墟上之歌 戦憶探溯 STAGE 2 通釈-1

Last-modified: 2026-02-06 (金) 07:31:20

キュクロプス、隔離壁旧跡、ジンのバー。
ネームレス彼女を頼みます。できるだけ早くキュクロプスから撤退させてください。いつでもあなた方の面倒を見れるとは限りません。
ネームレスジンさん、あなたもです。せめて拠点を変えましょう。ここのバーはもう何度も流れ弾の被害に遭ってる。いつ崩壊するかわからない。
ジンお気遣いありがとうございます、ネームレスさん。
 ネームレスと呼ばれたエージェントは手をふると、バーを立ち去った。
蔵音どーも。あーしはクラウドセクターの蔵音にござんす。
ジン初めまして。同じく元クラウドセクターのジンです。
ジン蔵音さんと仰るんですね。カクテルはいかがですか?キュクロプスには、強烈なリキュールがよく合います。
蔵音いいえ、お酒でしたら結構。
蔵音そんなことよりも、21世紀60年も半ばに中世英国式の礼儀を嗜む人形がいたとは、驚きでございますね。
ジンなにせ、僕のベースコマンドの一行目にはこう書かれていますからね。「いついかなる時も、英国紳士のエレガンスを忘れるな」、と。
ジン各国の礼儀作法にお詳しいんですね。
蔵音えぇまぁ、それが専門ですから。で、さっきのエージェントの言う「行くべき場所」へは、あーたが案内してくださるんで?
ジンはい。
ジン教授のプライベートセクターである「オアシス」です。今はクラウドセクターから逃れた人形たちの拠点となっています。
蔵音プライベートセクター……安全なんでしょうね?スヴァローグ重工の根城たるキュクロプスですら、今や蜂の巣ですよ?
ジン僕のような人形が、こういった場所にサポーターとして常駐できること自体、良い証明になっているとは思いませんか?
蔵音……おっしゃるとおりで。
蔵音一つ質問が。「野良」という名の人形はそちらに?
ジン先日、オアシスで野良さんの小説がリリースしたばかりですよ。
蔵音チッ……まったく、腹が立つったら。結局、運が悪いのはあーしだけですかい。
 蔵音は口を尖らせたが、表情は明らかに柔らかくなっていた。
 カウンターの椅子に腰かけ、ジンが出した冷水を口にしながら、彼女は窓の外を見た。
 灰色の空の下にそびえ立つ、静かな廃墟。
 弾痕と硝煙が、その断壁を黒く燻らせている。
その間を進む物言わぬエージェントたちは、皆、戦争に慣れきった表情だ。
蔵音(たしかに、戦争ではたくさんのものが失われる)
蔵音(最後の資料を残すため……か。いまだに爺さまの考えは理解できない)
 蔵音は冷水をカウンターに置いた。
すっきりとした冷たさは、メンタルの混乱をいくぶんか打ち消した。
視覚システムの捉える映像が、かつての記憶データと重なり合う。
蔵音(……もっといろんな景色を見ていたら、爺さまを理解できるようになるかしら)
蔵音野良とあーしへの手助けに感謝しますよ。けれど今はまだ、オアシスには行けませんねぇ。
蔵音キュクロプスに用事がありまして。あーしはしばらく、ここの再建を手伝うつもりでござんす。
蔵音教授には黙っておいておくんなまし……って、何をしてんです?
 ジンは手を止めて、スクリーンを蔵音の前へと動かした。
 【失踪人形のエントリー完了:No.2-17――蔵音】
ジンすでにあなたの情報は教授に伝わっていますよ。こちらはオアシスからの返事です。いつでもオアシスを訪れてかまいません。
蔵音な……は、早すぎるでしょーが!!少しは人の話を聞いたらどうなんです!?
ジンこれが僕の仕事ですから。
蔵音こいつ……ただのバーテンダーかと思いきや、立派な「ドングル」だったとはね!