ガーゴイル | ギガガ……「フルイタテ」……ガガガッ―― | ||
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ドォン!! | |||
ナシタ | 教授、扉を塞いでたガーゴイルが倒れたぞ! | ||
{教授} | パズルの計画が作動したんだ、突入するぞ。 | ||
{教授} | ここなら他のエージェントに影響が及ばない、思いっきり暴れてこい! | ||
ナシタ | 了解! | ||
リコ | …… | ||
{教授} | イオス、リコ。私たちも行こう。 | ||
リコ | 教授、さっきの話って……ホントなのかい? | ||
{教授} | 自分の目で確かめておいで。 | ||
私たちがパズルのアトリエに入った時は、建物の照明システムが機能しておらず、 室内を照らすのは窓と扉から差し込む月明かりだけだった。 | |||
私たちに包囲されても、ランコは事の重大さに気づいていなかった。 ただ呆然と、光の中にいるリコを見つめている。 | |||
扉を境に、二人はまったく異なる世界に身を置いていた。 それも二度と交わることがないかのように。 | |||
ランコ | リコ……先、輩? | ||
ランコ | どうして、ここに……?あっしは確かに…… | ||
リコ | ……確かに、お前さんに言われた通り貨物を検査しに行ったさ。ガーゴイルを作るのに使われる、低級メンタルをね。 | ||
リコ | けど貨物からエントロピー反応を検知したとかで、セクターの端で浄化者にとっ捕まっちまってね。あんな鉄クズどもの言うことなんざ、信用してなかったけど…… | ||
ランコ | …… | ||
リコ | ところが教授さんに聞いたんだ。エントロピー化した貨物をバーバンクに入れたのは、お前さんだって……けどさ、教授さんだってデタラメ言ってるかもしんないだろ? | ||
リコ | だから、お前さんの口から答えを聞こうと思ってね。ランコ、なんでここにいるんだい? | ||
ランコ | ……ククク…… | ||
ランコは冷たく笑い、怨憎と悪意に満ちた視線で私を睨めつけた。 | |||
ランコ | あっしを先に行かせたなァ、それが理由ですかィ……おたくの目的はリコ先輩だったわけだ。 | ||
ランコ | ……いったいどんな方法で、浄化者どもからリコ先輩を助け出したんで? | ||
私はイオスを一目見た。イオスが微笑み返す。 | |||
(選択) | 1.友人がいるんだ。 | A | |
2.私とイオスで、秘密保持契約に署名したんだ。 | A | ||
A | ソル | 二手に分かれたのは、リコを探しに行くためだったのか! | |
ソル | え、ってことは……その時からランコが黒幕だって知ってたってこと?ど、どうしてわかったのさ? | ||
B | (選択) | 1.最後に異相レンジャーΩと一緒だったのが、彼女だからだよ。 | C |
2.パズルを除けば、唯一ガーゴイルに細工できた人物だからね。 | D | ||
3.ガーゴイルが暴走すると、なぜかランコは現場近くに現れる。 | E | ||
4.まぁ、細かいことは気にするな。 | F | ||
C | |||
ランコ | あっ、そうそう。 | ||
ソル | うわぁぁっ!?また出た!?あ、あんた、足音しないの!? | ||
ランコ | えーっと……存在感の薄さがあっしの自慢ですんで、ハイ。 | ||
ランコ | カラオケ1号、同行願えやすかィ?舞台用の衣装も見ときてェんで。 | ||
{教授} | その直後、Ωはエントロピー化した。時間的に、彼を襲える人物は限られている。 | B | |
D | |||
ペルシカ | 多くのエージェントたちの安危に関わるんです。もしガーゴイルが再び暴走したらどうします? | ||
パズル | だ、だったらガーゴイルを運んだエージェントとか、組み立てたヤツとか、チェックをしてたヤツらとか……に聞けばいいんだわサ!あちきは関係ないねッ! | ||
ペルシカ | またそんな屁理屈を…… | ||
{教授} | パズルの言う通りだ。 運送、組み立て、検査……そのすべてを君が担当していた。 | ||
{教授} | パズルの他に、もう一人だけガーゴイルの構造を知る者がいる。 私たちにつきまとい、疑いがパズルに向くよう仕向けていた者。 | ||
{教授} | ランコ、それが君だ。 | B | |
E | |||
{教授} | あれは、ランコ? | ||
ステージの傍では、各種スナックを抱えたキツネの売り子が、 大慌てでガーゴイルから逃げようとしている。 | |||
ガーゴイル | ガァァァーーッ! | ||
ランコ | こーーんッ!? | ||
{教授} | 身の危険すら顧みない、見事な演技だった。 だが毎回それが続けば、君を疑わざるを得ない。 | ||
ランコ | …… | ||
{教授} | 計画が心配だったのか? それとも所謂、「犯人は現場に戻る」というやつか。 | B | |
F | ランコ | ……つまり、パズルを疑うような発言は、全部あっしの判断を鈍らせるためですかィ? | |
(選択) | 1.疑わしいのは君だけだからね。 | G | |
2.結論が出るまで、疑わしい人物は警戒しておかないとね。 | H | ||
G | ニャズル | あちきのことも疑ってたクセに…… | I |
H | ニャズル | 教授、このロクデニャシ…… | I |
I | ランコ | フッ……さすがは教授さん、お見逸れしやしたゼ。 | |
リコ | 話題を逸らすんじゃないよ、ランコ。 | ||
リコ | セクターの外に上位浄化者が来てなかったら、リコは最後まで騙されてただろうさ。 | ||
リコ | 貨物検査を口実にリコを遠ざけたのは、エントロピー感染が起こるバーバンクから逃がすためだったんだろ? | ||
ランコ | …… | ||
リコ | お前さんはなんにも変わっちゃいない。ただ、誰かに利用されただけなんだろ? | ||
ランコ | …… | ||
リコ | ……ランコ、なんとか言ったらどうなんだい!! | ||
リコ | 黙ってたら、これぜんぶがお前さんのせいになっちまうんだよ?そうなったら、リコや教授でだってお前さんを助けらんない! | ||
ランコ | 誰かに助けて欲しいなんざ、望んだ覚えはねェんだわ! | ||
ランコ | 今まで「失踪」したトレーダーは何人でさ?誰かが助けに行った試しがありやしたか?あっしよりも、先輩のがよっぽど詳しいんじゃないですかィ!? | ||
リコ | そ、そいは……でも、だからってエントロピー化するなんて……! | ||
ランコ | 先輩は浄化者が怖いんでやんしょう。けどエントロピーの前じゃ、奴らなんざ取るに足らねェさ。 | ||
イオス | ふぅん? | ||
ナシタ | そんな言い訳、時代遅れもいいところだ!ランコ、お前はその力で、弱い者を虐げているに過ぎない! | ||
ランコ | いんや。 | ||
ランコはリコに手を伸ばした。 | |||
ランコ | リコ先輩。仲間を大事にすること、トレーダーの名誉と責任を守ること。あっしは先輩に教わったこたァ、ぜんぶ実践してきやした。 | ||
ランコ | けど、あっしらの得た利益を、貧困したセクターのトレーダーに配るだけじゃ、みんなを助けるこたァできない。 | ||
ランコ | あっしらには力がいる。力がありゃセクターの危機に巻き込まれないで済むし、次から次へと「失踪」せずに済む。 | ||
リコ | ……ランコ。仲間から離れてる間、お前さんはずっとこんなことを……? | ||
リコの問いかけに、ランコは是とも非ともつかない笑顔で答えた。 | |||
ランコ | ある程度の成績挙げてから、リコ先輩を誘おうと思ってたんですがねェ。そうすりゃ気分もいくらかマシでやんしょ。 | ||
ランコ | でもバレちまっちゃあ仕方ねェ。あっしは力を手に入れた。今なら指すら動かさずに、先輩が必死に取り入ってきたオアシスの連中を捻り潰せる…… | ||
彼女の掌に小さな黒点が滲み、そこから何かが芽生え、 枝分かれし、淡い紫色の花が開いた。 | |||
{教授} | これは…… | ||
ペルシカ | 教授、お気をつけて!あれはピエリデスにあった花と同じものです! | ||
イオスは眉をひそめ、私の前に立った。 | |||
ランコ | ブラックスワンにもらったんでさァ。こいつがありゃ無限に力が湧いて、エージェントの制限を突破できるって話ですゼ。 | ||
ランコ | リコ先輩。どうでさ、あっしと行くってのは? | ||
リコ | ……お前さんの言うことにも一理ある。確かにリコたちは弱い。そいに、あまりにも多くの犠牲を払いすぎた。 | ||
リコ | でも、武力を持たないリコたちに必要なのは、安全に行き来できるルートであって…… | ||
ランコ | そんなモンは他人の力でさ!ルートを設けてるセクターがいくつあるってんです?今も稼働してンのは? | ||
リコ | そりゃほんの一握りだけど、トレーダーの失踪だってだいぶ減ってんだ……損失ばっか見てられっかい…… | ||
リコ | そいに、コネクションロスト状態での商いは危険だ。無難に商売ができて、話の通じない連中にケツの毛まで毟られずに済むんなら、そいで十分さ! | ||
ランコ | ……けど、この方法だって悪かないですゼ? | ||
ランコ | 誰にも頼らずに、トレーダーだけで道を切り開いていける…… | ||
ランコ | 「トレーダーは一心同体だ」……そう教えたのは先輩でやんしょう。 | ||
ランコは懇願するような視線をリコに向けた。 | |||
ランコ | リコ先輩、あっしと行きやしょうよ……後生ですから。 | ||
ランコ | この道を試してみやしょうよ。先輩にゃ見えない景色が、あっしにゃあ見えるんでさァ。大丈夫、思ったほど怖かないですゼ…… | ||
リコは彼女の掌に凛と咲く花をまじまじと見た。 そして決意したかのように、ゆっくりと首をふる。 | |||
リコ | ダメだ、ランコ。お前さんは自分が何をやってんのか、まるでわかっちゃいない。 | ||
リコ | こんなことしちゃ、トレーダー全員が巻き添えになっちまう。商売上がったりだ、金がなくちゃ生存も未来も語れない。 | ||
ランコ | ……それが、おたくの答えですかィ。リコ先輩? | ||
あたりの空気がにわかに凍えだした。 | |||
リコのふわふわした尻尾は固くしぼみ、悄然とうなだれている。 | |||
(選択) | 1.こうなることは、予想してたよ。 | J | |
2.約束通り、あとのことは任せてもらおう。 | K | ||
J | {教授} | エントロピー化したエージェントは大抵、以前にも増して極端になる。 話を聞き入れなくても無理はない。 | L |
K | リコ | すまないね、教授さん。説得できると思ったんだけど…… | L |
L | ランコ | はは……あははは…… | |
ランコ | リコ先輩……先輩だけはあっしを理解してくれると思ってたんですがねェ……仲間の困難や解決手段を考慮できる存在だ、って…… | ||
ランコは床に崩れ落ちた。 自身の頬を触れながら、虚ろな眼差しを前方に向けている。 | |||
かつての機知に満ちていた瞳は何も映しておらず、そこには混沌と空虚が陰るのみだ。 | |||
ランコ | 結局……こうなっちまうんですかィ。 おんなじだァ……あん時、あっしが独りで仲間を離れた時と…… | ||
黒紫色の裂け目が彼女の体を引き裂き、中からウイルスが獰猛な輪郭を覗かせる。 | |||
ランコ | でも、かまやしません。 | ||
ランコ | あっしが一足先に未来に行って、仲間のために安全な道を切り開いておきやしょう。 それだけで充分でさァ。 | ||
ランコ | たとえ、リコ先輩の亡骸を跨ごうとも、ね…… | ||
ランコの目から滔々と涙が溢れ出す。その瞳は頑なだ。 | |||
ランコ | おたくが最後の失踪者ですゼ、リコ先輩。 未来はあっしに任せておくんなせェ。 | ||
イオス | ……ここまで捻じれるとはね。とっくにエージェントの範疇を超えてるわ。 | ||
イオス | これも一種の進化なのかしら、教授? | ||
(選択) | 1.そうかもね。 | M | |
2.エージェントが人間の卑しさを学んだんだ、進化とは言い難いな。 | M | ||
3.その話は後にしよう。 | M | ||
M | イオス | さて、舞台の主役はあの暴走したトレーダーさんね…… | |
イオス | 教授、戦闘命令を。 |