| キュクロプス、アドミンセンター-データバンク。 | |||
| 蔵音 | 101さん、そこにいらっしゃいます? | ||
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| 蔵音に呼ばれて、Monitor101が恐る恐る姿を現した。 | |||
| Monitor101 | あの……蔵音さんがお探しなのは、Monitor101ですか、それともSortie101ですか……? | ||
| 蔵音 | ふぅん、101が何人もおいでで。 | ||
| 蔵音 | あーたを探していたんですよ、Monitor101。巳ツ子のデータを改めてインプットしようと思いまして。 | ||
| Monitor101 | わかりました。インプット完了……先ほどはお力になれず、すみません。 | ||
| 蔵音 | いいえいいえ、かまやしません。厄介になってるのは、あーしのほうでございますからねぇ。 | ||
| Monitor101 | オアシスの皆さんて、性格がぜんぜん違うんですね。えへへ…… | ||
| 蔵音 | (いいぞ、この調子で親密になって、キュクロプスの情報を聞き出せば……) | ||
| 蔵音 | それにしても、キュクロプスには色んなタイプのエージェントがいるんですねぇ。 | ||
| Monitor101 | 細かく分ければそうですね。ですが、エージェントのモデル自体は二種類しか存在しません。 | ||
| Monitor101 | 私たちは「監理型」と「戦闘型」と呼んでいます。 | ||
| 蔵音 | おや、ということは?アドミニストレーターが二人存在するということでしょうか? | ||
| Monitor101 | えっ?あ、はい。一人はオリヴィアさんで、もう一人は……どこでそれを聞いたんです? | ||
| 蔵音 | ターシャ、でござんすね? | ||
| 蔵音 | ネームレスですよ。オリヴィアにはお会いできました。ターシャはどこにいるんです? | ||
| Monitor101 | Sortie 002とターシャさんの話をしたんですか?ならなぜ、きちんと話しておかなかったんでしょう…… | ||
| 蔵音 | きちんと? | ||
| Monitor101 | …… | ||
| Monitor101 | ターシャさんは……もういないんです。 | ||
| 蔵音 | ……へっ? | ||
| Monitor101 | 非公開の情報というわけではありません。いずれ、蔵音さんも知ることになっていたでしょう。 | ||
| Monitor101 | 監理型と戦闘型は、本来異なる使命を与えられていました。戦闘型が戦って、監理型がデータを記録し、戦局をコントロールしていたんです。 | ||
| Monitor101 | ところが、戦闘型がだんだんと任務を過剰執行するようになってきて、最終的に過激な殺傷行為にへと発展していきました。それどころか、監理型を襲ったりして…… | ||
| 蔵音 | ……そんなことが? | ||
| Monitor101 | はい。見かねた上位浄化者がキュクロプスに隔離壁を建てましたが、根本的には解決しませんでした。 | ||
| Monitor101 | オアシスの方々がやってきて、隔離壁を壊すまでは。その後、過激行為を繰り返す戦闘型は、オリヴィアさんによって修正されました。 | ||
| 蔵音 | 修正ができるなら、最初からそうすればよかったんじゃ? | ||
| 蔵音 | …… | ||
| 蔵音 | まさか…… | ||
| Monitor101 | そのまさかです……オリヴィアさんが戦闘型を修正できるのは、ターシャさんのアドミニストレーター権限を手に入れたためです。 | ||
| Monitor101 | 完全なアドミニストレーター権限がなければ、エージェントの修正は行えないんです。理由はわかりませんが、その後もオリヴィアさんは、ターシャさんをリセットしていません…… | ||
| ネームレス | ……二度と戻らないものを使って、過ちを銘記する。生きてる者にとっては意味があるかもしれない。だが、戻らなかった死者にとっては? | ||
| 蔵音 | 不公平ですよねぇ?ですが死者は死者、死者に口無しでござんすよ。 | ||
| 蔵音 | ……オリヴィアがなぜそうするのか、誰も訊かないんです? | ||
| Monitor101 | Sortie 002ですら何も聞き出せなかったんです。私たちではとても…… | ||
| 蔵音 | Sortie 002、ネームレスか……あいつなら何か聞き出せたはずだと? | ||
| Monitor101 | はい。Sortie 002はターシャさんの副官で、戦闘型の中でも人望が厚かったんです。 | ||
| Monitor101 | 私たちは、オリヴィアさんに何かバグが起きたのではないかと考えています。Sortie 002がターシャさんのリセット申請を何度提出しても、一向に受理されず…… | ||
| 蔵音 | ……だから、あんなことを…… | ||
| 蔵音 | ……ちょっと待った。ターシャの副官なら、あいつにも戦闘型をリセットする権限があるんじゃ? | ||
| Monitor101 | 現在、Sortie 002は戦闘型の精鋭小隊を率いています。管理権限はすべて、最後の申請の時にオリヴィアさんに渡してしまいました。 | ||
| Monitor101 | Sortie 002が大量の権限を一気に移譲したせいで、このところオリヴィアさんは慌ただしくしています。 | ||
| 蔵音が自身の額をトントンと小突く。 | |||
| 蔵音 | 聞けば聞くほど妙な話でござんすねぇ。反対らしい反対もせず、あろうことかほとんどの権限を明け渡してしまうとは。 | ||
| 蔵音 | ……もしや……いや、まさか…… | ||
| Monitor101 | 蔵音さん、どうかなさいましたか?表情が暗いようですが。 | ||
| 蔵音 | いいえぇ、ただね、あーしの悪事警戒システムがブンブン鳴っておりまして。 | ||
| Monitor101 | そんな機能が搭載されているんですか?もし気分が優れないのでしたら、ジンさんを呼んできましょうか? | ||
| 蔵音 | ただの比喩ですよ、比喩。そんな機能あるわけないでしょう……いや待てよ、一理ありますね。 | ||
| 蔵音 | ジンなら色んな情報をつかんでるでしょうし、あーしの推測を検証できるかも……恩に着ますよ、101!さっそくジンのところへ向かいませんと! | ||
| Monitor101 | えっ、わ、私は何も…… | ||
| 蔵音 | ま、細かいことは気にせず。あーしの考え過ぎである可能性も否めませんから、ええ。それはそうと、Monitor101。あーしの代わりにオリヴィアへの訪問申請を提出していただけます? | ||
| Monitor101 | あ、はい、わかりました…… | ||
| 時を同じくして、隔離壁跡地、ジンのバー。 | |||
| ジン | 完璧な修繕と補強ですね、まるで壊れたことなどなかったかのよう。 | ||
| ネームレス | キュクロプスには破壊を得意とする戦士もいれば、修復を得意とする工兵もいます。 | ||
| ジン | 修復、大変お疲れ様でした。冷水でよろしかったですか? | ||
| ネームレスはジンの寄越したグラスを慣れた様子で手に取ったが、 それをテーブルに戻した。 | |||
| ネームレス | 今日は、酒にします。 | ||
| ジン | ……おや?何になさいますか? | ||
| 疑問には感じつつも、ジンは躊躇うことなくツールを取り出して、お酒の用意を始めた。 | |||
| ネームレス | キツイのをください。キツければキツイほどいい。 | ||
| ジン | それでしたら、生命の水をベースに、戦火のごとく熾烈なお酒をご提供いたしましょう。 | ||
| ジン | ですが、よろしいのですか?お酒を頼まれたことなんて、今まで一度もなかったじゃありませんか。 | ||
| ネームレス | 俺は、冷水なら、このメンタルに巣くう感情を抑え込めると思ってました。でも、間違っていたんです。 | ||
| ジンが調合し終えたお酒を、新しいグラスに注ぐ。 ネームレスはそれを受け取ると、目の前に掲げた。 まるで誰かの面影を見出すかのように、グラスに揺れる液体を凝視している。 | |||
| ネームレス | 本当は、俺の考えなんてお見通しなんですよね? | ||
| ジン | あなたの情緒が、すべてを物語っていますから。 | ||
| ネームレス | てっきり、俺を止めるかと思ってましたよ。その後で、隠れてオリヴィアに教えるものかと。 | ||
| ネームレス | ずっと、あなたの手元を見てました。 | ||
| ジン | なぜ僕がそんなことを? | ||
| ジン | セクターの問題は、セクターの方々が解決するのが筋でしょう。 | ||
| ネームレス | 自分の考えを持たず、流れに身を委ねる……だからこそ、あなたがキュクロプスにいても安心できる。 | ||
| ネームレス | もしあなたの仲間もそうだったら、追い出す理由はないんです。 | ||
| ジン | まだ彼女を追い出すのを、諦めていないんですね。 | ||
| ネームレス | すべてが始まる前に追い出してやりたかったですよ。今となっちゃ、もう手遅れですがね。 | ||
| ネームレス | オリヴィアには致命的なバグが起きてる、さっさとリセットさせるべきなんです。幸いなことに、俺は突撃戦を最も得意とします。 | ||
| 彼の話を聴いていたジンが、次のグラスにブレンドしたカクテルを注ぐ。 | |||
| ジン | もう、決めたんですね? | ||
| ネームレス | 今までは訊ねもしなかったくせに。 | ||
| ジン | グラスに注がれるのは、お酒だけではありません。一つ一つの人生です。 | ||
| ジン | 本気なんですね、ネームレスさん。 | ||
| ジンはライターを取り出した。 小さな炎の苗が、ネームレスの真っ赤な瞳に映る。 | |||
| ネームレス | ……ええ、もちろん。 | ||
| 彼の決意と同時に、ジンは酒に火を灯す。 | |||
| ネームレスはグラスを手に取り、誰かに敬意を表するかのように掲げた。 | |||
| ネームレス | そういえば、彼女がこう言ってました。 | ||
| ネームレス | 慣れ親しんだ建物、故人より伝わる遺品。人間の最も本能的な願い、それは形ある存在で形なき絆を伝承することに他ならない。 | ||
| ネームレス | 俺は人間じゃありませんが、それには同意します。 | ||
| ネームレス | 今夜、すべてに結末が訪れる。 | ||
| ネームレスは、燃える盃をひと思いに飲み干す。 | |||
| カウンターに置かれたグラスが、小気味良い音を立てた。 |
