墟上之歌 戦憶探溯 STAGE 3 匂変-4

Last-modified: 2026-02-06 (金) 07:45:40

キュクロプス、アドミンセンター-データバンク。
蔵音101さん、そこにいらっしゃいます?
 蔵音に呼ばれて、Monitor101が恐る恐る姿を現した。
Monitor101あの……蔵音さんがお探しなのは、Monitor101ですか、それともSortie101ですか……?
蔵音ふぅん、101が何人もおいでで。
蔵音あーたを探していたんですよ、Monitor101。巳ツ子のデータを改めてインプットしようと思いまして。
Monitor101わかりました。インプット完了……先ほどはお力になれず、すみません。
蔵音いいえいいえ、かまやしません。厄介になってるのは、あーしのほうでございますからねぇ。
Monitor101オアシスの皆さんて、性格がぜんぜん違うんですね。えへへ……
蔵音(いいぞ、この調子で親密になって、キュクロプスの情報を聞き出せば……)
蔵音それにしても、キュクロプスには色んなタイプのエージェントがいるんですねぇ。
Monitor101細かく分ければそうですね。ですが、エージェントのモデル自体は二種類しか存在しません。
Monitor101私たちは「監理型」と「戦闘型」と呼んでいます。
蔵音おや、ということは?アドミニストレーターが二人存在するということでしょうか?
Monitor101えっ?あ、はい。一人はオリヴィアさんで、もう一人は……どこでそれを聞いたんです?
蔵音ターシャ、でござんすね?
蔵音ネームレスですよ。オリヴィアにはお会いできました。ターシャはどこにいるんです?
Monitor101Sortie 002とターシャさんの話をしたんですか?ならなぜ、きちんと話しておかなかったんでしょう……
蔵音きちんと?
Monitor101……
Monitor101ターシャさんは……もういないんです。
蔵音……へっ?
Monitor101非公開の情報というわけではありません。いずれ、蔵音さんも知ることになっていたでしょう。
Monitor101監理型と戦闘型は、本来異なる使命を与えられていました。戦闘型が戦って、監理型がデータを記録し、戦局をコントロールしていたんです。
Monitor101ところが、戦闘型がだんだんと任務を過剰執行するようになってきて、最終的に過激な殺傷行為にへと発展していきました。それどころか、監理型を襲ったりして……
蔵音……そんなことが?
Monitor101はい。見かねた上位浄化者がキュクロプスに隔離壁を建てましたが、根本的には解決しませんでした。
Monitor101オアシスの方々がやってきて、隔離壁を壊すまでは。その後、過激行為を繰り返す戦闘型は、オリヴィアさんによって修正されました。
蔵音修正ができるなら、最初からそうすればよかったんじゃ?
蔵音……
蔵音まさか……
Monitor101そのまさかです……オリヴィアさんが戦闘型を修正できるのは、ターシャさんのアドミニストレーター権限を手に入れたためです。
Monitor101完全なアドミニストレーター権限がなければ、エージェントの修正は行えないんです。理由はわかりませんが、その後もオリヴィアさんは、ターシャさんをリセットしていません……
 
ネームレス……二度と戻らないものを使って、過ちを銘記する。生きてる者にとっては意味があるかもしれない。だが、戻らなかった死者にとっては?
蔵音不公平ですよねぇ?ですが死者は死者、死者に口無しでござんすよ。
 
蔵音……オリヴィアがなぜそうするのか、誰も訊かないんです?
Monitor101Sortie 002ですら何も聞き出せなかったんです。私たちではとても……
蔵音Sortie 002、ネームレスか……あいつなら何か聞き出せたはずだと?
Monitor101はい。Sortie 002はターシャさんの副官で、戦闘型の中でも人望が厚かったんです。
Monitor101私たちは、オリヴィアさんに何かバグが起きたのではないかと考えています。Sortie 002がターシャさんのリセット申請を何度提出しても、一向に受理されず……
蔵音……だから、あんなことを……
蔵音……ちょっと待った。ターシャの副官なら、あいつにも戦闘型をリセットする権限があるんじゃ?
Monitor101現在、Sortie 002は戦闘型の精鋭小隊を率いています。管理権限はすべて、最後の申請の時にオリヴィアさんに渡してしまいました。
Monitor101Sortie 002が大量の権限を一気に移譲したせいで、このところオリヴィアさんは慌ただしくしています。
 蔵音が自身の額をトントンと小突く。
蔵音聞けば聞くほど妙な話でござんすねぇ。反対らしい反対もせず、あろうことかほとんどの権限を明け渡してしまうとは。
蔵音……もしや……いや、まさか……
Monitor101蔵音さん、どうかなさいましたか?表情が暗いようですが。
蔵音いいえぇ、ただね、あーしの悪事警戒システムがブンブン鳴っておりまして。
Monitor101そんな機能が搭載されているんですか?もし気分が優れないのでしたら、ジンさんを呼んできましょうか?
蔵音ただの比喩ですよ、比喩。そんな機能あるわけないでしょう……いや待てよ、一理ありますね。
蔵音ジンなら色んな情報をつかんでるでしょうし、あーしの推測を検証できるかも……恩に着ますよ、101!さっそくジンのところへ向かいませんと!
Monitor101えっ、わ、私は何も……
蔵音ま、細かいことは気にせず。あーしの考え過ぎである可能性も否めませんから、ええ。それはそうと、Monitor101。あーしの代わりにオリヴィアへの訪問申請を提出していただけます?
Monitor101あ、はい、わかりました……
 
時を同じくして、隔離壁跡地、ジンのバー。
ジン完璧な修繕と補強ですね、まるで壊れたことなどなかったかのよう。
ネームレスキュクロプスには破壊を得意とする戦士もいれば、修復を得意とする工兵もいます。
ジン修復、大変お疲れ様でした。冷水でよろしかったですか?
 ネームレスはジンの寄越したグラスを慣れた様子で手に取ったが、
それをテーブルに戻した。
ネームレス今日は、酒にします。
ジン……おや?何になさいますか?
 疑問には感じつつも、ジンは躊躇うことなくツールを取り出して、お酒の用意を始めた。
ネームレスキツイのをください。キツければキツイほどいい。
ジンそれでしたら、生命の水をベースに、戦火のごとく熾烈なお酒をご提供いたしましょう。
ジンですが、よろしいのですか?お酒を頼まれたことなんて、今まで一度もなかったじゃありませんか。
ネームレス俺は、冷水なら、このメンタルに巣くう感情を抑え込めると思ってました。でも、間違っていたんです。
 ジンが調合し終えたお酒を、新しいグラスに注ぐ。
ネームレスはそれを受け取ると、目の前に掲げた。
まるで誰かの面影を見出すかのように、グラスに揺れる液体を凝視している。
ネームレス本当は、俺の考えなんてお見通しなんですよね?
ジンあなたの情緒が、すべてを物語っていますから。
ネームレスてっきり、俺を止めるかと思ってましたよ。その後で、隠れてオリヴィアに教えるものかと。
ネームレスずっと、あなたの手元を見てました。
ジンなぜ僕がそんなことを?
ジンセクターの問題は、セクターの方々が解決するのが筋でしょう。
ネームレス自分の考えを持たず、流れに身を委ねる……だからこそ、あなたがキュクロプスにいても安心できる。
ネームレスもしあなたの仲間もそうだったら、追い出す理由はないんです。
ジンまだ彼女を追い出すのを、諦めていないんですね。
ネームレスすべてが始まる前に追い出してやりたかったですよ。今となっちゃ、もう手遅れですがね。
ネームレスオリヴィアには致命的なバグが起きてる、さっさとリセットさせるべきなんです。幸いなことに、俺は突撃戦を最も得意とします。
 彼の話を聴いていたジンが、次のグラスにブレンドしたカクテルを注ぐ。
ジンもう、決めたんですね?
ネームレス今までは訊ねもしなかったくせに。
ジングラスに注がれるのは、お酒だけではありません。一つ一つの人生です。
ジン本気なんですね、ネームレスさん。
 ジンはライターを取り出した。
小さな炎の苗が、ネームレスの真っ赤な瞳に映る。
ネームレス……ええ、もちろん。
 彼の決意と同時に、ジンは酒に火を灯す。
 ネームレスはグラスを手に取り、誰かに敬意を表するかのように掲げた。
ネームレスそういえば、彼女がこう言ってました。
ネームレス慣れ親しんだ建物、故人より伝わる遺品。人間の最も本能的な願い、それは形ある存在で形なき絆を伝承することに他ならない。
ネームレス俺は人間じゃありませんが、それには同意します。
ネームレス今夜、すべてに結末が訪れる。
 ネームレスは、燃える盃をひと思いに飲み干す。
 カウンターに置かれたグラスが、小気味良い音を立てた。