逆音共振 PART.4 開幕

Last-modified: 2025-02-02 (日) 20:14:40

バーバンクセクター、街角。
 イオスとがんじがらめにされていた私は、
次々と周囲に薪を運んでくる黒衣のエージェントたちをぼんやりと眺めていた。
{教授}パフォーマンスが始まるまで、まだ時間がかかりそうね。
イオスあら、退屈しちゃった?
(選択)1.あなたといて退屈するわけないでしょ。A
2.あなたといるのに、退屈する度胸はないよ。B
Aイオスふふふ、褒め言葉と受け取っておくわ。C
Bイオスくすくすくす……教授って面白いのね。何のことだかち~っともわからないわ。C
Cイオスだけど、お客様を退屈させてしまうようでは、娯楽セクターのガイド失格ね。
イオスお詫びに一つだけ物語を聴かせてあげる。
イオス私も人づてに聞いた話だけれど。マグラシアのとあるセクターには、かつて現実世界で人間を殺したアドミニストレーターがいるんですって。
(選択)1.そんな人形のメンタルが、まだ残ってるの?D
2.物語じゃなくて、実際の出来事なのね……E
D{教授}それどころか、マグラシアにアップロードされてるなんて……
イオスこの物語を聞いた者は、みな口々にそう言うわ。
イオスあくまで噂話だもの、真相は誰にもわからないのかも。F
Eイオスふふふ、そうよ。それも綿密に計算し尽くされたタイプの。F
Fイオス現実から来た人形のメンタル。貴方にとっては当たり前の概念でしょうけど、マグラシアのエージェントにとって――
イオス「現実」という響きは、遥か遠くに聴こえるものよ。
イオス話を戻しましょう。その人形は軍用人形ですらなく、ただの民生用人形だったらしいの。
イオスなんでも、現実世界で人間と恋に落ちたんだとか。
イオス世間には理解されない恋だと知りながら、二人は躊躇うことなく愛し合った。
イオスお互いを信頼し合い、相手を最も大切な人として、二人だけの至福の時を過ごしていたの。
イオスだけどそれは、その人間の弱みでもあった。なにせ人形を愛するなんて、他の人間には理解しがたいことだもの。
(選択)1.確かにね、人形と恋に落ちるなんて変よ。G
2.うーん……それはどうかな。H
Gイオスふぅん……やっぱり貴方にも理解できない?I
Hイオスあら?もしかして教授にも経験が?機会があれば、ぜひお聞かせ願いたいわ。I
Iイオスとにかく、その弱みを握った敵は誹謗や中傷を通じて人間の事業を潰し、その地位と財産を奪おうとした。
イオスそれに気づいた人形は演算を始めたの。
イオス恋人が敵に潰される確率、恋人が路頭に迷ったあと病気や負傷、死亡する確率。
イオスそして、そのすべてを防ぐ最も効果的な方法を……
{教授}それが「殺人」だったわけね。
イオスええ、そういう出だしだったものね。
{教授}私の知る限り、民生用人形は人間を傷つけられないはずだけど。
イオスそう、だから手段を使ったの。
イオス自分の職業を利用してイマーシブシアターをデザインし、敵を人形の領域に誘い込んだのよ。
イオスそして「パフォーマンス」の途中で、敵に危険性の極めて高いギミックを自ら起動させた。
イオス観客は皆、リアルなパフォーマンスだと思っていた。そして舞台が終わって初めて、それが公然たる殺人だと気づいたの。
(選択)1.恐ろしい話ね。J
2.それで?J
Jイオスホワイトエリアで起きたこの事件に、人々は騒然としたそうよ。
イオス政府はすぐに人形を処分しようと動いたわ、人形自身もそうなる運命だと思っていた。
イオスでもどうしたことか人形は破壊されておらず、そのメンタルはマグラシアクラウドへとアップロードされている。
(選択)1.どうして?K
2.その人形は誰なの?K
Kイオス一介のエージェントである私には、詳しいことはわからないわ。
イオスどう、教授?ここまで聞いて、この物語をどう思った?
(選択)1.私の知る限り、マグラシアにメンタルをアップロードできる組織はただ一つ。L
2.物語の真相は、そこまでロマンチックじゃないかもね。M
3.あなたの言うその人形――N
4.特に何も思わないかな。O
Lイオスそうね。現実を知るエージェントは、クラウド上ではそう多くない。
イオスそもそも二つの世界は、交わるべきじゃなかったのかも。
(選択)1.私の知る限り、マグラシアにメンタルをアップロードできる組織はただ一つ。L
2.物語の真相は、そこまでロマンチックじゃないかもね。M
3.あなたの言うその人形――N
4.特に何も思わないかな。O
Mイオスどうしてそう思うの?
{教授}まず人形と人間の恋愛。
これを人間が直接もしくは間接的に人形にコマンドを下したものと仮定する。
{教授}この仮説に基づけば、最終的に「殺人」を決断したのは人間である可能性が高い。
イオス理性的な分析ね、さすがは教授。
イオスでもこれは物語だもの、思いもよらない展開があってもおかしくないわ。
イオス例えば、初めは「コマンド」のつもりでも、次第に本当の感情に変化していったとか。
(選択)1.私の知る限り、マグラシアにメンタルをアップロードできる組織はただ一つ。L
2.物語の真相は、そこまでロマンチックじゃないかもね。M
3.あなたの言うその人形――N
4.特に何も思わないかな。O
N{教授}まさか、あなたが……?
イオスふふふふ、まさか。
イオス私は生まれも育ちもマグラシアの先住エージェントよ、その点については保証するわ。
{教授}(つまり、他は保証できないってことね……)
(選択)1.私の知る限り、マグラシアにメンタルをアップロードできる組織はただ一つ。L
2.物語の真相は、そこまでロマンチックじゃないかもね。M
3.あなたの言うその人形――N
4.特に何も思わないかな。O
Oイオスでもこの物語、今の私たちの境遇にぴったりだとは思わない?
イオスマグラシア全体が、あらかじめ誰かに用意された舞台だったとしたら……
 イオスの言葉に応えるかのように、黒衣のエージェントたちが薪に火をつけた。
私たちの背中をにわかに炎が照らす。
ダークレンジャーNさて、始めようか。
 私たちをここへと拐かしたダークレンジャーNが近づいてきた。
どういうわけか、彼女は妙に畏まって見えた。時おり視線を私に向ける。
ダークレンジャーN……
{教授}私の顔に何か?
ダークレンジャーNあっ、いや、その……
黒衣のエージェントN様!我々にご命令を!
 四方八方から黒衣のエージェントが大勢現れ、儀式の陣形を成した。
ダークレンジャーN……よし!
ダークレンジャーN諸君!フェスティバルの終幕を告げる時が来たぞ!
ダークレンジャーNさぁ、私に従い審判を始めるのだ!
黒衣のエージェントおぉーーーーッ!!
 黒衣のエージェントたちがにじり寄ってきて、私たちを小さな処刑台にくくりつけた。
エージェント今回の悪役、迫力あるじゃん!
エージェントうんうん、めっちゃかっこいいし!
エージェントNの宿敵――異相レンジャーΩ、まだ出てこないのかな?
エージェント早くNの罪を数えてほしい~!
 周囲の野次馬が騒ぎ出した。
エージェントたちのいくつもの視線がステージへと注がれる。
私は無意識に拳を握りしめた。
イオス緊張しているの、{教授}?
 銀髪の少女は、私の肩にもたれかかった。
{教授}あなたね……
{教授}(あなたといると、退屈しないよ……)
イオス今の情況が不安?それとも、私と二人きりだから?
 彼女は捉えどころのない上目遣いで、私の表情を盗み見た。
イオスいずれにしても、私の気持ちは貴方と同じ。
イオス「貴方と私は同じ糸で、運命に紡がれている」
イオス貴方の傍にいるからかしら、心の動悸が止まないわ……
(選択)1.落ち着いて、{教授}。これはただのパフォーマンスよ。彼女が誰か忘れたの……P
2.理屈はわかるけど、この状況でどう落ち着けと!?Q
P 私はどうにか冷静さを保ちながら、彼女に答えようとした。R
Q 相手は誰だか知っている、これがパフォーマンスだという事も。
それでも私は彼女の言動を無視できなかった。
R
R{教授}わ……私は不安なんて感じない。
 イオスの演技に影響されて、取り留めもないセリフが口をついて出た。
{教授}ここで不安になっていたら、どうやって背後のあなたを守るの?
イオスプッ!
{教授}(い、今笑った……?)
 彼女はこらえきれずに吹き出して、私の手をそっと繋いだ。
私はその勢いで彼女を背後に匿うと、防御態勢をとった。
 周囲から攻めくる黒い影たちは、意外にもその動きに慄いて足を止めた。
イオスそう言ってくれて、嬉しいわ……
イオス知ってる?貴方に出会うまで、人生は不自由なものだと思ってた。
イオスでもね、この先に答えがあろうとなかろうと、貴方となら受け止められる。今はそう思えるの。
 彼女は私の手を強く握りしめた、瞳に溢れんばかりの愛をたたえて。
イオスどうか私を連れていって、この果てなき檻から解き放ってちょうだい!
イオス貴方さえ、私と一緒に――
{教授}私は――
ペルシカ教授?
{教授}へっ!?
 背後から聴こえてきた小さな声が、私たちのアドリブを遮った。
ふりむくと、そう遠くない場所でペルシカがこちらを眺めている。
{教授}ペ、ペルシカ?どうしてここに?
イオス{教授}さん、目を逸しちゃ駄目。
ペルシカ……どういうことですか、教授?
{教授}えーっと……そのー……
 イオスは演技に没頭している。
そのせいで場が混乱を極めているとも知らずに……