クレシェンテ劇場。 広い観客席は、ライブを見に来たエージェントたちで埋め尽くされている。 | |||
エージェント | 七花とクロに会えるなんて信じらんない!ここ、ターシャリレベルじゃないよね!? | ||
エージェント | 前のさよならライブ、残業で行けなかったんだよね~。あのあと三日三晩フリーズして大変だったわ。これでやっと願いが叶うよ! | ||
エージェント | すっごい人だね。それにあの大胆な舞台デザイン!さっすがクロ様! | ||
エージェント | スタッフたちもすごいカッコしてる~……見て、猫まで超カラフル~! | ||
VIPエリア。 | |||
ペルシカ | すごい数のエージェントですね。 | ||
イオス | バーバンクが不夜城と呼ばれるのは、熱意あふれるエージェントたちのおかげでもあるの。 | ||
メリル | とは言え、七花とクロじゃなかったら、ここまでの規模は珍しいね。 | ||
イオス | なにせ、真のエンターテインメントの伝道師だもの。浄化者にすらできないことを、二人は成し遂げた。 | ||
イオス | この人気も頷けるわ。 | ||
メリル | ありがと、{教授}。二人を連れてきてくれたおかげで、フェスティバルが一段と賑やかになった。 | ||
{教授} | ん?私が連れてきた……? | ||
{教授} | 二人への感謝の気持ちに、招待状をよこしたのはそっちだろう? | ||
メリル | え……そう? | ||
メリルは思わしげにイオスを見た。 イオスは小さく頷いて、彼女に微笑み返す。 | |||
メリル | ……なるほど。 | ||
ペルシカ | メリルさん、一体…… | ||
メリル | いいの、ならそういう事にしといて。 | ||
メリル | とにかく来たからには、カーニバルを楽しんで…… | ||
ピピピッ。 | |||
ふいに通信音が私たちの会話を遮った。 | |||
メリル | 私よ。 | ||
メリル | ……嘘!? | ||
メリルは突如立ち上がった。その顔に初めて焦りが浮かぶ。 | |||
メリル | ……わかった。そこから動かないで、すぐに行く。 | ||
ペルシカ | どうかしましたか? | ||
メリル | ちょっとね。カラオケ1号……さっきの異相レンジャーΩが故障したみたい。 | ||
{教授} | 故障? | ||
メリル | いきなり動かなくなった、フリーズしたみたいに。 | ||
メリル | ステージがもう始まる、こんな時に冗談キツイわ……あぁ、私が医療人形だったら…… | ||
メリル | ……そうだ、ペルシカ。あんた、その方面の専門家だったわよね? | ||
ペルシカ | 専門家には及びませんが、経験なら少しは…… | ||
メリル | 異相レンジャーΩの様子を見に行くの、一緒に来てくれる? | ||
ペルシカは私を見た。 | |||
(選択) | 1.放ってはおけない、行っておいで。 | A | |
2.これが「取り引き」を勝ち取る「チャンス」なのか? | B | ||
A | メリル | ありがとう。それと、外交の話はフェスティバルの後に手配しておくわ。 | C |
B | メリル | 人に付け込まれるのは好きじゃない。まぁ、そう取ってもらってかまわないけどね。 | C |
C | {教授} | それじゃペルシカ、頼んだよ。 | |
ペルシカ | はい。すぐに戻ってまいります、教授。 | ||
ペルシカはやや不安そうにイオスを一瞥すると、メリルに連れられて去って行った。 | |||
イオス | また二人きりね、教授。 | ||
イオス | これも何かの「縁」かしら?あなたたちって、この言葉好きよね? | ||
(選択) | 1.確かにある種の縁かもね。 | D | |
2.馴れ馴れしくしないでほしいな。 | E | ||
D | {教授} | 残念ながら、まわりは騒がしいな。ムードもへったくれもありゃしない。 | F |
E | {教授} | それに、どう見ても「二人きり」じゃないだろう。 人混みの中で偶然隣り合っただけだ。 | F |
F | 私がそう言い終える前に、観客席から熱狂的な歓声が上がった。 | ||
司会 | さぁてお次は――お待ちかね伝説の二人によるデュエット! 『絆のオンパレード』! | ||
司会 | 登場してもらいましょう!七花、クロ! | ||
エージェントたち | わぁぁぁあああああああーーーーッッ!!! | ||
エージェントたち | 七花!七花! | ||
エージェントたち | クーロ!クーロ! | ||
七花 | みんなーーっ!来てくれてありがとーー♥ | ||
クロ | 前代未聞、空前絶後の復帰ライブだッ!!スパチャの準備はいい!? | ||
イオス | ふふふ。バーバンクのエージェントたちって、娯楽のためならオペランドを惜しまないのよね。 | ||
イオス | これが他のセクターだったら、「異常」とみなされるのかしら。 | ||
イオスは微笑んだまま、ステージに視線を向けた。 伴奏が流れ、七花の歌声が徐々にクレシェンテ劇場へと響き渡る。 | |||
七花 | 見える 聞こえる♫ | ||
七花 | 欲しくなると手を伸ばす♫ | ||
イオス | ここでは海に紛れた水滴のように目立たなくても、所変われば異常エージェントとみなされ、追われる身の上。 | ||
(選択) | 1.それは、浄化者の理念を疑ってのことか? | G | |
2.暗に私たちのことを言ってるのか? | H | ||
G | {教授} | 馬鹿げていると知りながら、 君たちは異常エージェントとみなした存在を削除して回ってる。 | |
イオス | 馬鹿げてるなんて思ってないわ。システムの揺らぎはエラーに違いないし、私たちにはそれを正す義務がある。 | ||
イオス | もちろん、どの程度の揺らぎを脅威とみなすかについては、常に認識を改めるよう心がけてるわ。 | I | |
H | イオス | 言ったはずよ。貴方とそのお仲間は、他の異常エージェントとは異なるって。 | |
イオス | もちろん、異なるタイプの異常エージェントにどう向き合うべきかは、常に考えているわ。 | I | |
I | イオス | そう、長らく考えてはいるのだけれど、一向に答えがはっきりしないの。 | |
七花 | 隠しているみたい もっともっともっと知りたい♫ | ||
クロ | 抑えきれない気持ちが 熱を帯びてパンクする♫ | ||
イオス | 考えれば考えるほど、困惑してしまう。 | ||
(選択) | 1.気持ちはわかる。 | J | |
2.どうしてだ? | J | ||
J | イオス | 私たちのロジックでは、すべてが「合理的」でなくてはならないの。合理性に欠ける行動は、私たちの判断の終着点にあるべきじゃない。 | |
イオス | でも合理性とはすなわち、定義されたステータスを意味する。それらの「理(ことわり)」を定めたのは人間。 | ||
クロ | 君の奥底に ずっとずっとずっと触れたい♫ | ||
七花 | 傷つけあうこともあるけど 無意識なほどに いつも惹きつけられるよ♫ | ||
七花とクロのライブが佳境にさしかかった。 エージェントたちの歓声がますます大きくなってゆく。 会場に潜り込んだ猫さえも、リズムに合わせて尻尾を振っている。 | |||
ネコ | ニャーオ。 | ||
イオス | 例えばだけど。カーニバルを楽しむエージェントたち、奇妙な姿をした小動物、豪華なパフォーマンス……バーバンクでは、どれも合理的よね? | ||
イオス | でも、それをどう理解すべきなのかしら?彼らの行動の意味や価値はどこにあるの? | ||
イオスの問いかけに応えるかのごとく、曲がクライマックスを迎えた。 エージェントたちの叫び声もピークに達している。 | |||
七花&クロ | さぁ すぐに飛び出そう 躊躇は捨てちゃおうよ♫ | ||
七花&クロ | 灯る熱情を 君と感じていたい♫ | ||
エージェントたち | 七花!クーロ!七花!クーロ! | ||
イオス | どうして娯楽を追い求めるの?この欲望はどこからくるの? | ||
イオス | プログラムが定めたものなら、それは果たして本物?本当の欲望と言えるの? | ||
イオス | それとも、誰かに作り出された偽りの感情? | ||
七花&クロ | 時を忘れよう 刹那が全てだよ♫ | ||
七花&クロ | 高鳴なる鼓動を 寄せて 寄せて♫ | ||
イオス | ……貴方はどう思う、教授? | ||
七花&クロ | ――輝く希望を君と感じていたい♫ | ||
パンッ! | |||
ステージから上がった花火が、バーバンクの夜空と熱気に満ちた会場を照らした。 そして、私の傍で微笑むイオスの横顔も。 | |||
私がどう答えようか考えていた時―― | |||
ガーゴイル | ガァァァーーッ! | ||
{教授} | !! | ||
七花 | きゃあっ!? | ||
クロ | ナナっぺ!大丈夫!? | ||
ステージにいたガーゴイルが突如動き出し、七花とクロに襲いかかった。 | |||
{教授} | どうなってるんだ?ガーゴイルはペルシカとランコが検査したはず…… | ||
二人のパフォーマンスは途切れ、 観客たちも突然のガーゴイルの挙動に驚いている。 椅子に座っていた猫が飛び退き、威嚇するように鳴き声を発した。 | |||
猫 | シャーーッ! | ||
エージェント | どういうこと?これもパフォーマンスなの? | ||
エージェント | さすがはクロ様の演出、ブッ飛んでる~~! | ||
エージェント | あっ、他のガーゴイルも動きだしたよ!超ロックなんだけどー! | ||
エージェント | あれっ、なんか、特等席のほうに向かってない……? | ||
ガーゴイルが私たちのいる方へ、フラフラと向かってきた。 | |||
ランコ | こ、こここーんッ!? | ||
{教授} | あれは、ランコ? | ||
ステージの傍では、各種スナックを抱えたキツネの売り子が、 大慌てでガーゴイルから逃げようとしている。 | |||
ガーゴイル | ガァァァーーッ! | ||
エージェント | うわっ、あの売り子さん、ガーゴイルに近づきすぎなんじゃ…… | ||
ランコ | こーーんッ!? | ||
{教授} | 危ない……! | ||
ガーゴイルがランコを捕まえようとした瞬間、 にわかに銀河のような一筋の光が瞬き、彼女を背後へと押しのけた。 | |||
ランコ | …… | ||
エージェント | わぁっ、舞台エフェクトかな?星空みたいでキレーイ! | ||
エージェント | あっ、あっちに白い光が! | ||
白い光が舞台へと降り注ぎ、前列にいた二体のガーゴイルは動きを止めた。 それと同時にイオスが立ち上がり、伸ばした手を戻す。 | |||
イオス | このガーゴイルたち、許されざる欲望を抱いているようね。 | ||
{教授} | 左にもいる、右もだ。クロの奴、ガーゴイルを配置しすぎだ。 | ||
イオス | 反応が素早くてなによりね、もうキーボードを取り出したみたいよ。 | ||
{教授} | 君の浄化者は? | ||
イオス | フェスティバルに浄化者がいたら、興ざめだとは思わない?事前にバーバンクからは撤退させたわ。 | ||
{教授} | 偵察する手段もないのか? | ||
イオス | 当然あるにはあるけど、お恥ずかしいわ。今となってはもはや無意味ね。 | ||
イオス | この状況で、エラー報告が一つも来ていない。 | ||
ふいに、私の通信機が鳴った。 | |||
ペルシカ | 教授、大変です! | ||
ペルシカ | 異相レンジャーΩを検査しようとしたところ、突如目を覚まし暴走を始めました! | ||
ペルシカ | 私たちでは抑えきれませんでした、劇場のほうへ向かっています!様子が妙なんです、まるで何かに操られているような…… | ||
ペルシカ | それと、倉庫で倒れていたはずのパズルさんが見当たりません! | ||
{教授} | なるほどな、こっちの情況とも符合する。 | ||
ペルシカ | こっちの情況……?まさか、劇場で何かあったんですか!? | ||
{教授} | ああ、その通り。ペルシカ、君に支援を…… | ||
ガーゴイル | グァァッ! | ||
その時、一体のガーゴイルが突如目の前に現れ、私の通信機を弾き飛ばした。 私へと振り下ろされる拳を、またしてもイオスが防ぐ。 | |||
イオス | 思ったより数が多いわね。 | ||
イオス | このままじゃ、私とクロさんたちだけでは持たないわ。 | ||
ガーゴイル | ガァァッ!グルルル……! | ||
エージェント | ね、ねぇ……このパフォーマンス、さすがにリアルすぎない? | ||
エージェント | キャーーッ!!クロ様ーーッ!!やっつけちゃってーーッ!! | ||
クロ | のぁあああああああッ! | ||
七花 | クロ、危ない!背後にもいるよ! | ||
クロ | ヤバっ……! | ||
ガーゴイル | ガァァッ!!! | ||
クロが反応できずにいると、金色に輝く人影が私たちの横をすり抜け、 ステージ上へと駆けていった。 | |||
?? | やめろッ、ガーゴイル! | ||
?? | お前の悪行もここまでだ! | ||
七花 | ソル! | ||
エージェント | あーーッ!前にダークレンジャーをやっつけた人! | ||
ソル | 正義の鉄槌を受けてもらうぞ! |