バーバンクセクター、街角。 | |||
イオスとがんじがらめにされていた私は、 次々と周囲に薪を運んでくる黒衣のエージェントたちをぼんやりと眺めていた。 | |||
{教授} | パフォーマンスが始まるまで、まだ時間がかかりそうね。 | ||
イオス | あら、退屈しちゃった? | ||
(選択) | 1.あなたといて退屈するわけないでしょ。 | A | |
2.あなたといるのに、退屈する度胸はないよ。 | B | ||
A | イオス | ふふふ、褒め言葉と受け取っておくわ。 | C |
B | イオス | くすくすくす……教授って面白いのね。何のことだかち~っともわからないわ。 | C |
C | イオス | だけど、お客様を退屈させてしまうようでは、娯楽セクターのガイド失格ね。 | |
イオス | お詫びに一つだけ物語を聴かせてあげる。 | ||
イオス | 私も人づてに聞いた話だけれど。マグラシアのとあるセクターには、かつて現実世界で人間を殺したアドミニストレーターがいるんですって。 | ||
(選択) | 1.そんな人形のメンタルが、まだ残ってるの? | D | |
2.物語じゃなくて、実際の出来事なのね…… | E | ||
D | {教授} | それどころか、マグラシアにアップロードされてるなんて…… | |
イオス | この物語を聞いた者は、みな口々にそう言うわ。 | ||
イオス | あくまで噂話だもの、真相は誰にもわからないのかも。 | F | |
E | イオス | ふふふ、そうよ。それも綿密に計算し尽くされたタイプの。 | F |
F | イオス | 現実から来た人形のメンタル。貴方にとっては当たり前の概念でしょうけど、マグラシアのエージェントにとって―― | |
イオス | 「現実」という響きは、遥か遠くに聴こえるものよ。 | ||
イオス | 話を戻しましょう。その人形は軍用人形ですらなく、ただの民生用人形だったらしいの。 | ||
イオス | なんでも、現実世界で人間と恋に落ちたんだとか。 | ||
イオス | 世間には理解されない恋だと知りながら、二人は躊躇うことなく愛し合った。 | ||
イオス | お互いを信頼し合い、相手を最も大切な人として、二人だけの至福の時を過ごしていたの。 | ||
イオス | だけどそれは、その人間の弱みでもあった。なにせ人形を愛するなんて、他の人間には理解しがたいことだもの。 | ||
(選択) | 1.確かにね、人形と恋に落ちるなんて変よ。 | G | |
2.うーん……それはどうかな。 | H | ||
G | イオス | ふぅん……やっぱり貴方にも理解できない? | I |
H | イオス | あら?もしかして教授にも経験が?機会があれば、ぜひお聞かせ願いたいわ。 | I |
I | イオス | とにかく、その弱みを握った敵は誹謗や中傷を通じて人間の事業を潰し、その地位と財産を奪おうとした。 | |
イオス | それに気づいた人形は演算を始めたの。 | ||
イオス | 恋人が敵に潰される確率、恋人が路頭に迷ったあと病気や負傷、死亡する確率。 | ||
イオス | そして、そのすべてを防ぐ最も効果的な方法を…… | ||
{教授} | それが「殺人」だったわけね。 | ||
イオス | ええ、そういう出だしだったものね。 | ||
{教授} | 私の知る限り、民生用人形は人間を傷つけられないはずだけど。 | ||
イオス | そう、だから手段を使ったの。 | ||
イオス | 自分の職業を利用してイマーシブシアターをデザインし、敵を人形の領域に誘い込んだのよ。 | ||
イオス | そして「パフォーマンス」の途中で、敵に危険性の極めて高いギミックを自ら起動させた。 | ||
イオス | 観客は皆、リアルなパフォーマンスだと思っていた。そして舞台が終わって初めて、それが公然たる殺人だと気づいたの。 | ||
(選択) | 1.恐ろしい話ね。 | J | |
2.それで? | J | ||
J | イオス | ホワイトエリアで起きたこの事件に、人々は騒然としたそうよ。 | |
イオス | 政府はすぐに人形を処分しようと動いたわ、人形自身もそうなる運命だと思っていた。 | ||
イオス | でもどうしたことか人形は破壊されておらず、そのメンタルはマグラシアクラウドへとアップロードされている。 | ||
(選択) | 1.どうして? | K | |
2.その人形は誰なの? | K | ||
K | イオス | 一介のエージェントである私には、詳しいことはわからないわ。 | |
イオス | どう、教授?ここまで聞いて、この物語をどう思った? | ||
(選択) | 1.私の知る限り、マグラシアにメンタルをアップロードできる組織はただ一つ。 | L | |
2.物語の真相は、そこまでロマンチックじゃないかもね。 | M | ||
3.あなたの言うその人形―― | N | ||
4.特に何も思わないかな。 | O | ||
L | イオス | そうね。現実を知るエージェントは、クラウド上ではそう多くない。 | |
イオス | そもそも二つの世界は、交わるべきじゃなかったのかも。 | ||
(選択) | 1.私の知る限り、マグラシアにメンタルをアップロードできる組織はただ一つ。 | L | |
2.物語の真相は、そこまでロマンチックじゃないかもね。 | M | ||
3.あなたの言うその人形―― | N | ||
4.特に何も思わないかな。 | O | ||
M | イオス | どうしてそう思うの? | |
{教授} | まず人形と人間の恋愛。 これを人間が直接もしくは間接的に人形にコマンドを下したものと仮定する。 | ||
{教授} | この仮説に基づけば、最終的に「殺人」を決断したのは人間である可能性が高い。 | ||
イオス | 理性的な分析ね、さすがは教授。 | ||
イオス | でもこれは物語だもの、思いもよらない展開があってもおかしくないわ。 | ||
イオス | 例えば、初めは「コマンド」のつもりでも、次第に本当の感情に変化していったとか。 | ||
(選択) | 1.私の知る限り、マグラシアにメンタルをアップロードできる組織はただ一つ。 | L | |
2.物語の真相は、そこまでロマンチックじゃないかもね。 | M | ||
3.あなたの言うその人形―― | N | ||
4.特に何も思わないかな。 | O | ||
N | {教授} | まさか、あなたが……? | |
イオス | ふふふふ、まさか。 | ||
イオス | 私は生まれも育ちもマグラシアの先住エージェントよ、その点については保証するわ。 | ||
{教授} | (つまり、他は保証できないってことね……) | ||
(選択) | 1.私の知る限り、マグラシアにメンタルをアップロードできる組織はただ一つ。 | L | |
2.物語の真相は、そこまでロマンチックじゃないかもね。 | M | ||
3.あなたの言うその人形―― | N | ||
4.特に何も思わないかな。 | O | ||
O | イオス | でもこの物語、今の私たちの境遇にぴったりだとは思わない? | |
イオス | マグラシア全体が、あらかじめ誰かに用意された舞台だったとしたら…… | ||
イオスの言葉に応えるかのように、黒衣のエージェントたちが薪に火をつけた。 私たちの背中をにわかに炎が照らす。 | |||
ダークレンジャーN | さて、始めようか。 | ||
私たちをここへと拐かしたダークレンジャーNが近づいてきた。 どういうわけか、彼女は妙に畏まって見えた。時おり視線を私に向ける。 | |||
ダークレンジャーN | …… | ||
{教授} | 私の顔に何か? | ||
ダークレンジャーN | あっ、いや、その…… | ||
黒衣のエージェント | N様!我々にご命令を! | ||
四方八方から黒衣のエージェントが大勢現れ、儀式の陣形を成した。 | |||
ダークレンジャーN | ……よし! | ||
ダークレンジャーN | 諸君!フェスティバルの終幕を告げる時が来たぞ! | ||
ダークレンジャーN | さぁ、私に従い審判を始めるのだ! | ||
黒衣のエージェント | おぉーーーーッ!! | ||
黒衣のエージェントたちがにじり寄ってきて、私たちを小さな処刑台にくくりつけた。 | |||
エージェント | 今回の悪役、迫力あるじゃん! | ||
エージェント | うんうん、めっちゃかっこいいし! | ||
エージェント | Nの宿敵――異相レンジャーΩ、まだ出てこないのかな? | ||
エージェント | 早くNの罪を数えてほしい~! | ||
周囲の野次馬が騒ぎ出した。 エージェントたちのいくつもの視線がステージへと注がれる。 私は無意識に拳を握りしめた。 | |||
イオス | 緊張しているの、{教授}? | ||
銀髪の少女は、私の肩にもたれかかった。 | |||
{教授} | あなたね…… | ||
{教授} | (あなたといると、退屈しないよ……) | ||
イオス | 今の情況が不安?それとも、私と二人きりだから? | ||
彼女は捉えどころのない上目遣いで、私の表情を盗み見た。 | |||
イオス | いずれにしても、私の気持ちは貴方と同じ。 | ||
イオス | 「貴方と私は同じ糸で、運命に紡がれている」 | ||
イオス | 貴方の傍にいるからかしら、心の動悸が止まないわ…… | ||
(選択) | 1.落ち着いて、{教授}。これはただのパフォーマンスよ。彼女が誰か忘れたの…… | P | |
2.理屈はわかるけど、この状況でどう落ち着けと!? | Q | ||
P | 私はどうにか冷静さを保ちながら、彼女に答えようとした。 | R | |
Q | 相手は誰だか知っている、これがパフォーマンスだという事も。 それでも私は彼女の言動を無視できなかった。 | R | |
R | {教授} | わ……私は不安なんて感じない。 | |
イオスの演技に影響されて、取り留めもないセリフが口をついて出た。 | |||
{教授} | ここで不安になっていたら、どうやって背後のあなたを守るの? | ||
イオス | プッ! | ||
{教授} | (い、今笑った……?) | ||
彼女はこらえきれずに吹き出して、私の手をそっと繋いだ。 私はその勢いで彼女を背後に匿うと、防御態勢をとった。 | |||
周囲から攻めくる黒い影たちは、意外にもその動きに慄いて足を止めた。 | |||
イオス | そう言ってくれて、嬉しいわ…… | ||
イオス | 知ってる?貴方に出会うまで、人生は不自由なものだと思ってた。 | ||
イオス | でもね、この先に答えがあろうとなかろうと、貴方となら受け止められる。今はそう思えるの。 | ||
彼女は私の手を強く握りしめた、瞳に溢れんばかりの愛をたたえて。 | |||
イオス | どうか私を連れていって、この果てなき檻から解き放ってちょうだい! | ||
イオス | 貴方さえ、私と一緒に―― | ||
{教授} | 私は―― | ||
ペルシカ | 教授? | ||
{教授} | へっ!? | ||
背後から聴こえてきた小さな声が、私たちのアドリブを遮った。 ふりむくと、そう遠くない場所でペルシカがこちらを眺めている。 | |||
{教授} | ペ、ペルシカ?どうしてここに? | ||
イオス | {教授}さん、目を逸しちゃ駄目。 | ||
ペルシカ | ……どういうことですか、教授? | ||
{教授} | えーっと……そのー…… | ||
イオスは演技に没頭している。 そのせいで場が混乱を極めているとも知らずに…… |