とうに黒紫色に染まりきっていた。
肩部を突き破り蠢く触手が、その者がすでに光の守護者ではない事を告げている。
{教授}やっぱり現れたわね。メリルさん、計画通り観客をお願い。
メリルご丁寧にどうも。第二ステージの浮遊プログラムはとっくに稼働してるわ。
 すると、私たちのいるステージが突如宙に浮かんだ。
周囲に現れた4枚のスクリーンには、引き続き戦いの様子が映し出されている。
異相レンジャーSステージを宙に上げちゃえば、観客が攻撃される心配はないわけだ!
ダークレンジャーN果たしてそうかな?
ダークレンジャーN痛みに絶望しているのが、私だけだと思ったか?
異相レンジャーSな、なんだと……うっ!?
 次の瞬間、急に黒い人影が異相レンジャーSの側へと現れた。
Sは間一髪で攻撃を防ぐも、凄まじい力で弾き飛ばされてしまう。
その衝撃で舞台のセットがバラバラになる。
異相レンジャーSお前は……
エージェント誰、あれ?
エージェントもしかして……異相レンジャーΩ?
エージェントでも、あのコスチューム……ど、どうなってるの……?
 異相レンジャーΩは、冷暗とした眼差しであたりを見渡した。
その視線を受けた観客が背筋を凍らせている。
異相レンジャーS異相レンジャーΩ……まさか、お前が裏切るなんて……
異相レンジャーSもしかして、始めから……!?
異相レンジャーΩ……
 異相レンジャーSの問いかけには答えずに、Ωは手を掲げた。
 ガーゴイルたちが黒い霧の中から次々と姿を現し、
異相レンジャーΩと同じ黒紫色へと変化してゆく。
エージェントな、なにこの超展開?
エージェントわ、わかんない!でも言われてみれば……今まではガーゴイルが暴れてから異相レンジャーΩが駆けつけてた……
エージェント主人公だと思ってたのに、こいつが敵のボスだったの!?
異相レンジャーΩグァァッ!!
 観客の議論をよそに、暗黒の鎧を身に付けた異相レンジャーΩは大きな咆哮を上げた。
エージェントひ、人質をどうするつもり……!?
 異相レンジャーΩは、躊躇うことなく私へと襲いかかった。
その攻撃を透明なシールドが防ぐ。
 星のようにキラキラと輝くシールドが一瞬にして砕け散った。
続いてダークレンジャーNが頭上より舞い降りて、Ωの攻撃を弾いた。
ダークレンジャーN私たちの邪魔をするな。
異相レンジャーΩグァァッ!!
ダークレンジャーN……話は通じそうもないな、かまわん。
 彼女はそう言って手を振ると、私とイオスの束縛を解いた。
ダークレンジャーN今は試練の時ではない、行け。
ナシタターゲットは無事におびき出せた。ここは危険だ、お前たちは早く立ち去れ。
イオス教授の安全は私が守るわ。
ナシタああ、頼んだ。
 
 舞台の下では、観客たちが混乱に陥っていた。
エージェントえっ、どういうこと?どうしてNが手を出すの?
小さなエージェントほら、言ったじゃん!Nは正義の味方だって!
エージェント参加型のイベントじゃなかったの?なんでステージが宙に上がったままなのよ?あぁ、じれったい!
エージェントあたしたちじゃ何も手伝えないって、バトルロイヤルじゃあるまいし。
エージェントならここで眺めてるだけ?異相レンジャーならぬ鑑賞レンジャーってか?ヤダよそんなの。
エージェント同感……でも、あたしたちにできることなんて……
 
イオス魂の黒夜のごとく、人は暗ければ暗いほど、光を渇望するようになる……
イオス観客たちの準備も整ったみたいね。
{教授}メリルの監督としての腕前は、一介のエージェントだとは思えない。
イオス知能と権力が十分に与えられていれば、エージェントにも波紋を引き起こすことは可能よ。アドミニストレーターなら尚の事。
イオスそれにしても……ソルさんやナシタさんがガーゴイルを牽制してはいるけど、全員を救うのは難しそうね。
イオス彼女たちだけでは、力不足だったんじゃない?
(選択)1.なにせ、主役はまだ揃ってないからね。E
2.最後まで見届ければわかるよ。F
Eイオスそれって……F
Fイオスなるほど、何か手を打っているわけね。
イオスそれなら、最後まで吟味させて頂こうかしら。この舞台の魅力を。
 
異相レンジャーSどうして手出しした、N。やっぱり完全には悪に染まっていないんだな?
ダークレンジャーN私のことなどどうでもいい。今のお前の相手は異相レンジャーΩだ。
ダークレンジャーN奴はもはや光を信じない、お前は仲間を失った。
ダークレンジャーN異相レンジャーS。この期に及んで、まだ正義を貫くつもりか?
異相レンジャーSどんな困難が待ち受けていようと、あたしは絶対にみんなを守る!
ダークレンジャーNなぜそう融通が利かんのだ!?無意味な正義など笑い種になるだけだ!
 ダークレンジャーNが問い詰めようとした矢先、
異相レンジャーSはエントロピー化したΩとガーゴイルの攻撃に推され、
舞台の端へと追い詰められてしまう。
ダークレンジャーNまわりを見てみろ!お前には何もできやしない!
異相レンジャーS正義の力を……甘く見るな!
 異相レンジャーSはかろうじて一体のガーゴイルを退けた。
その隙間から迫りくるΩの刃が、彼女のヘルメットをかすめる。
マスクが砕け、ソルの頬に刻まれた深い傷があらわとなった。
 それでも、彼女の瞳に宿る信念の炎は、輝きを増すばかりだ。
異相レンジャーSできることは、あるよ……!あたしにも、あたしの仲間にも、ここにいるみんなにも!まだできることは残ってる!
異相レンジャーS正義はあたしだけのものじゃない、正義は一人ひとりの心に宿ってるんだ!
異相レンジャーSみんな……どうかあたしに、力を貸して!!
 異相レンジャーSがそう言い放つと、バーバンクセクターの空が煌めき、
巨大なプログレスバーが夜空に浮かびあがった。
 メリルの声がセクターに響き渡る。
メリルの声異相レンジャーΩの突然の裏切り、そして彼に操られる無数のガーゴイルたち。
セクターは今まさに、前代未聞の危機に陥った!
メリルの声異相レンジャーSがどれだけ勇敢だろうと、この数が相手では多勢に無勢。
そう、彼女は窮地に立たされている。
メリルの声けれど、異相レンジャーSはけして孤独じゃない。
彼女の言うように、正義の力はすべての人の心に存在するのだから!
メリルの声フェスティバルにご来場頂いた皆さん、手元のブレスレットをご覧なさい。
メリルの声新たなプログラムのダウンロードが完了したわ。
その手のブレスレットを掲げ、希望をパワーへと変えるのよ!
エージェントあっ、プログラムの説明だ……「ブレスレットを消滅させると、蓄積したオペランドが正義の異相レンジャーたちへと転送されます」
エージェントまだあるよ、「もしくは戦いに加わることも可能です」だって。どういう意味だろ?
エージェントやってみるね……
 真っ暗な観客席の中で、一人のエージェントが率先して手を挙げた。
 ブレスレットが煌めきながら消滅し、一筋の眩しい光がそれを包む。
エージェントな、なにこれ……うわっ!?あ、あたしまで異相レンジャーになってる!?
エージェントうそっ!?あ、あたしも……なんか、力がみなぎってきた感じする!
メリルの声異相レンジャーにオペランドを転送し、彼女たちを勝利へと導くか。
メリルの声異相レンジャーに変身してガーゴイルどもを倒し、この危機を脱するか。
メリルの声結末を選ぶ権利は、今やあなたたちの手に握られている。
メリルの声この世は誰もが一般人で、誰もが物語の主人公。
みんな、どうか大団円のために力を貸して!
エージェントたちの歓声おぉぉぉぉーーーッ