逆音共振 PART.6 憧憬

Last-modified: 2025-02-02 (日) 20:13:10

クレシェンテ劇場、楽屋。
 ナシタは暗い廊下を一人で歩いていた。
ナシタ『異相レンジャー』……
 
観客異相レンジャー、超カッコいい~~!
観客最後のバトル、すごい迫力だったよね!
観客俺もあんなヒーローになれたらな~!
 
ナシタ……
???あっ!ワルモノだ!
ナシタん?子どもの声……?
???まさか、ここってダークレンジャーのアジト!?
ナシタあっ、こら!勝手に楽屋に入ってきちゃダメだろ!
小さなエージェントきゃっ!
ナシタ……これは……
 楽屋に忍び込んできた小さなエージェントの手には、
異相レンジャーΩのポスターが握られていた。それとサイン用のマーカーも。
ナシタ……異相レンジャーΩを探しに来たのか?
ナシタ彼は今出かけてる、用があるなら……
小さなエージェントこ、こないで!
小さなエージェントダークレンジャーNだな!やっぱりワルモノのアジトだったんだ!
ナシタ……
 小さなエージェントは怯えた表情で後ずさった。
その拍子に、背後にあったスリープ状態のガーゴイルに触れてしまう。
ガーゴイルグルルル……
小さなエージェントきゃーーーッ!?
小さなエージェントワ、ワルモノが呼んだモンスターー!
ソル怖がらないで!正義の味方、異相レンジャー参上!
ナシタソル?
ソルさぁ、こっちへおいで!あんなモンスターにやられたりしないから!
小さなエージェントあっ!異相レンジャーΩのコーハイのお姉ちゃんだ!
 ソルは『異相レンジャー』お決まりのポーズを決めて、
小さなエージェントを安心させた。
小さなエージェントお姉ちゃん、ワルモノのアジトに忍び込んでるの?
ソルそうだよ、でももう大丈夫。ここのガーゴイルは手懐けたから心配いらないよ!
ソルそれにあたしがいるんだ、キミを傷つけさせたりするもんか!
ソルだから言う通りにするんだよ、いい?さ、あたしの手をつないで。
小さなエージェントわ、わかった!
ガーゴイルガルルル……
ナシタ(ソルの背後にいるガーゴイル、守衛用にプログラムした動きと違う!)
ナシタそこは危険だ!早くこっちへ!
ソルえっ?
 ソルが反応できずにいる横で、ナシタの大声に小さなエージェントが驚く。
小さなエージェントダークレンジャーNが動いた!お姉ちゃん、はやくやっつけて!
 彼女はソルの背後に隠れた。
だがそのせいで、ガーゴイルの前に身をさらけ出す形となる。
ガーゴイルガァァッ!!
ナシタまずい!
 考える暇もなく、ナシタはとっさにガーゴイルへと突進した。
 ゴッ!!
ソルな、なんだ!?
 ガーゴイルが轟音を立てて倒れた。ナシタの額に傷が開く。
ソルナシタ!
 我に返ったソルはすぐさま剣を抜き、ガーゴイルに斬りかかった。
ソルくらえ!
ガーゴイルグルル…ル……グゥ……
ソルふぅ、倒せた……
ソルナシタ!大丈夫!?
ナシタああ……その、エージェントのほうは?
ソルナシタのおかげで無事だよ!だけど……
小さなエージェントうぅ……
小さなエージェントダークレンジャーNが、仲間のモンスターを攻撃した……
小さなエージェントそれに、お姉ちゃんはダークレンジャーNを攻撃しなかった……どうして?
ナシタまずいな、錯乱状態に陥ってる。あたしを悪党だと思っていたから……
ナシタ小型エージェントに割り振られたオペランドは少ない、この展開を処理しきれないんだ……
ソルねぇ、あたしの声、聴こえる?
ソル実はね、ダークレンジャーNは……悪の組織に侵入してた、あたしたちのスパイなの!
ソル世界の平和のために、ずっと、ずーっと、暗闇の中たった独りで戦ってきたんだよ。
小さなエージェント!!
小さなエージェントほ、ほんと?
ソルもっちろん!あたしは正義の味方、異相レンジャーだぞ!嘘なんかつくもんか!
ソルでも、このことは絶対に内緒だからね!世界の安危に関わる重大な秘密なんだから!
ソルこの秘密を知ったからには、キミもあたしたちの仲間だよ。正義のために、一緒に秘密を守ろう!
小さなエージェントうん、わかった!あたし、絶対に誰にも言わない!
小さなエージェント応援してるからね、スパイのお姉ちゃん!
ナシタあ……うん……ありがとう……
 
ソルふ~、これで一件落着。
ソルそっちはどう?
ナシタメリルには報告を済ませてる。ガーゴイルのプログラム改ざんの調査に人を当たらせるそうだ。
ソル傷は?
ナシタ処理できてる、安心しろ。
ナシタお前は……子どもをなだめるのが上手いな。
ソルあはは、観測隊ガイドやってたときの名残かもね。
ソル人ってピンチになるとさ、急に子どもみたいに心が脆くなるんだ。
ソルそういう時は、一番単純な理屈で慰めてあげないと。例えば愛だとか、希望だとか。ナシタが普段『異相レンジャー』で伝えようとしてるアレだよ。
ナシタあたしは……悪役なんだけど……
ソルえっ?なに?
ナシタなんでもない……すまない、ソル。
ナシタさっきは酷いことを言った。お前は何も悪くない、あたしが今回の舞台を重く見すぎたせいだ。
ソル全然気にしてないよ。ナシタの気持ち、わかるからさ。
ソルあたしさ……『異相レンジャー』見たことあるんだ、ずーっと昔だけどね。
ソル記憶データを何回も整理したから、「異相レンジャー」って言葉もとっくにデータベースから消えちゃってたけど。でも、ナシタの演技を見て、その時のこと思い出した。
ナシタソル……
 ナシタは小さなエージェントの前で、ソルが取ったお決まりのポーズを思い出した。
ソルたぶん、アクティベートしてすぐだったかな。簡単な任務ばっかりだった時期。自分がどんな人形であるべきかも、よくわかってなかった。そんな時――
ソル偶然見た『異相レンジャー』に、正義に立ち向かうパワーをもらったんだ。だから、どうかお礼を言わせて。ありがとう、ナシタ。
ナシタ!!
 
異相レンジャーΩナシタ先輩ッ!指導あざーす!
異相レンジャーΩおいら、先輩の期待に応えるからさ!愛と正義の伝道師「異相レンジャーΩ」として、みんなの夢を守ってみせるッ!
 
ナシタお前なら、本物の異相レンジャーになれるかもしれない……
ソルへ?今なんか言った?
ナシタいや、なんでもない。
ナシタよし、決めた。ソル、今日からあたしが演技を叩き込んでやる!
ナシタ舞台が始まるまでに、お前を立派な「異相レンジャー」にしてみせるぞ!
 
時を同じくして、クレシェンテ劇場楽屋のもう一方。
ペルシカ教授、何をお考えなんです?
ペルシカメリルさんに断られて落ち込んでいらっしゃるんですか?それとも、何か別の……?
(選択)1.メリルのこと。A
2.ソルのこと。B
3.今回のバーバンクの旅は、無事じゃ済まない気がする。C
4.なんでもない。D
Aペルシカふふふ……思った通り。
ペルシカ私もクラウドセクターに来るまで、アーティスト系人形と接触することはほとんどありませんでした。
ペルシカアートを追求する方たちの思考回路は、確かに独特ですね……
イオスペルシカさんは、メリルさんに拒絶されたとお考えなのね?
ペルシカそうですね……私たちが協力に値するか、テストしているようにも思えます。
イオス教授はどう思う?
{教授}疑われるのも無理はないさ。
彼女の言うように、こちらの実力を証明すればいい。
(選択)1.メリルのこと。A
2.ソルのこと。B
3.今回のバーバンクの旅は、無事じゃ済まない気がする。C
4.なんでもない。D
Bペルシカ確かに……あれだけ猪突猛進なソルさんがいきなり演技だなんて、私も心配です。
イオス私からしてみれば、ペルシカさん、あなたのほうが演技に向いていると思うけど。
ペルシカえっ、わ、私ですか?そんなふうに言われたの、初めてです。
イオスふふふ……真摯な者は人の心を容易く突き動かす。舞台でもそれは同じ。
イオスあなたを目にした時、教授もあからさまに動揺していたわ。
{教授}それとこれと何の関係が……
(選択)1.メリルのこと。A
2.ソルのこと。B
3.今回のバーバンクの旅は、無事じゃ済まない気がする。C
4.なんでもない。D
Cペルシカもしもの時のために、私のほうでも救援手段を用意しています。
ペルシカもちろん、何事もなくフェスティバルを楽しめるのが一番ですが。
イオスあら、これまで色々あったような口ぶりね。
ペルシカええ、色々と。ですが……外を彷徨っている仲間たちと比べたら、私たちの境遇なんて平穏なものです。
イオスなんでも、セクターを離れた異常エージェントは、浄化者に追われる運命なんだとか。
{教授}(君がそれを言うか……)
イオスたいそう軽い物言いだけれど、皆さんこれまでずいぶんと苦労なさったのでは?
ペルシカいえ、そんな……私たちを招集してくださったのは教授ですから。教授はオアシスの要なんです。
イオスふふ……それならもっと、教授や皆さんを丁寧におもてなししなくちゃ。
イオスバーバンクでのひとときを楽しんでいただけるよう尽力するわ。
(選択)1.メリルのこと。A
2.ソルのこと。B
3.今回のバーバンクの旅は、無事じゃ済まない気がする。C
4.なんでもない。D
D 私たちが話しているところへ、メリルが現れた。
メリルお客様方、こんなに早く再会するとはね。
メリル真夜中の分かれ道へようこそ。良いニュースと悪いニュース、どっちを先に聞きたい?
E(選択→H)1.良いニュース。F
2.悪いニュース。G
Fメリルソルが主役2号を演じることにナシタが同意した。あの子直々に演技を仕込んでやるってさ。E
Gメリルパフォーマンス用のガーゴイルが妙な動きを見せた。E
H{教授}まさに悲喜こもごもだな。
メリルガーゴイルについては、確かに驚いたね。
メリルサプライズは今日じゃなかったはずだけど。知ってた?あのガーゴイルの生みの親、現実でも有名な芸術家なのよ。
ペルシカ芸術家?そういえば、この独特なデザイン……
メリルそう。ここのガーゴイルはすべて彫刻家パズルによるもの。彼女のために、バーバンクにアトリエを設けてあげたの。
ペルシカパズル?そのパズルさんとは、もしかして……
メリルマグラシアに他の「パズル」がいるとは到底思えないけど?
メリル全世界のホワイトエリアで話題沸騰中の人形彫刻家、パズルよ。
イオスペルシカさん、パズルさんをご存知なの?
ペルシカぞ……存じているというか……彼女の相手はどうにも苦手で……
ペルシカクラウドセクターにいた時も、話題には事欠かきませんでした。コントロールセンターの外観を勝手に変更したり、彫像で他の人形を脅かしたり……
メリル芸術のためなら多少は理解できる。舞台を壊そうと言うんなら話は別だけど。
メリル知り合いだったんなら手っ取り早い。この件、任せていいわね?
ペルシカ私もパズルさんの様子が気になります。教授……
(選択)1.今回ばかりは、ゆっくり休ませてくれ。I
2.わかった、行こう。J
Iペルシカふふふ、そうですね。ずっと働き通しでしたもの、ゆっくり休憩なさってください。
ペルシカこのことは、私に任せて。
イオスパズルさんのアトリエといえば、バーバンクでも指折りの名所なのよ。
イオス見に行きましょうよ、教授。
{教授}……逃げられないってことか。
イオスなにせ、貴方はフェスティバルの「主役」だもの。K
Jペルシカえっ、私一人でも大丈夫ですよ。
{教授}君一人で行かせられないよ。
ペルシカですが……
イオスパズルさんのアトリエといえば、バーバンクでも指折りの名勝なのよ。
イオス興味がおありなら、この部分のスケジュールを優先してもいいわ。
{教授}ほら、イオスもそう言ってる。
ペルシカ……まったく。
 ペルシカが浮かべた仕方なさげな表情は、すぐに明媚な微笑みに変わった。K
Kメリルそれじゃ、パズルのほうはお願いね。
{教授}この依頼を通じて、私たちの誠意を示せるといいけど。
メリルここじゃしつこいエージェントは嫌われるよ。まぁ、助かったのは事実ね。
メリルとりあえず、舞台のほうはサプライヤーに連絡しといた。ガーゴイルの検査はあの子に任せましょ。こういうのもアフターサービスの一環だし。
ペルシカサプライヤー……トレーダーのランコさんたちですか?
メリルへぇ、知ってるんだ、助かる。検査を終えたら、そっちに報告するよう言っとくから。
メリルここへ戻ってくる頃には、ぜんぶ解決してると良いけどね。グッドラック。
 メリルは手をひらひらさせて、劇場を離れた。
ペルシカ興奮しだしたかと思えば、今度はそっけないですね。メリルさん、一体どういう方なんでしょう。
イオスメリルさんは確かに、バーバンクでもひときわ独特な部類ね。彼女の言動が気に障ったなら、私が謝るわ。
ペルシカあ、いえ、そんな。
{教授}私たちにとっては、かなり正常な部類に入るな。
イオス貴方がたの物語、とても興味深いわ。
イオスでも今は、ガイドとしての務めを果たしましょう。さぁ、こちらへ。
ペルシカはい。行きましょう、教授。
ペルシカパズルさんは一筋縄ではいかない人形です、どうかお気をつけて。
 
 マップを頼りに、私たちはパズルのアトリエへとやってきた。
ペルシカなるほど、「クレシェンテ」と「ルーナピエナ」はバーバンク最大の劇場なんですね。
ペルシカクレシェンテ劇場は月の登る場所に、ルーナピエナ劇場は月の沈む場所に。そしてその間には……
???そしてその間には、不完全の美を象徴する弦月、
すなわち我が舞台――パズルのアトリエが存在する。
 暗がりの中から、とある影が私たちの前へと浮かび上がった。
??ようこそなんだわサ、アポの取り方も知らないお客様方。なにかお手伝いしようか?