墟上之歌 戦憶探溯 STAGE 2 通釈-2

Last-modified: 2026-02-06 (金) 07:32:44

キュクロプス、隔離壁旧跡、ジンのバー。
蔵音こいつ……ただのバーテンダーかと思いきや、立派な「ドングル」だったとはね!
 血相を変えた蔵音を前に、ジンは静かに彼女を見つめるだけだ。
ジンお客様のご要望にお応えするのが、バーテンダーの使命です。教授は失踪した人形を一人残らず連れ帰ることをお望みです。
ジンそれに、今のキュクロプスは長居するにふさわしくありません。
蔵音完ッ全ッに人の話を聞かないタイプでござんしたか……ですがその論理だと、あーしだってあーたの「お客様」に違いありんせん。
ジンもちろんです。
蔵音フン、だったら何か出したらどうなんです。長いこと瓦礫に押しつぶされて、腹が減って仕方がないったら。
ジン何になさいますか?
蔵音いやなに、たいした注文じゃあござんせん。焼き魚を一匹頼みましょうかね。
ジンそれは……僕の得意分野からは少々、かけ離れていますね。
蔵音おや、どこの誰でしょうねぇ?客の要望には必ず応えると豪語していたのは。
ジンいえ、つまり……理想的な結果には至らないかと。
 カウンターに座る蔵音が、大きく背伸びをした。
ジン……承知いたしました、少々お待ち下さい。
 そう言って、ジンはカウンターの奥に消えた。
蔵音(……ちょいとやりすぎた?)
蔵音(まぁいいか。OKしたんだし、大丈夫でしょ)
 バーの奥からかすかに聞こえてくるオーブンの音に耳を傾けながら、
蔵音はつまらなそうに店内を見渡した。
蔵音(まるで軍人が武器を並べるような陳列、キュクロプスにもともとあった家具かもしれない)
蔵音(ミリタリー調の家具であつらえたバー、か。雰囲気はあるわね、客は少ないけど)
蔵音(そもそも、キュクロプスのエージェントが全員あのネームレスとかいう男と同じだったら、商売あがったりなんじゃ?)
 バーにはゆったりとしたメロディのピアノ曲が流れている。
周囲を眺めていた蔵音のメンタルに、ふと、哀れみの情が湧いた。
蔵音閑古鳥が喚いてる店のバーテンをいじめるのは、さすがに気が引けるな……
 蔵音は立ち上がると、カウンターテーブルを迂回して、キッチンの扉を叩いた。
蔵音あーた、大丈夫なんです?
ジンの声ああ、蔵音さん。
すみません、もう少しお待ち頂けますか?
蔵音なにやら焦げてるようですけど?できないものはできないと正直におっしゃい。
ジンの声そうですね……少々お待ちを。
蔵音少々少々って、いったい何をやってるんです?その音、オーブンで魚を焼いてるんでござんしょう?まずは電源を止めなさいな!
蔵音……まさか、丸焦げになった魚を慌てて片付けてるんじゃあござんせんよね?
ジンの声いえ、そういうわけでは。
ジンの声実は、誤って自分の手を焦がしてしまいまして……作業に手間取っております。
蔵音……いや、そこまでします?できないと認めるのがそんなに難しいんですかねぇ?
 蔵音は扉に耳を押し当てて、中の物音を聞こうとした。
 扉が微かに震動し続ける一方で、聞こえる声は相変わらず穏やかなままだ。
ジンの声お酒は、お客様に愉しんで頂くために存在します。
もちろん、バーも同様に。
蔵音あーた……まさか、注文と冗談の区別もつかないんです?
ジンの声蔵音さんが冗談を仰るのも、愉しさを求めてのことでしょう。
ジンの声あなたにとっては、これが心へのカクテルに相当する。
蔵音間違ってはいませんけどね。それはそうと、片付きました?
ジンの声申し訳ありません、まだお時間がかかりそうです。
 扉の震動がいっそう激しくなった。
蔵音これは……地震?なんだか嫌な予感が……
ジンの声もしかしたら、オーブンの蓋が閉まらないせいかもしれません。
蔵音……!!
 礼儀もそこそこに、蔵音は即座に扉を押し開いた。
 鼻につくような焦げた臭いが、キッチンに充満していた。
見れば、ジンが焼け焦げた素手で、旧式オーブンの取っ手をつかんでいる。
ガタガタと揺れるオーブンの針は、危険な赤いゾーンを示していた――
蔵音なにをやってんです、あーたは!?
爆発寸前じゃあござんせんか!!?
ジンどうにかして蓋を閉めようと思ったのですが、
なにせ古いオーブンですから、立て付けが悪くて……
蔵音これを事故といわずしてなんと!?
ジン結果的に、そうなりますね。
蔵音なんでそんなに落ち着いてられるんです!?
逃げるんですよ!!
 考える暇もなく、蔵音はむんずとジンの袖をつかみ、彼を連れてバーの外へと走った。
 彼らがホールを抜けてバーを飛び出そうとした瞬間――
 ドォンッ!!
 バーが轟音をたてて崩壊し、二人の人形を呑み込んだ。