バーバンクセクター、アドミンセンター。 | |||
メリルはすべてのスクリーンを監視していた。 中央にあるいくつかの画面には、フェスティバルの様子が映し出されている。 | |||
メリル | 全編アドリブみたいな脚本なのに、ここまで演れるなんてね。面白い、なんて面白いの! | ||
メリル | ここ数年で、人形の素質もますます向上してるわけだ。 | ||
ネコ | ニャーオ。 | ||
どこからともなく現れたカラフルな猫が、 コードと置物の間を器用にくぐり抜け、メリルの懐に潜り込んだ。 | |||
メリル | 猫?いったいどこから…… | ||
メリル | ふーん、私の脚本に興味があるの?良い趣味してるじゃない。 | ||
猫は質問がわからないと言わんばかりにデスクに飛び乗ると、 巡視するように周囲を散策し始めた。 | |||
メリル | あ、ちょっと、気をつけなさい!そこにはインクが…… | ||
カランッ。 | |||
デスク上のインク瓶が猫の尻尾にはたかれ、広げておいた脚本にシミを作った。 | |||
メリル | あ~あ~、ページが台無しじゃない……こいつ、お仕置きしてやる! | ||
ネコ | ニャッ!? | ||
驚いた猫は、慌ててデスクから飛び降り、どこかへと逃げていった。 | |||
メリルは脚本を手に取ると、注意深く表面のインクを拭った。 | |||
メリル | ん……このページの台詞はナシタか。一つ目は―― | ||
ダークレンジャーN | 光に濡れそぼつだけの、何も知らない人間どもよ――貴様らへの罰を届けに来たぞ! | ||
見れば、黒い炎を燃やしたダークレンジャーNが、 いつの間にかガーゴイルの頭上に立っている。 | |||
異相レンジャーS | お前は、ダークレンジャーN! | ||
ダークレンジャーN | 見たか、異相レンジャーS?これぞ漆黒へと至る夜! | ||
ダークレンジャーN | ガーゴイルどもは暗黒に操られている。そして、お前の友人――{教授}とその恋人も危険な状態だ。 | ||
ステージの端で縛り上げられ、蒼白の表情で周囲を見渡す私とイオスが、 スポットライトに照らされる。 | |||
異相レンジャーS | ……そんな、あの人を人質にするなんて!卑怯だぞ、ダークレンジャーN! | ||
ダークレンジャーN | 暗黒に抗うには、何かが犠牲になるものだ。 | ||
ダークレンジャーN | さぁ、異相レンジャーS。ここにいる観客全員の命、そしてお前の愛する者の命。どちらを選ぶのだ? | ||
異相レンジャーS | くそ……あたしはどっちも諦めないぞ! | ||
ダークレンジャーN | 口ではどうとでも言えるさ、行動で示してもらおうか! | ||
小さなエージェント | 異相レンジャーSになら、絶対にできるもん! | ||
小さなエージェント | Sーーッ!がんばれーーッ!試練をクリアして、ダークレンジャーNを仲間にしちゃえ! | ||
エージェント | なにあの子?幼児エリアのエージェントかな? | ||
エージェント | バカみたい、NとSが仲間になるわけないのに。 | ||
小さなエージェント | Nだって正義のヒーローなんだよ!?あたしを助けてくれたんだから! | ||
小さなエージェント | なんにもできないけど……応援ならできる!あたしも異相レンジャーの仲間だって、二人が言ってたもん! | ||
私とイオスは舞台の上から、観客席のエージェントたちを見下ろしていた。 | |||
イオス | びっくりするほど元気ね、一般のエージェントとは雲泥の差だわ。 | ||
(選択) | 1.確かに、マグラシアにいる大多数のエージェントとは違うね。 | A | |
2.やっぱりエージェントはこうでなきゃ。 | B | ||
3.異相レンジャーΩはまだ現れてない、気を抜かないで。 | C | ||
A | イオス | あまり驚かないのね。 | D |
B | イオス | こういうエージェントを前にも見たことが? | D |
C | イオス | 無粋な人ね……でも、それが指揮者の矜持というものなのかしら? | D |
D | 会話の途中で、通信チャンネルから声が響いた。 | ||
ペルシカ | みなさん、気をつけて!ターゲットが舞台左袖に現れました! | ||
私はペルシカの示した方に目を向けた。 | |||
するとそこに、ねじ曲がった黒い人影が音もなく姿を現した。 暗く冷たい視線でこちらを睨んでいる。 | |||
異相レンジャーΩ? | ア……アガガ、ギ…… | ||
白くポップな色合いの戦闘服は、とうに黒紫色に染まりきっていた。 肩部を突き破り蠢く触手が、その者がすでに光の守護者ではない事を告げている。 | |||
{教授} | やっぱり現れたわね。メリルさん、計画通り観客をお願い。 | ||
メリル | ご丁寧にどうも。第二ステージの浮遊プログラムはとっくに稼働してるわ。 | ||
すると、私たちのいるステージが突如宙に浮かんだ。 周囲に現れた4枚のスクリーンには、引き続き戦いの様子が映し出されている。 | |||
異相レンジャーS | ステージを宙に上げちゃえば、観客が攻撃される心配はないわけだ! | ||
ダークレンジャーN | 果たしてそうかな? | ||
ダークレンジャーN | 痛みに絶望しているのが、私だけだと思ったか? | ||
異相レンジャーS | な、なんだと……うっ!? | ||
次の瞬間、急に黒い人影が異相レンジャーSの側へと現れた。 Sは間一髪で攻撃を防ぐも、凄まじい力で弾き飛ばされてしまう。 その衝撃で舞台のセットがバラバラになる。 | |||
異相レンジャーS | お前は…… | ||
エージェント | 誰、あれ? | ||
エージェント | もしかして……異相レンジャーΩ? | ||
エージェント | でも、あのコスチューム……ど、どうなってるの……? | ||
異相レンジャーΩは、冷暗とした眼差しであたりを見渡した。 その視線を受けた観客が背筋を凍らせている。 | |||
異相レンジャーS | 異相レンジャーΩ……まさか、お前が裏切るなんて…… | ||
異相レンジャーS | もしかして、始めから……!? | ||
異相レンジャーΩ | …… | ||
異相レンジャーSの問いかけには答えずに、Ωは手を掲げた。 | |||
ガーゴイルたちが黒い霧の中から次々と姿を現し、 異相レンジャーΩと同じ黒紫色へと変化してゆく。 | |||
エージェント | な、なにこの超展開? | ||
エージェント | わ、わかんない!でも言われてみれば……今まではガーゴイルが暴れてから異相レンジャーΩが駆けつけてた…… | ||
エージェント | 主人公だと思ってたのに、こいつが敵のボスだったの!? | ||
異相レンジャーΩ | グァァッ!! | ||
観客の議論をよそに、暗黒の鎧を身に付けた異相レンジャーΩは大きな咆哮を上げた。 | |||
エージェント | ひ、人質をどうするつもり……!? | ||
異相レンジャーΩは、躊躇うことなく私へと襲いかかった。 その攻撃を透明なシールドが防ぐ。 | |||
星のようにキラキラと輝くシールドが一瞬にして砕け散った。 続いてダークレンジャーNが頭上より舞い降りて、Ωの攻撃を弾いた。 | |||
ダークレンジャーN | 私たちの邪魔をするな。 | ||
異相レンジャーΩ | グァァッ!! | ||
ダークレンジャーN | ……話は通じそうもないな、かまわん。 | ||
彼女はそう言って手を振ると、私とイオスの束縛を解いた。 | |||
ダークレンジャーN | 今は試練の時ではない、行け。 | ||
ナシタ | ターゲットは無事におびき出せた。ここは危険だ、お前たちは早く立ち去れ。 | ||
イオス | 教授の安全は私が守るわ。 | ||
ナシタ | ああ、頼んだ。 | ||
舞台の下では、観客たちが混乱に陥っていた。 | |||
エージェント | えっ、どういうこと?どうしてNが手を出すの? | ||
小さなエージェント | ほら、言ったじゃん!Nは正義の味方だって! | ||
エージェント | 参加型のイベントじゃなかったの?なんでステージが宙に上がったままなのよ?あぁ、じれったい! | ||
エージェント | あたしたちじゃ何も手伝えないって、バトルロイヤルじゃあるまいし。 | ||
エージェント | ならここで眺めてるだけ?異相レンジャーならぬ鑑賞レンジャーってか?ヤダよそんなの。 | ||
エージェント | 同感……でも、あたしたちにできることなんて…… | ||
イオス | 魂の黒夜のごとく、人は暗ければ暗いほど、光を渇望するようになる…… | ||
イオス | 観客たちの準備も整ったみたいね。 | ||
{教授} | メリルの監督としての腕前は、一介のエージェントだとは思えない。 | ||
イオス | 知能と権力が十分に与えられていれば、エージェントにも波紋を引き起こすことは可能よ。アドミニストレーターなら尚の事。 | ||
イオス | それにしても……ソルさんやナシタさんがガーゴイルを牽制してはいるけど、全員を救うのは難しそうね。 | ||
イオス | 彼女たちだけでは、力不足だったんじゃない? | ||
(選択) | 1.なにせ、主役はまだ揃ってないからね。 | E | |
2.最後まで見届ければわかるよ。 | F | ||
E | イオス | それって…… | F |
F | イオス | なるほど、何か手を打っているわけね。 | |
イオス | それなら、最後まで吟味させて頂こうかしら。この舞台の魅力を。 | ||
異相レンジャーS | どうして手出しした、N。やっぱり完全には悪に染まっていないんだな? | ||
ダークレンジャーN | 私のことなどどうでもいい。今のお前の相手は異相レンジャーΩだ。 | ||
ダークレンジャーN | 奴はもはや光を信じない、お前は仲間を失った。 | ||
ダークレンジャーN | 異相レンジャーS。この期に及んで、まだ正義を貫くつもりか? | ||
異相レンジャーS | どんな困難が待ち受けていようと、あたしは絶対にみんなを守る! | ||
ダークレンジャーN | なぜそう融通が利かんのだ!?無意味な正義など笑い種になるだけだ! | ||
ダークレンジャーNが問い詰めようとした矢先、 異相レンジャーSはエントロピー化したΩとガーゴイルの攻撃に推され、 舞台の端へと追い詰められてしまう。 | |||
ダークレンジャーN | まわりを見てみろ!お前には何もできやしない! | ||
異相レンジャーS | 正義の力を……甘く見るな! | ||
異相レンジャーSはかろうじて一体のガーゴイルを退けた。 その隙間から迫りくるΩの刃が、彼女のヘルメットをかすめる。 マスクが砕け、ソルの頬に刻まれた深い傷があらわとなった。 | |||
それでも、彼女の瞳に宿る信念の炎は、輝きを増すばかりだ。 | |||
異相レンジャーS | できることは、あるよ……!あたしにも、あたしの仲間にも、ここにいるみんなにも!まだできることは残ってる! | ||
異相レンジャーS | 正義はあたしだけのものじゃない、正義は一人ひとりの心に宿ってるんだ! | ||
異相レンジャーS | みんな……どうかあたしに、力を貸して!! | ||
異相レンジャーSがそう言い放つと、バーバンクセクターの空が煌めき、 巨大なプログレスバーが夜空に浮かびあがった。 | |||
メリルの声がセクターに響き渡る。 | |||
メリルの声 | 異相レンジャーΩの突然の裏切り、そして彼に操られる無数のガーゴイルたち。 セクターは今まさに、前代未聞の危機に陥った! | ||
メリルの声 | 異相レンジャーSがどれだけ勇敢だろうと、この数が相手では多勢に無勢。 そう、彼女は窮地に立たされている。 | ||
メリルの声 | けれど、異相レンジャーSはけして孤独じゃない。 彼女の言うように、正義の力はすべての人の心に存在するのだから! | ||
メリルの声 | フェスティバルにご来場頂いた皆さん、手元のブレスレットをご覧なさい。 | ||
メリルの声 | 新たなプログラムのダウンロードが完了したわ。 その手のブレスレットを掲げ、希望をパワーへと変えるのよ! | ||
エージェント | あっ、プログラムの説明だ……「ブレスレットを消滅させると、蓄積したオペランドが正義の異相レンジャーたちへと転送されます」 | ||
エージェント | まだあるよ、「もしくは戦いに加わることも可能です」だって。どういう意味だろ? | ||
エージェント | やってみるね…… | ||
真っ暗な観客席の中で、一人のエージェントが率先して手を挙げた。 | |||
ブレスレットが煌めきながら消滅し、一筋の眩しい光がそれを包む。 | |||
エージェント | な、なにこれ……うわっ!?あ、あたしまで異相レンジャーになってる!? | ||
エージェント | うそっ!?あ、あたしも……なんか、力がみなぎってきた感じする! | ||
メリルの声 | 異相レンジャーにオペランドを転送し、彼女たちを勝利へと導くか。 | ||
メリルの声 | 異相レンジャーに変身してガーゴイルどもを倒し、この危機を脱するか。 | ||
メリルの声 | 結末を選ぶ権利は、今やあなたたちの手に握られている。 | ||
メリルの声 | この世は誰もが一般人で、誰もが物語の主人公。 みんな、どうか大団円のために力を貸して! | ||
エージェントたちの歓声 | おぉぉぉぉーーーッ |