墟上之歌 戦憶探溯 STAGE 5 通鑑-1

Last-modified: 2026-02-06 (金) 07:51:27

キュクロプス、第三主要道路の傍、第3広場。
 巨大な爆発音が、突如夜闇を切り裂く。
ネームレス隙あり!
蔵音あっ……!
 ネームレスが銃を構えた瞬間、蔵音が小さくすごんだ。
蔵音巳ツ男!『パズルゲーム』!
 巨大な蛇がひと鳴きして、オペランドを素早く畳み、ネームレスの弾丸を防いだ。
ネームレス無駄だ、蔵音。
ネームレスお前の弱点は分かりきってる。蛇の威力は甚大だが、攻撃間隔が長い。
 ネームレスはそう言いながら、巨大な蛇を攻撃し続けた。
カラフルなブロックが次々と破壊される。
ネームレス防御もだ。弾丸を防ぐことはできても、他の攻撃への抵抗力は皆無に等しい。
 重盾が鋭い蛇の牙を制し、巳ツ男の図体を跳ね返す。
その衝撃で蔵音が勢いよく弾き飛ばされる。
蔵音ぐぁっ……!
 巨大な蛇はするりと形を変えて、蔵音の体を受け止めた。
 ネームレスはそれ以上攻撃せずに、蛇に支えられて立ち上がる蔵音の姿を眺めている。
ネームレス最後の警告だ、今すぐキュクロプスを立ち去れ。
蔵音……
 蔵音は答えない。
巨大な蛇が再び迎撃姿勢を取った。
ネームレスなぜそこまで執着する?俺たちのことなど、何も知らないくせに。
お前など、キュクロプスの歴史を数ページめくっただけの学者に過ぎない。
ネームレスここの建物を適当に分析して、セクターの物語をほんの少しかじっただけだ。
ネームレスそういった物の背後に、どんな意味が込められているかわかるか?
設定の一つ一つ、文字の一つ一つが俺たちにとって何を意味するか、
お前にわかるのか?
蔵音わかりゃしませんよ。
だから今、わかろうとしてるんです。
ネームレスこんな時ですら、くだらん話術か。
ネームレスわかろうとしてるだと?冗談はよせ!
キュクロプスはそこまで単純じゃない。
蔵音キュクロプスじゃあござんせん。
蔵音あーたの行動で、あのジジイを理解し始めたと申し上げているんです。
蔵音戦火の飛び交う中、失われようとしていた文明の痕跡は、
爺さまにとって身を粉にしてでも、守らなければならないものだった。
ネームレスなにを……
蔵音あーただってそう。
すべては内なる願いを遂げるため、大切なものを守るため。
ネームレスわかっていながら、なぜ止める?
蔵音ええ、理解できますとも、賛同しますとも……
あーしの考えがどれだけ傲慢だったか、今になってようやくわかりましたよ。
蔵音あーたの手助けがなければ、建物一つ修復できない。
セクターを修復するなど妄言も妄言。
ネームレスだったら、そこをどけ。
蔵音戦うことでターシャを取り戻せるとお考えのようですけれど、
あーしはこれまで戦争の結果とやらをいくつも目にしてましてね。
蔵音戦ったところで、さらなる痕跡が拭い去られるだけですよ。
真っ先に消えるのは他でもない、ターシャの遺したあーたにござんす。
 蔵音は顔についた血を拭い、ネームレスに視線を向ける。
その眼差しに、ネームレスは燃え盛る炎のような決意を見た。
蔵音昔は、ジジイが命を賭ける価値なんざ、どこにもないと思っておりましたけど……
蔵音そうする価値のあるものが、あーしにもできたんですよ。
あーしは、ここの歴史を守りたい、元通りにしたい。
リセットなんてさせたくない。
蔵音たとえそのために、勝算のない戦いを強いられようとも……
ネームレス最初にリセットされるのはお前だ。
しかも、お前の底本を保管するクラウドセクターはもはや見つからない。
 蔵音は深呼吸をして、何かを思い出したかのように、小さく笑ってみせた。
蔵音天行は健なり、君子以て自ら強めて息(や)まず。
ネームレスなんだと?
蔵音おや、おわかりでない?
要は、事の成否はやり方如何で決まるってこってす。
蔵音あーしはあーたを守り、戦火を経て前へと進まんとするキュクロプスを守る。
蔵音ま、失敗に終わるのがオチかもしれませんけれど?
それでも、あーしは諦めませんよ。
ネームレス……わけがわからない。
 ネームレスは深く息を吸った。
体の中のオペランドたちが沸き立つ。
ネームレスお前の言葉に動揺すべきじゃなかった。キュクロプスに修復など必要ない。リセットさえすれば、すべては自ずと原初へと舞い戻る。
 ネームレスの瞳に、微塵も揺るがぬ戦意が宿った。
それを見た蔵音が鋭く言い放つ。
蔵音巳ツ男!
 恐ろしげな蛇の造物が、蔵音にまとわりついた。
彼女に寄り添って、牙と嗜血の欲望を剥き出しにする。
 相も変わらず夜空に掲げられた月だけが、冷ややかにすべてを見下ろしていた。