逆音共振 PART.13 黎明

Last-modified: 2025-02-02 (日) 20:32:36

 劇場全体が歓声の渦に包まれた。
目の届くところでは、エージェントたちが次々と変身を遂げるか、
ブレスレットを掲げステージへとオペランドを託している。
 きらきらと輝く無数の光の柱が、バーバンクセクターの夜空を駆けてゆく。
地平線に差し昇る巨大な太陽が、月明かりの清光をかき消した。
イオス誰もが物語の主人公であり、誰もが物語を終幕へと推し進める。
イオスふふふ……素晴らしい舞台だったわ。これを見れただけでも、貴方と同行した甲斐があった。
{教授}それだけじゃない。さっきの質問を覚えてる?
イオス……クレシェンテ劇場でのことね?あなたこそ覚えていたなんて。
 
イオスどうして娯楽を追い求めるの?この欲望はどこからくるの?
イオスプログラムが定めたものなら、それは果たして本物?本当の欲望と言えるの?
イオスそれとも、誰かに作り出された偽りの感情?
イオス……貴方はどう思う、教授?
 
{教授}あの時は、ガーゴイルのせいで答えられなかったから。
イオス……このパフォーマンスがその答えだと言いたいの?
{教授}この光景を目にしたあなたになら、もうわかっているはずよ。
イオス驚いたわ……だけど、悪くはない回答ね。
イオスでも、まだ一つ質問があるの。
イオス貴方は、これが正しい結末だと思う?
{教授}なんのこと?
イオスここのエージェントたちは興奮しきっているわ。彼らのコマンドに、これほどの高揚が記されたことは今までなかった。
イオスエージェントたちに自我が芽生えることは、創造主の意図に反する。
イオス貴方はそれが、本当に正しいと思う?
 彼女は私を見た。ステージの鮮やかなイルミネーションが、
瞳の中を煌めいては流れてゆく。
まるで燦然たる星空が双眸に収まっているかのようだ。
 その厳かな語気に、私はふと気づいた。
この質問への答えが、彼女の真の目的なのだということを。
(選択)1.正しいよ、それに意味のあることだと思う。A
2.好ましくはないけど、すでに起きてることだから。B
3.どっちでもいいかな。C
A イオスが驚いて目を見開く。
そして宝物を手に入れたかのように、満足気に微笑んでみせた。
イオスそれが貴方の答えなのね……ありがとう、よく理解できたわ。D
B イオスはいたずらっぽく私に瞬きしてみせた。
イオス起きたことだから、どうしたの?教授にはすべてを復元する権限があるのでしょう?
イオスそれとも貴方には、他にもっと重要な何かがあるとでも?
{教授}あなたがオアシスに来たら、教えてあげる。
イオスはぐらかすのがお上手なのね、私の責務を知っているくせに。D
C イオスは残念そうに首をふる。
イオスほんと、相変わらず隙のない御方。
イオスつまりは事がどう運ぼうと、気にならないわけね……ふふ、まるで神そのものね。D
D{教授}まぁ、私がどう答えようと、あなた自身の考えを改める必要はないよ。
{教授}あなたの意志を左右する権利は、私にはないからね。
イオス「どう考えようと事態は変わらない。そこから誰がどんな答えを得ようと、その者の自由だ」、そう言いたいのね?
イオス「自由」。マグラシアではあまりにも貴重だわ……
 彼女はそう感嘆しながら視線をそらした。
彼女の視線を追って、白昼のように明媚な夜空に目を向ける。
{教授}……バーバンクの迎えた初めての「昼」か。
エージェントたちに誤った印象を与えないといいけど。
イオス「誤った」印象って?
{教授}例えば、太陽は地上で作られているだとか。
イオスあながち間違いではないと思うけど?マグラシアの太陽も星も、すべて人の手で作られたものでしょう?
イオス来る日も来る日も、日は昇りまた沈む。彼らはそうして、明確な使命を携えて前へと進み続ける。他には目もくれずに。
{教授}今もそうなの?
イオス今は違うわ。いいえ、とっくに違っていたのかもしれない。
 私たちの会話に、軽快な通知音が頭上から割り込んできた。
 空にある巨大なプログレスバーは、すでに99%に達している。
最後の1%は言うまでもなく、ステージ上のヒーローたちだ。
 
異相レンジャーSこいつ、思ったより手強いな。さすがはあたしたちの指導者だ……
異相レンジャーNいまさら褒めたところで、奴が手を引くものか。
異相レンジャーΩ?……
 二人からの激しい牽制を受けていながら、異相レンジャーΩに慌てる様子はなく、
自身の防衛ラインを淡々と維持し続けている。
異相レンジャーN……セクターのオペランドを吸収しているのだ。
奴のいる舞台とコンソールとの繋がりを断たなくては!
異相レンジャーSなるほど、よくわかんないけど……まぁ、見てろって!
 そう言うと、異相レンジャーSの装甲が眩しく輝き始めた。
彼女が剣を振り下ろしたとたん、舞台が真っ二つになった!
{教授}……さすがにオーバーすぎない?
ペルシカがエニグマのオペランドを吸収した時さえ、こうはならなかったのに。
イオスそうね。おおかた、メリルさんが裏で舞台を操作しているんでしょう。
(選択)1.それにしたってやりすぎよ。E
2.こういうのがグッと来るのよね!E
E イオスは微笑んで頷いた。
イオス私たちのブレスレットが、最後の二つね。
イオス教授、どうしたい?
(選択)1.彼女たちを応援しよう。F
2.これで私たちも異相レンジャーね!F
F 私たちは目を合わせて一笑すると、
ブレスレットを頭上高く掲げ、光の中へと溶けていった。
 
 ……
 ソルとナシタはエントロピー化した異相レンジャーΩを見事倒し、
舞台の上で彼を拘束した。
 空に浮かぶプログレスバーの進度は100%に達していた。
軽快な通知音が鳴って、バーバンクにカラーリボンの雨が降り注ぐ。
 それと同時に、セクター全体から雷鳴のような歓声が沸き起こった。