| クロとナナはバーバンクセクターの裏通りを駆けて行った。 | |||
| ストップしていたはずの照明システムが次々と起動し、 バーバンクの街並みに再びネオンが灯った。 | |||
| クロ | ここ、どこの区画どの道だっけ? | ||
| ナナ | んっとね…… | ||
| ナナはクロの手元の地図を素早くマークした。 | |||
| クロ | もうどこがどこだかゼンッゼンわかんないよ。ナナ、あんたやるじゃん! | ||
| ナナ | えへへ……ここでしばらく働いてたからね。 | ||
| クロ | なるほどね、さっすがぁ!あっははは!スパチャのオペランド、分けたげる! | ||
| ナナ | あ、ありがとう……え?こ、この形って…… | ||
| クロ | 見たらわかるっしょ、ミサイルだよミサイル!いくよッ、3・2・1! | ||
| クロは颯爽と手元のボタンを押した。「ボンッ!」という音とともに、 二人はたちまち配信ルームから弾き出され、地面へと降り立った。 | |||
| 次の瞬間、浄化者の砲撃が配信ルームに直撃する。 | |||
| ドォンッ! | |||
| ナナ | 近くに浄化者が……いつの間に……? | ||
| 驚きを隠せずにいるナナに対し、クロは笑顔で空に手を振っている。 | |||
| クロ | ふぅー……見事な着地ッ!このクロ様、またしても浄化者の奇襲を見破ってしまったぁぁ!リスナーども、はよ弾幕書き込まんかい…… | ||
| クロ | ……じょ、冗談だってば。あ~あ、配信ルームのカメラぶっ壊れちゃった。ムカつくわ~! | ||
| クロ | まぁすぐに配信に戻れるけどね!今度こそリヴェレンスのアホンダラに最強ミサイルコンボをお見舞いしてやる…… | ||
| ナナ | …… | ||
| クロ | ほらナナ、道案内しなよ!さっきみたいに裏道から逃げよ! | ||
| クロ | ……どうしたの?リヴェレンスが来ちゃうよ!? | ||
| クロ | あ……まさか、さっきの着地でどっか怪我した……?それとも、この辺の道よく知らないとか?ちょ、ちょっと、ここまで来て冗談やめてよ……ここ、どこの区画のどの道だっけ?? | ||
| 慌てるクロをよそに、服の裾をつかんでいたナナは、何かを決心したようだった。 | |||
| クロ | ど、どどど、どうしよう……何かないか何かないか……えっとえっと、スパチャで隠れ蓑、スパチャで潜水艦、スパチャで宇宙超越滅絶拳、スパチャで…… | ||
| ナナ | ……慌てないで、クロ。安全に撤退する方法を思いついたの。 | ||
| クロ | えっ!!マジで!?イヤッホーーゥ!あ、私は慌ててなかったからね、いい!? | ||
| クロ | で、どーすんの!? | ||
| ナナ | あのね、浄化者が絶対に入れない場所があるんだ。ついてきて。 | ||
| システム | カウントダウン開始、ステージのハードウェアをチェックしています…… | ||
| クロ | ここって……ドン・キホーテ劇場? | ||
| ナナ | そう。長い間使われてなかったんだけど、最近リニューアルが始まったの。 | ||
| ナナ | ここのカウントダウンを起動したから、浄化者はしばらく入って来れないはずだよ。 | ||
| クロ | えっ、なんで? | ||
| ナナ | バーバンクセクターの決まりなんだ。「ステージのカウントダウンが終わるまでは、いかなる者も立ち入れない」 | ||
| クロ | なるほどね。配信者のメイクアップルームと同じく、神聖で不可侵なわけか。 | ||
| ナナ | そうそう、そんな感じ。 | ||
| ナナ | それにしても、この劇場の名前よく知ってたね。どこかで聞いたの? | ||
| クロ | あったりまえじゃん!ニューラルクラウド計画が始まる前から「NotREAL?」の追っかけやってたんだから。あ、推しはナナっぺね。 | ||
| クロ | ナナっぺの声って、まるで夕飯時の賑やかなスーパーにある純潔無垢なペットボトル水そのもの!身も心もキレーに洗い流しちゃうんだよねーー! | ||
| ナナ | 七花が大好きなんだね。 | ||
| クロ | そりゃね。現実にいた頃は、欠かさずオンラインコンサート聴いてたんだから! | ||
| クロ | その時ナナっぺが言ってたんだよね。「ニューラルクラウド」計画に参加したら、バーバンクで真のクラウドコンサートを開催するって。 | ||
| クロ | そんなんどー考えても現実で仮想ゴーグルつけてるよりヤバいに決まってんじゃん!ちょー楽しみにしてたんだよねー。でもいざクラウドセクターに来てみたら、ナナっぺどこにもいなくてさ。 | ||
| クロ | たぶん、まだ来てないんでしょ。逆に良かったかもね。マグラシアなんて、デカいだけでなーんも面白いことないし。 | ||
| ナナ | 「七花」がその言葉聞いたら、きっと喜ぶと思うよ。 | ||
| クロ | だからさーあ、ナナっぺがマグラシアに来る前に、ここを煌びやかにしとくの。ナナっぺへの贈り物なんだ。 | ||
| クロ | こーんな照明なし人気なしネオンなしの寂れた状態で、どーやって私の推しを迎えろってのさ? | ||
| システム | バックステージのチェック完了、劇場内は正常に稼働中、いつでも上演可能です。 | ||
| システム | おかえりなさいませ、七花さま! | ||
| クロ | へー、凄いねここ……って、七花!?どこにナナっぺがいるの? | ||
| クロはがらんとした劇場内を見渡した。自分とナナの他に人影はない。 | |||
| ナナ | …… | ||
| クロ | …… | ||
| ナナ? | ドン・キホーテ劇場へようこそ。 | ||
| ライトの下でナナが柔らかな笑顔を浮かべた。 | |||
| ナナ? | 改めて自己紹介するね。こんにちは、クロ。 私はドン・キホーテ劇場のオーナー、CM-Idol…… | ||
| ナナ? | みんなからは「七花」って呼ばれてるの。 |
