パフォーマンスが終わると、とある小さなエージェントが人混みをかき分けて、 劇場の舞台裏へとやってきた。 | |||
小さなエージェント | そーっと、そーっと……足音さえなければバレないもんね…… | ||
七花 | こんにちは、お嬢さん。ここで何してるの? | ||
小さなエージェント | うわぁっ!七花お姉ちゃんだ!あたしね、ダークレンジャーNのサインが欲しいの! | ||
ガタッ。 | |||
小さなエージェント | えっ……な、なに今の音? | ||
七花は顔色を変えずに一歩動くと、小さなエージェントの視線を遮った。 | |||
七花 | そうなんだ、ごめんね。ダークレンジャーN、今ちょっと忙しいみたい。楽屋裏に来た悪者たちを倒さなきゃいけないの。 | ||
小さなエージェント | えっ、ここにもワルモノが? | ||
小さなエージェント | そんなぁ、いつまで待てばいいの? | ||
七花 | うーん……あ、そうだ! | ||
七花はスカートの裾から一枚のカードを取り出し、 滑らかな筆勢で自分の署名を書き記すと、それを小さなエージェントに手渡した。 | |||
七花 | はいこれ、七花からの招待状。明日、これを見せれば、舞台裏に案内してもらえるよ♥ | ||
小さなエージェント | ほんと!?ありがとう、七花お姉ちゃん! | ||
小さなエージェントは嬉々としてサインを受け取った。 | |||
その場を離れる際、彼女は心配そうに舞台裏のほうを見つめた。 | |||
小さなエージェント | あたしもダークレンジャーNと一緒に、戦っちゃだめ? | ||
七花 | Nを信じてあげて。正義は必ず勝つ、そうでしょ? | ||
舞台裏。 | |||
ペルシカ | ターゲットの稼働率が75%を切りました。エントロピー化抑制プログラム起動! | ||
ペルシカの命令と同時に、 ライトブルーの拘束具が異相レンジャーΩの首元や四肢へと巻き付く。 | |||
彼はひとしきり抵抗した後で、完全に稼働を停止した。 | |||
ソル | はぁ……やっと終わった。 | ||
ソル | こいつ、すっごいタフだったな。引きずってくるのにも時間がかかったし…… | ||
ナシタ | ソル、体中傷だらけだぞ。先に治療しておけ。 | ||
ソル | へっ? | ||
ソルは戦いで負った数々の傷跡を見て、頭を掻いた。 | |||
ソル | うわ、ぜんぜん気づかなかった。ペルシカの検査が終わったらでいいよ。 | ||
ナシタ | 痛まないのか? | ||
ソル | うん、べつに。 | ||
ナシタ | ……もっと自分を大切にしろ。 | ||
しばらくして、ペルシカの検査が終わった。 | |||
ペルシカ | エントロピー化してから、あまり時間が経っていませんね。しかも、強制的に変異させられた痕跡があります。 | ||
イオス | 教授、どう思う? | ||
(選択) | 1.スケープゴートだな。 | A | |
2.捨て駒か。 | B | ||
A | {教授} | 無害なエージェントをエントロピー化させて、自分の罪をなすりつけようとしたんだ。 | C |
B | {教授} | エージェントを犠牲にして目的を達成し、身の安全を守ったんだろう。 | C |
C | イオス | いったい誰の仕業かしらね? | |
ソル | そんな、酷すぎるよ……そいつを今すぐブッた斬ってやる! | ||
ペルシカ | メリルさんの報告によると、エントロピー化したガーゴイルはまだ増え続けているそうです…… | ||
ペルシカ | クロさんと七花さんはセクターの秩序を維持しています。ガーゴイルの攻撃から、できるだけエージェントたちを守らないと。 | ||
ペルシカ | 黒幕を見つけ出せなければ、ブレスレットで集めたオペランドもやがては底を尽き、エージェントたちに死傷者が出てしまう。 | ||
ペルシカ | 教授……どうしましょう? | ||
(選択) | 1.事件の黒幕を探しに行こう。 | D | |
2.わからない。 | E | ||
D | {教授} | ガーゴイルの構造に詳しく、不安定な低級メンタルを利用して、 それをエントロピー化させる動機を持つ者…… | |
ペルシカ | まさか……パズルさんが? | F | |
E | イオス | 本当に?貴方の表情は、そうは言っていないようだけど。 | |
イオス | それとも、皆さんの反応が知りたいの? | ||
私は周囲を見渡した。おおかたの見当はついている。 | F | ||
F | {教授} | パズルはどこだ? | |
ペルシカ | 舞台裏の一室で休んでいたはずなのですが……先ほどの騒ぎで姿を消してしまって…… | ||
{教授} | まずは現場に行ってみよう。 | ||
舞台裏。パズルを閉じ込めていたはずの部屋は、一面狼藉となっていた。 | |||
何もない椅子の上で、カラフルな毛並みをした猫が前足を舐めている。 猫は無邪気に私たちを見上げた。 | |||
ペルシカ | 見張りをしていたエージェントが倒されていますね。 | ||
ランコ | そんな……パズルの姐さんが黒幕だったんですかィ? | ||
ソル | 嘘だよね……ってちょっと待った!?あんた、どっから出てきたのさ!? | ||
ランコ | カントクさんが、ブレスレットのオペランドを集め終えたって言うんで、あっしに手伝えることがないか見に来てみたんでさァ。 | ||
ランコ | それと、これ。カントクさんからですゼ。 | ||
ペルシカ | これは……セキュリティカメラの監視映像? | ||
ペルシカ | どれどれ……エントロピー化したガーゴイルたちが、パズルさんを連れ去ったようですね。 | ||
ソル | だけど気を失ってたって、騒ぎに乗じて助けてもらうよう、事前にガーゴイルにインプットしとけば済む話だろ? | ||
ペルシカ | 確かに、ガーゴイルを操る能力は披露してもらいましたし…… | ||
イオス | 面白いことになってきたわね。教授、パズルさんは逃げたのだと思う? | ||
(選択) | 1.可能性はあるな。 | G | |
2.とにかく、まずは彼女を探しに行こう。 | H | ||
G | ナシタ | あのパズルといえど、ここまでふざけるとは思えないけどな……とにかくアイツを探し出すしかない。 | |
ナシタ | 早くしないと、大変なことになる…… | ||
ランコ | あっしも同感でさァ。早いとこパズルの姐さんを見つけて、話を聞きやしょう! | I | |
H | ランコ | 確かに……早いとこパズルの姐さんを見つけて、話を聞きやしょう! | I |
I | ナシタ | でも、いったいどこに…… | |
{教授} | ペルシカ、「アレ」を使う時だ。 | ||
私はペルシカに目配せをした。彼女は意図を察して頷く。 | |||
ペルシカ | お待ちを。万が一に備えて、パズルさんの体に発信機を仕込んでおいたんです。彼女の位置を割り出します。 | ||
ナシタ | お、おい……それがオアシスのやり方なのか!? | ||
ソル | さっすがペルシカ!気が利くゥ! | ||
ナシタ | どう考えても悪役のやることだろ!仲間の機械や変身アイテムに盗聴器を仕掛けるだとか…… | ||
ソル | まぁまぁ、細かいことは気にしない。なにせパズルは容疑者なんだから! | ||
ナシタ | う……だ、だったらなぜ今ごろ思い出したんだ? | ||
ペルシカ | 先ほどまで、エントロピー化した異相レンジャーΩに気を取られていましたからね。パズルさんのことまで気が回らなくて。思うに、彼女もこの機会を狙ったのでしょう。 | ||
ペルシカ | えーっと……あ、見つかりました。ご自身のアトリエにいるようです。もう一度訪問するしかなさそうですね。 | ||
{教授} | 分かれて行動しよう。私とイオス、ナシタはガーゴイルを止めてメンタルを回収。 ペルシカ、君はソルとランコを連れてパズルのアトリエに向かってくれ。 | ||
ペルシカ | わかりました。 | ||
ペルシカたちは速やかにその場を離れた。 | |||
ナシタ | 時間がない、あたしたちも行こう! | ||
{教授} | ちょっと待った。 | ||
ナシタ | 教授? | ||
{教授} | その前に、話しておきたいことがある。 | ||
{教授} | イオス、一つ手伝ってくれないか…… | ||
しばらくして、ペルシカとソル、そしてランコはパズルのアトリエへとたどり着いた。 | |||
ペルシカ | パズルさんの位置に変化はありません、彼女はここです。 | ||
光で溢れていたはずのアトリエの中は、真っ暗になっていた。 カーテンが月明かりを遮り、展示場には明かり一つない。 | |||
ペルシカたちが中へ入ると、背後で扉が音もなく閉まり、 最後の光まで途絶えてしまった。 | |||
ペルシカ | 変ですね、なぜ照明が……? | ||
ランコ | ちょいとお待ちを、照明のスイッチを探してきやす。 | ||
ソル | たッ、たた頼んだよ、ランコッ! | ||
ソル | その、ここ、く、暗すぎるからさ……! | ||
ペルシカ | ソルさん、震えているんですか? | ||
ソル | 真っ暗な部屋に置かれた奇妙な彫像とか……ホ、ホホ、ホラーすぎない!?いきなり別の何かが出てきたらどうすんの!? | ||
ペルシカ | 少なくとも今は、私たちの声しかしませんよ? | ||
ソル | それってつまり……いいいいつ他の声が聞こえてもおおおおおかしくないってこと…… | ||
ペルシカ | まさか、もしいるとしたら敵でしょう。 | ||
ソル | て……敵、敵なら戦えばいいだけか。 | ||
ソルは大きく深呼吸をして、武器を構え直した。 | |||
ペルシカ | 待ってください、ソルさん。 | ||
ソル | な、なな何!?びっくりさせないで…… | ||
ペルシカ | ランコさんはどちらに? | ||
答えはない。まるで夜に溶けてしまったかのように、ランコの声すらもしなくなった。 | |||
ソル | …………………………ね、ねぇ、ふざけるのやめようよ、ねぇ!?ランコ、ランコォ!? | ||
ソル | ランコ、どこに行った?返事しなよ! | ||
ソルの叫び声が真っ暗なアトリエの中に響き渡る。 だが反響の他には何の音も聞こえない。 | |||
――否、音は聞こえた。 | |||
グチャッ……グチャッ…… | |||
粘ついた音があたりに響く、おびただしい何かが蠢いているかのようだ。 それはまるで、彼女たちの耳の後ろを蛆虫が這うかのごとく、 あるいは何かが繭を突き破った音のごとく感じられた。 | |||
ソル | な、なんか変だ。ペルシカ、パズルの位置はわかる? | ||
ペルシカ | 発信機の情報によれば、この付近にいるはずですが……これでは周囲の状況がわかりません。 | ||
ソル | ……火、灯すよ。 | ||
赤く輝くオペランドがソルの掌から発せられ、小範囲を照らし出した。 | |||
ペルシカ | うぅ……なんだか、妙な感覚が強くなってきました…… | ||
ソル | ペルシカやめて!!パズル!!パズルさがそ、ね!!? | ||
ペルシカ | 彼女なら、左前方に10m進んだ先にいます。 | ||
ソルはツバを飲み込むと、明かりを掲げて前へと向かった。 | |||
一歩……二歩……三歩…… | |||
ソル | なんかめっちゃ怖いもの出てきそうな気がするからペルシカはあたしの背後に隠れててでないと助けてあげられないかもしんない…… | ||
ペルシカ | ソルさん、緊張しすぎです。見えました、パズルさ……ん? | ||
限りある視界の中で、ソルとペルシカはパズルを見つけた。 地面に横たわる彼女は、ぴくりとも動かない。 | |||
ソル | ……まだキモく変異してないみたい。さっきの「グチャッ」っていう音、パズルじゃなかったのかな? | ||
ペルシカ | わかりません、慎重に近づいてみましょう。 | ||
シュッ―― | |||
ふいに何かが通り過ぎ、ソルの手にあった照明オペランドが掠め取られ、 あたりは再び暗闇に包まれた。 | |||
ソル | アッギァァァァアアーーーーッ!!!!!!! | ||
ペルシカ | い、今のは!?ソルさん、見ましたか? | ||
ソル | 見てない!何も見てない!!!なに、なになんなの!? | ||
ソル | ダ、ダダダダメだ、これじゃ周囲の音が聞こえないよ。お、おおお、落ち着かなきゃ…… | ||
ソルはゆっくりと自分を落ち着かせ、周囲の音に耳を澄ませた。 | |||
…… | |||
アトリエの中は静寂そのものだ。先ほどの粘ついた音すらも消えてしまった。 | |||
?? | ブミャーーッ! | ||
凄むような猫の鳴き声が、ソルとペルシカの背後から響いた。 | |||
ソルはすぐさま飛び退くと、剣を抜いて防御態勢を取る。 | |||
キンッ―― | |||
ソル | くっ……!な、何かがぶつかってきた……! | ||
?? | ミギャッ!! | ||
今度は斜め後ろからだ、ソルが素早く攻撃を防ぐ。再び軽快な衝突音が鳴った。 | |||
ソル | な、なんなの、こいつ!?猫の声で鳴くエントロピー!? | ||
ペルシカ | そんなエントロピーがいるでしょうか…… | ||
ペルシカ | エントロピーよりも、猫にまつわる怪談ならいくつか耳にしましたが。 | ||
ソル | あああああお願いだからもうやめてペルシカ!!!! | ||
ソルは文句をいいつつも、この奇妙な戦いの中で冷静さを取り戻していた。 | |||
彼女は自身の稼働効率を限界まで引き下げることで、 いまだかつてないほどに感覚を研ぎ澄まし、周囲のあらゆる動きを捕捉していたのだ。 | |||
細かく粘ついた物体の摩擦音。ペルシカの治療用機械が稼働する音。 風の音。摩擦音が近づいてくる。 | |||
ソル | (……猫だけじゃない、他にも何かいる) | ||
ソル | (あたしらは敵に丸見えで、敵の位置はわからない……どうする?窓はどこだ?) | ||
ソル | (あった、微かだけど明かりが見える。こっちかな……目的を悟られないように) | ||
ソル | ペルシカ、なんにも見えないよ! | ||
ソル | 怖いよぉ……どこにいるの?ねぇ、手をつないでて…… | ||
ソルは口ではそう言いつつも、体は静かに反対方向へと移動している。 | |||
ソル | (……届いた!) | ||
ソルは大きな窓を覆うカーテンをつかんだ。 だがそれとほぼ同時に、背後から風の音が伝わってくる。 | |||
ソル | (まずい!罠だった!?) | ||
?? | ニャー! | ||
危機一髪のところで、暗がりから飛び出した何かが、ソルへの攻撃を防いだ。 | |||
窓から差し込む月明かりが、展示場を照らし出す。 闇に潜んでいた襲撃者は、もはや隠れる場所を失った。 | |||
ソル | ……お前は……!? | ||
冷たい月光のもとに現れた黒い影は、ひどく歪んでいたと同時に、 この上なく見慣れた姿をしていた。 | |||
ランコ | …… | ||
ランコ | よもや、おたくにそんな技量があるたァね……パズルの姐さん。 | ||
柔らかな毛並みをした一匹のカラフルな猫が、 尻尾をふりふり、ソルの足元へと戻ってきた。 | |||
ニャズル | お前のシワザだったニャ……ランコ…… |