| キュクロプス、隔離壁旧跡、ジンのバー。 | |||
| ネームレス | 彼女を頼みます。できるだけ早くキュクロプスから撤退させてください。いつでもあなた方の面倒を見れるとは限りません。 | ||
|---|---|---|---|
| ネームレス | ジンさん、あなたもです。せめて拠点を変えましょう。ここのバーはもう何度も流れ弾の被害に遭ってる。いつ崩壊するかわからない。 | ||
| ジン | お気遣いありがとうございます、ネームレスさん。 | ||
| ネームレスと呼ばれたエージェントは手をふると、バーを立ち去った。 | |||
| 蔵音 | どーも。あーしはクラウドセクターの蔵音にござんす。 | ||
| ジン | 初めまして。同じく元クラウドセクターのジンです。 | ||
| ジン | 蔵音さんと仰るんですね。カクテルはいかがですか?キュクロプスには、強烈なリキュールがよく合います。 | ||
| 蔵音 | いいえ、お酒でしたら結構。 | ||
| 蔵音 | そんなことよりも、21世紀60年も半ばに中世英国式の礼儀を嗜む人形がいたとは、驚きでございますね。 | ||
| ジン | なにせ、僕のベースコマンドの一行目にはこう書かれていますからね。「いついかなる時も、英国紳士のエレガンスを忘れるな」、と。 | ||
| ジン | 各国の礼儀作法にお詳しいんですね。 | ||
| 蔵音 | えぇまぁ、それが専門ですから。で、さっきのエージェントの言う「行くべき場所」へは、あーたが案内してくださるんで? | ||
| ジン | はい。 | ||
| ジン | 教授のプライベートセクターである「オアシス」です。今はクラウドセクターから逃れた人形たちの拠点となっています。 | ||
| 蔵音 | プライベートセクター……安全なんでしょうね?スヴァローグ重工の根城たるキュクロプスですら、今や蜂の巣ですよ? | ||
| ジン | 僕のような人形が、こういった場所にサポーターとして常駐できること自体、良い証明になっているとは思いませんか? | ||
| 蔵音 | ……おっしゃるとおりで。 | ||
| 蔵音 | 一つ質問が。「野良」という名の人形はそちらに? | ||
| ジン | 先日、オアシスで野良さんの小説がリリースしたばかりですよ。 | ||
| 蔵音 | チッ……まったく、腹が立つったら。結局、運が悪いのはあーしだけですかい。 | ||
| 蔵音は口を尖らせたが、表情は明らかに柔らかくなっていた。 | |||
| カウンターの椅子に腰かけ、ジンが出した冷水を口にしながら、彼女は窓の外を見た。 | |||
| 灰色の空の下にそびえ立つ、静かな廃墟。 | |||
| 弾痕と硝煙が、その断壁を黒く燻らせている。 その間を進む物言わぬエージェントたちは、皆、戦争に慣れきった表情だ。 | |||
| 蔵音 | (たしかに、戦争ではたくさんのものが失われる) | ||
| 蔵音 | (最後の資料を残すため……か。いまだに爺さまの考えは理解できない) | ||
| 蔵音は冷水をカウンターに置いた。 すっきりとした冷たさは、メンタルの混乱をいくぶんか打ち消した。 視覚システムの捉える映像が、かつての記憶データと重なり合う。 | |||
| 蔵音 | (……もっといろんな景色を見ていたら、爺さまを理解できるようになるかしら) | ||
| 蔵音 | 野良とあーしへの手助けに感謝しますよ。けれど今はまだ、オアシスには行けませんねぇ。 | ||
| 蔵音 | キュクロプスに用事がありまして。あーしはしばらく、ここの再建を手伝うつもりでござんす。 | ||
| 蔵音 | 教授には黙っておいておくんなまし……って、何をしてんです? | ||
| ジンは手を止めて、スクリーンを蔵音の前へと動かした。 | |||
| 【失踪人形のエントリー完了:No.2-17――蔵音】 | |||
| ジン | すでにあなたの情報は教授に伝わっていますよ。こちらはオアシスからの返事です。いつでもオアシスを訪れてかまいません。 | ||
| 蔵音 | な……は、早すぎるでしょーが!!少しは人の話を聞いたらどうなんです!? | ||
| ジン | これが僕の仕事ですから。 | ||
| 蔵音 | こいつ……ただのバーテンダーかと思いきや、立派な「ドングル」だったとはね! |
