逆音共振 PART.16 未来

Last-modified: 2025-02-02 (日) 20:37:41

ガーゴイルギガガ……「フルイタテ」……ガガガッ――
 ドォン!!
ナシタ教授、扉を塞いでたガーゴイルが倒れたぞ!
{教授}パズルの計画が作動したんだ、突入するぞ。
{教授}ここなら他のエージェントに影響が及ばない、思いっきり暴れてこい!
ナシタ了解!
リコ……
{教授}イオス、リコ。私たちも行こう。
リコ教授、さっきの話って……ホントなのかい?
{教授}自分の目で確かめておいで。
 
 私たちがパズルのアトリエに入った時は、建物の照明システムが機能しておらず、
室内を照らすのは窓と扉から差し込む月明かりだけだった。
 私たちに包囲されても、ランコは事の重大さに気づいていなかった。
ただ呆然と、光の中にいるリコを見つめている。
 扉を境に、二人はまったく異なる世界に身を置いていた。
それも二度と交わることがないかのように。
ランコリコ……先、輩?
ランコどうして、ここに……?あっしは確かに……
リコ……確かに、お前さんに言われた通り貨物を検査しに行ったさ。ガーゴイルを作るのに使われる、低級メンタルをね。
リコけど貨物からエントロピー反応を検知したとかで、セクターの端で浄化者にとっ捕まっちまってね。あんな鉄クズどもの言うことなんざ、信用してなかったけど……
ランコ……
リコところが教授さんに聞いたんだ。エントロピー化した貨物をバーバンクに入れたのは、お前さんだって……けどさ、教授さんだってデタラメ言ってるかもしんないだろ?
リコだから、お前さんの口から答えを聞こうと思ってね。ランコ、なんでここにいるんだい?
ランコ……ククク……
 ランコは冷たく笑い、怨憎と悪意に満ちた視線で私を睨めつけた。
ランコあっしを先に行かせたなァ、それが理由ですかィ……おたくの目的はリコ先輩だったわけだ。
ランコ……いったいどんな方法で、浄化者どもからリコ先輩を助け出したんで?
 私はイオスを一目見た。イオスが微笑み返す。
(選択)1.友人がいるんだ。A
2.私とイオスで、秘密保持契約に署名したんだ。A
Aソル二手に分かれたのは、リコを探しに行くためだったのか!
ソルえ、ってことは……その時からランコが黒幕だって知ってたってこと?ど、どうしてわかったのさ?
 
B(選択)1.最後に異相レンジャーΩと一緒だったのが、彼女だからだよ。C
2.パズルを除けば、唯一ガーゴイルに細工できた人物だからね。D
3.ガーゴイルが暴走すると、なぜかランコは現場近くに現れる。E
4.まぁ、細かいことは気にするな。F
C 
ランコあっ、そうそう。
ソルうわぁぁっ!?また出た!?あ、あんた、足音しないの!?
ランコえーっと……存在感の薄さがあっしの自慢ですんで、ハイ。
ランコカラオケ1号、同行願えやすかィ?舞台用の衣装も見ときてェんで。
 
{教授}その直後、Ωはエントロピー化した。時間的に、彼を襲える人物は限られている。B
D 
ペルシカ多くのエージェントたちの安危に関わるんです。もしガーゴイルが再び暴走したらどうします?
パズルだ、だったらガーゴイルを運んだエージェントとか、組み立てたヤツとか、チェックをしてたヤツらとか……に聞けばいいんだわサ!あちきは関係ないねッ!
ペルシカまたそんな屁理屈を……
 
{教授}パズルの言う通りだ。
運送、組み立て、検査……そのすべてを君が担当していた。
{教授}パズルの他に、もう一人だけガーゴイルの構造を知る者がいる。
私たちにつきまとい、疑いがパズルに向くよう仕向けていた者。
{教授}ランコ、それが君だ。B
E 
{教授}あれは、ランコ?
 ステージの傍では、各種スナックを抱えたキツネの売り子が、
大慌てでガーゴイルから逃げようとしている。
ガーゴイルガァァァーーッ!
ランコこーーんッ!?
 
{教授}身の危険すら顧みない、見事な演技だった。
だが毎回それが続けば、君を疑わざるを得ない。
ランコ……
{教授}計画が心配だったのか?
それとも所謂、「犯人は現場に戻る」というやつか。
B
Fランコ……つまり、パズルを疑うような発言は、全部あっしの判断を鈍らせるためですかィ?
(選択)1.疑わしいのは君だけだからね。G
2.結論が出るまで、疑わしい人物は警戒しておかないとね。H
Gニャズルあちきのことも疑ってたクセに……I
Hニャズル教授、このロクデニャシ……I
Iランコフッ……さすがは教授さん、お見逸れしやしたゼ。
リコ話題を逸らすんじゃないよ、ランコ。
リコセクターの外に上位浄化者が来てなかったら、リコは最後まで騙されてただろうさ。
リコ貨物検査を口実にリコを遠ざけたのは、エントロピー感染が起こるバーバンクから逃がすためだったんだろ?
ランコ……
リコお前さんはなんにも変わっちゃいない。ただ、誰かに利用されただけなんだろ?
ランコ……
リコ……ランコ、なんとか言ったらどうなんだい!!
リコ黙ってたら、これぜんぶがお前さんのせいになっちまうんだよ?そうなったら、リコや教授でだってお前さんを助けらんない!
ランコ誰かに助けて欲しいなんざ、望んだ覚えはねェんだわ!
ランコ今まで「失踪」したトレーダーは何人でさ?誰かが助けに行った試しがありやしたか?あっしよりも、先輩のがよっぽど詳しいんじゃないですかィ!?
リコそ、そいは……でも、だからってエントロピー化するなんて……!
ランコ先輩は浄化者が怖いんでやんしょう。けどエントロピーの前じゃ、奴らなんざ取るに足らねェさ。
イオスふぅん?
ナシタそんな言い訳、時代遅れもいいところだ!ランコ、お前はその力で、弱い者を虐げているに過ぎない!
ランコいんや。
 ランコはリコに手を伸ばした。
ランコリコ先輩。仲間を大事にすること、トレーダーの名誉と責任を守ること。あっしは先輩に教わったこたァ、ぜんぶ実践してきやした。
ランコけど、あっしらの得た利益を、貧困したセクターのトレーダーに配るだけじゃ、みんなを助けるこたァできない。
ランコあっしらには力がいる。力がありゃセクターの危機に巻き込まれないで済むし、次から次へと「失踪」せずに済む。
リコ……ランコ。仲間から離れてる間、お前さんはずっとこんなことを……?
 リコの問いかけに、ランコは是とも非ともつかない笑顔で答えた。
ランコある程度の成績挙げてから、リコ先輩を誘おうと思ってたんですがねェ。そうすりゃ気分もいくらかマシでやんしょ。
ランコでもバレちまっちゃあ仕方ねェ。あっしは力を手に入れた。今なら指すら動かさずに、先輩が必死に取り入ってきたオアシスの連中を捻り潰せる……
 彼女の掌に小さな黒点が滲み、そこから何かが芽生え、
枝分かれし、淡い紫色の花が開いた。
{教授}これは……
 
 
 
ペルシカ教授、お気をつけて!あれはピエリデスにあった花と同じものです!
 イオスは眉をひそめ、私の前に立った。
ランコブラックスワンにもらったんでさァ。こいつがありゃ無限に力が湧いて、エージェントの制限を突破できるって話ですゼ。
ランコリコ先輩。どうでさ、あっしと行くってのは?
リコ……お前さんの言うことにも一理ある。確かにリコたちは弱い。そいに、あまりにも多くの犠牲を払いすぎた。
リコでも、武力を持たないリコたちに必要なのは、安全に行き来できるルートであって……
ランコそんなモンは他人の力でさ!ルートを設けてるセクターがいくつあるってんです?今も稼働してンのは?
リコそりゃほんの一握りだけど、トレーダーの失踪だってだいぶ減ってんだ……損失ばっか見てられっかい……
リコそいに、コネクションロスト状態での商いは危険だ。無難に商売ができて、話の通じない連中にケツの毛まで毟られずに済むんなら、そいで十分さ!
ランコ……けど、この方法だって悪かないですゼ?
ランコ誰にも頼らずに、トレーダーだけで道を切り開いていける……
ランコ「トレーダーは一心同体だ」……そう教えたのは先輩でやんしょう。
 ランコは懇願するような視線をリコに向けた。
ランコリコ先輩、あっしと行きやしょうよ……後生ですから。
ランコこの道を試してみやしょうよ。先輩にゃ見えない景色が、あっしにゃあ見えるんでさァ。大丈夫、思ったほど怖かないですゼ……
 リコは彼女の掌に凛と咲く花をまじまじと見た。
そして決意したかのように、ゆっくりと首をふる。
リコダメだ、ランコ。お前さんは自分が何をやってんのか、まるでわかっちゃいない。
リコこんなことしちゃ、トレーダー全員が巻き添えになっちまう。商売上がったりだ、金がなくちゃ生存も未来も語れない。
ランコ……それが、おたくの答えですかィ。リコ先輩?
 あたりの空気がにわかに凍えだした。
 リコのふわふわした尻尾は固くしぼみ、悄然とうなだれている。
(選択)1.こうなることは、予想してたよ。J
2.約束通り、あとのことは任せてもらおう。K
J{教授}エントロピー化したエージェントは大抵、以前にも増して極端になる。
話を聞き入れなくても無理はない。
L
Kリコすまないね、教授さん。説得できると思ったんだけど……L
Lランコはは……あははは……
ランコリコ先輩……先輩だけはあっしを理解してくれると思ってたんですがねェ……仲間の困難や解決手段を考慮できる存在だ、って……
 ランコは床に崩れ落ちた。
自身の頬を触れながら、虚ろな眼差しを前方に向けている。
 かつての機知に満ちていた瞳は何も映しておらず、そこには混沌と空虚が陰るのみだ。
ランコ結局……こうなっちまうんですかィ。
おんなじだァ……あん時、あっしが独りで仲間を離れた時と……
 黒紫色の裂け目が彼女の体を引き裂き、中からウイルスが獰猛な輪郭を覗かせる。
ランコでも、かまやしません。
ランコあっしが一足先に未来に行って、仲間のために安全な道を切り開いておきやしょう。
それだけで充分でさァ。
ランコたとえ、リコ先輩の亡骸を跨ごうとも、ね……
 ランコの目から滔々と涙が溢れ出す。その瞳は頑なだ。
ランコおたくが最後の失踪者ですゼ、リコ先輩。
未来はあっしに任せておくんなせェ。
イオス……ここまで捻じれるとはね。とっくにエージェントの範疇を超えてるわ。
イオスこれも一種の進化なのかしら、教授?
(選択)1.そうかもね。M
2.エージェントが人間の卑しさを学んだんだ、進化とは言い難いな。M
3.その話は後にしよう。M
Mイオスさて、舞台の主役はあの暴走したトレーダーさんね……
イオス教授、戦闘命令を。