| キュクロプス、第三主要道路の傍、第3広場。 | |||
| 巨大な爆発音が、突如夜闇を切り裂く。 | |||
| ネームレス | 隙あり! | ||
| 蔵音 | あっ……! | ||
| ネームレスが銃を構えた瞬間、蔵音が小さくすごんだ。 | |||
| 蔵音 | 巳ツ男!『パズルゲーム』! | ||
| 巨大な蛇がひと鳴きして、オペランドを素早く畳み、ネームレスの弾丸を防いだ。 | |||
| ネームレス | 無駄だ、蔵音。 | ||
| ネームレス | お前の弱点は分かりきってる。蛇の威力は甚大だが、攻撃間隔が長い。 | ||
| ネームレスはそう言いながら、巨大な蛇を攻撃し続けた。 カラフルなブロックが次々と破壊される。 | |||
| ネームレス | 防御もだ。弾丸を防ぐことはできても、他の攻撃への抵抗力は皆無に等しい。 | ||
| 重盾が鋭い蛇の牙を制し、巳ツ男の図体を跳ね返す。 その衝撃で蔵音が勢いよく弾き飛ばされる。 | |||
| 蔵音 | ぐぁっ……! | ||
| 巨大な蛇はするりと形を変えて、蔵音の体を受け止めた。 | |||
| ネームレスはそれ以上攻撃せずに、蛇に支えられて立ち上がる蔵音の姿を眺めている。 | |||
| ネームレス | 最後の警告だ、今すぐキュクロプスを立ち去れ。 | ||
| 蔵音 | …… | ||
| 蔵音は答えない。 巨大な蛇が再び迎撃姿勢を取った。 | |||
| ネームレス | なぜそこまで執着する?俺たちのことなど、何も知らないくせに。 お前など、キュクロプスの歴史を数ページめくっただけの学者に過ぎない。 | ||
| ネームレス | ここの建物を適当に分析して、セクターの物語をほんの少しかじっただけだ。 | ||
| ネームレス | そういった物の背後に、どんな意味が込められているかわかるか? 設定の一つ一つ、文字の一つ一つが俺たちにとって何を意味するか、 お前にわかるのか? | ||
| 蔵音 | わかりゃしませんよ。 だから今、わかろうとしてるんです。 | ||
| ネームレス | こんな時ですら、くだらん話術か。 | ||
| ネームレス | わかろうとしてるだと?冗談はよせ! キュクロプスはそこまで単純じゃない。 | ||
| 蔵音 | キュクロプスじゃあござんせん。 | ||
| 蔵音 | あーたの行動で、あのジジイを理解し始めたと申し上げているんです。 | ||
| 蔵音 | 戦火の飛び交う中、失われようとしていた文明の痕跡は、 爺さまにとって身を粉にしてでも、守らなければならないものだった。 | ||
| ネームレス | なにを…… | ||
| 蔵音 | あーただってそう。 すべては内なる願いを遂げるため、大切なものを守るため。 | ||
| ネームレス | わかっていながら、なぜ止める? | ||
| 蔵音 | ええ、理解できますとも、賛同しますとも…… あーしの考えがどれだけ傲慢だったか、今になってようやくわかりましたよ。 | ||
| 蔵音 | あーたの手助けがなければ、建物一つ修復できない。 セクターを修復するなど妄言も妄言。 | ||
| ネームレス | だったら、そこをどけ。 | ||
| 蔵音 | 戦うことでターシャを取り戻せるとお考えのようですけれど、 あーしはこれまで戦争の結果とやらをいくつも目にしてましてね。 | ||
| 蔵音 | 戦ったところで、さらなる痕跡が拭い去られるだけですよ。 真っ先に消えるのは他でもない、ターシャの遺したあーたにござんす。 | ||
| 蔵音は顔についた血を拭い、ネームレスに視線を向ける。 その眼差しに、ネームレスは燃え盛る炎のような決意を見た。 | |||
| 蔵音 | 昔は、ジジイが命を賭ける価値なんざ、どこにもないと思っておりましたけど…… | ||
| 蔵音 | そうする価値のあるものが、あーしにもできたんですよ。 あーしは、ここの歴史を守りたい、元通りにしたい。 リセットなんてさせたくない。 | ||
| 蔵音 | たとえそのために、勝算のない戦いを強いられようとも…… | ||
| ネームレス | 最初にリセットされるのはお前だ。 しかも、お前の底本を保管するクラウドセクターはもはや見つからない。 | ||
| 蔵音は深呼吸をして、何かを思い出したかのように、小さく笑ってみせた。 | |||
| 蔵音 | 天行は健なり、君子以て自ら強めて息(や)まず。 | ||
| ネームレス | なんだと? | ||
| 蔵音 | おや、おわかりでない? 要は、事の成否はやり方如何で決まるってこってす。 | ||
| 蔵音 | あーしはあーたを守り、戦火を経て前へと進まんとするキュクロプスを守る。 | ||
| 蔵音 | ま、失敗に終わるのがオチかもしれませんけれど? それでも、あーしは諦めませんよ。 | ||
| ネームレス | ……わけがわからない。 | ||
| ネームレスは深く息を吸った。 体の中のオペランドたちが沸き立つ。 | |||
| ネームレス | お前の言葉に動揺すべきじゃなかった。キュクロプスに修復など必要ない。リセットさえすれば、すべては自ずと原初へと舞い戻る。 | ||
| ネームレスの瞳に、微塵も揺るがぬ戦意が宿った。 それを見た蔵音が鋭く言い放つ。 | |||
| 蔵音 | 巳ツ男! | ||
| 恐ろしげな蛇の造物が、蔵音にまとわりついた。 彼女に寄り添って、牙と嗜血の欲望を剥き出しにする。 | |||
| 相も変わらず夜空に掲げられた月だけが、冷ややかにすべてを見下ろしていた。 |
