クレシェンテ劇場、楽屋。 | |||
ナシタは暗い廊下を一人で歩いていた。 | |||
ナシタ | 『異相レンジャー』…… | ||
観客 | 異相レンジャー、超カッコいい~~! | ||
観客 | 最後のバトル、すごい迫力だったよね! | ||
観客 | 俺もあんなヒーローになれたらな~! | ||
ナシタ | …… | ||
??? | あっ!ワルモノだ! | ||
ナシタ | ん?子どもの声……? | ||
??? | まさか、ここってダークレンジャーのアジト!? | ||
ナシタ | あっ、こら!勝手に楽屋に入ってきちゃダメだろ! | ||
小さなエージェント | きゃっ! | ||
ナシタ | ……これは…… | ||
楽屋に忍び込んできた小さなエージェントの手には、 異相レンジャーΩのポスターが握られていた。それとサイン用のマーカーも。 | |||
ナシタ | ……異相レンジャーΩを探しに来たのか? | ||
ナシタ | 彼は今出かけてる、用があるなら…… | ||
小さなエージェント | こ、こないで! | ||
小さなエージェント | ダークレンジャーNだな!やっぱりワルモノのアジトだったんだ! | ||
ナシタ | …… | ||
小さなエージェントは怯えた表情で後ずさった。 その拍子に、背後にあったスリープ状態のガーゴイルに触れてしまう。 | |||
ガーゴイル | グルルル…… | ||
小さなエージェント | きゃーーーッ!? | ||
小さなエージェント | ワ、ワルモノが呼んだモンスターー! | ||
ソル | 怖がらないで!正義の味方、異相レンジャー参上! | ||
ナシタ | ソル? | ||
ソル | さぁ、こっちへおいで!あんなモンスターにやられたりしないから! | ||
小さなエージェント | あっ!異相レンジャーΩのコーハイのお姉ちゃんだ! | ||
ソルは『異相レンジャー』お決まりのポーズを決めて、 小さなエージェントを安心させた。 | |||
小さなエージェント | お姉ちゃん、ワルモノのアジトに忍び込んでるの? | ||
ソル | そうだよ、でももう大丈夫。ここのガーゴイルは手懐けたから心配いらないよ! | ||
ソル | それにあたしがいるんだ、キミを傷つけさせたりするもんか! | ||
ソル | だから言う通りにするんだよ、いい?さ、あたしの手をつないで。 | ||
小さなエージェント | わ、わかった! | ||
ガーゴイル | ガルルル…… | ||
ナシタ | (ソルの背後にいるガーゴイル、守衛用にプログラムした動きと違う!) | ||
ナシタ | そこは危険だ!早くこっちへ! | ||
ソル | えっ? | ||
ソルが反応できずにいる横で、ナシタの大声に小さなエージェントが驚く。 | |||
小さなエージェント | ダークレンジャーNが動いた!お姉ちゃん、はやくやっつけて! | ||
彼女はソルの背後に隠れた。 だがそのせいで、ガーゴイルの前に身をさらけ出す形となる。 | |||
ガーゴイル | ガァァッ!! | ||
ナシタ | まずい! | ||
考える暇もなく、ナシタはとっさにガーゴイルへと突進した。 | |||
ゴッ!! | |||
ソル | な、なんだ!? | ||
ガーゴイルが轟音を立てて倒れた。ナシタの額に傷が開く。 | |||
ソル | ナシタ! | ||
我に返ったソルはすぐさま剣を抜き、ガーゴイルに斬りかかった。 | |||
ソル | くらえ! | ||
ガーゴイル | グルル…ル……グゥ…… | ||
ソル | ふぅ、倒せた…… | ||
ソル | ナシタ!大丈夫!? | ||
ナシタ | ああ……その、エージェントのほうは? | ||
ソル | ナシタのおかげで無事だよ!だけど…… | ||
小さなエージェント | うぅ…… | ||
小さなエージェント | ダークレンジャーNが、仲間のモンスターを攻撃した…… | ||
小さなエージェント | それに、お姉ちゃんはダークレンジャーNを攻撃しなかった……どうして? | ||
ナシタ | まずいな、錯乱状態に陥ってる。あたしを悪党だと思っていたから…… | ||
ナシタ | 小型エージェントに割り振られたオペランドは少ない、この展開を処理しきれないんだ…… | ||
ソル | ねぇ、あたしの声、聴こえる? | ||
ソル | 実はね、ダークレンジャーNは……悪の組織に侵入してた、あたしたちのスパイなの! | ||
ソル | 世界の平和のために、ずっと、ずーっと、暗闇の中たった独りで戦ってきたんだよ。 | ||
小さなエージェント | !! | ||
小さなエージェント | ほ、ほんと? | ||
ソル | もっちろん!あたしは正義の味方、異相レンジャーだぞ!嘘なんかつくもんか! | ||
ソル | でも、このことは絶対に内緒だからね!世界の安危に関わる重大な秘密なんだから! | ||
ソル | この秘密を知ったからには、キミもあたしたちの仲間だよ。正義のために、一緒に秘密を守ろう! | ||
小さなエージェント | うん、わかった!あたし、絶対に誰にも言わない! | ||
小さなエージェント | 応援してるからね、スパイのお姉ちゃん! | ||
ナシタ | あ……うん……ありがとう…… | ||
ソル | ふ~、これで一件落着。 | ||
ソル | そっちはどう? | ||
ナシタ | メリルには報告を済ませてる。ガーゴイルのプログラム改ざんの調査に人を当たらせるそうだ。 | ||
ソル | 傷は? | ||
ナシタ | 処理できてる、安心しろ。 | ||
ナシタ | お前は……子どもをなだめるのが上手いな。 | ||
ソル | あはは、観測隊ガイドやってたときの名残かもね。 | ||
ソル | 人ってピンチになるとさ、急に子どもみたいに心が脆くなるんだ。 | ||
ソル | そういう時は、一番単純な理屈で慰めてあげないと。例えば愛だとか、希望だとか。ナシタが普段『異相レンジャー』で伝えようとしてるアレだよ。 | ||
ナシタ | あたしは……悪役なんだけど…… | ||
ソル | えっ?なに? | ||
ナシタ | なんでもない……すまない、ソル。 | ||
ナシタ | さっきは酷いことを言った。お前は何も悪くない、あたしが今回の舞台を重く見すぎたせいだ。 | ||
ソル | 全然気にしてないよ。ナシタの気持ち、わかるからさ。 | ||
ソル | あたしさ……『異相レンジャー』見たことあるんだ、ずーっと昔だけどね。 | ||
ソル | 記憶データを何回も整理したから、「異相レンジャー」って言葉もとっくにデータベースから消えちゃってたけど。でも、ナシタの演技を見て、その時のこと思い出した。 | ||
ナシタ | ソル…… | ||
ナシタは小さなエージェントの前で、ソルが取ったお決まりのポーズを思い出した。 | |||
ソル | たぶん、アクティベートしてすぐだったかな。簡単な任務ばっかりだった時期。自分がどんな人形であるべきかも、よくわかってなかった。そんな時―― | ||
ソル | 偶然見た『異相レンジャー』に、正義に立ち向かうパワーをもらったんだ。だから、どうかお礼を言わせて。ありがとう、ナシタ。 | ||
ナシタ | !! | ||
異相レンジャーΩ | ナシタ先輩ッ!指導あざーす! | ||
異相レンジャーΩ | おいら、先輩の期待に応えるからさ!愛と正義の伝道師「異相レンジャーΩ」として、みんなの夢を守ってみせるッ! | ||
ナシタ | お前なら、本物の異相レンジャーになれるかもしれない…… | ||
ソル | へ?今なんか言った? | ||
ナシタ | いや、なんでもない。 | ||
ナシタ | よし、決めた。ソル、今日からあたしが演技を叩き込んでやる! | ||
ナシタ | 舞台が始まるまでに、お前を立派な「異相レンジャー」にしてみせるぞ! | ||
時を同じくして、クレシェンテ劇場楽屋のもう一方。 | |||
ペルシカ | 教授、何をお考えなんです? | ||
ペルシカ | メリルさんに断られて落ち込んでいらっしゃるんですか?それとも、何か別の……? | ||
(選択) | 1.メリルのこと。 | A | |
2.ソルのこと。 | B | ||
3.今回のバーバンクの旅は、無事じゃ済まない気がする。 | C | ||
4.なんでもない。 | D | ||
A | ペルシカ | ふふふ……思った通り。 | |
ペルシカ | 私もクラウドセクターに来るまで、アーティスト系人形と接触することはほとんどありませんでした。 | ||
ペルシカ | アートを追求する方たちの思考回路は、確かに独特ですね…… | ||
イオス | ペルシカさんは、メリルさんに拒絶されたとお考えなのね? | ||
ペルシカ | そうですね……私たちが協力に値するか、テストしているようにも思えます。 | ||
イオス | 教授はどう思う? | ||
{教授} | 疑われるのも無理ないね。 彼女の言うように、こちらの実力を証明すればいいのよ。 | ||
(選択) | 1.メリルのこと。 | A | |
2.ソルのこと。 | B | ||
3.今回のバーバンクの旅は、無事じゃ済まない気がする。 | C | ||
4.なんでもない。 | D | ||
B | ペルシカ | 確かに……あれだけ猪突猛進なソルさんがいきなり演技だなんて、私も心配です。 | |
イオス | 私からしてみれば、ペルシカさん、あなたのほうが演技に向いていると思うけど。 | ||
ペルシカ | えっ、わ、私ですか?そんなふうに言われたの、初めてです。 | ||
イオス | ふふふ……真摯な者は人の心を容易く突き動かす。舞台でもそれは同じ。 | ||
イオス | あなたを目にした時、教授もあからさまに動揺していたわ。 | ||
{教授} | それとこれと何の関係が…… | ||
(選択) | 1.メリルのこと。 | A | |
2.ソルのこと。 | B | ||
3.今回のバーバンクの旅は、無事じゃ済まない気がする。 | C | ||
4.なんでもない。 | D | ||
C | ペルシカ | もしもの時のために、私のほうでも救援手段を用意しています。 | |
ペルシカ | もちろん、何事もなくフェスティバルを楽しめるのが一番ですが。 | ||
イオス | あら、これまで色々あったような口ぶりね。 | ||
ペルシカ | ええ、色々と。ですが……外を彷徨っている仲間たちと比べたら、私たちの境遇なんて平穏なものです。 | ||
イオス | なんでも、セクターを離れた異常エージェントは、浄化者に追われる運命なんだとか。 | ||
{教授} | (あなたがそれ言う……?) | ||
イオス | たいそう軽い物言いだけれど、皆さんこれまでずいぶんと苦労なさったのでは? | ||
ペルシカ | いえ、そんな……私たちを招集してくださったのは教授ですから。教授はオアシスの要なんです。 | ||
イオス | ふふ……それならもっと、教授や皆さんを丁寧におもてなししなくちゃ。 | ||
イオス | バーバンクでのひとときを楽しんでいただけるよう尽力するわ。 | ||
(選択) | 1.メリルのこと。 | A | |
2.ソルのこと。 | B | ||
3.今回のバーバンクの旅は、無事じゃ済まない気がする。 | C | ||
4.なんでもない。 | D | ||
D | 私たちが話しているところへ、メリルが現れた。 | ||
メリル | お客様方、こんなに早く再会するとはね。 | ||
メリル | 真夜中の分かれ道へようこそ。良いニュースと悪いニュース、どっちを先に聞きたい? | ||
E | (選択→H) | 1.良いニュース。 | F |
2.悪いニュース。 | G | ||
F | メリル | ソルが主役2号を演じることにナシタが同意した。あの子直々に演技を仕込んでやるってさ。 | E |
G | メリル | パフォーマンス用のガーゴイルが妙な動きを見せた。 | E |
H | {教授} | まさに悲喜こもごもね。 | |
メリル | ガーゴイルについては、確かに驚いたね。 | ||
メリル | サプライズは今日じゃなかったはずだけど。知ってた?あのガーゴイルの生みの親、現実でも有名な芸術家なのよ。 | ||
ペルシカ | 芸術家?そういえば、この独特なデザイン…… | ||
メリル | そう。ここのガーゴイルはすべて彫刻家パズルによるもの。彼女のために、バーバンクにアトリエを設けてあげたの。 | ||
ペルシカ | パズル?そのパズルさんとは、もしかして…… | ||
メリル | マグラシアに他の「パズル」がいるとは到底思えないけど? | ||
メリル | 全世界のホワイトエリアで話題沸騰中の人形彫刻家、パズルよ。 | ||
イオス | ペルシカさん、パズルさんをご存知なの? | ||
ペルシカ | ぞ……存じているというか……彼女の相手はどうにも苦手で…… | ||
ペルシカ | クラウドセクターにいた時も、話題には事欠かきませんでした。コントロールセンターの外観を勝手に変更したり、彫像で他の人形を脅かしたり…… | ||
メリル | 芸術のためなら多少は理解できる。舞台を壊そうと言うんなら話は別だけど。 | ||
メリル | 知り合いだったんなら手っ取り早い。この件、任せていいわね? | ||
ペルシカ | 私もパズルさんの様子が気になります。教授…… | ||
(選択) | 1.今回ばかりは、ゆっくり休ませて。 | I | |
2.わかった、行こう。 | J | ||
I | ペルシカ | ふふふ、そうですね。ずっと働き通しでしたもの、ゆっくり休憩なさってください。 | |
ペルシカ | このことは、私に任せて。 | ||
イオス | パズルさんのアトリエといえば、バーバンクでも指折りの名所なのよ。 | ||
イオス | 見に行きましょうよ、教授。 | ||
{教授} | ……逃げられないってことか。 | ||
イオス | なにせ、貴方はフェスティバルの「主役」だもの。 | K | |
J | ペルシカ | えっ、私一人でも大丈夫ですよ。 | |
{教授} | あなた一人で行かせられないよ。 | ||
ペルシカ | ですが…… | ||
イオス | パズルさんのアトリエといえば、バーバンクでも指折りの名勝なのよ。 | ||
イオス | 興味がおありなら、この部分のスケジュールを優先してもいいわ。 | ||
{教授} | ほら、イオスもそう言ってる。 | ||
ペルシカ | ……まったく。 | ||
ペルシカが浮かべた仕方なさげな表情は、すぐに明媚な微笑みに変わった。 | K | ||
K | メリル | それじゃ、パズルのほうはお願いね。 | |
{教授} | この依頼を通じて、私たちの誠意を示せるといいけど。 | ||
メリル | ここじゃしつこいエージェントは嫌われるよ。まぁ、助かったのは事実ね。 | ||
メリル | とりあえず、舞台のほうはサプライヤーに連絡しといた。ガーゴイルの検査はあの子に任せましょ。こういうのもアフターサービスの一環だし。 | ||
ペルシカ | サプライヤー……トレーダーのランコさんたちですか? | ||
メリル | へぇ、知ってるんだ、助かる。検査を終えたら、そっちに報告するよう言っとくから。 | ||
メリル | ここへ戻ってくる頃には、ぜんぶ解決してると良いけどね。グッドラック。 | ||
メリルは手をひらひらさせて、劇場を離れた。 | |||
ペルシカ | 興奮しだしたかと思えば、今度はそっけないですね。メリルさん、一体どういう方なんでしょう。 | ||
イオス | メリルさんは確かに、バーバンクでもひときわ独特な部類ね。彼女の言動が気に障ったなら、私が謝るわ。 | ||
ペルシカ | あ、いえ、そんな。 | ||
{教授} | 私たちにとっては、かなり正常な部類に入るね。 | ||
イオス | 貴方がたの物語、とても興味深いわ。 | ||
イオス | でも今は、ガイドとしての務めを果たしましょう。さぁ、こちらへ。 | ||
ペルシカ | はい。行きましょう、教授。 | ||
ペルシカ | パズルさんは一筋縄ではいかない人形です、どうかお気をつけて。 | ||
マップを頼りに、私たちはパズルのアトリエへとやってきた。 | |||
ペルシカ | なるほど、「クレシェンテ」と「ルーナピエナ」はバーバンク最大の劇場なんですね。 | ||
ペルシカ | クレシェンテ劇場は月の登る場所に、ルーナピエナ劇場は月の沈む場所に。そしてその間には…… | ||
??? | そしてその間には、不完全の美を象徴する弦月、 すなわち我が舞台――パズルのアトリエが存在する。 | ||
暗がりの中から、とある影が私たちの前へと浮かび上がった。 | |||
?? | ようこそなんだわサ、アポの取り方も知らないお客様方。なにかお手伝いしようか? |