| キュクロプス、アドミンセンター-データバンク。 | |||
| Monitor101 | こちらはキュクロプスが盟友に開放できる、最高権限のデータバンクです。 | ||
|---|---|---|---|
| Monitor101 | 最高機密の情報を除けば、兵器の資料のほとんどがここに収められています。 | ||
| Monitor101 | あなたの言う「巳ツ子」とは、どういった存在なのですか? | ||
| 蔵音 | 巳ツ子は一匹の蛇にござんす! | ||
| Monitor101 | わかりました、お待ちください。 | ||
| スクリーンが回転し、画面がするすると変化し始める。 データの詳細が記された縮小図がいくつも流れてゆき、 最後にとある資料の画面が蔵音の前に差し出された。 | |||
| Monitor101 | 「アナコンダ」Ⅲ型短機関銃、原型はジーマコーポレーションによるデザインですね。それを基にキュクロプスではさらなる改良を…… | ||
| 蔵音 | ……あのぉ、巳ツ子はアナコンダなんかじゃないんですけれども~。ただのヘビですよ、小さくて愛らしい…… | ||
| Monitor101 | そうでしたか、すみません。では、こちらはいかがです? | ||
| Monitor101 | 「ラトルスネーク」Ⅳ型リボルバー、プロトタイプはタロン重工の製品ですが、キュクロプスではデザインに大幅な変更を加え…… | ||
| 蔵音 | だぁぁ、やめい! | ||
| 蔵音 | 巳ツ子はアナコンダでもラトルスネークでもランチャーでもマシンガンでもなんでもないってさっきから言ってるでしょーが!!!ヘビですよ、ヘ・ビ!! | ||
| 蔵音 | ヘビ!長いの!生き物!わかります?シャーッ、シャーッっていう!小さくて可愛いんですよ!可愛いの! | ||
| Monitor101 | ……わかりまし…… | ||
| 蔵音 | あーた、ほんっっとにわかってんです!? | ||
| 蔵音はぷりぷりと怒って、両腕を重ね合わせてヘビの動きを真似た。 | |||
| 蔵音 | シャーッ!シャシャシャーーッ…… | ||
| Monitor101 | ……わ、わかりました。 | ||
| Monitor101は、とあるイメージを画面に表示した。 | |||
| 蔵音 | これは……? | ||
| Monitor101 | 最終生命の生物学セクターの座標です、必要でしたら。 | ||
| 蔵音 | …… | ||
| ネームレス | ここは俺が。 | ||
| ネームレス | Monitor101、爬虫類系の生体軍需機器はデータバンクにあるか?ハチドリ型偵察機、もしくはウィドウマインに似たタイプの。 | ||
| Monitor101 | ……データバンクには存在しませんね。ですが、特定の需要に応じて開発することは可能です。 | ||
| ネームレス | なら、そうしてくれ。 | ||
| Monitor101 | 承知いたしました。生体軍需機械の研究開発プログラム起動。 | ||
| Monitor101 | 模倣対象――脊索動物門、爬虫綱有鱗目――ヘビ亜目。 | ||
| Monitor101 | 軍需機械に必要となるメンタルデータを提供してください。データが存在しない場合は、代替を使用します。 | ||
| 蔵音 | はいはい、これが巳ツ子のデータでござんす。 | ||
| Monitor101 | メンタルデータ記録完了、研究開発中…… | ||
| 蔵音 | これでよござんすか? | ||
| ネームレス | はい、あとはMonitor101に任せましょう。開発が行われている間、あなたはここで…… | ||
| 蔵音 | セクターの再建を手伝いますよ、約束したじゃあございませんか。 | ||
| ネームレスに反論する余地を与えず、蔵音は率先してデータバンクを離れた。 | |||
| 隔離壁の跡地をまたぎ、二人は被害がひときわ甚大な側へとやってきた。 | |||
| 廃墟だった場所には、すでに広場ができていた。 蔵音を連れたネームレスは、そこで足を止めた。 | |||
| 蔵音 | 案内ごくろうさま、あーしはここで結構。さてと、どいて頂けます?仕事を始めますんで、ええ。 | ||
| ネームレス | ……律儀に約束を果たす必要なんてないですよ。データセンターでMonitor101が新しいヘビの体を造るのを、ただ待ってればいいんです。 | ||
| ネームレス | 今のキュクロプスは安全とは言えない、ありとあらゆる問題が山積みです。 | ||
| 蔵音 | な~にを仰る、あーたがいるじゃあござんせんか。あーしが怪我するのを、放ってはおけないでしょう? | ||
| ネームレス | ……あなたという人は。 | ||
| 蔵音 | 邪魔するだけのリピートマシンになるよりかは、あーしの手際をご覧になってはいかがです? | ||
| ネームレス | …… | ||
| ネームレス | 何をする気ですか? | ||
| 蔵音 | 例えば、この広場。周囲には壁の痕跡が見られる。ふむ……ここは恐らく、何かの競技場ですね? | ||
| ネームレス | 訓練場です。 | ||
| 蔵音 | ほうほう。それじゃまず、図面に基づけば、当初の姿はこんなもんでしょうかね…… | ||
| 蔵音は持ち歩いているノートを取り出して、訓練場の外観を描いてみせた。 | |||
| ネームレス | 図面なんて、どこから……? | ||
| 蔵音 | さっきのデータバンクですよ。ずーっと傍で色んな図面を表示してたじゃありませんか。 | ||
| ネームレス | ……ここに残るためなら、手段は選ばないってわけですか。 | ||
| 蔵音 | お褒めに預かりどうも。あーしにだって矜持はござぁますよ。例えば、キュクロプスの兵糧である缶詰には、断じて手を出しませんし。 | ||
| 蔵音 | ってなわけで、とりあえず基礎図面に準じて建物のベースを修復してもらえます? | ||
| ネームレス | ……いいでしょう。 | ||
| ネームレスはオペランドを使って、訓練所の雛形を建ててみせた。 | |||
| 蔵音 | ここではなんの訓練を?射撃、それとも接近戦? | ||
| ネームレス | エリアに分かれてますね。射撃はここ。 | ||
| 蔵音 | ふむ、どおりで弾痕が縦横無尽にあるわけだ。 | ||
| 蔵音 | この柱にどんな痕跡があったか、覚えてます? | ||
| ネームレス | ええ……それに何の意味が? | ||
| 蔵音 | ほうほう。でしたら、ここに立ってこう訓練するわけか……それなら…… | ||
| ネームレス | …… | ||
| ネームレスは彼女に指示されるまま、黙って訓練場を改造していった。 | |||
| 数時間後、広場に開豁とした訓練場が建ち上がった。 場内の内装やレイアウトは、以前の訓練場の様子が隅々まで再現されている。 二人は場内の中央に座った。 | |||
| 蔵音 | どんなもんです?残るは天井だけ。 | ||
| ネームレス | 無駄なディテールの処理に大半の時間を割いていますね。実用性は、まずまずと言ったところですか。 | ||
| 蔵音 | ちょいと。驕るのも大概にして、少しは本心を述べたらどうなんです? | ||
| ネームレスは視線をそらし、周囲を見渡した。 あえてダメージ加工を施した施設や機材の一つ一つを、彼の瞳孔が捉えてゆく。 | |||
| ネームレス | ……まぁ、「復元」が目的だとすれば、あなたは確かに一流の専門家ですよ。 | ||
| ネームレス | 一瞬、ここが戦火に呑まれた事実を忘れかけたほどです。彼女と訓練した時とまったく同じだ、何も変わってない。 | ||
| 蔵音 | 民俗、所謂風習、それ即ち昇華されし習慣。 | ||
| 蔵音 | 習慣には無数の記憶が宿っている。真新しいだけの建物より、よっぽど使い勝手がよござんしょう? | ||
| ネームレス | ……ありがとうございます、蔵音さん。この訓練場を、取り戻してくれて。 | ||
| 蔵音 | だーから初めから申し上げておりますでしょうに。安心して、あーしをここに置いておくんなまし。 | ||
| ネームレス | ですが、約束は約束です。 | ||
| ネームレス | ヘビの修復が終わったら、ここを離れてもらいます。 | ||
| 蔵音 | ちょ、ちょいと! | ||
| ネームレスは記憶に浸っていたメンタルを引っ張り戻すと、 蔵音の鋭い視線を無視して、通信を受け取った。 | |||
| ネームレス | Monitor101、開発はどうだ? | ||
| Monitor101 | 研究開発プログラムは完了しております。メンタルをはめ込んだ際に、僅かな誤差が見られましたが、許容範囲内でしょう。 | ||
| ネームレス | よし。送り届けてくれ、場所は…… | ||
| ネームレスはふと言い淀んだ。演算と衡量を経ていないと、 その名を口にできないかのように。 | |||
| ネームレス | ……ターシャの訓練場だ。 | ||
| 蔵音 | え……?ターシャ? | ||
| Monitor101 | 承知しました。ターシャ管轄の訓練場に、軍需機器を投下します…… | ||
| しばらく経たずに、蔵音とネームレスはふとした騒音に頭上を仰いだ。 何かの影が二人を覆う。 | |||
| ドンッ―― | |||
| あたりが大きく揺れる。 | |||
| 蔵音 | こ、これは…… | ||
| 塵埃が次第に収まった。 電球のように輝く不気味かつ獰猛なヘビの双眸が、二人をじっと睨んだ。 | |||
| 通信機からは、ヘビを紹介するMonitor101の声が鳴っている。 | |||
| Monitor101 | 蔵音さんにご提供いただいたメンタルの原型をもとに、軍需兵器に符合しないニーズに対し、ある程度の修正とアップグレードを行いました。 | ||
| Monitor101 | 最も重要なのは、その体型についてですが…… | ||
| 通信機からの音声が、蔵音の意識から徐々に遠のいてゆく。 その時、彼女は完全に巳ツ子――いや、今は巳ツ男と呼ぶべきか―― 目の前のヘビに心を奪われていた。 | |||
| 蔵音 | ネームレス……ご存知で?民俗学に携わる者が最も多く遭遇する現象、そして問題とは何か。 | ||
| ネームレス | さあ? | ||
| 蔵音 | 同じ人間でも、異なる環境からは違った種類の文明が派生するのでございます。 | ||
| 蔵音 | それが、何を意味するか、あーたにはおわかりで? | ||
| ネームレスの返事を待たずに、蔵音は迎撃姿勢を取った。 | |||
| 蔵音 | 同じメンタルでも、異なる環境下においては、まったく違った方面へと変化を遂げる。 | ||
| 蔵音 | 例えば、あーしの大事な小さいおヘビ様をこんな代物に詰め込んで、この子のメンタルデータに変化がないと誰が言い切れます? | ||
| ネームレス | な―― | ||
| 巳ツ男 | シャーーッ!!!!! | ||
| 蔵音の言葉に応じたのは、凄まじく恐ろしげなヘビの鳴き声だった。 |
