逆音共振 PART.14 真相

Last-modified: 2025-02-02 (日) 20:33:42

 パフォーマンスが終わると、とある小さなエージェントが人混みをかき分けて、
劇場の舞台裏へとやってきた。
小さなエージェントそーっと、そーっと……足音さえなければバレないもんね……
七花こんにちは、お嬢さん。ここで何してるの?
小さなエージェントうわぁっ!七花お姉ちゃんだ!あたしね、ダークレンジャーNのサインが欲しいの!
 ガタッ。
小さなエージェントえっ……な、なに今の音?
 七花は顔色を変えずに一歩動くと、小さなエージェントの視線を遮った。
七花そうなんだ、ごめんね。ダークレンジャーN、今ちょっと忙しいみたい。楽屋裏に来た悪者たちを倒さなきゃいけないの。
小さなエージェントえっ、ここにもワルモノが?
小さなエージェントそんなぁ、いつまで待てばいいの?
七花うーん……あ、そうだ!
 七花はスカートの裾から一枚のカードを取り出し、
滑らかな筆勢で自分の署名を書き記すと、それを小さなエージェントに手渡した。
七花はいこれ、七花からの招待状。明日、これを見せれば、舞台裏に案内してもらえるよ♥
小さなエージェントほんと!?ありがとう、七花お姉ちゃん!
 小さなエージェントは嬉々としてサインを受け取った。
 その場を離れる際、彼女は心配そうに舞台裏のほうを見つめた。
小さなエージェントあたしもダークレンジャーNと一緒に、戦っちゃだめ?
七花Nを信じてあげて。正義は必ず勝つ、そうでしょ?
 
舞台裏。
ペルシカターゲットの稼働率が75%を切りました。エントロピー化抑制プログラム起動!
 ペルシカの命令と同時に、
ライトブルーの拘束具が異相レンジャーΩの首元や四肢へと巻き付く。
 彼はひとしきり抵抗した後で、完全に稼働を停止した。
ソルはぁ……やっと終わった。
ソルこいつ、すっごいタフだったな。引きずってくるのにも時間がかかったし……
ナシタソル、体中傷だらけだぞ。先に治療しておけ。
ソルへっ?
 ソルは戦いで負った数々の傷跡を見て、頭を掻いた。
ソルうわ、ぜんぜん気づかなかった。ペルシカの検査が終わったらでいいよ。
ナシタ痛まないのか?
ソルうん、べつに。
ナシタ……もっと自分を大切にしろ。
 しばらくして、ペルシカの検査が終わった。
ペルシカエントロピー化してから、あまり時間が経っていませんね。しかも、強制的に変異させられた痕跡があります。
イオス教授、どう思う?
(選択)1.スケープゴートだな。A
2.捨て駒か。B
A{教授}無害なエージェントをエントロピー化させて、自分の罪をなすりつけようとしたんだ。C
B{教授}エージェントを犠牲にして目的を達成し、身の安全を守ったんだろう。C
Cイオスいったい誰の仕業かしらね?
ソルそんな、酷すぎるよ……そいつを今すぐブッた斬ってやる!
ペルシカメリルさんの報告によると、エントロピー化したガーゴイルはまだ増え続けているそうです……
ペルシカクロさんと七花さんはセクターの秩序を維持しています。ガーゴイルの攻撃から、できるだけエージェントたちを守らないと。
ペルシカ黒幕を見つけ出せなければ、ブレスレットで集めたオペランドもやがては底を尽き、エージェントたちに死傷者が出てしまう。
ペルシカ教授……どうしましょう?
(選択)1.事件の黒幕を探しに行こう。D
2.わからない。E
D{教授}ガーゴイルの構造に詳しく、不安定な低級メンタルを利用して、
それをエントロピー化させる動機を持つ者……
ペルシカまさか……パズルさんが?F
Eイオス本当に?貴方の表情は、そうは言っていないようだけど。
イオスそれとも、皆さんの反応が知りたいの?
 私は周囲を見渡した。おおかたの見当はついている。F
F{教授}パズルはどこだ?
ペルシカ舞台裏の一室で休んでいたはずなのですが……先ほどの騒ぎで姿を消してしまって……
{教授}まずは現場に行ってみよう。
 
 舞台裏。パズルを閉じ込めていたはずの部屋は、一面狼藉となっていた。
 何もない椅子の上で、カラフルな毛並みをした猫が前足を舐めている。
猫は無邪気に私たちを見上げた。
ペルシカ見張りをしていたエージェントが倒されていますね。
ランコそんな……パズルの姐さんが黒幕だったんですかィ?
ソル嘘だよね……ってちょっと待った!?あんた、どっから出てきたのさ!?
ランコカントクさんが、ブレスレットのオペランドを集め終えたって言うんで、あっしに手伝えることがないか見に来てみたんでさァ。
ランコそれと、これ。カントクさんからですゼ。
ペルシカこれは……セキュリティカメラの監視映像?
ペルシカどれどれ……エントロピー化したガーゴイルたちが、パズルさんを連れ去ったようですね。
ソルだけど気を失ってたって、騒ぎに乗じて助けてもらうよう、事前にガーゴイルにインプットしとけば済む話だろ?
ペルシカ確かに、ガーゴイルを操る能力は披露してもらいましたし……
イオス面白いことになってきたわね。教授、パズルさんは逃げたのだと思う?
(選択)1.可能性はあるな。G
2.とにかく、まずは彼女を探しに行こう。H
Gナシタあのパズルといえど、ここまでふざけるとは思えないけどな……とにかくアイツを探し出すしかない。
ナシタ早くしないと、大変なことになる……
ランコあっしも同感でさァ。早いとこパズルの姐さんを見つけて、話を聞きやしょう!I
Hランコ確かに……早いとこパズルの姐さんを見つけて、話を聞きやしょう!I
Iナシタでも、いったいどこに……
{教授}ペルシカ、「アレ」を使う時だ。
 私はペルシカに目配せをした。彼女は意図を察して頷く。
ペルシカお待ちを。万が一に備えて、パズルさんの体に発信機を仕込んでおいたんです。彼女の位置を割り出します。
ナシタお、おい……それがオアシスのやり方なのか!?
ソルさっすがペルシカ!気が利くゥ!
ナシタどう考えても悪役のやることだろ!仲間の機械や変身アイテムに盗聴器を仕掛けるだとか……
ソルまぁまぁ、細かいことは気にしない。なにせパズルは容疑者なんだから!
ナシタう……だ、だったらなぜ今ごろ思い出したんだ?
ペルシカ先ほどまで、エントロピー化した異相レンジャーΩに気を取られていましたからね。パズルさんのことまで気が回らなくて。思うに、彼女もこの機会を狙ったのでしょう。
ペルシカえーっと……あ、見つかりました。ご自身のアトリエにいるようです。もう一度訪問するしかなさそうですね。
{教授}分かれて行動しよう。私とイオス、ナシタはガーゴイルを止めてメンタルを回収。
ペルシカ、君はソルとランコを連れてパズルのアトリエに向かってくれ。
ペルシカわかりました。
 ペルシカたちは速やかにその場を離れた。
ナシタ時間がない、あたしたちも行こう!
{教授}ちょっと待った。
ナシタ教授?
{教授}その前に、話しておきたいことがある。
{教授}イオス、一つ手伝ってくれないか……
 
 しばらくして、ペルシカとソル、そしてランコはパズルのアトリエへとたどり着いた。
ペルシカパズルさんの位置に変化はありません、彼女はここです。
 光で溢れていたはずのアトリエの中は、真っ暗になっていた。
カーテンが月明かりを遮り、展示場には明かり一つない。
 ペルシカたちが中へ入ると、背後で扉が音もなく閉まり、
最後の光まで途絶えてしまった。
ペルシカ変ですね、なぜ照明が……?
ランコちょいとお待ちを、照明のスイッチを探してきやす。
ソルたッ、たた頼んだよ、ランコッ!
ソルその、ここ、く、暗すぎるからさ……!
ペルシカソルさん、震えているんですか?
ソル真っ暗な部屋に置かれた奇妙な彫像とか……ホ、ホホ、ホラーすぎない!?いきなり別の何かが出てきたらどうすんの!?
ペルシカ少なくとも今は、私たちの声しかしませんよ?
ソルそれってつまり……いいいいつ他の声が聞こえてもおおおおおかしくないってこと……
ペルシカまさか、もしいるとしたら敵でしょう。
ソルて……敵、敵なら戦えばいいだけか。
 ソルは大きく深呼吸をして、武器を構え直した。
ペルシカ待ってください、ソルさん。
ソルな、なな何!?びっくりさせないで……
ペルシカランコさんはどちらに?
 答えはない。まるで夜に溶けてしまったかのように、ランコの声すらもしなくなった。
ソル…………………………ね、ねぇ、ふざけるのやめようよ、ねぇ!?ランコ、ランコォ!?
ソルランコ、どこに行った?返事しなよ!
 ソルの叫び声が真っ暗なアトリエの中に響き渡る。
だが反響の他には何の音も聞こえない。
 ――否、音は聞こえた。
 グチャッ……グチャッ……
 粘ついた音があたりに響く、おびただしい何かが蠢いているかのようだ。
それはまるで、彼女たちの耳の後ろを蛆虫が這うかのごとく、
あるいは何かが繭を突き破った音のごとく感じられた。
ソルな、なんか変だ。ペルシカ、パズルの位置はわかる?
ペルシカ発信機の情報によれば、この付近にいるはずですが……これでは周囲の状況がわかりません。
ソル……火、灯すよ。
 赤く輝くオペランドがソルの掌から発せられ、小範囲を照らし出した。
ペルシカうぅ……なんだか、妙な感覚が強くなってきました……
ソルペルシカやめて!!パズル!!パズルさがそ、ね!!?
ペルシカ彼女なら、左前方に10m進んだ先にいます。
 ソルはツバを飲み込むと、明かりを掲げて前へと向かった。
 一歩……二歩……三歩……
ソルなんかめっちゃ怖いもの出てきそうな気がするからペルシカはあたしの背後に隠れててでないと助けてあげられないかもしんない……
ペルシカソルさん、緊張しすぎです。見えました、パズルさ……ん?
 限りある視界の中で、ソルとペルシカはパズルを見つけた。
地面に横たわる彼女は、ぴくりとも動かない。
ソル……まだキモく変異してないみたい。さっきの「グチャッ」っていう音、パズルじゃなかったのかな?
ペルシカわかりません、慎重に近づいてみましょう。
 シュッ――
 ふいに何かが通り過ぎ、ソルの手にあった照明オペランドが掠め取られ、
あたりは再び暗闇に包まれた。
ソルアッギァァァァアアーーーーッ!!!!!!!
ペルシカい、今のは!?ソルさん、見ましたか?
ソル見てない!何も見てない!!!なに、なになんなの!?
ソルダ、ダダダダメだ、これじゃ周囲の音が聞こえないよ。お、おおお、落ち着かなきゃ……
 ソルはゆっくりと自分を落ち着かせ、周囲の音に耳を澄ませた。
 ……
 アトリエの中は静寂そのものだ。先ほどの粘ついた音すらも消えてしまった。
??ブミャーーッ!
 凄むような猫の鳴き声が、ソルとペルシカの背後から響いた。
 ソルはすぐさま飛び退くと、剣を抜いて防御態勢を取る。
 キンッ――
ソルくっ……!な、何かがぶつかってきた……!
??ミギャッ!!
 今度は斜め後ろからだ、ソルが素早く攻撃を防ぐ。再び軽快な衝突音が鳴った。
ソルな、なんなの、こいつ!?猫の声で鳴くエントロピー!?
ペルシカそんなエントロピーがいるでしょうか……
ペルシカエントロピーよりも、猫にまつわる怪談ならいくつか耳にしましたが。
ソルあああああお願いだからもうやめてペルシカ!!!!
 ソルは文句をいいつつも、この奇妙な戦いの中で冷静さを取り戻していた。
 彼女は自身の稼働効率を限界まで引き下げることで、
いまだかつてないほどに感覚を研ぎ澄まし、周囲のあらゆる動きを捕捉していたのだ。
 細かく粘ついた物体の摩擦音。ペルシカの治療用機械が稼働する音。
風の音。摩擦音が近づいてくる。
ソル(……猫だけじゃない、他にも何かいる)
ソル(あたしらは敵に丸見えで、敵の位置はわからない……どうする?窓はどこだ?)
ソル(あった、微かだけど明かりが見える。こっちかな……目的を悟られないように)
ソルペルシカ、なんにも見えないよ!
ソル怖いよぉ……どこにいるの?ねぇ、手をつないでて……
 ソルは口ではそう言いつつも、体は静かに反対方向へと移動している。
ソル(……届いた!)
 ソルは大きな窓を覆うカーテンをつかんだ。
だがそれとほぼ同時に、背後から風の音が伝わってくる。
ソル(まずい!罠だった!?)
??ニャー!
 危機一髪のところで、暗がりから飛び出した何かが、ソルへの攻撃を防いだ。
 窓から差し込む月明かりが、展示場を照らし出す。
闇に潜んでいた襲撃者は、もはや隠れる場所を失った。
ソル……お前は……!?
 冷たい月光のもとに現れた黒い影は、ひどく歪んでいたと同時に、
この上なく見慣れた姿をしていた。
ランコ……
ランコよもや、おたくにそんな技量があるたァね……パズルの姐さん。
 柔らかな毛並みをした一匹のカラフルな猫が、
尻尾をふりふり、ソルの足元へと戻ってきた。
ニャズルお前のシワザだったニャ……ランコ……